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第3章
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アルベルトの心臓がドクンと脈打つ。どうか、その音が相手に聞こえていないように、アルベルトは願った。
「お前はルネの何かを知っている。そしてそれを私に隠している。だから隣国に行くことを拒み、今回の任務のツメも甘い。違うか?」
「違い、ます」
「そうか?」
「ご主人様の意図を組み切れなかったことに対しては、謝ります。申し訳ございません。ですが私が隠し事など」
アルベルトは顔を上げた。その先でかち合ったルーカスの冷たい視線に、先の言葉が詰まってしまう。
「どうした。隠し事など、なんだ?」
アルベルトは咄嗟に彼の視線から目を逸らし、地に尻をついたまま頭を下げた。
「隠し事など、しておりません」
「……そうか」
ルーカスが離れていく。それに安堵して少しだけ肩の力を抜いた時、コロン、と何かが視界に転がり込んできた。それが何なのか認識した瞬間、喉がひゅっとしまる。
「お前の妻の物だ。返そう」
「……」
お礼も言えなかった。彼の言葉にはまだ続きがあるような気がした。
「なあアルベルト。私はこれまで多くの人間と関わってきた。その中には私に嘘をついて騙そうとする者もいた。最初は私も知らずに痛い目を見たものだ。だが、私はある時気付いた。嘘をつく人間の共通点に」
「共通点……」
「視線だよ。嘘をつく人間は視線を逸らすんだ。そしてその人間が正直者であればあるほど、その特徴は顕著に表れる」
アルベルトは手に持っていたピアスに視線を落としたまま、動けなかった。今動いたら、目の前の男と視線を合わせてしまったら、何もかもを見抜かれてしまいそうで怖かった。
「アルベルト。お前は正直者なんだな」
「!……ぐっ……っ」
アルベルトの体が宙に浮く。そのままルーカスが手を前に突き出し、アルベルトの首を絞める。アルベルトの手からピアスが落ちた。
「何を隠しているアルベルト。正直に言った方が身のためだぞ」
「なにも、なにも知りません……っ」
「アルベルト!!」
ルーカスは怒りのまま、自分より体格のいいアルベルトを魔法でいとも簡単に持ち上げている。指先に力を込めると、アルベルトは苦しそうに呻いた。だが足りない。彼の殻を壊すにはまだ足りなかった。
ルーカスはアルベルトの首を掴んだまま彼を床に振り落とした。
「かはっ……はっ、はっ……っ」
アルベルトがルーカスから距離を取りながら荒い呼吸を繰り返す。
「アルベルト。お前の秘密を暴くにはどうしたらいいのだろうなあ。そうだな……お前は優しいから……」
「……?」
怖気だつような恐怖に、背に汗をかく。
本当に目の前の人間は、数年前にルネを可愛がっていた者と同じ人間なのだろうか。とてもそうは思えなくて、あの思い出の方が幻なのかとさえ思えてくる。
「この前、無礼にも私に言ったな。ルネの身を案じる私にならお前の気持ちもわかるだろうと。ならば私も問おう。ルネを探す私のこの気持ちが、お前にならわかるのだろう?ならば、私を騙したお前への罰として、私がお前の愛しい家族に手を出しても構わないよな?」
「なっ」
ルーカスは床に転がったピアスを指でつまみ、口の端を吊り上げて告げた。
「最近私も忙しくてね、妻にプレゼントの一つもあげられていないんだ。妻は寒がりでね、動物の毛皮なんかを昔はよくあげたものだ。……兎の毛で作った、襟巻なんかどうだろうか」
「やめろ!!」
思わず伸ばした手は、ピアスに届く前にルーカスにからめとられた。
「ならば教えろ。ルネはどこにいる」
アルベルトに、考える余地は無かった。
(卑劣だ……。ご主人様は、こんな方ではなかったはずなのに……)
「不可侵の……森に……」
その瞬間ルーカスはにやりと厭らしく口角を上げて立ち上がった。
「そうか。そうかそんなところに隠れていたんだな、ルネ」
ルーカスは俯くアルベルトを見下ろし、命令を下す。
「アルベルト。不可侵の森に行け。ルネを連れ戻すまで戻ってくることは許さない。それまで、これは預かっておく」
そう言ってピアスは再びルーカスの懐に仕舞われた。
「かしこまりました」
絶望の色を瞳に映し、アルベルトはそのまま部屋を出た。
「お前はルネの何かを知っている。そしてそれを私に隠している。だから隣国に行くことを拒み、今回の任務のツメも甘い。違うか?」
「違い、ます」
「そうか?」
「ご主人様の意図を組み切れなかったことに対しては、謝ります。申し訳ございません。ですが私が隠し事など」
アルベルトは顔を上げた。その先でかち合ったルーカスの冷たい視線に、先の言葉が詰まってしまう。
「どうした。隠し事など、なんだ?」
アルベルトは咄嗟に彼の視線から目を逸らし、地に尻をついたまま頭を下げた。
「隠し事など、しておりません」
「……そうか」
ルーカスが離れていく。それに安堵して少しだけ肩の力を抜いた時、コロン、と何かが視界に転がり込んできた。それが何なのか認識した瞬間、喉がひゅっとしまる。
「お前の妻の物だ。返そう」
「……」
お礼も言えなかった。彼の言葉にはまだ続きがあるような気がした。
「なあアルベルト。私はこれまで多くの人間と関わってきた。その中には私に嘘をついて騙そうとする者もいた。最初は私も知らずに痛い目を見たものだ。だが、私はある時気付いた。嘘をつく人間の共通点に」
「共通点……」
「視線だよ。嘘をつく人間は視線を逸らすんだ。そしてその人間が正直者であればあるほど、その特徴は顕著に表れる」
アルベルトは手に持っていたピアスに視線を落としたまま、動けなかった。今動いたら、目の前の男と視線を合わせてしまったら、何もかもを見抜かれてしまいそうで怖かった。
「アルベルト。お前は正直者なんだな」
「!……ぐっ……っ」
アルベルトの体が宙に浮く。そのままルーカスが手を前に突き出し、アルベルトの首を絞める。アルベルトの手からピアスが落ちた。
「何を隠しているアルベルト。正直に言った方が身のためだぞ」
「なにも、なにも知りません……っ」
「アルベルト!!」
ルーカスは怒りのまま、自分より体格のいいアルベルトを魔法でいとも簡単に持ち上げている。指先に力を込めると、アルベルトは苦しそうに呻いた。だが足りない。彼の殻を壊すにはまだ足りなかった。
ルーカスはアルベルトの首を掴んだまま彼を床に振り落とした。
「かはっ……はっ、はっ……っ」
アルベルトがルーカスから距離を取りながら荒い呼吸を繰り返す。
「アルベルト。お前の秘密を暴くにはどうしたらいいのだろうなあ。そうだな……お前は優しいから……」
「……?」
怖気だつような恐怖に、背に汗をかく。
本当に目の前の人間は、数年前にルネを可愛がっていた者と同じ人間なのだろうか。とてもそうは思えなくて、あの思い出の方が幻なのかとさえ思えてくる。
「この前、無礼にも私に言ったな。ルネの身を案じる私にならお前の気持ちもわかるだろうと。ならば私も問おう。ルネを探す私のこの気持ちが、お前にならわかるのだろう?ならば、私を騙したお前への罰として、私がお前の愛しい家族に手を出しても構わないよな?」
「なっ」
ルーカスは床に転がったピアスを指でつまみ、口の端を吊り上げて告げた。
「最近私も忙しくてね、妻にプレゼントの一つもあげられていないんだ。妻は寒がりでね、動物の毛皮なんかを昔はよくあげたものだ。……兎の毛で作った、襟巻なんかどうだろうか」
「やめろ!!」
思わず伸ばした手は、ピアスに届く前にルーカスにからめとられた。
「ならば教えろ。ルネはどこにいる」
アルベルトに、考える余地は無かった。
(卑劣だ……。ご主人様は、こんな方ではなかったはずなのに……)
「不可侵の……森に……」
その瞬間ルーカスはにやりと厭らしく口角を上げて立ち上がった。
「そうか。そうかそんなところに隠れていたんだな、ルネ」
ルーカスは俯くアルベルトを見下ろし、命令を下す。
「アルベルト。不可侵の森に行け。ルネを連れ戻すまで戻ってくることは許さない。それまで、これは預かっておく」
そう言ってピアスは再びルーカスの懐に仕舞われた。
「かしこまりました」
絶望の色を瞳に映し、アルベルトはそのまま部屋を出た。
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これかも、頑張ってください!では、ありがとうございました。