60 / 82
第3章
3-8
しおりを挟む
出されたお茶と飲みながら待っていると、店主がいくつかの箱を持って戻ってきた。
「お待たせしました。いくつか持ってきましたのでご覧ください」
店主がルネの傍らに膝をつき、その隣に箱を置く。一番上の長細い箱を手に持ち、ルネの目の前に置いて開けた。中には片手で扱える杖が入っていた。先端には白い玉が付いていて全体を金属製の装飾が施されている。店主が手袋をはめた手でそっと杖を手に持ち、ルネに差し出した。
「どうぞ。持ってみてください」
「いいのですか?」
躊躇いを露わにして聞くと、店主はほんわかと微笑んだ。
「魔法道具は持ち手の体の一部となるものです。その体になじむものが良いでしょう」
そう言われて、ルネはおずおずと杖を受け取る。思ったよりも軽い。片手でも振り回せる重量感だ。でも、何か違う。言い表しがたい違和感がある。ルネの表情を読み取ったミカエルが、店主に次のものを促した。
次に渡されたのは短剣だ。
「短剣は風魔法と相性がいい」
「あまりイメージがわかないのですが……」
「そうだな。短剣は何も手で扱うだけではない。君の旋風の代わりにこれを魔法で投げ飛ばすことも出来る。もちろん、物理攻撃を防ぐ盾にもなる」
「んー。なんだか物騒ですね」
「持ってみますか?」
言われるまま、短剣を手に持ってみる。が、やはり何かしっくりこない。ルネが首を振ると、店主は嫌な顔をせず次の箱を開けた。
そうしていくつもの箱を開けること1時間。女性スタッフがひっきりなしに持ってくる箱の中で、白い箱に青いリボンがかかったものがルネの目についた。
「あの中には何が入っているのですか?」
「ああ、これは……この通り、扇です」
店主が箱を開けると、中には白い羽扇が入っていた。羽の一枚一枚は木製の扇の要に向かって青みがかっており、まるでルネの花を思わせる。
丁寧に差し出されたそれを手に取り、ルネは息を呑んだ。今まで持ったものとは違う、確かに手に馴染む感覚を覚える。ずっと前から使っている筆記具のように、自然と指先に溶けていくような、不思議な感覚だ。
「ミカエル様」
「どうした」
「私、これにします」
扇を見つめたままそう告げると、ミカエルは「そうか」と一言言って店主に会計を頼んだ。ミカエルが会計を済ませている間も、ルネは扇を離さなかった。なんだかいつまでも手に持っていたいと思った。自分の体の一部になるとはこういう感覚なのだろうか。
「ルネ。一緒に肩から下げられる紐を買っておいた。こちらに来なさい」
ミカエルに呼ばれてソファから立ち上がりそばに寄る。ミカエルの手には黒い飾り紐が握られていて扇を手渡すと素早く結び、ルネの首に提げてくれた。それを肩にかけ直し、ルネは羽を触る。ふわふわしているがそんなに派手でもない。動物の羽根には見えないが、どうやって作ったのだろうかなどと考えているうちに、会計は済んでいた。
「確かに、全額頂戴致しました」
「あっ!ミカエル様!お、お金!私値段も確認せずに!」
我に返って慌てふためくルネの様子が可笑しかったのか、ミカエルは吹き出しながら首を振った。
「これは君へのプレゼントだと言っただろう?そんなこと気にしなくていい」
「で、でも」
「本当にいいんだよ。私はこれくらい出したところで破産しないほどの資金は持っている。なんの問題もない」
そういう意味で言ったのでは無いが、この会話はどう返しても決着がつかない気がして、ルネはミカエルの好意に甘えることにした。
店を出ると、寒風が肌を撫ぜた。思わず身を竦ませたルネの手をミカエルが握る。
「寒いのは苦手だ。早く帰ろう」
こういうミカエルの猫っぽいところが、ルネは気に入っていた。腰の扇を指先で弄びながら帰路に着く、その時。
「!?」
「きゃっ」
大きな爆発音が、2人の耳をつんざいた。
「お待たせしました。いくつか持ってきましたのでご覧ください」
店主がルネの傍らに膝をつき、その隣に箱を置く。一番上の長細い箱を手に持ち、ルネの目の前に置いて開けた。中には片手で扱える杖が入っていた。先端には白い玉が付いていて全体を金属製の装飾が施されている。店主が手袋をはめた手でそっと杖を手に持ち、ルネに差し出した。
「どうぞ。持ってみてください」
「いいのですか?」
躊躇いを露わにして聞くと、店主はほんわかと微笑んだ。
「魔法道具は持ち手の体の一部となるものです。その体になじむものが良いでしょう」
そう言われて、ルネはおずおずと杖を受け取る。思ったよりも軽い。片手でも振り回せる重量感だ。でも、何か違う。言い表しがたい違和感がある。ルネの表情を読み取ったミカエルが、店主に次のものを促した。
次に渡されたのは短剣だ。
「短剣は風魔法と相性がいい」
「あまりイメージがわかないのですが……」
「そうだな。短剣は何も手で扱うだけではない。君の旋風の代わりにこれを魔法で投げ飛ばすことも出来る。もちろん、物理攻撃を防ぐ盾にもなる」
「んー。なんだか物騒ですね」
「持ってみますか?」
言われるまま、短剣を手に持ってみる。が、やはり何かしっくりこない。ルネが首を振ると、店主は嫌な顔をせず次の箱を開けた。
そうしていくつもの箱を開けること1時間。女性スタッフがひっきりなしに持ってくる箱の中で、白い箱に青いリボンがかかったものがルネの目についた。
「あの中には何が入っているのですか?」
「ああ、これは……この通り、扇です」
店主が箱を開けると、中には白い羽扇が入っていた。羽の一枚一枚は木製の扇の要に向かって青みがかっており、まるでルネの花を思わせる。
丁寧に差し出されたそれを手に取り、ルネは息を呑んだ。今まで持ったものとは違う、確かに手に馴染む感覚を覚える。ずっと前から使っている筆記具のように、自然と指先に溶けていくような、不思議な感覚だ。
「ミカエル様」
「どうした」
「私、これにします」
扇を見つめたままそう告げると、ミカエルは「そうか」と一言言って店主に会計を頼んだ。ミカエルが会計を済ませている間も、ルネは扇を離さなかった。なんだかいつまでも手に持っていたいと思った。自分の体の一部になるとはこういう感覚なのだろうか。
「ルネ。一緒に肩から下げられる紐を買っておいた。こちらに来なさい」
ミカエルに呼ばれてソファから立ち上がりそばに寄る。ミカエルの手には黒い飾り紐が握られていて扇を手渡すと素早く結び、ルネの首に提げてくれた。それを肩にかけ直し、ルネは羽を触る。ふわふわしているがそんなに派手でもない。動物の羽根には見えないが、どうやって作ったのだろうかなどと考えているうちに、会計は済んでいた。
「確かに、全額頂戴致しました」
「あっ!ミカエル様!お、お金!私値段も確認せずに!」
我に返って慌てふためくルネの様子が可笑しかったのか、ミカエルは吹き出しながら首を振った。
「これは君へのプレゼントだと言っただろう?そんなこと気にしなくていい」
「で、でも」
「本当にいいんだよ。私はこれくらい出したところで破産しないほどの資金は持っている。なんの問題もない」
そういう意味で言ったのでは無いが、この会話はどう返しても決着がつかない気がして、ルネはミカエルの好意に甘えることにした。
店を出ると、寒風が肌を撫ぜた。思わず身を竦ませたルネの手をミカエルが握る。
「寒いのは苦手だ。早く帰ろう」
こういうミカエルの猫っぽいところが、ルネは気に入っていた。腰の扇を指先で弄びながら帰路に着く、その時。
「!?」
「きゃっ」
大きな爆発音が、2人の耳をつんざいた。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる