15 / 25
15話 12月19日(2)
しおりを挟む
このままでは深雪の頭上にデスロードが突き刺さってしまう。レティの声は、深雪には届いていないようで、深雪はそのまま歩いていく。
デスロードが深雪に迫る。レティはもう一度叫んだ。
「先生っ!!」
深雪が立ち止まった。きょろきょろと左右に首を動かしている。
口を動かして何かを言っているのが見えた。それが自分の名前だと分かる前に、レティは飛び出していた。
凄まじい速さで深雪に向かっていくレティ。それはすでに人間のなせる技ではなかった。
デスロードは止まらない。毎秒ごとに縮まっていくデスロードと深雪の距離に、レティだけが歯噛みしている。
デスロードが深雪のふんわりとした髪に触れるまであと数十センチという距離まで近づいた時、レティが伸ばした手が、深雪に触れ、2人の視線が絡まった。
「レ───」
ドォォン!!
大きな衝突音とともに、とてつもない衝撃が体を打ち、旋風と砂埃が吹き荒れる。しばらく止まなかった茶色い雲のようなそれに、周りの人間も少なからず被害を受ける。皆それぞれに顔を手で覆ったり物陰に隠れたりした。
そんな中、ヘラは空中に浮いて様子を俯瞰していた。その瞳は驚きで見開かれている。
ようやく砂埃が晴れ、見えてきたのは抉れた地面と、そこから少しずれた場所で横たわる2人の姿。
レティはゆっくりと体を起こし、庇った深雪を見下ろした。彼女の瞼は閉ざされている。
「先生……白石先生、起きて。起きて、先生。お願い……お願いよ……先生」
レティが緩く肩を揺らすと、深雪が唸った。
「うっ」
「先生!」
起き上がろうと身じろぐ深雪。レティはそっと体を離した。深雪は後頭部を打ったのか、顔をゆがめてそこをさすっている。
「先生、大丈夫?」
「まあ、なんとか……。レティこそ」
「私は何ともないわ」
「良かった」
深雪はレティの後ろの、抉れた地面を見て唖然とした。
「何あれ。なにか落ちてきたの?」
レティは何も答えずに、その抉れた部分を睨めつける。
「レティ」
「何?先生」
深雪を振り向くレティの顔は、美しい笑顔だった。
「ありがとう。助けてくれようとしたでしょう?」
「助けられてよかったわ」
「レティが飛び出してきた時は何事かと思ったけど」
深雪はふっと頬を綻ばせた。
「来てくれてよかったよ。おかげでまだ生きてる」
『まだ』という言葉が、レティの胸を締め付ける。
レティは深雪の胸部を見た。
(まだ、終わってない)
深雪の砂時計の砂は、まだ落ち続けている。最初に見た時とは違い、上下の砂の量が逆転していた。
レティは俯いて唇を結ぶ。無意識に拳を握りこんでいた。
「レティ?」
「……ねぇ先生」
「ん?」
「私、頑張るから」
「何を?」
「大丈夫ですか!?」
深雪の問いかけは、騒ぎを聞き付けてやってきた警備員によって掻き消された。
深雪は相変わらず後頭部を押えながら、警備員に事情を説明していた。と言っても深雪にも何が何だか分からない状況だったが。それでもできる限り、自分が見た事を伝えている。
レティはその後ろ姿を見ながら、視線だけを上に向けた。そこには中空に浮かぶヘラが厳しい表情でレティを見つめていた。
その手には数分前に深雪を襲ったおおきな両手剣が握られていた。
デスロードが深雪に迫る。レティはもう一度叫んだ。
「先生っ!!」
深雪が立ち止まった。きょろきょろと左右に首を動かしている。
口を動かして何かを言っているのが見えた。それが自分の名前だと分かる前に、レティは飛び出していた。
凄まじい速さで深雪に向かっていくレティ。それはすでに人間のなせる技ではなかった。
デスロードは止まらない。毎秒ごとに縮まっていくデスロードと深雪の距離に、レティだけが歯噛みしている。
デスロードが深雪のふんわりとした髪に触れるまであと数十センチという距離まで近づいた時、レティが伸ばした手が、深雪に触れ、2人の視線が絡まった。
「レ───」
ドォォン!!
大きな衝突音とともに、とてつもない衝撃が体を打ち、旋風と砂埃が吹き荒れる。しばらく止まなかった茶色い雲のようなそれに、周りの人間も少なからず被害を受ける。皆それぞれに顔を手で覆ったり物陰に隠れたりした。
そんな中、ヘラは空中に浮いて様子を俯瞰していた。その瞳は驚きで見開かれている。
ようやく砂埃が晴れ、見えてきたのは抉れた地面と、そこから少しずれた場所で横たわる2人の姿。
レティはゆっくりと体を起こし、庇った深雪を見下ろした。彼女の瞼は閉ざされている。
「先生……白石先生、起きて。起きて、先生。お願い……お願いよ……先生」
レティが緩く肩を揺らすと、深雪が唸った。
「うっ」
「先生!」
起き上がろうと身じろぐ深雪。レティはそっと体を離した。深雪は後頭部を打ったのか、顔をゆがめてそこをさすっている。
「先生、大丈夫?」
「まあ、なんとか……。レティこそ」
「私は何ともないわ」
「良かった」
深雪はレティの後ろの、抉れた地面を見て唖然とした。
「何あれ。なにか落ちてきたの?」
レティは何も答えずに、その抉れた部分を睨めつける。
「レティ」
「何?先生」
深雪を振り向くレティの顔は、美しい笑顔だった。
「ありがとう。助けてくれようとしたでしょう?」
「助けられてよかったわ」
「レティが飛び出してきた時は何事かと思ったけど」
深雪はふっと頬を綻ばせた。
「来てくれてよかったよ。おかげでまだ生きてる」
『まだ』という言葉が、レティの胸を締め付ける。
レティは深雪の胸部を見た。
(まだ、終わってない)
深雪の砂時計の砂は、まだ落ち続けている。最初に見た時とは違い、上下の砂の量が逆転していた。
レティは俯いて唇を結ぶ。無意識に拳を握りこんでいた。
「レティ?」
「……ねぇ先生」
「ん?」
「私、頑張るから」
「何を?」
「大丈夫ですか!?」
深雪の問いかけは、騒ぎを聞き付けてやってきた警備員によって掻き消された。
深雪は相変わらず後頭部を押えながら、警備員に事情を説明していた。と言っても深雪にも何が何だか分からない状況だったが。それでもできる限り、自分が見た事を伝えている。
レティはその後ろ姿を見ながら、視線だけを上に向けた。そこには中空に浮かぶヘラが厳しい表情でレティを見つめていた。
その手には数分前に深雪を襲ったおおきな両手剣が握られていた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。
それは愛のない政略結婚――
人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。
後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる