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第一章 帝国脱出
『第十一話 秘められた思い(イリナ視点)』
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アリアの質問を聞いた途端、私は苦々しい思いが広がっていくのを感じた。
「私のことを恨んでいるの?」だって。
散々無視したり、食事を抜いた分際でよく恨まれていないなんて思えるわね。
私はわざと低い声で吐き捨てるように呟く。
「ええ、恨んでいるわ。自分のしたことを振り返ってみなさい。恨まないはずがないでしょう」
「やっぱり……そうよね」
アリアの瞳に後悔の色が見え隠れしているのを見た私の中で何かが弾けた。
ドロドロとした感情の濁流に流されそうになる。
「わざわざ、そんなことを確認しに来たの? だったら時間の無駄だから退いて」
「えっ……いや……」
アリアは途端に弱気な表情になり、後方でこちらを見つめているティッセの方に後ずさる。
ほら、やっぱりアリアは押しが弱いんだよ。
自分の考えを貫き通せないから人に恨まれるのに、彼女はそのことを分かっていない。
このままでは、謝罪を受け取っても同じことだ。
お母様――あのババアにそそのかされれば、また同じようにして私を虐げるだろう。
「ティッセ、お風呂に入って来るわね」
「……イリナはそれでいいのか?」
訓練用の木剣を腰に差して歩き出した私はティッセから放たれた問いに固まる。
そんなの……答えは決まっているはずなのに、なぜか即答できない。
どうしてこんなに胸が苦しいの!?
「イリナもアリアも似た者同士だな。決意して行動したはずなのに気づけば逆のことをしてる」
「――っ! 押しが弱いって言いたいの!?」
「端的に言ってしまえばそういうことだな。イリナも本当は和解を望んでいるんだろ?」
「そんなことっ!?」
「だったらどうして俺の問いに即答できなかったんだ? 嫌なら拒絶するだけで良かっただろ」
ティッセの蜂蜜みたいな色の瞳がこちらを試すように見ている。
私はひとまず落ち着こうと思い直し、たまたま近くにあった椅子に腰を下ろした。
「アリアもだ。姉ちゃんと仲直りしたいんじゃないのか?」
「だけど!」
「一回拒絶されただけで諦めるのか? お前の姉への気持ちはそんなものなのか?」
彼は何なのだろうか。
ダイマスくんみたいな普通の人から同じセリフを言われたら怒ってしまうだろう。
でも……彼に言われると素直に聞いてみようという気になる。
アリアもそれは同じなのか、俯いたまま黙りこんでしまった。
「いらっしゃいませ。注文は何にいたしますか?」
「えっ!? ちょっと待ってください!」
突然後ろから掛けられた声に振り向くと、バーテンダーらしき男性が笑顔で立っている。
ここは酒場の一角だったのね。
慌ててメニューを確認して手頃な価格の飲み物を注文することにした。
「お茶を三つお願い」
「かしこまりました。そちらのお二人も席にお座りください」
バーテンダーにそう言われた時の二人は実に対照的な表情をしていた。
ティッセは目を輝かせており、アリアは未だに俯いたまま。
私はため息交じりに立ち上がると、加減に気を付けてアリアの腕を握る。
「お、お姉ちゃん!?」
「私が奢ってあげるから、さっさと席に座りなさい」
そのままアリアを席まで引っ張った私は、先に席に座っていたティッセを睨みつけた。
こちらの本質を見抜くようなことを言ったから、密かに見直していたのに。
「ちょっと、何であなたが妹より先に座っているのよ」
「あ、スマン……冒険者時代の癖が抜けてなくて。次からは気をつけるよ」
ティッセは申し訳なさそうな顔をして階上を見つめている。
確か冒険者の酒場は混んでいて、いかにして早く席を確保するかが重要なんだっけ。
ティッセって酒場とか行きそうにないのに意外だな……。
「お待たせいたしました。お茶でございます」
「すごく温かい……」
アリアがお茶が入っているカップを両手で持ちながら呟く。
ティッセも私に一礼してからお茶を飲み、ホッとしたような表情を浮かべた。
「美味しいな。それで……二人はどうするんだ?」
「そうだ! お姉ちゃん、許してもらえないかもしれないけど謝りたかったんだ。ゴメンね!」
アリアは顔を真っ赤にしながら一気に言い切った。
異常に早口だったが、返事をする番になると妹の気持ちが痛いほど分かる。
あーあ、自分の気持ちを言うのって、どうしてこんなに緊張するんだろうな。
四ヶ月もまともに話していなかった妹が相手だから?
「許してあげる。私もさっきはゴメンね。謝ろうとしている時に酷い言葉を掛けちゃったわ」
「おお、前半の部分はメッチャ上から目線」
ティッセの軽い口調で自分の失態に気づいた私は、慌てて取り繕う。
確かにマズイ。
せっかく和解しようと思っているのに! ああ、もう!
どうして私はこう不器用なの!?
「違うのよ!? 別にそういうつもりじゃ……」
「分かってるわ。だってお姉ちゃんは私の自慢のお姉ちゃんだもん」
アリアはそう言って屈託のない笑顔を見せた。
私は顔が赤くなっているのを悟られないように腰の木剣を見つめる。
我が妹ながらいい子過ぎるわ。
たったこれだけが四ヶ月間も出来なかったことは恥ずべきことなのだろうか。
それとも……。
私は気まずい思いを隠しながら、ゆっくりとお茶を楽しんだ。
私たちが隣国に入るまで、あと一日。
「私のことを恨んでいるの?」だって。
散々無視したり、食事を抜いた分際でよく恨まれていないなんて思えるわね。
私はわざと低い声で吐き捨てるように呟く。
「ええ、恨んでいるわ。自分のしたことを振り返ってみなさい。恨まないはずがないでしょう」
「やっぱり……そうよね」
アリアの瞳に後悔の色が見え隠れしているのを見た私の中で何かが弾けた。
ドロドロとした感情の濁流に流されそうになる。
「わざわざ、そんなことを確認しに来たの? だったら時間の無駄だから退いて」
「えっ……いや……」
アリアは途端に弱気な表情になり、後方でこちらを見つめているティッセの方に後ずさる。
ほら、やっぱりアリアは押しが弱いんだよ。
自分の考えを貫き通せないから人に恨まれるのに、彼女はそのことを分かっていない。
このままでは、謝罪を受け取っても同じことだ。
お母様――あのババアにそそのかされれば、また同じようにして私を虐げるだろう。
「ティッセ、お風呂に入って来るわね」
「……イリナはそれでいいのか?」
訓練用の木剣を腰に差して歩き出した私はティッセから放たれた問いに固まる。
そんなの……答えは決まっているはずなのに、なぜか即答できない。
どうしてこんなに胸が苦しいの!?
「イリナもアリアも似た者同士だな。決意して行動したはずなのに気づけば逆のことをしてる」
「――っ! 押しが弱いって言いたいの!?」
「端的に言ってしまえばそういうことだな。イリナも本当は和解を望んでいるんだろ?」
「そんなことっ!?」
「だったらどうして俺の問いに即答できなかったんだ? 嫌なら拒絶するだけで良かっただろ」
ティッセの蜂蜜みたいな色の瞳がこちらを試すように見ている。
私はひとまず落ち着こうと思い直し、たまたま近くにあった椅子に腰を下ろした。
「アリアもだ。姉ちゃんと仲直りしたいんじゃないのか?」
「だけど!」
「一回拒絶されただけで諦めるのか? お前の姉への気持ちはそんなものなのか?」
彼は何なのだろうか。
ダイマスくんみたいな普通の人から同じセリフを言われたら怒ってしまうだろう。
でも……彼に言われると素直に聞いてみようという気になる。
アリアもそれは同じなのか、俯いたまま黙りこんでしまった。
「いらっしゃいませ。注文は何にいたしますか?」
「えっ!? ちょっと待ってください!」
突然後ろから掛けられた声に振り向くと、バーテンダーらしき男性が笑顔で立っている。
ここは酒場の一角だったのね。
慌ててメニューを確認して手頃な価格の飲み物を注文することにした。
「お茶を三つお願い」
「かしこまりました。そちらのお二人も席にお座りください」
バーテンダーにそう言われた時の二人は実に対照的な表情をしていた。
ティッセは目を輝かせており、アリアは未だに俯いたまま。
私はため息交じりに立ち上がると、加減に気を付けてアリアの腕を握る。
「お、お姉ちゃん!?」
「私が奢ってあげるから、さっさと席に座りなさい」
そのままアリアを席まで引っ張った私は、先に席に座っていたティッセを睨みつけた。
こちらの本質を見抜くようなことを言ったから、密かに見直していたのに。
「ちょっと、何であなたが妹より先に座っているのよ」
「あ、スマン……冒険者時代の癖が抜けてなくて。次からは気をつけるよ」
ティッセは申し訳なさそうな顔をして階上を見つめている。
確か冒険者の酒場は混んでいて、いかにして早く席を確保するかが重要なんだっけ。
ティッセって酒場とか行きそうにないのに意外だな……。
「お待たせいたしました。お茶でございます」
「すごく温かい……」
アリアがお茶が入っているカップを両手で持ちながら呟く。
ティッセも私に一礼してからお茶を飲み、ホッとしたような表情を浮かべた。
「美味しいな。それで……二人はどうするんだ?」
「そうだ! お姉ちゃん、許してもらえないかもしれないけど謝りたかったんだ。ゴメンね!」
アリアは顔を真っ赤にしながら一気に言い切った。
異常に早口だったが、返事をする番になると妹の気持ちが痛いほど分かる。
あーあ、自分の気持ちを言うのって、どうしてこんなに緊張するんだろうな。
四ヶ月もまともに話していなかった妹が相手だから?
「許してあげる。私もさっきはゴメンね。謝ろうとしている時に酷い言葉を掛けちゃったわ」
「おお、前半の部分はメッチャ上から目線」
ティッセの軽い口調で自分の失態に気づいた私は、慌てて取り繕う。
確かにマズイ。
せっかく和解しようと思っているのに! ああ、もう!
どうして私はこう不器用なの!?
「違うのよ!? 別にそういうつもりじゃ……」
「分かってるわ。だってお姉ちゃんは私の自慢のお姉ちゃんだもん」
アリアはそう言って屈託のない笑顔を見せた。
私は顔が赤くなっているのを悟られないように腰の木剣を見つめる。
我が妹ながらいい子過ぎるわ。
たったこれだけが四ヶ月間も出来なかったことは恥ずべきことなのだろうか。
それとも……。
私は気まずい思いを隠しながら、ゆっくりとお茶を楽しんだ。
私たちが隣国に入るまで、あと一日。
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