死神の砂時計

蒼依月

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14話 12月19日

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 翌週月曜日の朝の10時半過ぎ。深雪の姿は学長室にあった。
 深雪はいつも通りのダークグレーのスーツに黒いパンプス。鞄は研究室に置いてきた。
 目の前には学長の青葉史郎という男、机の上に両肘をついて手を組み、前かがみ気味で深雪を見ている。

「まあ、前々から言われてはいたんだけど、向こうがあまり本気かどうかよくわからなくて。でも昨日電話で話をしたときに、君の論文を読んで酷く感動している様子でね」
「はあ」

 深雪は曖昧な返事を返す。学長が何を言いたいのか、分かりかねていた。

「それで、うちに是非って。言ってるんだ」
「え?」
「鹿宴大学なら、君の研究に必要な環境経済学の研究も、うちよりは進んでいるし、一度話だけでも伝えておいてくれって言われてさ」

 鹿宴かえん大学は、経済学に強い大学だった。深雪が研究している環境経済についても、この春生大学よりはるかに研究は進んでいる。特に深雪の授業で使っている経済学の本も、鹿宴大学の書物を参考にしているものが多い。深雪にとっては思いがけない申し出だ。
 青葉は慎重に言葉を紡いでいるようだった。

「でもうちに経済学の先生は少ないし、君のことを教授に推薦しようかって話もこちらでは出てるんだよ。こちらとしては残ってほしいんだ。でも、これは君の問題だから最終的な決断をするのは君でなくてはいけない」
「はい」
「考えといてくれるかい?」
「はい」
「うん。もう一度言うけど、こちらとしては残っていてほしい。君は間違いなく優秀な人材だからね」
「ありがとうございます。では、失礼します」

 深雪は学長室を出た。そのまま足早に自分の研究室へと向かう。
 バタン、と研究室の扉を閉めた。

「はああああああああ」

 深雪は灰の中の空気を全て出すがごとく息を吐きだして、その場にうずくまった。

「どうしよう」

 深雪がひとりごちた時、研究室のガラスを強風が揺らした。ガタガタと音を立てて震えている。
 深雪はふと顔を上げて外を見た。
 今日は雲が多い。気温は日に日に冬へ近付いてきているようだ。
 深雪はおもむろに立ち上がり、研究室の暖房をつける。深雪は寒がりだった。レティとの昼食の時間、部屋が寒いのは嫌だと思った。

「レティ、今日も来るよね」

 深雪は授業の支度をして、研究室を出た。


□□□□□□□□


 ギィィンという金属音がぶつかる鈍い音とともに、旋風が吹き荒れる。
 死神の戦闘は、お互いのデスロードを使って行われるものだ。死神同士、同じ人間の魂を狩ろうとしたことが発覚した時が、戦闘開始の合図だった。それは1度や2度では終わらないことが多い。同じ程度の強さを持っている死神ならなおさら、決着がつくまで何度も行う。
 レティとヘラの戦闘は、今回で10回を超えた。
 仕掛けてくるのは大抵ヘラの方からだった。レティは深雪を死から守ることに必死でそれどころではないのに、ヘラはレティが深雪から離れた瞬間を狙って、デスロードで攻めてくる。1度無視を貫こうとしたら、深雪の目の前で学生を階段から突き落され、レティの怒りの琴線は完全に切れてしまった。
 その後もヘラはレティの反応を楽しむように、深雪の近くで戦闘をしかけ始めた。
 今も、レティは深雪の動向を見守りたいのに、ヘラがそれを阻む。
 ヘラのデスロードは両手剣だった。自分と同じくらいの大きさの剣をいとも簡単に持ち上げて振り回す。これがヘラの戦い方だった。
 振りかざしてくる剣を、大鎌で防ぎながらレティはぐっと歯を食いしばる。

「ねえ、もう諦めてよ」
「はあ?何言ってんだ」
「お願いだから、放っておいて」
「あははっ」

 ヘラの笑い方は、何か面白いものを見た時のような笑いだった。おかしくておかしくて、仕方がないと言ったふうに、口角を上げている。

「あなた、何を考えているの──」

 瞬間、ヘラの両手剣がレティ目掛けて飛んできた。レティは咄嗟にそれをよけ、ヘラのデスロードはそのままはるか彼方に飛んで行き、パッと淡い光とともに消えた。
 レティがその飛んで行った方向を、訝し気に睨む。だが、レティがヘラに振り向いた時、彼女は目を疑った。

「先生!!」

 レティの視線の先、ヘラの背後で、校舎から出てきたばかりの深雪がいた。

「逃げて!」

 その頭上に先程飛んできたヘラのデスロードが、雨の如く振り落ちていくのが見えた。





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