9 / 19
第1章
9話
しおりを挟む
シオンは差し出された手をじっと見つめ、続いてガーラの紫がかった双眸を見定めた。
(本気、なんだ。本気で私を仲間として迎え入れようとしてくれてる)
シオンは彼の手を取った。控えめに握って、困ったように笑った。
「皆さんのあんな重たい過去を聞かされて、断れると思っていたのですか?」
「それは……すまない。君をどうしても放っておくことができなくて」
「分かっています。私も、国に裏切られたようなものですから」
ガーラは僅かに眉を下げてしまった。そんな顔をさせたいわけではなかったのだが。
「あの、色々と話してくれてありがとうございました。改めて。元聖女のシオンです。これからよろしくお願いします」
シオンは笑顔で言い、丁寧に頭を下げた。
□□□□□□□□
スイを起こしに行くのは、もうシオンの日課になっていた。
「スイ、入るよ」
ノックをしても返事がなかったので、一応断りを入れて部屋に入る。
スイの部屋は彼女のイメージと同じ、翡翠色で統一された明るい部屋だった。子供っぽさは足りない気がするが彼女らしい部屋だ、と最初に入った時に思った。
ここに来て10日程経っている。洗濯と食事の準備は、シオンの役目になっていた。王宮勤めだったといえど、やれることは自分でやってきた経験が役に立っている。
(そんなだから、かわいげがなかったのかな)
散らかった部屋を見渡し、ベッドに向かう。こんもりと盛り上がった布団の塊がそこにあった。
シオンはふっと笑みを浮かべてその塊に手を伸ばした。ゆさゆさと揺らしてみる。
「スイ、おはよう。朝ごはんできたよ。一緒に食べよう」
「んう……しお…ん…」
「そうだよ。起きて」
スイは返事のようなそうでないような声をもらして、もそもそと布団から這い上がる。
「おは……お姉ちゃん」
「うん。おはよう」
かすれた声で呼ばれ、思わず頬が緩む。スイが抱っこを要求してきたので、シオンはベッドの上に座り彼女を膝に乗せた。さすがに10歳の子供を抱っこしてダイニングまで行く体力は無かった。スイの身支度もしないといけない。
スイがシオンの首のあたりに頬ずりをした。鱗が冷たくて気持ちがいい。
「スイ、顔洗っておいで。髪の毛とかしてあげるから」
「あい」
スイは眠そうに目を擦りながら洗面所に向かった。
スイの髪をとかして、服を着替えさせてダイニングに向かうと、すでにガーラ達2人は食べ始めていた。ここでは食事は個人で取るらしい。
朝の挨拶を交わし、スイとシオンも席に着く。
朝食を食べていると、ガーラが珍しく口を開いた。
「今日、魔物の退治に行く」
「え?今日?」
シオンが驚いて問い返すと、ウェストが少し困ったように言った。
「お前、そういうことは遅くても昨日のうちに言ってくれよ」
「スイはいいよ」
「今度はどこなんだ?」
「カタリ村」
「カタリ村って、ここから近いな」
「スイも行く」
3人でどんどん話が進んでいく。シオンが口を挟む隙も無い。
(これ、私も行っていいのかな。でも、なんか入り込める感じじゃない)
朝食を食べる手をとめて逡巡していると、ガーラと視線がぶつかった。
「シオン。君にも来てほしいんだが、いいだろうか」
「え、あ、はい。大丈夫です」
「よかった」
よかったというわりには不愛想な面差しに、シオンは呆気にとられる。
「ごめんな、シオン。こいつ、いつもこうでさ」
ウェストが笑いながら謝ってくる。するとガーラは不貞腐れたようにウェストを睨んだ。
「おい」
「だってそうだろう?急に仕事に行くとか言い出して。しかも不愛想だしな、お前は」
「うるさい」
「ガーラが笑うときもあるよ。ちょっとだけど」
シオンは3人のやり取りをどこか引いて見た。
楽しい、そう思った。
(良かった。あの時ガーラさんの手を取って)
(本気、なんだ。本気で私を仲間として迎え入れようとしてくれてる)
シオンは彼の手を取った。控えめに握って、困ったように笑った。
「皆さんのあんな重たい過去を聞かされて、断れると思っていたのですか?」
「それは……すまない。君をどうしても放っておくことができなくて」
「分かっています。私も、国に裏切られたようなものですから」
ガーラは僅かに眉を下げてしまった。そんな顔をさせたいわけではなかったのだが。
「あの、色々と話してくれてありがとうございました。改めて。元聖女のシオンです。これからよろしくお願いします」
シオンは笑顔で言い、丁寧に頭を下げた。
□□□□□□□□
スイを起こしに行くのは、もうシオンの日課になっていた。
「スイ、入るよ」
ノックをしても返事がなかったので、一応断りを入れて部屋に入る。
スイの部屋は彼女のイメージと同じ、翡翠色で統一された明るい部屋だった。子供っぽさは足りない気がするが彼女らしい部屋だ、と最初に入った時に思った。
ここに来て10日程経っている。洗濯と食事の準備は、シオンの役目になっていた。王宮勤めだったといえど、やれることは自分でやってきた経験が役に立っている。
(そんなだから、かわいげがなかったのかな)
散らかった部屋を見渡し、ベッドに向かう。こんもりと盛り上がった布団の塊がそこにあった。
シオンはふっと笑みを浮かべてその塊に手を伸ばした。ゆさゆさと揺らしてみる。
「スイ、おはよう。朝ごはんできたよ。一緒に食べよう」
「んう……しお…ん…」
「そうだよ。起きて」
スイは返事のようなそうでないような声をもらして、もそもそと布団から這い上がる。
「おは……お姉ちゃん」
「うん。おはよう」
かすれた声で呼ばれ、思わず頬が緩む。スイが抱っこを要求してきたので、シオンはベッドの上に座り彼女を膝に乗せた。さすがに10歳の子供を抱っこしてダイニングまで行く体力は無かった。スイの身支度もしないといけない。
スイがシオンの首のあたりに頬ずりをした。鱗が冷たくて気持ちがいい。
「スイ、顔洗っておいで。髪の毛とかしてあげるから」
「あい」
スイは眠そうに目を擦りながら洗面所に向かった。
スイの髪をとかして、服を着替えさせてダイニングに向かうと、すでにガーラ達2人は食べ始めていた。ここでは食事は個人で取るらしい。
朝の挨拶を交わし、スイとシオンも席に着く。
朝食を食べていると、ガーラが珍しく口を開いた。
「今日、魔物の退治に行く」
「え?今日?」
シオンが驚いて問い返すと、ウェストが少し困ったように言った。
「お前、そういうことは遅くても昨日のうちに言ってくれよ」
「スイはいいよ」
「今度はどこなんだ?」
「カタリ村」
「カタリ村って、ここから近いな」
「スイも行く」
3人でどんどん話が進んでいく。シオンが口を挟む隙も無い。
(これ、私も行っていいのかな。でも、なんか入り込める感じじゃない)
朝食を食べる手をとめて逡巡していると、ガーラと視線がぶつかった。
「シオン。君にも来てほしいんだが、いいだろうか」
「え、あ、はい。大丈夫です」
「よかった」
よかったというわりには不愛想な面差しに、シオンは呆気にとられる。
「ごめんな、シオン。こいつ、いつもこうでさ」
ウェストが笑いながら謝ってくる。するとガーラは不貞腐れたようにウェストを睨んだ。
「おい」
「だってそうだろう?急に仕事に行くとか言い出して。しかも不愛想だしな、お前は」
「うるさい」
「ガーラが笑うときもあるよ。ちょっとだけど」
シオンは3人のやり取りをどこか引いて見た。
楽しい、そう思った。
(良かった。あの時ガーラさんの手を取って)
0
あなたにおすすめの小説
最強お嬢様、王族転生!面倒事は即回避!自由気ままに爆走しますけど何か?
幸之丞
ファンタジー
転生したら――まさかの王族。
豪華な生活は大歓迎だが、政治?儀式?婚約?
そんな面倒事、わたしには無理!
「自由に生きるわ。何が悪いの!」
そう考えた主人公エリーゼは、王家の常識を軽々とぶっ壊しながら、
好きなことだけを全力で楽しむ“自由至上主義”の王族ライフを爆走する。
だが、面倒事から逃げているはずなのに、
なぜか家族は勝手に主人公を「天才」「救世主」と勘違いし始め――
気づけば女神も巻き込む大騒動に発展していく。
面倒は回避、自由は死守。
そんな主人公の“予測不能な王族生活”が今、幕を開ける。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる