三毛猫、公爵令嬢を拾う。

蒼依月

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第3章

3-7

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 ミカエルは家に戻るなり、ルネに出かける準備をするよう伝えた。
 数十分後、身なりを整え魔物狩り用のパンツスタイルの服から、ふんわりとしたミントグリーンのスカートと白いブラウスに着替えたルネは、鞄を持って家の階段を下りた。玄関にはすでにミカエルが待っている。

「ごめんなさい、遅くなってしまって」
「問題ない」

 ミカエルがルネの手を取り自分に引き寄せる。今でも移動魔法で転移するときは、いつもミカエルに任せていた。

「行くぞ」
「はい」

 目を閉じて少しすると、体が浮き上がるような感覚を覚えた。しばらくそれに身を任せていると、次第に重力が体を支配し、次に優しいバリトンが聞こえてきた。

「ルネ、着いたよ」

 目を開けると、そこはもう隣国の街中の一角だった。目立たないよう建物の陰に転移している。ミカエルはそっとルネの背に回していた手を離し、彼女を見上げる。

「さあ、君へのプレゼントを買いに行こう」
「わ、み、ミカエル様っ!?」
 
 ミカエルは相変わらず嬉しそうだ。珍しくルネの行動を待つ前に、彼女の手を引っ張って歩いていく。つんのめりそうになりながらも、ルネはミカエルの少し強気なエスコートについていった。
 街は中々に活気があった。緩やかに曲がる大通りは綺麗に舗装され、街路樹や低木にも手入れが行き届いている。建物は2~3階建てのものが多く、バルコニーがあるレストランには沢山の人が食事を楽しんでいる。大通りから分かれた細い路地に入ると、一気に住宅街と言った感じだ。洗濯物があちらこちらのベランダに干され、子供たちが走り去っていく。
 ルネはあまりよくないと分かっていながらも、目で色々な景色を追いかけた。

「ここまで活気のある街は初めてだな」
「はい。見たことのないものが沢山あって、目が足りませんわ」
「はは。ゆっくり見ながら行こう」
「目的地はあるのですか?」
「とりあえず魔法道具が置いてある店を探す。君に合うものがあるといいのだが」

 ルネは今まで魔法道具を使ったことが無かった。道具がなくても魔法が使えるからだ。

「ミカエル様。魔法道具は何故必要なのですか?」
「簡単に言えば、素手で魔法を扱うより格段に魔法が言うことを聞くようになるし、攻撃力も防御力も上がる。道具は使い手の一部だ。上手く使えるようになれば、今よりもっと魔法を使いこなせるようになるだろう。それに」

 ミカエルはルネを見上げた。ペリドットの双眸に太陽の光が反射してきらめく。

「君の魔力量を考えれば、魔法道具は必須だろう」
「何故です?」
「私と一緒で人よりも魔力量が多いからな。体内に巡る魔力が多ければ多いほど、素手で魔法を操作することが難しいと言われている。君がもっと魔法をうまく扱えるようになって、私と同等になるには、魔法道具は必要不可欠だろう」
「そうなのですね」

(同等って言ってくれた。ミカエル様は私の力を信じてくださってるんだわ)

 何気ないミカエルの一言にルネの頬が緩む。
 
「魔法道具、魔法道具……ミカエル様は私の魔法道具はどういったものがいいと思います?」
「そうだな。君は風魔法が得意だから、私の鉤爪のような物理的なものではない、杖とかがいいんじゃないか?」
「杖ですか。いいですね!」

 ルネは高揚した気分で杖を扱う自分を想像してみた。

(杖を持ったら、今よりももっとミカエル様に近付けるかしら)

 ふとミカエルが赤い屋根の建物の前に止まった。振り向いてミカエルの視線を追うと、そこにはショーウィンドウがあり、いくつかの魔法道具が綺麗に並べられていた。刀や弓、盾、ルネの背丈より大きな杖もある。

「ここに行ってみようか」
「はい」

 木の扉を押すとカランカランとドアベルが乾いた音を鳴らし、しばらくして奥から店主らしい初老の男が顔を出した。

「いらっしゃいませ」
「この子の魔法道具を探しているんだ」

 店主がルネを見て、丁寧に微笑んだ。何とも雰囲気が落ち着いた人だ。

「ご希望はありますか?」
「風を操るから、出来ればそれに合うようなものがいい。頼めるか?」
「はい、お任せください」

 そう言うと、店主はまた奥に引っ込んでいった。入れ替わるようにスタッフの女性が2人に声をかけ、近くのソファに座るよう促した。

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