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第一章 帝国脱出
『第三話 悪意に満ちたパーティー』
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確かにドラゴンを倒したのは俺だが、除名された身で参加する必要なんてないのでは?
そんな思いが浮かばなかったわけではないが、皇帝が主催である。
主賓の立場でありながら欠席するのは失礼なので、手打ちにされても文句は言えない。
ゆえに参加するしか選択肢はなかった。
鬱屈した気分で大広間に足を踏み入れた途端、魔道具を構えた人たちが周りを取り囲む。
水晶のような形をした魔道具には映像記録機能がついているのだろう。
いわゆるヒーローインタビューというやつだ。
「ドラゴンはどうでしたか? やっぱり強かったですか?」
「火の精霊が宿った剣で倒したと聞きましたが、それは本当ですか?」
「自分で考える勝因は何ですか?」
息つく間もなく浴びせられる質問に戸惑う。
この記者たち……まさか裏で行われていた除名処分の一件を知らないのか?
だったら好都合だ。
その一件を嗅ぎつけられる前にインタビューを終わらせて、とっとと会場を去るぞ。
今後の行動方針を決めた俺は魔道具に視線を向ける。
「そうですね。水色だったから氷属性だと予測していて、それが的中したのが勝因です。確かに俺が火の精霊の力を借りて倒しました」
当たり障りのないことを答えてやり過ごしていると、ギルドマスターが近づいてくる。
チッ……面倒な奴が来やがった。
ここは先手必勝で嫌味でもぶつけてやるか。
「ハンルさん、今さら何の用ですか?」
「お前に話があるんだ。場所を変えるからついてこい。インタビューは終わりだ」
周りに群がっていた記者たちを追い払いながら、俺たちは中庭にやってきた。
専属庭師の腕が良いのだろう。綺麗に整えられた花壇と力強い噴水が特徴的だな。
「それで何の用ですか? ギルドマスターさん直々だなんて珍しい」
「単刀直入に言おう。ティッセ=レッバロン。君の国民としての地位を剥奪する」
――俺は自分の耳を疑った。
冒険者としての地位だけでなく、国民たる俺の地位も剥奪するだと!?
「じゃあ……」
「そうだ。これからはティッセ=レッバロンではなく、ただのティッセと名乗れ」
ギルドマスターが感情のない声で漏らした。
この国では、平民であっても貴族であっても名字を名乗ることが許されている。
しかし、奴隷は例外で名前しか名乗れない。
このルールに従って考えると、コイツは俺に奴隷になれと言っているということになる。
「あなたが仰りたいことは分かりました。ですが、そうなる理由を教えてもらいたいです」
「――いいだろう。教えてやるよ。お前が報酬を不正に受け取ったからだ」
「だからっ……俺はそんなことしていないって何度言ったら分かるんですかね!?」
俺に妙な罪を擦り付けてギルドをクビにさせようと暗躍している野郎、本当に許さない。
完全なる陰謀を簡単に信じてしまうコイツも大概だが。
「お前がやっていようがやっていまいが、既に身分剥奪は決定している。後は捜査か」
「――っ!?」
この国の捜査は、簡単に言えば“拷問上等”である。
冗談じゃない。拷問なんて受けたら、あまりの辛さにうっかり罪を認めてしまいそうだ。
それが狙いなのだろうが、みずみずと罠に掛かってたまるか。
「俺がやったから身分剥奪が決定したんですよね? 今さら捜査する必要があります?」
「動機と手口が分からないからだ。お前は金に困っていないだろう?」
「そりゃそうでしょうね。俺はやっていないですし」
俺が犯人だと考えて捜査していけば、必ずどこかで行き詰まるはずだ。
だって俺に不正を行うことは事実上、不可能なのだから。
「お前が捜査される前に自白すれば拷問もなくなるんじゃないか?」
「もういいです。身分剥奪を受け入れますよ!」
ギルドマスターは、これっぽちも俺のことを信じていないのがよく分かった。
何が自白だよ。盗んでいないっつーの。
「それじゃ、話は終わりだ。お前の罪が認められたら、金貨七百枚を返してもらうぞ」
「金貨七百枚ですって!?」
これはマズい流れになってきたな。
金貨七百枚なんて、冒険者としての地位を失った者に稼げる金額ではない。
ドラゴン討伐の褒美である五百枚があっても二百枚足りないし。
苦痛にまみれた取り調べは絶対に避けなければっ!
ただ、俺をゴミを見るような目で見ている男であっても、お世話になったのは事実だ。
最低限の礼は尽くすか。
「分かりました。処分を受け入れます。今までありがとうございました」
「ああ、これからも頑張れよ。こちらこそ、今までギルドに尽くしてくれてありがとうな」
ギルドマスターの冷酷な瞳には俺など映っていない。
最後くらいは、冒険者になりたてのころみたいに優しい目を向けてくれると思っていたが。
無言で立ち竦むしかない俺を尻目に、ハンルさんは会場に戻っていく。
「クソッ! どうしてこんなことにっ!」
これまでギルドマスターの下で働いてきた経験は全て無駄だったということか。
冒険者になれないのなら戦闘技術など役に立たない。
胸を焦がすほどの憎しみが溶岩のように沸き上がって来るものの、吐き出す術などない。
「絶対ギルドから逃げ切ってやる。捜査なんて受けてたまるものか!」
自分の声とは思えない低い声で呟く。
悔しさの涙で滲んだ視界で城を見上げると、一つの窓から淡い光が漏れ出ていた。
あそこは……宰相室だっけ。
ふと、脳内に涼しい顔を崩さないダイマス宰相の顔が浮かんだ。
同じ年齢でも、彼のように成功する人もいれば俺のように失敗してしまう人もいる。
そう考えると、自分が惨めでしょうがなかった。
「もう……故郷に帰ろうかな……」
冒険者時代には絶対に出てこなかったであろう弱音が口をついて出てくる。
こうして、俺は国民としての地位を剥奪されて、身分上では奴隷になってしまった。
そんな思いが浮かばなかったわけではないが、皇帝が主催である。
主賓の立場でありながら欠席するのは失礼なので、手打ちにされても文句は言えない。
ゆえに参加するしか選択肢はなかった。
鬱屈した気分で大広間に足を踏み入れた途端、魔道具を構えた人たちが周りを取り囲む。
水晶のような形をした魔道具には映像記録機能がついているのだろう。
いわゆるヒーローインタビューというやつだ。
「ドラゴンはどうでしたか? やっぱり強かったですか?」
「火の精霊が宿った剣で倒したと聞きましたが、それは本当ですか?」
「自分で考える勝因は何ですか?」
息つく間もなく浴びせられる質問に戸惑う。
この記者たち……まさか裏で行われていた除名処分の一件を知らないのか?
だったら好都合だ。
その一件を嗅ぎつけられる前にインタビューを終わらせて、とっとと会場を去るぞ。
今後の行動方針を決めた俺は魔道具に視線を向ける。
「そうですね。水色だったから氷属性だと予測していて、それが的中したのが勝因です。確かに俺が火の精霊の力を借りて倒しました」
当たり障りのないことを答えてやり過ごしていると、ギルドマスターが近づいてくる。
チッ……面倒な奴が来やがった。
ここは先手必勝で嫌味でもぶつけてやるか。
「ハンルさん、今さら何の用ですか?」
「お前に話があるんだ。場所を変えるからついてこい。インタビューは終わりだ」
周りに群がっていた記者たちを追い払いながら、俺たちは中庭にやってきた。
専属庭師の腕が良いのだろう。綺麗に整えられた花壇と力強い噴水が特徴的だな。
「それで何の用ですか? ギルドマスターさん直々だなんて珍しい」
「単刀直入に言おう。ティッセ=レッバロン。君の国民としての地位を剥奪する」
――俺は自分の耳を疑った。
冒険者としての地位だけでなく、国民たる俺の地位も剥奪するだと!?
「じゃあ……」
「そうだ。これからはティッセ=レッバロンではなく、ただのティッセと名乗れ」
ギルドマスターが感情のない声で漏らした。
この国では、平民であっても貴族であっても名字を名乗ることが許されている。
しかし、奴隷は例外で名前しか名乗れない。
このルールに従って考えると、コイツは俺に奴隷になれと言っているということになる。
「あなたが仰りたいことは分かりました。ですが、そうなる理由を教えてもらいたいです」
「――いいだろう。教えてやるよ。お前が報酬を不正に受け取ったからだ」
「だからっ……俺はそんなことしていないって何度言ったら分かるんですかね!?」
俺に妙な罪を擦り付けてギルドをクビにさせようと暗躍している野郎、本当に許さない。
完全なる陰謀を簡単に信じてしまうコイツも大概だが。
「お前がやっていようがやっていまいが、既に身分剥奪は決定している。後は捜査か」
「――っ!?」
この国の捜査は、簡単に言えば“拷問上等”である。
冗談じゃない。拷問なんて受けたら、あまりの辛さにうっかり罪を認めてしまいそうだ。
それが狙いなのだろうが、みずみずと罠に掛かってたまるか。
「俺がやったから身分剥奪が決定したんですよね? 今さら捜査する必要があります?」
「動機と手口が分からないからだ。お前は金に困っていないだろう?」
「そりゃそうでしょうね。俺はやっていないですし」
俺が犯人だと考えて捜査していけば、必ずどこかで行き詰まるはずだ。
だって俺に不正を行うことは事実上、不可能なのだから。
「お前が捜査される前に自白すれば拷問もなくなるんじゃないか?」
「もういいです。身分剥奪を受け入れますよ!」
ギルドマスターは、これっぽちも俺のことを信じていないのがよく分かった。
何が自白だよ。盗んでいないっつーの。
「それじゃ、話は終わりだ。お前の罪が認められたら、金貨七百枚を返してもらうぞ」
「金貨七百枚ですって!?」
これはマズい流れになってきたな。
金貨七百枚なんて、冒険者としての地位を失った者に稼げる金額ではない。
ドラゴン討伐の褒美である五百枚があっても二百枚足りないし。
苦痛にまみれた取り調べは絶対に避けなければっ!
ただ、俺をゴミを見るような目で見ている男であっても、お世話になったのは事実だ。
最低限の礼は尽くすか。
「分かりました。処分を受け入れます。今までありがとうございました」
「ああ、これからも頑張れよ。こちらこそ、今までギルドに尽くしてくれてありがとうな」
ギルドマスターの冷酷な瞳には俺など映っていない。
最後くらいは、冒険者になりたてのころみたいに優しい目を向けてくれると思っていたが。
無言で立ち竦むしかない俺を尻目に、ハンルさんは会場に戻っていく。
「クソッ! どうしてこんなことにっ!」
これまでギルドマスターの下で働いてきた経験は全て無駄だったということか。
冒険者になれないのなら戦闘技術など役に立たない。
胸を焦がすほどの憎しみが溶岩のように沸き上がって来るものの、吐き出す術などない。
「絶対ギルドから逃げ切ってやる。捜査なんて受けてたまるものか!」
自分の声とは思えない低い声で呟く。
悔しさの涙で滲んだ視界で城を見上げると、一つの窓から淡い光が漏れ出ていた。
あそこは……宰相室だっけ。
ふと、脳内に涼しい顔を崩さないダイマス宰相の顔が浮かんだ。
同じ年齢でも、彼のように成功する人もいれば俺のように失敗してしまう人もいる。
そう考えると、自分が惨めでしょうがなかった。
「もう……故郷に帰ろうかな……」
冒険者時代には絶対に出てこなかったであろう弱音が口をついて出てくる。
こうして、俺は国民としての地位を剥奪されて、身分上では奴隷になってしまった。
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