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13話 12月13日~
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翌日からだった。深雪の周りで異変が起き始めたのは。
まず最初に発生したのは、交通事故だ。と言っても深雪が巻き込まれたわけでは無かった。
朝の通勤時、信号が青に変わって車を動かそうとアクセルを踏みかけた瞬間、前を走っていた黒のワゴン車に赤いスポーツカーが右から突っ込んだ。ワゴン車は大破し、運転手は死亡した。スポーツカーを運転していたのは50代の会社員で、赤信号に気付かなかったという。深雪の車にもワゴン車の破片が刺さり、しばらくの間修理に出した。その間、深雪は電車で通勤することとなった。
あんなに命の危機を感じたのは初めてだった。事故から数日経った今でも、目の前でつぶれた車の様子が瞼の裏に焼き付いている。
その翌日には、買った総菜から食中毒が発生、商品の回収が行われた。深雪がそれを温めて、まさにその日の夕飯にしようとしていた時に、テレビでたまたま見て知ったのだ。深雪はその総菜を乗せた小鉢を持ってその場に数秒固まった。
「ねえレティ」
「なあに、先生」
数日後。夜の18時過ぎ。レティとは昼休みだけでなく、4限の後も研究室で話すようになっていた。レティがそうしたいと言い出したのだ。深雪が帰るまで、仕事の邪魔はしないから、と。深雪は特に断る理由も無かったため二つ返事で了承した。
「私、もうすぐ死ぬのかも」
カタ、とレティがテーブルにカップを置く音がした。漂う静寂が、その音をいやに耳へ響かせる。
「どうしてそう思うの」
レティの声は静かだった。まるで音もなくしんしんと降る雪のような声だ。
「最近ね、私の周りでおかしなことが起きるの。この前の交通事故もそうだし、今日は目の前で学生が階段から落ちて病院に運ばれたし、昨日は私の行きつけのコンビニにナイフを持った強盗が入るし、その前は私の近所で指名手配された殺人犯が逮捕されたって」
「捕まったならよかったじゃない」
「そういう問題じゃないの。全て私の周りで起こっているから」
深雪は頭を抱えて俯く。
「怖くて」
その声は震えていた。目の前に得体の知れない恐怖が迫っている。逃げようのないそれに対峙するしかない現実が、深雪を追いつめていた。
「大丈夫よ」
「だから!」
「先生」
いつの間にかそばに来ていたレティが、深雪の手を頭から優しく引き離す。そのままそっと、深雪の右手を自分の両手で包み込むレティ。
「先生は、今も生きているわ」
その一言が、深雪を闇の中から救い出した。
彼女の人間離れした銀の双眸が、光のようにきらめく。
ずっと見ていたい。そう思わせるほどに、美しかった。
「レティ。ちょっと、私のこと抱きしめてくれない?」
「んふふ、いいわ」
深雪は自分の体をレティへと向ける。レティは自分を見上げてくる深雪をそっと腕の中に閉じ込めた。
レティの少し低い体温を感じながら、深雪はゆっくりと目を閉じた。
まず最初に発生したのは、交通事故だ。と言っても深雪が巻き込まれたわけでは無かった。
朝の通勤時、信号が青に変わって車を動かそうとアクセルを踏みかけた瞬間、前を走っていた黒のワゴン車に赤いスポーツカーが右から突っ込んだ。ワゴン車は大破し、運転手は死亡した。スポーツカーを運転していたのは50代の会社員で、赤信号に気付かなかったという。深雪の車にもワゴン車の破片が刺さり、しばらくの間修理に出した。その間、深雪は電車で通勤することとなった。
あんなに命の危機を感じたのは初めてだった。事故から数日経った今でも、目の前でつぶれた車の様子が瞼の裏に焼き付いている。
その翌日には、買った総菜から食中毒が発生、商品の回収が行われた。深雪がそれを温めて、まさにその日の夕飯にしようとしていた時に、テレビでたまたま見て知ったのだ。深雪はその総菜を乗せた小鉢を持ってその場に数秒固まった。
「ねえレティ」
「なあに、先生」
数日後。夜の18時過ぎ。レティとは昼休みだけでなく、4限の後も研究室で話すようになっていた。レティがそうしたいと言い出したのだ。深雪が帰るまで、仕事の邪魔はしないから、と。深雪は特に断る理由も無かったため二つ返事で了承した。
「私、もうすぐ死ぬのかも」
カタ、とレティがテーブルにカップを置く音がした。漂う静寂が、その音をいやに耳へ響かせる。
「どうしてそう思うの」
レティの声は静かだった。まるで音もなくしんしんと降る雪のような声だ。
「最近ね、私の周りでおかしなことが起きるの。この前の交通事故もそうだし、今日は目の前で学生が階段から落ちて病院に運ばれたし、昨日は私の行きつけのコンビニにナイフを持った強盗が入るし、その前は私の近所で指名手配された殺人犯が逮捕されたって」
「捕まったならよかったじゃない」
「そういう問題じゃないの。全て私の周りで起こっているから」
深雪は頭を抱えて俯く。
「怖くて」
その声は震えていた。目の前に得体の知れない恐怖が迫っている。逃げようのないそれに対峙するしかない現実が、深雪を追いつめていた。
「大丈夫よ」
「だから!」
「先生」
いつの間にかそばに来ていたレティが、深雪の手を頭から優しく引き離す。そのままそっと、深雪の右手を自分の両手で包み込むレティ。
「先生は、今も生きているわ」
その一言が、深雪を闇の中から救い出した。
彼女の人間離れした銀の双眸が、光のようにきらめく。
ずっと見ていたい。そう思わせるほどに、美しかった。
「レティ。ちょっと、私のこと抱きしめてくれない?」
「んふふ、いいわ」
深雪は自分の体をレティへと向ける。レティは自分を見上げてくる深雪をそっと腕の中に閉じ込めた。
レティの少し低い体温を感じながら、深雪はゆっくりと目を閉じた。
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