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第3章
3-24
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ミカエルはそれを自然のことのように受け入れ彼女の頭を優しく撫でる。
「すまない。あまりいい話ではなかった」
「いいえ。話していただいて良かったですわ」
「君に聞かせるべきか最後まで迷ったんだ」
「ええ。分かっています。ミカエル様は優しいですから」
そう紡ぐルネの唇が震える。ルネは堪えるようにぐっと噛みしめた。
「でも君にはやっぱり、知る権利があると思って」
「はい」
ルネは目を閉じて父親の顔を思い出した。今まで封印してきた過去の蓋を開けて、向き合う。
「……ふっ、うぅ」
思い出せば思いだすほど辛くなった。涙が出て止まらなかった。厳しくされたこともあった。でもそれよりもつらかったのは、無関心でいられたことだった。自分に興味を失くした瞬間の父親の双眸は今でも覚えている。それが恐ろしくて、悲しくて、父親の期待に応えられない自分に腹も立った。でもそれよりも、無条件の愛が欲しかった。
普通の親子でいたかった。
「ぁ……うう……お、父様……どうして……」
自分の父親の考えを理解することが、雲をつかむことのように難しい。どうして、もっと単純でいられなかったのだろうか。父親は、その先に一体何を見ているのだろう。
ルネはぐっと涙を拭いた。いつもミカエルに拭ってもらっていた、弱い自分に戻りたくなかった。
「み、ミカエル様」
「どうした」
「私、お父様に負けたくありません」
しゃくりあげながら必死にそう伝えると、ミカエルは一瞬驚いたように目を見開き、次に優しく笑った。
「そうだな。私も、私の育てた花を今更誰にも渡したくはない」
そう言って、ミカエルは優しく抱きしめてくれた。
ふわふわな猫の毛が心地いい。しばらくそのぬくもりに身を任せていると、精神が落ち着いていくのを感じる
「ミカエル様、私のこと、ずっと離さないでくださいね」
「ああ。もとよりそのつもりだ」
その言葉は、あの時と同じだった。
自分でも気付かずに助けを求めたあの夜の時と同じ酷く優しい表情で、確固たる意志を瞳に秘め、同じ言葉を発する三毛猫。目の前の彼は同じ猫なのに、お互いの思いだけが違う。
「っ、ミカエル様……ミカエル様、私……っ」
紡ごうとした言葉は、ミカエルの柔らかい指先に唇を押さえられ阻まれた。
驚いてミカエルを見つめ返すと、彼は凛とした表情を顔に貼り付けて言った。
「私から言わせてくれ」
ルネはこくんと頷いた。
ミカエルが微笑む。それを見るだけで、心臓が跳ねた。
「ルネ。私は君のことが好きだ。ずっと、一緒にいてほしい。私の隣で、笑っていてほしい」
唇から離れたミカエルの手を思わず取っていた。ルネはまた涙を瞳に浮かべながら、その手を自分の頬にすり寄せる。
「はい。私も、あなたのことが好きです。ずっと、お傍にいさせてください」
泣きながら伝えると、ミカエルは困ったように笑っていつもみたいに涙を拭ってくれた。
「これは嬉し涙か?」
「っ、はい」
一生懸命に頷き返すルネ。その姿にミカエルは思わずくすっと笑って、そのまま抱きしめてくれた。
「ありがとう。私もとても嬉しいよ。大好きだ、ルネ」
「あ、あんまり言わないでください」
「何故?」
「て、照れてしまいます」
「ふっ」
「あ、今笑いました?」
「すまない。あまりにも愛しくて」
ルネの赤い顔がさらに熱を帯びていく。
「み、ミカエル様が格好良すぎるのです」
「そうか?君にそう言われるのは嬉しいな」
「も、もう!」
今この猫に何を言っても適わない気がした。ルネは不貞腐れながらも、彼の腕の中に大人しくおさまる。
落ち着く。乱れていた心が一気に静けさを取り戻したようだ。
2人はそうしてお互いを抱きしめたままその日は眠りについた。
「すまない。あまりいい話ではなかった」
「いいえ。話していただいて良かったですわ」
「君に聞かせるべきか最後まで迷ったんだ」
「ええ。分かっています。ミカエル様は優しいですから」
そう紡ぐルネの唇が震える。ルネは堪えるようにぐっと噛みしめた。
「でも君にはやっぱり、知る権利があると思って」
「はい」
ルネは目を閉じて父親の顔を思い出した。今まで封印してきた過去の蓋を開けて、向き合う。
「……ふっ、うぅ」
思い出せば思いだすほど辛くなった。涙が出て止まらなかった。厳しくされたこともあった。でもそれよりもつらかったのは、無関心でいられたことだった。自分に興味を失くした瞬間の父親の双眸は今でも覚えている。それが恐ろしくて、悲しくて、父親の期待に応えられない自分に腹も立った。でもそれよりも、無条件の愛が欲しかった。
普通の親子でいたかった。
「ぁ……うう……お、父様……どうして……」
自分の父親の考えを理解することが、雲をつかむことのように難しい。どうして、もっと単純でいられなかったのだろうか。父親は、その先に一体何を見ているのだろう。
ルネはぐっと涙を拭いた。いつもミカエルに拭ってもらっていた、弱い自分に戻りたくなかった。
「み、ミカエル様」
「どうした」
「私、お父様に負けたくありません」
しゃくりあげながら必死にそう伝えると、ミカエルは一瞬驚いたように目を見開き、次に優しく笑った。
「そうだな。私も、私の育てた花を今更誰にも渡したくはない」
そう言って、ミカエルは優しく抱きしめてくれた。
ふわふわな猫の毛が心地いい。しばらくそのぬくもりに身を任せていると、精神が落ち着いていくのを感じる
「ミカエル様、私のこと、ずっと離さないでくださいね」
「ああ。もとよりそのつもりだ」
その言葉は、あの時と同じだった。
自分でも気付かずに助けを求めたあの夜の時と同じ酷く優しい表情で、確固たる意志を瞳に秘め、同じ言葉を発する三毛猫。目の前の彼は同じ猫なのに、お互いの思いだけが違う。
「っ、ミカエル様……ミカエル様、私……っ」
紡ごうとした言葉は、ミカエルの柔らかい指先に唇を押さえられ阻まれた。
驚いてミカエルを見つめ返すと、彼は凛とした表情を顔に貼り付けて言った。
「私から言わせてくれ」
ルネはこくんと頷いた。
ミカエルが微笑む。それを見るだけで、心臓が跳ねた。
「ルネ。私は君のことが好きだ。ずっと、一緒にいてほしい。私の隣で、笑っていてほしい」
唇から離れたミカエルの手を思わず取っていた。ルネはまた涙を瞳に浮かべながら、その手を自分の頬にすり寄せる。
「はい。私も、あなたのことが好きです。ずっと、お傍にいさせてください」
泣きながら伝えると、ミカエルは困ったように笑っていつもみたいに涙を拭ってくれた。
「これは嬉し涙か?」
「っ、はい」
一生懸命に頷き返すルネ。その姿にミカエルは思わずくすっと笑って、そのまま抱きしめてくれた。
「ありがとう。私もとても嬉しいよ。大好きだ、ルネ」
「あ、あんまり言わないでください」
「何故?」
「て、照れてしまいます」
「ふっ」
「あ、今笑いました?」
「すまない。あまりにも愛しくて」
ルネの赤い顔がさらに熱を帯びていく。
「み、ミカエル様が格好良すぎるのです」
「そうか?君にそう言われるのは嬉しいな」
「も、もう!」
今この猫に何を言っても適わない気がした。ルネは不貞腐れながらも、彼の腕の中に大人しくおさまる。
落ち着く。乱れていた心が一気に静けさを取り戻したようだ。
2人はそうしてお互いを抱きしめたままその日は眠りについた。
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