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5話 11月28日(2)
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深雪は急いでドアを開け、レティに駆け寄った。彼女の細長い指先に触れる。
「冷たい……。まさかこの雨の中ずっと外にいたの?」
今の季節は11月の終わり。今朝、車の中のラジオで聞いた天気予報では、雨で真冬のような寒さが訪れると言っていたが、レティの服装は薄い長袖のシャツに薄地のロングコートで、とても冬を越せそうな装いではなかった。
深雪の問いかけに、レティはかろうじて小さく頷いた。自分より背の高いレティを下から覗き込むように見上げる深雪は、悲しそうに眉尻を下げて彼女を研究室に連れ込んだ。
深雪はカバンからタオルを取り出し、レティの濡れた顔にあてる。
「レティ。何があったの?」
「……」
「私には言えないこと?」
深雪が静かに問いかけると、レティはタオルを握る深雪の手に触れた。レティの氷のような体温で、深雪の手も冷えていく。
「…………そうね」
たっぷりの沈黙の後、レティは短くそう応えた。
深雪は何も言えなかった。どうしていいか分からなかった。でも放っておくこともできない。
(どうしたらいいの。レティ)
レティの冷えた体温が、深雪の心を戸惑わせる。
しばらく動けずに、ただ2人の間に重い空気がのしかかる。
ふと、レティが何かを言ったような気がした。
「レティ?」
「先生、最近体調悪かったりしない?」
「体調?突然どうして……」
その先の言葉を口にすることは、はばかられた。レティが泣きそうな顔で深雪を見下ろしてきたからだ。
恐らくつい先程まで泣いていたのだろう、腫れた目を必死に深雪向けている。
その健気な行動は、深雪の心は何かに芽生えさせた。
「全然元気だよ。健康診断も、問題ないって」
「そう……」
「ねぇ、どうしたらいい?私に何か出来ることある?お願い。それだけ教えて」
レティはまた俯いた。髪と同じ色の白銀の睫毛が悲しげに伏せられる。何度かその長い睫毛が瞬きに震えた後、レティはやっと深雪を見た。
「あの言葉、もう一度言って」
「あの言葉?」
「砂時計の」
それは初めてレティをこの研究室に招いた時のことだろうか。
深雪は記憶を回顧する。
「砂時計は、引っ繰り返せば何度でも始まりがくる。だから、何度でもやり直せる」
合ってたかな、と深雪はレティに訊ねた。レティは深雪を見つめて、頷いた。
「砂時計、嫌いなんじゃなかったの?」
「先生がいれば大丈夫って言ったでしょう?」
「そうだった」
レティは懐くように深雪があててくれているタオルに頬ずりした。
握っていた深雪の手が、僅かに震えたことにも気付いた。
レティは一度深雪から視線を外し、掠れた声で伝えた。
「先生、私頑張るから」
「え?」
それは、レティの一世一代の決意だった。
(先生を、死から守る。私が、先生を生かすのよ)
「冷たい……。まさかこの雨の中ずっと外にいたの?」
今の季節は11月の終わり。今朝、車の中のラジオで聞いた天気予報では、雨で真冬のような寒さが訪れると言っていたが、レティの服装は薄い長袖のシャツに薄地のロングコートで、とても冬を越せそうな装いではなかった。
深雪の問いかけに、レティはかろうじて小さく頷いた。自分より背の高いレティを下から覗き込むように見上げる深雪は、悲しそうに眉尻を下げて彼女を研究室に連れ込んだ。
深雪はカバンからタオルを取り出し、レティの濡れた顔にあてる。
「レティ。何があったの?」
「……」
「私には言えないこと?」
深雪が静かに問いかけると、レティはタオルを握る深雪の手に触れた。レティの氷のような体温で、深雪の手も冷えていく。
「…………そうね」
たっぷりの沈黙の後、レティは短くそう応えた。
深雪は何も言えなかった。どうしていいか分からなかった。でも放っておくこともできない。
(どうしたらいいの。レティ)
レティの冷えた体温が、深雪の心を戸惑わせる。
しばらく動けずに、ただ2人の間に重い空気がのしかかる。
ふと、レティが何かを言ったような気がした。
「レティ?」
「先生、最近体調悪かったりしない?」
「体調?突然どうして……」
その先の言葉を口にすることは、はばかられた。レティが泣きそうな顔で深雪を見下ろしてきたからだ。
恐らくつい先程まで泣いていたのだろう、腫れた目を必死に深雪向けている。
その健気な行動は、深雪の心は何かに芽生えさせた。
「全然元気だよ。健康診断も、問題ないって」
「そう……」
「ねぇ、どうしたらいい?私に何か出来ることある?お願い。それだけ教えて」
レティはまた俯いた。髪と同じ色の白銀の睫毛が悲しげに伏せられる。何度かその長い睫毛が瞬きに震えた後、レティはやっと深雪を見た。
「あの言葉、もう一度言って」
「あの言葉?」
「砂時計の」
それは初めてレティをこの研究室に招いた時のことだろうか。
深雪は記憶を回顧する。
「砂時計は、引っ繰り返せば何度でも始まりがくる。だから、何度でもやり直せる」
合ってたかな、と深雪はレティに訊ねた。レティは深雪を見つめて、頷いた。
「砂時計、嫌いなんじゃなかったの?」
「先生がいれば大丈夫って言ったでしょう?」
「そうだった」
レティは懐くように深雪があててくれているタオルに頬ずりした。
握っていた深雪の手が、僅かに震えたことにも気付いた。
レティは一度深雪から視線を外し、掠れた声で伝えた。
「先生、私頑張るから」
「え?」
それは、レティの一世一代の決意だった。
(先生を、死から守る。私が、先生を生かすのよ)
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