成り上がれ、最強の魔剣士〜失墜した冒険者は騎士としてリスタートします〜

銀雪

文字の大きさ
11 / 44
第一章 帝国脱出

『第十話 イリナの家族』

しおりを挟む
 宿に着いた俺たちは部屋に入って寛いでいた。
 ギルドにいた時はゆっくり休めたことなんて数えられるほどしかなかったからな。
 何だか落ち着かない。

「イリナって剣士の娘だったんだ。名前を聞いた時からもしかしてと思ってたんだけど」
「そうね。母と妹は立派な剣士への道を歩いているわ」

 どこか皮肉めいたセリフに首を傾げた時、先ほどイリナが発したセリフが思い出される。
 彼女にとって母と妹は好ましい存在ではないようだ。

「ちなみに能力は何だ? ライト・ソードが作られた速さが尋常ではなかったが」
「剣術強化です。だから剣の師匠でもあるお父様はかなり喜んでくれたんですが……」

 母と妹からは嫌われていたと。
 剣術の家系で剣術強化の能力が出たのだから、さぞ喜ばれたことだろう。
 それが二人の嫉妬心に火を付けたってところか。

「父親が成果なしで帰っていったわけだからな。家族の息がかかった追っ手が来るかも」
「あり得るわ。あの二人は本当に執念深いから」

 イリナが据わった目をしながら呟く。
 どんな嫌がらせを受けたかは分からないが、執念深いというのは厄介だな。
 ほぼ追っ手が来ることが確定してしまった。

「とりあえず明日は門に行くんですよね。能力を比べるとやっぱり精霊使いが厄介です」
「でも相手は大軍ですから魔法を使うしかないでしょう……」
「相手に奪われると面倒だから、魔法を使う前に倒す必要があるだろうな」

 裏切った冒険者が精霊使いの能力を持っていたから、他の人よりは詳しい自信がある。
 対処法は倒してしまうことだ。

 魔法を使おうとすると、精霊が俺たちに代わって魔力を込めだす。
 相手はその魔力を感知して精霊の位置を特定。
 特殊な技をかけて自我を失わせたら、自分の思い通りの技を放ってもらうだけ。

 精霊使いの能力は魔剣士ほどではないが貴重なので、大規模な囲い込みが発生する。
 ゆえに無所属の精霊使いはレアだ。

「無所属の精霊使いに頼むという手もあるが……この街にいるのかは分からないな」
「私の実家には精霊使いがいますよ。まあ私の妹なんですけど」

 イリナが呟くと、それまで唸っていたダイマスが軽快な音を響かせて立ち上がった。
 手を叩いていたから何かを考えついたのか?

「どうにかして彼女を連れてくればいいんじゃないかな。精霊の奪い合いをしてもらうんだ」
「イリナの妹を追っ手の精霊使いにぶつけるということか?」

 べネック団長が驚いたように尋ねると、ダイマスは大きく頷いた。
 しかし非現実的な案だな。

 父親が帰ってしまった以上、イリナの家族と接触するには自宅に帰らないといけない。
 さらに、彼女の妹が協力というか戦ってくれる可能性もほぼゼロだ。

「厳しいんじゃないか? どうやってイリナさんの妹を戦場まで引っ張るんだ」
「精霊使いだって魔法が使えないわけじゃないだろう?」
「まさか……追っ手と契約している精霊を報酬にして誘うってことかい?」

 デールさんさんが瞠目した。
 同系列の精霊ならば、複数人と契約することで魔法の出力が上がる。
 つまり言い換えると“魔法の出力を上げさせてあげるよ”という契約だということだ。

 ダイマスは頷き、部屋のドアを何の前触れもなく開ける。
 すると黄金色の髪をしている少女が、声にならない悲鳴を上げながら転ぶ。

「わっ……!」
「僕たちの話は聞いてたね? 追っ手が契約している精霊を君に報酬としてあげるよ」

 彼女がイリナの妹か。
 言われてみれば似ている気がしなくもない。
 やや吊り上がった水色の瞳は、色こそ違えどイリナとの血の繋がりを感じさせる。

「アリア……どうしてここに……」
「お父様からの指示よ。帝国を抜けるまでは精霊使いのお前がサポートしてやりなってね」

 イリナの妹――アリア=グリードは面倒そうに言う。
 そんな彼女に向けて、ダイマスがもう一度問いを投げかけた。

「報酬はあげるから僕たちと一緒に来てくれないか? 誘うのは愚問かもしれないけど」
「いいわよ。剣術強化のお姉ちゃんとか魔剣士さんも戦ってくれるんでしょうし」
「ああ、厄介な精霊使いは君に任せたぞ」
「精霊使い同士だったら時間を稼ぐくらいしか出来ないけど……父の指示でもあるので」

 不安げにアリアが瞳を揺らす。
 頼るようなセリフを言ってはみたものの、目の前にいる妹に不信感を抱く。
 イリナの言葉から推測っされる人物像と噛み合わない。
 彼女の中では、妹は母親とともに虐げてくる邪魔な存在だったはずだ。

「アリア……どうしたのよ。頼み事を承諾するなんて珍しいじゃない。私は夢の中かしら?」
「失礼ね。私だって人助けくらいするわよ。それにお父さんの指示だって言ってるじゃない」

 頬を膨らませて拗ねるイリナの妹――アリアに不審な点は見当たらない。
 俺の考え過ぎか……?

 内心で警戒しながら過ごしていくものの、彼女は拍子抜けするほど何もしてこなかった。
 美形のダイマスには積極的に近づいていたが。
 ここは探りを入れてみようと考えた俺は、夕食後のちょっとした隙を見計らって話しかける。

「ねえ、アリアちゃんは何の精霊と契約しているの?」
「アリアでいいですよ。子供に見えるかもしれませんけど、もう十三なので。答えは氷です」

 まさかの一つだった。
 このチャンスを利用して、他の精霊との接触を図るつもりか。

「私は剣術強化に嫉妬していたんです。だからお姉ちゃんをお母様と一緒に虐げてしまった」
「えっ……?」
「でも今は後悔しているんですよ。お姉ちゃんは凄い能力には甘えていなかったって」

 アリアの顔が歪み、私ってば本当にバカですよね、と自嘲気味に呟いた。
 彼女の視線の先には、傷だらけの木剣を一心不乱に振るイリナの姿がある。

「お姉ちゃんが強いのは能力のせいだと思っていました。努力もしていないくせにって恨みました」
「でも違ったってことか?」

 俺が尋ねるとアリアは小さく頷き、イリナが握る木剣を指さした。
 小さいころから使っていたのであろうその剣には、傷がたくさんついていた。

「木剣があんなになるまで……虐げられていた時も振っていたのよ。尊敬に値しますよ」

 アリアはそこで言葉を切った。
 何かを噛み締めるかのように唇を固く結び、目からは滝のように涙が溢れていく。
 そして先ほどと同じ言葉を二度繰り返した。

「私ったらバカですよね。どうしてもっと早く気づけなかったんだろう」
「だったらその気持ちを伝えてみたらどうだ? じゃないとアイツは恨みだけを増やすぞ」
「えっ……私はお姉ちゃんに恨まれてるんですか!?」

 素っ頓狂な声を上げたアリアに気づいたのか、イリナがゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
 彼女の目は真っすぐに妹を見つめている。

「ねえ、お姉ちゃん……私のことを恨んでいるの?」
「……」

 随分とド直球な質問であった。
 額に浮かぶ汗を拭ったイリナはしばし無言を貫く。
 その間、彼女の瞳が段々と憎しみの色に染まっていくのを俺は見た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...