三毛猫、公爵令嬢を拾う。

蒼依月

文字の大きさ
73 / 82
第3章

3-21

しおりを挟む
 どれくらい経っただろうか。何杯目かの紅茶を入れていた時、玄関の扉が開いた。
 
「おかえりなさい!」
「ただいま」

 ルネが笑顔で出迎えると、ミカエルもふっと口元をほころばせた。その手には小さな花が何輪か握られている。
 
「ミカエル様。これは?」
「散歩をしていて見つけたんだ。大きな花畑があって、そこで摘んできた。家に飾ったらいいかと思って」
 
 ミカエルが花を渡すと、ルネはその香りを嗅いでうっとりした。

「素敵な香りですわ。延命されてない花なんて初めて見たかもしれませんわ」
「今や珍しいからな。ルネの花と同じだ」
「ふふ。そうですね」

 ルネは踵を返すと、花瓶を探そうと2階に行った。階段を上がる合間も、どこに飾ろうかしらと浮かれているようだった。

(良かった。笑顔になって)

 帰る間、まだぎこちない雰囲気を漂わせていたらどうしようかと悩んでいたが、杞憂だったようだ。1人になって気持ちの整理でもついたのだろうか。
 ミカエルは外套をコートスタンドにかけ、キッチンに向かい入れかけの紅茶のポットにお湯を注ぐ。ふと見ると、ごみ箱に、何度も紅茶を入れた形跡があった。随分とあの花畑で長居してしまったようだ。

(寂しくさせたか……)

 これはうぬぼれか、事実か。
 カップに2人分の紅茶を入れ、振り返ると階段を降りてきたルネと目が合った。ルネは花と花瓶を持ったまま、立ち尽くしていたようにも見えた。
 
「ルネ?」

 ミカエルが呼ぶと、ルネはハッと気を取り戻してこちらに向かってくる。
 カタン、と花瓶をシンクに置くルネは、ミカエルに向かってぽつりとつぶやいた。

「私、この前ミカエル様が、どうしてあのようなことを言ったのか、考えていたのですが」

 それを今本人の前で言うのかとミカエルは驚愕する。

「今ミカエル様がキッチンで私の分までお茶を入れてくださっている姿を見て、ああ、きっとこういうあったかい気持ちになって、つい出てしまったんだわと思いましたわ」

 図星をさされてミカエルは再びペリドットの双眸を見開いた。彼女はどこまでもまっすぐで、聡明だ。それはこの1年間ずっと隣にいたミカエルが一番よく分かっている。
 ミカエルは力を抜くような笑みを浮かべてルネを見上げた。

「そうだよ」
「ふふ。ミカエル様。私、その時のミカエル様と同じ思いですわ。私も、ミカエル様と、この先もずっと一緒に居たいです」
「ああ。そうだね」

 ミカエルが左手をルネに伸ばした。ルネは膝を折りミカエルと目線を合わせる。
 しばしお互いの瞳を見つめあって、先に行動を起こしたのはミカエルだった。
 ルネの髪を梳き、ルネがそれに身を任せていると不意に顔が近付いて、額に何かが触れる感触がした。
 ルネが驚いて目を見開くと、ミカエルは面白そうにクスクスと笑っている。

「ミカエル様?」

 子ども扱いされたようで不貞腐れていると、ミカエルはそのふわふわの手でルネの頭を一度撫でた。

「今夜、寝る前に話がある。私たちの関係を進めるには、その話をしてからがいいと私は思っている」
「つまり私にはまだ早いと?」
「そういう言い方はしてないだろう?」

 ミカエルが反論すると、頬を膨らませるルネと目が合った。しばらくまた目を見つめあっていると、どちらからともなくふきだして笑った。
 ミカエルがまたルネの頭に手を置く。

「ゆっくりと進めて行こう。私は急ぐのは苦手なんだ」
「はい」

 ルネが立ちあがって、もらった花を活け始めた。花は1階の一番目につく丸テーブルに置かれた。
 小さな花が、2人の関係を祝福するように咲いている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画

及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。 【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】 姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。 双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。 だが、この公爵家、何かおかしい? 異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。 一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。 ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳      バーディナ伯爵家令嬢         ✖️ ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳      キングスフォード公爵 ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣たくさんいただきありがとうございます。 とても励みになります。 感想もいただけたら嬉しいです。

処理中です...