成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜

銀雪

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第一章 帝国脱出

『第四話 捨てる神あれば……』

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 しばらく中庭でボンヤリとしていると、俺の前に立つ影があった。
 彼女は確か、隣国であるヘルシミ王国の第三騎士団長、ベネック=シーランだ。
 落ち着いた雰囲気の銀髪が特徴の女騎士だったっけ。
 そんな人物が、先ほどギルドをクビになったばかりの俺に何の用なのだろうか。

「私はヘルシミの第三騎士団長をしているべネック=シーランよ。あなたにお話があるの」
「元Sランク冒険者のティッセだ。他国の騎士団長が来るなんて珍しい」

 皇帝は他国の騎士団を極端に嫌っているのだ。
 だから、自身が主催するパーティーに他国の騎士を呼ぶことはない。
 理由は分からないが、他国の騎士団に肉親を殺されたからであると言われている。

「身分を隠して参加していますから」
「なるほど。それでお話とは? 数日間、満足に寝ていないので疲れているのですが……」

 仮眠室でもいいから早く寝たい。
 そんなことを考えた自分に気づき、苦笑いを隠し切れなかった。
 ギルドにあらぬ罪を被せられて追放されたのに、ギルドの施設を使えるわけがないだろ。

「どうしたんですか?」
「何でもない。それよりも早く話とやらを聞かせてくれないか?」

 俺が低めの声で呟くと、べネック団長は肩を竦めてカバンを漁る。
 彼女が取り出したのは一本のワインだった。
 それを見た俺は天を仰ぐ。

 おいおい、何でワインを出すんだ。疲れているから早く話を聞かせて欲しいのに。
 そんな暗い感情を察したのか、彼女は近くにあった長椅子に座って隣を軽めに数回叩く。
 ここに座れということだろうか。

 断っても面倒だと考えて素直に座ると、彼女がグラスに注がれたワインを差し出してきた。
 それ、俺の味覚では渋すぎるんだがな。
 付き合いということで今は我慢することを決め、ゆっくりとグラスに口をつける。

「それでお話というのは、私が指揮する第三騎士団に入っていただきたいという話です」
「まさか、今しがたギルドをクビになったことを知っているのか?」

 やっと本題が出て来たと思ったらまさかの黒幕疑惑。
 盗み聞きしていたのだとしたら、俺の中での要注意人物にリストアップしておこう。
 しかし予想に反して彼女は首を横に振った。

「元々スカウトするつもりでした。まさか逸材が手放されているとは思いませんでしたが」
「なるほどな。ギルドから引き抜こうとしていたってことか」

 特に何もしていないのに奴隷身分にされた怒りから、つい棘のある言い方をしてしまった。
 完全な八つ当たりである。
 流れる沈黙の時間に罪悪感を感じ始めたとき、彼女がゆっくり口を開く。

「戦いっぷりを一目見た時から、是非とも騎士団に入れたいと思ってたんです。でもあなたは他国のSランク冒険者だった。ならばそうするしかないじゃないですか!」

 話しているうちに興奮してきたのか、最後はほとんど怒っているような口ぶりだった。
 ふむ……そこまで俺のことを高く評価してくれたのか。
 ただ、彼女の前で戦ったことがあるかと言われれば、首を傾げざるを得ない。
 隣国の騎士団と戦ったことなんてないと思うけどなぁ。

「ちなみに、どこで俺の戦いを見たのか教えてくれないか? 悪いが記憶がなくってな」
「二年前ですよ。あなたがブラックウルフを撃退したときです」

 ブラックウルフというのは、全身が真っ黒な毛皮で覆われた狼の魔物である。
 俺が倒したブラックウルフは、確か王城に匹敵するくらいの大きさをもつ化け物だった。
 あれは大変だったな……。

 思い返してみれば、確かにヘルシミ王国の第三騎士団と共闘した記憶があるな。
 指揮官なら、当然あの戦場に来ていたということか。

「それで、俺が第三騎士団に入ってメリットはあるのか?」
「隣国では再び信頼を得られますわ。この国ではもう信頼は地に落ちているでしょう?」

 彼女に反応するかのように城門の外で鬨の声があがった。
 気配からして数十人という単位ではなく、数百人単位でいるんだけど!?

 こっそりと見てみれば、明日から褒美金を貰うはずだった冒険者たちが門に集まっていく。
 もちろん、この際の褒美金というのはドラゴンを倒すのに貢献した分の金だ。
 まさか……俺を捕まえて強制的に払わせようとしているのか?

「いいか、お前ら! これからティッセの野郎をぶっ潰す! みんなついてこい!」
「何っ! シーマが先導しているのか!?」

 後輩として一番の信頼を寄せていたシーマが、俺を簡単に裏切って襲ってくる。
 ギルドでも裏切ることはほぼ確実だったが、希望的観測がなかったといえば嘘になる。
 でも、確実に彼が裏切ったという事実は心に深く突き刺さった。
 何とか王城の護衛をしている騎士団が抑えている状態だが、いずれ爆発するだろう。

「見てみなさい。この国に希望があると思う? あなたは物語の主人公や勇者じゃないわ」
「グッ……分かった。ベネット第三騎士団長のお誘いを受け取らせていただきたい」

 シーマたちの状態を見れば分かる。この国に希望なんて一ミリもない。
 というか、そもそも俺は身分としては奴隷だ。
 隣国のために働く騎士団で功を上げて、ギルドに一矢報いてやるのも悪くはないだろう。
 ありもしない罪で俺のクビを切ったことを後悔するがいいわ! みたいな。

 自国で奴隷にした奴が他国では英雄扱いか。
 それを知ったときのハンルの顔を想像したら、笑いがこみ上げてきた。
 実にマイルドな復讐である。

「ありがとう。 それじゃ初仕事だ。一緒に来てもらう君の仲間たちと挨拶をしてもらおうか」

 お礼の言葉を述べて頭を下げた後、一気に騎士団長っぽい喋り方になる。
 失礼のないように話し方を変えていたのか。

「仲間って……俺は誰が仲間なのかも知らないし、何人いるかも知らないんだが」
「確かにそうか。ならば私が案内してあげよう。我が国に案内するときに探す手間が省ける」

 正直、かなり助かるな。
 ヘルシミ王国なんて行ったことがなかったから、行き方を知らない。
 何台もの馬車を乗り継いでいくんだろうな、ということは簡単に想像できるのだが。

「そうと決まったら早速会場に戻るぞ。ちなみに君の仲間は二人だけだから覚えておけ」
「えっ……普段は新人三人で行動するんですか?」
「バカもの。私が一緒に決まっているだろう。私の直属の部下に入ってもらうからだ」

 わーお。直属の部下とか良い響きだ。
 随分と騎士団っぽいセリフだな、と思いながらパーティー会場に戻って料理に舌鼓を打つ。
 べネック団長は会場に入って早々、俺に待機を命じてどこかに行ってしまった。

 それにしても、本当に料理が美味しいのがパーティーの利点だな。
 ギルドの酒場は料理がそんなに美味しくないからか、疎遠になっていた気がする。
 だから冒険者同士の情報交換など、ほとんどしたことがない。
 騎士団では仲間との会話に取り組みたいと思っているのだが、誰かは知らないんだよな。

 一体、誰が仲間なんだろう。
 俺はまだ見ぬ仲間に心を弾ませながらパーティーの時間を過ごしたのだった。
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