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第3章
3-21
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どれくらい経っただろうか。何杯目かの紅茶を入れていた時、玄関の扉が開いた。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
ルネが笑顔で出迎えると、ミカエルもふっと口元をほころばせた。その手には小さな花が何輪か握られている。
「ミカエル様。これは?」
「散歩をしていて見つけたんだ。大きな花畑があって、そこで摘んできた。家に飾ったらいいかと思って」
ミカエルが花を渡すと、ルネはその香りを嗅いでうっとりした。
「素敵な香りですわ。延命されてない花なんて初めて見たかもしれませんわ」
「今や珍しいからな。ルネの花と同じだ」
「ふふ。そうですね」
ルネは踵を返すと、花瓶を探そうと2階に行った。階段を上がる合間も、どこに飾ろうかしらと浮かれているようだった。
(良かった。笑顔になって)
帰る間、まだぎこちない雰囲気を漂わせていたらどうしようかと悩んでいたが、杞憂だったようだ。1人になって気持ちの整理でもついたのだろうか。
ミカエルは外套をコートスタンドにかけ、キッチンに向かい入れかけの紅茶のポットにお湯を注ぐ。ふと見ると、ごみ箱に、何度も紅茶を入れた形跡があった。随分とあの花畑で長居してしまったようだ。
(寂しくさせたか……)
これはうぬぼれか、事実か。
カップに2人分の紅茶を入れ、振り返ると階段を降りてきたルネと目が合った。ルネは花と花瓶を持ったまま、立ち尽くしていたようにも見えた。
「ルネ?」
ミカエルが呼ぶと、ルネはハッと気を取り戻してこちらに向かってくる。
カタン、と花瓶をシンクに置くルネは、ミカエルに向かってぽつりとつぶやいた。
「私、この前ミカエル様が、どうしてあのようなことを言ったのか、考えていたのですが」
それを今本人の前で言うのかとミカエルは驚愕する。
「今ミカエル様がキッチンで私の分までお茶を入れてくださっている姿を見て、ああ、きっとこういうあったかい気持ちになって、つい出てしまったんだわと思いましたわ」
図星をさされてミカエルは再びペリドットの双眸を見開いた。彼女はどこまでもまっすぐで、聡明だ。それはこの1年間ずっと隣にいたミカエルが一番よく分かっている。
ミカエルは力を抜くような笑みを浮かべてルネを見上げた。
「そうだよ」
「ふふ。ミカエル様。私、その時のミカエル様と同じ思いですわ。私も、ミカエル様と、この先もずっと一緒に居たいです」
「ああ。そうだね」
ミカエルが左手をルネに伸ばした。ルネは膝を折りミカエルと目線を合わせる。
しばしお互いの瞳を見つめあって、先に行動を起こしたのはミカエルだった。
ルネの髪を梳き、ルネがそれに身を任せていると不意に顔が近付いて、額に何かが触れる感触がした。
ルネが驚いて目を見開くと、ミカエルは面白そうにクスクスと笑っている。
「ミカエル様?」
子ども扱いされたようで不貞腐れていると、ミカエルはそのふわふわの手でルネの頭を一度撫でた。
「今夜、寝る前に話がある。私たちの関係を進めるには、その話をしてからがいいと私は思っている」
「つまり私にはまだ早いと?」
「そういう言い方はしてないだろう?」
ミカエルが反論すると、頬を膨らませるルネと目が合った。しばらくまた目を見つめあっていると、どちらからともなくふきだして笑った。
ミカエルがまたルネの頭に手を置く。
「ゆっくりと進めて行こう。私は急ぐのは苦手なんだ」
「はい」
ルネが立ちあがって、もらった花を活け始めた。花は1階の一番目につく丸テーブルに置かれた。
小さな花が、2人の関係を祝福するように咲いている。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
ルネが笑顔で出迎えると、ミカエルもふっと口元をほころばせた。その手には小さな花が何輪か握られている。
「ミカエル様。これは?」
「散歩をしていて見つけたんだ。大きな花畑があって、そこで摘んできた。家に飾ったらいいかと思って」
ミカエルが花を渡すと、ルネはその香りを嗅いでうっとりした。
「素敵な香りですわ。延命されてない花なんて初めて見たかもしれませんわ」
「今や珍しいからな。ルネの花と同じだ」
「ふふ。そうですね」
ルネは踵を返すと、花瓶を探そうと2階に行った。階段を上がる合間も、どこに飾ろうかしらと浮かれているようだった。
(良かった。笑顔になって)
帰る間、まだぎこちない雰囲気を漂わせていたらどうしようかと悩んでいたが、杞憂だったようだ。1人になって気持ちの整理でもついたのだろうか。
ミカエルは外套をコートスタンドにかけ、キッチンに向かい入れかけの紅茶のポットにお湯を注ぐ。ふと見ると、ごみ箱に、何度も紅茶を入れた形跡があった。随分とあの花畑で長居してしまったようだ。
(寂しくさせたか……)
これはうぬぼれか、事実か。
カップに2人分の紅茶を入れ、振り返ると階段を降りてきたルネと目が合った。ルネは花と花瓶を持ったまま、立ち尽くしていたようにも見えた。
「ルネ?」
ミカエルが呼ぶと、ルネはハッと気を取り戻してこちらに向かってくる。
カタン、と花瓶をシンクに置くルネは、ミカエルに向かってぽつりとつぶやいた。
「私、この前ミカエル様が、どうしてあのようなことを言ったのか、考えていたのですが」
それを今本人の前で言うのかとミカエルは驚愕する。
「今ミカエル様がキッチンで私の分までお茶を入れてくださっている姿を見て、ああ、きっとこういうあったかい気持ちになって、つい出てしまったんだわと思いましたわ」
図星をさされてミカエルは再びペリドットの双眸を見開いた。彼女はどこまでもまっすぐで、聡明だ。それはこの1年間ずっと隣にいたミカエルが一番よく分かっている。
ミカエルは力を抜くような笑みを浮かべてルネを見上げた。
「そうだよ」
「ふふ。ミカエル様。私、その時のミカエル様と同じ思いですわ。私も、ミカエル様と、この先もずっと一緒に居たいです」
「ああ。そうだね」
ミカエルが左手をルネに伸ばした。ルネは膝を折りミカエルと目線を合わせる。
しばしお互いの瞳を見つめあって、先に行動を起こしたのはミカエルだった。
ルネの髪を梳き、ルネがそれに身を任せていると不意に顔が近付いて、額に何かが触れる感触がした。
ルネが驚いて目を見開くと、ミカエルは面白そうにクスクスと笑っている。
「ミカエル様?」
子ども扱いされたようで不貞腐れていると、ミカエルはそのふわふわの手でルネの頭を一度撫でた。
「今夜、寝る前に話がある。私たちの関係を進めるには、その話をしてからがいいと私は思っている」
「つまり私にはまだ早いと?」
「そういう言い方はしてないだろう?」
ミカエルが反論すると、頬を膨らませるルネと目が合った。しばらくまた目を見つめあっていると、どちらからともなくふきだして笑った。
ミカエルがまたルネの頭に手を置く。
「ゆっくりと進めて行こう。私は急ぐのは苦手なんだ」
「はい」
ルネが立ちあがって、もらった花を活け始めた。花は1階の一番目につく丸テーブルに置かれた。
小さな花が、2人の関係を祝福するように咲いている。
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