ひとときの虚言

愚か

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前編

ひとときの虚言前編

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九月の放課後、教室の蛍光灯がやけに白かった。
 その光の下で、高三の先輩と初めて目を合わせた。
 文化祭の準備。貼り紙の角を合わせるたび、セロハンテープの音がやけに大きく響いた。
最初は、ただの人だった。
 話しても特別なことはなくて、ただ自分とは別世界の人だと思った。
 惹かれるわけもない、そう思っていた。
でも、ある日カラオケに行く約束をしてから、夜が急に長くなった。
 眠れなかった。布団の中で、時間が水みたいに増えていった。まぶたが少しも重くならなかった。
放課後、先に先輩の友達と銀座に行った。
 知らない曲を適当に選んで、笑いでごまかした。
 少しして、先輩が遅れて来た。
 その瞬間、空気がひとつだけ変わった気がした。
夜八時。カラオケを出て、皇居のまわりを歩いた。
 風が少し冷たくて、誰かが言った。
 「熱海行きたいね」
 現実味のない言葉に、三人で笑った。
 あの笑い声は、もうどこにも残っていない。
そのあと、僕は先輩の友達とよく会うようになった。
 今思えば、あの人のことを都合よく扱っていた。
 寂しさを埋めるために、ちゃんと傷つけた。
先輩と遊ぶ約束をしたとき、誘われたことが、ちょっとだけ奇跡みたいに思えた。
でもその前日、僕は先輩の友達と身体の関係を持った。
 理由なんて、あとづけだ。
 童貞を早く終わらせたかった――それだけの話。
 だけど、その一晩が、あとで全部を変えた。
当日、新宿で待ち合わせた。
 少し遅れて駅に着くと、先輩はスタバで待っていると言った。
 走った。西口を抜けて、息を切らして、ただ会いたくて。
 走りながら気づいた。
 ――あ、俺、もう好きなんだ。
新宿で先輩と合流したとき、ふと服装が目に入った。
 いつもデートにきちんとした服を着るわけじゃない先輩。
 だけどそのラフさが、妙に親近感を生んでいた。
 まるで、長年付き合っている彼女みたいに自然で、肩の力が抜ける感じ。
 今思えば、先輩はただの後輩として僕を見ていただけだろう。
スタバで少し勉強して、新大久保の銭湯へ向かった。
 途中で、勇気を出して言った。
 「先輩、手、冷たいですね」
 その言葉のあと、五秒くらい、世界が何も言わなかった。
 気づいたら、手を握っていた。
湯気の中で、心臓がずっとうるさかった。
 先に上がって、脱衣所のベンチで待っていると、
 先輩が濡れた髪で出てきた。
 シャンプーの匂いがふわっとして、
 それだけで、人生の意味が一瞬わかった気がした。
帰り道、帰したくなくて、線路沿いを歩いた。
 新大久保から目白まで。
 居酒屋の明かりをすり抜けながら、
 「この時間が、ずっと続けばいいのに」と思った。
それは欲じゃなかった。
 あれは、ちゃんとした愛だった。
 恥ずかしいけど、あの夜、僕は初めてその違いを知った。
目白で別れて、違う電車に乗った。
 ホームに残った線香花火みたいな気持ちが、
 今でも胸のどこかでチリチリしている。
あの夜の僕は、何かを手に入れた気がしたけど、
 本当は、その瞬間から少しずつ失っていったのかもしれない。
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