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最終章
最終話 お元気で
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あっという間だった。どうして今まで動けなかったのか不思議に思うほど。
玲は軽やかに歩いている。黙りこくっていた口を開き、一成とお喋りをしている。
「一成さんの写真を撮って送ってしまって、ごめんなさい」
「俺の写真?」
「週刊誌の……」
「あぁ。あの俳優とは何もないからな」
「仲が良さそうに見えたので、都合が良かったんです」
「ハハハッ。都合よかったか」
「……オメガ性の方とは思わなかったけど」
「あの映画ももうすぐ公開だ」
「一成さんはもう見ましたか?」
「見た」
「どうでした?」
「悪くはない。殺し方が気合い入ってた。公開したら一緒に観に行くか」
「はい」
「新しく何か書きてぇな。お前がいると創作意欲が湧く。今までとは違う感じなんだよ。お前を見てると胸が熱くなって、書きたくなる。ミューズってのは、玲を言うんだろうな」
「みゅーず……」
「俺がお前に惚れたのは、玲が俺の神だったからだ」
「……」
「ミューズの玲を色んなとこに連れ回して、死ぬほど書いてやる」
「神を連れ回すんですか」
「拝みながら連れ回す」
二人で話しながら歩いた。玲は淡々と呟き、一成はその三倍の声量と台詞を返す。
そうしていると不意に、昔、お母さんの自転車が壊れたことを思い出した。
スーパーで買い物をした帰りだった。二人で荷物を持って、この道を歩いたのだ。
沢山買い込んでいたからとても重くて、大変だった。けれど玲は、ずっとこうしてお母さんと歩いていたいなと思っていた。
電車の音がして、玲は現実へ目を向ける。
踏切が閉まって、電車が通り過ぎている。不思議とあの警報音が耳に入らなくて、それよりも、朝日を受けて光り輝く車体が綺麗だなと思った。
死者を乗せて黄泉の国へ向かう電車も、あんな風に美しく煌めいているのだろうか。
……玲は、黄泉へ駆ける電車から母を下ろして生き返らせたかった。
冥界の魔王を倒せば、あの人が帰ってくる気がしたのだ。
――踏切の音が止む。
光の電車は過ぎ去っていた。
玲には追いつけないスピードで、軽やかに、次の町へといってしまったらしい。
お母さんはどこへいったのだろう。
見えなくなっただけで、どこかにいるのだろうか。
もしかしたら俺が知らないだけで、別の場所で暮らしているのかもしれない。
あの火葬場に消える自動ドアの向こうで、ゆったりとまぶたを上げて、無言で起き上がるのだ。首筋は白くすっと伸びている。その体にもうなじにも、傷は一つもない。立ち上がった母は背伸びをして、別の扉を開き、軽い足取りで去っていく。
自由になって、光の溢れる外の世界に一人でいってしまったのかもしれない。そこには母が愛した父もいる。また二人で、静かに愛し始めるのだ。
玲が見た遺骨は、よく出来たいたずらな砂で、何もかも嘘だったのかもしれない。夢だったのか……。誰にも知られずにどこかで暮らしているのだとしたら、それほど幸福なことはない。
涙が出るほど嬉しいよ。会いたいなんて思わないからどこかで笑っていてほしいんだ。街ですれ違いたいなんて思わないから、別の空の下で幸せでいて。俺たちとまた会わなくていいから、今度こそ、穏やかに、過ごしていてほしいのです。
本当は、ただそれだけなのかもしれない。
「お前は行きたいとこねぇの?」
玲の足は自然と鈍くなっていた。
一成はそれに、自然と、合わせてくれている。
玲は小さく微笑んで言った。
「お婆ちゃんのところに行きたいです」
「ふぅん」
「一成さんと一緒に」
「うお、緊張するな」
「一成さんも緊張とかするんだ」
「人間だし」
「……そうですよね。人間ですもんね」
「俺を何だと思ってるんだ」
「同じ、国の、民ですもんね」
「民?」
一成は不思議そうに首を傾げた。玲はふふっと声に出して笑う。すると一成は嬉しそうに目を輝かせて、何のことか分からないはずなのに「そう、民」と断言する。
玲は笑いながら「あのね」と言った。
「一成さんが持ってる携帯、俺のお母さんの携帯なんです」
「おう」
「待受がチューリップの花畑だったでしょう。その写真を、お婆ちゃんはずっと懐かしんでいたんです」
「なら携帯を返しに行こう」
「はい」
玲は深く頷いた。
頭の中に花畑が浮かぶ。赤はチューリップの赤で、青は一成や涼の瞳の色。
黒は一成の好きな髪色で、白は青すぎる空に浮かぶ真っ白な雲の色。
玲の心は鮮やかに染まっていた。
お返ししに行こう。
帰ろう。
「おかえり、兄ちゃん」
「ただいま」
車の後部座席には涼がいた。
涼は不貞腐れたような、でも嬉しそうな、何とも形容し難い顔で玲を見上げている。
その隣に座ろうとしたけれど途中で一成に後ろから腕を回される。簡単に捕まり、助手席へ誘導された。玲はおとなしく乗り込む。一成が隣の運転席へやってくる。
シートベルトを締めると、開口一番に涼が言った。
「月城さんって兄ちゃんのこと好きなんだって。知ってた?」
玲はぽかんと唇を開く。一成がギョッとして涼へ振り返った。
弟は繰り返す。
「恋しちゃってんだってさ」
「……あ、うん」
「おい弟。それ、玲が知らなかったらとんでもねぇ発言だぞ」
「何だ知ってるんだ」
涼は残念そうに息を吐き、背もたれへ寄りかかる。
「すげぇ面白いニュースだから兄ちゃんに教えてあげたかったのに、知ってたのかぁ」
「うん……」
「面白いって何だ。時事じゃねぇんだから」
「ていうか本当に俺、弟じゃん。兄貴同士でくっつくってやばいな」
やはり全部知っているようだ。あれほど隠していたことを知られているのに……空気は爽やかだった。
一成が窓を少しだけ開いている。新鮮な風が車内に流れ込んでいた。
一成はあっけらかんと返した。
「イカしてるよな」
「……イカれてるの間違いじゃないすか?」
「どっちでもいいだろ」
躊躇いなく笑い飛ばすものだから、涼は呆れて息を吐く。それから心配そうに顔を顰めて、玲へ問いかける。
「つうか兄ちゃんって月城さんの恋人? になったの?」
「なんか……、そういう感じになった」
「感じって! それでいいのかよ!」
「うん」
「恋人役なんじゃなかったの? 本物の恋人になってんじゃん」
「確かに」
「もう、流されやすいなぁ。心配だ」
涼の「心配すぎる。とても」の声を聴きながら玲は助手席のシートに寄りかかる。
弟はそう言うけど、玲は安心した心地だった。身体をシートに預けると、自然と視線が上を向く。
朝陽がとても眩しい。空はすっかり青に染まっている。高い場所で、白い雲を押し流すように風が吹いている。青を白が遊ぶように泳いでいく。
「安心しろ」
一成はにやっと唇の端を上げて、言い切った。
「俺が玲を守るから大丈夫」
「だからアンタが怖いんですって!」
「大丈夫大丈夫。愛してんだから」
一成が横顔だけで笑いかけてくる。
「分かってるか? 玲」
玲はその青い瞳を見つめている。
綺麗だな、と思った。
「俺を信じろよ」
「はい」
碇を失った心は自分でも不安に思うほど軽い。安心と不安が共存した曖昧な心は、ゆらゆらと揺蕩っている。一成が起こす大きな風に乗って、このまま高い場所まで飛んでいってしまいそう。
でもきっとその大きな身体で抱き止められるのだろう。一成は「どこ飛んでくんだ玲」と、玲を強く抱きしめて離さないでくれる。
そう信じている。
……もう。
探したいものはないけれど、高いところから見れば、何か見つかるかもしれない。それを指差して、笑い合える未来がくるかもしれない。
空色に染まった未来を想像していると車が走り出した。
この町のどこかにハウスがある。玲が由良に頼んで作ってもらったシェルターだ。逃げながらもその場所に幸福を見出して暮らしている人々がいる。バックミラーに目を向けると、チラ、と映った道路にはもう、由良の車はなかった。そういえば玲の今の携帯に残った一番古い写真は若い由良の姿だ。あれから由良の写真は一度も撮ったことがなくて、写真フォルダは、涼の写真だったり、お婆ちゃんだったり、施設の近くに住んでいた猫、夜の店の店長やキャスト、熱帯魚や、一成の寝顔……沢山の日常で埋まっている。古い携帯だから新しくした方がいいのかもしれない。そして一番最初に撮るのはきっと、一成のお喋りな姿。
車がレストランの前を通り過ぎた。一瞬見えた奥の席には、誰もいない。主人の女性と、カウンターに座っていたお爺さんが笑い合っているのが見えた。
踏切を通り過ぎる。電車は見えない。もうとっくに過ぎ去ってしまったようだ。
一成が上機嫌で言った。
「帰ったら、まずは朝飯でも食うか」
「そうですね」
玲は頷き、一成は更に言う。
「弟も食べてくだろ?」
「そうしようかな、お兄ちゃん」
踏切の警報音は聞こえない。この白い車には、一成の笑い声が響いてる。
「んじゃ、さっさと帰るぞ、玲」
「はい」
信号は青ばかりだった。道はもう開けている。出会った時も一成に強引に攫われて、今もこうしてあっという間に彼の車で運ばれている。向かうはあの、天に近く空に囲まれた部屋だ。
平和な青空が呼んでいる。一成は「熱帯魚どもにも餌をやらねぇとな。アイツらも、玲を待ちくたびれてるぞ」と笑っている。懐かしい町を離れながら玲は心の中で呟いた。一成さんは笑ってるし、魚は待ってるし、仕方ないから俺はもう行こうかな。
さよなら。皆、幸運を祈ってるよ。
どうかお元気で。
《了》
玲は軽やかに歩いている。黙りこくっていた口を開き、一成とお喋りをしている。
「一成さんの写真を撮って送ってしまって、ごめんなさい」
「俺の写真?」
「週刊誌の……」
「あぁ。あの俳優とは何もないからな」
「仲が良さそうに見えたので、都合が良かったんです」
「ハハハッ。都合よかったか」
「……オメガ性の方とは思わなかったけど」
「あの映画ももうすぐ公開だ」
「一成さんはもう見ましたか?」
「見た」
「どうでした?」
「悪くはない。殺し方が気合い入ってた。公開したら一緒に観に行くか」
「はい」
「新しく何か書きてぇな。お前がいると創作意欲が湧く。今までとは違う感じなんだよ。お前を見てると胸が熱くなって、書きたくなる。ミューズってのは、玲を言うんだろうな」
「みゅーず……」
「俺がお前に惚れたのは、玲が俺の神だったからだ」
「……」
「ミューズの玲を色んなとこに連れ回して、死ぬほど書いてやる」
「神を連れ回すんですか」
「拝みながら連れ回す」
二人で話しながら歩いた。玲は淡々と呟き、一成はその三倍の声量と台詞を返す。
そうしていると不意に、昔、お母さんの自転車が壊れたことを思い出した。
スーパーで買い物をした帰りだった。二人で荷物を持って、この道を歩いたのだ。
沢山買い込んでいたからとても重くて、大変だった。けれど玲は、ずっとこうしてお母さんと歩いていたいなと思っていた。
電車の音がして、玲は現実へ目を向ける。
踏切が閉まって、電車が通り過ぎている。不思議とあの警報音が耳に入らなくて、それよりも、朝日を受けて光り輝く車体が綺麗だなと思った。
死者を乗せて黄泉の国へ向かう電車も、あんな風に美しく煌めいているのだろうか。
……玲は、黄泉へ駆ける電車から母を下ろして生き返らせたかった。
冥界の魔王を倒せば、あの人が帰ってくる気がしたのだ。
――踏切の音が止む。
光の電車は過ぎ去っていた。
玲には追いつけないスピードで、軽やかに、次の町へといってしまったらしい。
お母さんはどこへいったのだろう。
見えなくなっただけで、どこかにいるのだろうか。
もしかしたら俺が知らないだけで、別の場所で暮らしているのかもしれない。
あの火葬場に消える自動ドアの向こうで、ゆったりとまぶたを上げて、無言で起き上がるのだ。首筋は白くすっと伸びている。その体にもうなじにも、傷は一つもない。立ち上がった母は背伸びをして、別の扉を開き、軽い足取りで去っていく。
自由になって、光の溢れる外の世界に一人でいってしまったのかもしれない。そこには母が愛した父もいる。また二人で、静かに愛し始めるのだ。
玲が見た遺骨は、よく出来たいたずらな砂で、何もかも嘘だったのかもしれない。夢だったのか……。誰にも知られずにどこかで暮らしているのだとしたら、それほど幸福なことはない。
涙が出るほど嬉しいよ。会いたいなんて思わないからどこかで笑っていてほしいんだ。街ですれ違いたいなんて思わないから、別の空の下で幸せでいて。俺たちとまた会わなくていいから、今度こそ、穏やかに、過ごしていてほしいのです。
本当は、ただそれだけなのかもしれない。
「お前は行きたいとこねぇの?」
玲の足は自然と鈍くなっていた。
一成はそれに、自然と、合わせてくれている。
玲は小さく微笑んで言った。
「お婆ちゃんのところに行きたいです」
「ふぅん」
「一成さんと一緒に」
「うお、緊張するな」
「一成さんも緊張とかするんだ」
「人間だし」
「……そうですよね。人間ですもんね」
「俺を何だと思ってるんだ」
「同じ、国の、民ですもんね」
「民?」
一成は不思議そうに首を傾げた。玲はふふっと声に出して笑う。すると一成は嬉しそうに目を輝かせて、何のことか分からないはずなのに「そう、民」と断言する。
玲は笑いながら「あのね」と言った。
「一成さんが持ってる携帯、俺のお母さんの携帯なんです」
「おう」
「待受がチューリップの花畑だったでしょう。その写真を、お婆ちゃんはずっと懐かしんでいたんです」
「なら携帯を返しに行こう」
「はい」
玲は深く頷いた。
頭の中に花畑が浮かぶ。赤はチューリップの赤で、青は一成や涼の瞳の色。
黒は一成の好きな髪色で、白は青すぎる空に浮かぶ真っ白な雲の色。
玲の心は鮮やかに染まっていた。
お返ししに行こう。
帰ろう。
「おかえり、兄ちゃん」
「ただいま」
車の後部座席には涼がいた。
涼は不貞腐れたような、でも嬉しそうな、何とも形容し難い顔で玲を見上げている。
その隣に座ろうとしたけれど途中で一成に後ろから腕を回される。簡単に捕まり、助手席へ誘導された。玲はおとなしく乗り込む。一成が隣の運転席へやってくる。
シートベルトを締めると、開口一番に涼が言った。
「月城さんって兄ちゃんのこと好きなんだって。知ってた?」
玲はぽかんと唇を開く。一成がギョッとして涼へ振り返った。
弟は繰り返す。
「恋しちゃってんだってさ」
「……あ、うん」
「おい弟。それ、玲が知らなかったらとんでもねぇ発言だぞ」
「何だ知ってるんだ」
涼は残念そうに息を吐き、背もたれへ寄りかかる。
「すげぇ面白いニュースだから兄ちゃんに教えてあげたかったのに、知ってたのかぁ」
「うん……」
「面白いって何だ。時事じゃねぇんだから」
「ていうか本当に俺、弟じゃん。兄貴同士でくっつくってやばいな」
やはり全部知っているようだ。あれほど隠していたことを知られているのに……空気は爽やかだった。
一成が窓を少しだけ開いている。新鮮な風が車内に流れ込んでいた。
一成はあっけらかんと返した。
「イカしてるよな」
「……イカれてるの間違いじゃないすか?」
「どっちでもいいだろ」
躊躇いなく笑い飛ばすものだから、涼は呆れて息を吐く。それから心配そうに顔を顰めて、玲へ問いかける。
「つうか兄ちゃんって月城さんの恋人? になったの?」
「なんか……、そういう感じになった」
「感じって! それでいいのかよ!」
「うん」
「恋人役なんじゃなかったの? 本物の恋人になってんじゃん」
「確かに」
「もう、流されやすいなぁ。心配だ」
涼の「心配すぎる。とても」の声を聴きながら玲は助手席のシートに寄りかかる。
弟はそう言うけど、玲は安心した心地だった。身体をシートに預けると、自然と視線が上を向く。
朝陽がとても眩しい。空はすっかり青に染まっている。高い場所で、白い雲を押し流すように風が吹いている。青を白が遊ぶように泳いでいく。
「安心しろ」
一成はにやっと唇の端を上げて、言い切った。
「俺が玲を守るから大丈夫」
「だからアンタが怖いんですって!」
「大丈夫大丈夫。愛してんだから」
一成が横顔だけで笑いかけてくる。
「分かってるか? 玲」
玲はその青い瞳を見つめている。
綺麗だな、と思った。
「俺を信じろよ」
「はい」
碇を失った心は自分でも不安に思うほど軽い。安心と不安が共存した曖昧な心は、ゆらゆらと揺蕩っている。一成が起こす大きな風に乗って、このまま高い場所まで飛んでいってしまいそう。
でもきっとその大きな身体で抱き止められるのだろう。一成は「どこ飛んでくんだ玲」と、玲を強く抱きしめて離さないでくれる。
そう信じている。
……もう。
探したいものはないけれど、高いところから見れば、何か見つかるかもしれない。それを指差して、笑い合える未来がくるかもしれない。
空色に染まった未来を想像していると車が走り出した。
この町のどこかにハウスがある。玲が由良に頼んで作ってもらったシェルターだ。逃げながらもその場所に幸福を見出して暮らしている人々がいる。バックミラーに目を向けると、チラ、と映った道路にはもう、由良の車はなかった。そういえば玲の今の携帯に残った一番古い写真は若い由良の姿だ。あれから由良の写真は一度も撮ったことがなくて、写真フォルダは、涼の写真だったり、お婆ちゃんだったり、施設の近くに住んでいた猫、夜の店の店長やキャスト、熱帯魚や、一成の寝顔……沢山の日常で埋まっている。古い携帯だから新しくした方がいいのかもしれない。そして一番最初に撮るのはきっと、一成のお喋りな姿。
車がレストランの前を通り過ぎた。一瞬見えた奥の席には、誰もいない。主人の女性と、カウンターに座っていたお爺さんが笑い合っているのが見えた。
踏切を通り過ぎる。電車は見えない。もうとっくに過ぎ去ってしまったようだ。
一成が上機嫌で言った。
「帰ったら、まずは朝飯でも食うか」
「そうですね」
玲は頷き、一成は更に言う。
「弟も食べてくだろ?」
「そうしようかな、お兄ちゃん」
踏切の警報音は聞こえない。この白い車には、一成の笑い声が響いてる。
「んじゃ、さっさと帰るぞ、玲」
「はい」
信号は青ばかりだった。道はもう開けている。出会った時も一成に強引に攫われて、今もこうしてあっという間に彼の車で運ばれている。向かうはあの、天に近く空に囲まれた部屋だ。
平和な青空が呼んでいる。一成は「熱帯魚どもにも餌をやらねぇとな。アイツらも、玲を待ちくたびれてるぞ」と笑っている。懐かしい町を離れながら玲は心の中で呟いた。一成さんは笑ってるし、魚は待ってるし、仕方ないから俺はもう行こうかな。
さよなら。皆、幸運を祈ってるよ。
どうかお元気で。
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最初から最後まで
ドキドキしました。
すごいとしか言いようがありません
おもしろかったです。
ありがとうございます!
えー…なんかもう、書籍化しないかな?絶対買うわ…話の展開鮮やかだしめっちゃ愛しててニヤニヤしちゃいます…!素敵な作品をありがとうございます!!ご馳走様でした🙇