転生王子の奮闘記

銀雪

文字の大きさ
59 / 152
第2章  魔法と領地巡りの儀式

『57、カンナ騎士団長の怒り』

しおりを挟む
あの後、猛烈なアタックを受けて断り切れなくなった俺はウェルスの部屋に来ていた。
カルスには申し訳ないが、ドアの前で待ってもらっている。

部屋の中は全体的に青を基調としており、落ち着いた雰囲気があった。
促されてソファーに座った俺の前に出されたのはまさかの王香草。
ラオン公爵家のお茶会で飲んだのを最後に飲んでなかったから、ちょっと嬉しい。

「今日はありがとうね。まさか王子が厨房に来てくれるなんて・・・」
「ねえ、もしかして僕に対して特別な感情を抱いたりしてる?」

こちらを見る目が、どこかキラキラとしている気がした。
心配になって尋ねると、ウェルスが身を乗り出しながら握手を求めて来た。
何か地雷を踏んだ気がする。

「そんなにオーラが出てました?実はずっとリレン王子に憧れていたんです」
「何で?僕、特別なことしたっけ?」

有名になるようなことをした覚えは無いんだけどなぁ・・・。
今までの事柄を回想していると、部屋の隅に飾られていた旗が目に入る。
見覚えがある模様に頭を抱えていると、予想通りウェルスが旗の横に立った。

「叔父さんがやっている果物屋の不正を暴いてくれたじゃないですか。しかもほぼお咎め無しだったって聞きました。だから王子のように心が広い人になりたいと思ったんです」

これは・・・盛大に勘違いしちゃってますね。
お忍びだから目立ちたくなかっただけで、本当は詰所に入れても良かった。
でも結局、1晩とかで帰しちゃうような気もする。
俺・・・王子としては割と甘いというか逆に甘すぎるんじゃないか?

・・・まあ、反省会はここまでだな。
ここで沈黙するのもマズいし、とりあえず何か声を掛けてあげなければ。

「そうなんだ。頑張ってね」
「ありがとうございます!そのお言葉を忘れず精一杯頑張ります!」

何を頑張るのか意味不明であるが、ウェルスは嬉しそうにその場で飛び跳ねた。
俺の言葉が神託みたいになってしまっている。

居心地の悪さを感じて部屋を見回していると、おかしなランプを見つけた。
床を照らすにしては低いし、近くにテーブルなどもない。
しかも、なぜか本棚で隠されているため、照らせる範囲も相当限られているだろう。

「ねえ、あのランプ何?ウェルスの頭くらいの位置についているけど」
「ふぇ?あんなところにランプなんて付けたかな?」
首を傾げながらランプを眺めるウェルスを見てハッと気づく。

マイセスが教えてくれた神託の前半部分、“白と青が混じった橙色の光が照らす戸棚”。
白と青というのはウェルスの白藍色の髪の毛を現している。
そしてそのランプが橙色の光を発したら・・・?

「ウェルス、そのランプを付けたら光を塞ぐように前に立ってみて」
「分かりました。やってみます」

その通りにしてみると、古ぼけた箪笥を橙色の淡い光が射貫く。
もし神託が正しいのなら、照らされている箪笥を調べれば何か出て来るかもしれない。
ウェルスには申し訳ないけどガサ入れを敢行しよう。
カンナ騎士団長に来てもらえば神託の後半部分も埋められる。

「ねえ、ここにオクトさんが何かを隠した形跡がある。調べてもいい?」
「いいですよ。この箪笥はオクトさんに貰ったものなんですが何も入れてないですし」
持ち主の許可を得たところでドアを開ける。

「カルス、悪いけどカンナ騎士団長に5人を派遣してもらってくれない?」
「分かりました。すぐにお呼びします」
廊下を忍者のように消えていくカルスに代わってフェブアーがやって来た。

「何か見つかったのですか?みんな暗号神託の解読に参っているみたいですが」
「その神託が解けたかもしれないんだよ」

俺の言葉に刮目するフェブアーの後ろからカンナ騎士団長が走ってきた。
後ろには肩で息をしている騎士4人がついている。

「只今、参りました。それでウェルスさんの部屋の箪笥を調べるんですね」
「うん。彼の許可は取ってあるから調べてみて」

部屋に入って箪笥を隅から隅まで調べる騎士たちを、俺たちはドアの近くで見守っていた。
これはオクトやトルマが来た時に部屋の中を見せないための作戦だ。
最悪の場合、娘とはいえカンナ騎士団長が処刑されてしまう可能性がある。
好意的に協力してくれているんだし、それは避けたい。

「何かあったぞ。これは・・・手紙?」
廊下の奥に目を光らせていると、カンナ騎士団長の声が響いた。
見張りをカルスたちに任せると、俺たちはカンナ騎士団長が開いた手紙を覗き込む。
それはトルマ宛てになってはいたが、内容は完全にオクト宛て。

“カンナ騎士団長にも今の状態を伝えた方がいいのではないか”などと書かれていた。
意外と早く、ボア伯爵との関与を示す証拠が見つかったな。
後は彼が捕縛されたという証拠が欲しい。

このままだと、捕縛されたなんて嘘でしょ?と言われると手も足も出ないよね。
何か見つからないかと再び見守っていると、カンナ騎士団長がポケットから紙を出す。
広げた紙はボア伯爵が捕縛されたという報告書だった。
サイン欄にはちゃんとブルートのサインが書かれており、本物であることは間違いない、

「リレン王子・・・これってお父さんと弟が不正しているということですか・・・?」
背筋がゾクッとするような冷たい声を出すカンナ騎士団長。
その声には怒りや失望などの暗い感情が渦巻いており、目にもハイライトが無い。

――現実を知ってもらわなきゃいけないし、正直に答えるべきだな。
「そうだね。僕は父上にそれを聞いて断罪するために旅の期間を使っているんだ」
もう5歳らしく振舞おうなんて思考は銀河の彼方に消え去っていた。
今は、カンナ騎士団長の傷に向き合ってあげよう。

「そうなのね。あなたは神童と呼ぶに相応しいわ・・・。5歳でこんなにしっかりしている」
「やめてくださいよ。僕はそんな名声なんて求めていませんから」
苦笑いしながら答えると、カンナ騎士団長は涙を拭いて立ち上がった。

「よし。ウェルスも手伝って!領民のため、断罪会を行うわよ。・・・贖罪のためにも」
「贖罪・・・?何かしたんですか?」
「体が弱くて、未だ巡回に出ていない。だから領民の声が領主に届かなかった」

廊下から声が聞こえ、振り返るとボーランがドアの前にいた。
その横には1人の騎士が縄でぐるぐる巻きになっており、フローリーが睨んでいる。

「その男は報告係を担っていたのだけど、金と引き換えに領民の声を黙殺していたのよ」
最後にマイセスが出て来て紙を放った。

それによると、報告をごまかすごとに銀貨2枚を支払うという契約が交わされていたよう。
俺でもイラッと来たのだから、カンナ騎士団長の怒りは如何ほどのものなのか。
彼女は強く拳を握りしめ、怒髪天を突く勢いで怒鳴った。

「今すぐ断罪会を開くわよ!こんな不正を黙って握りつぶせるものですか!」
騎士たちはその声を聞いて、お膳立てのために慌てて出て行った。

それから数時間後、すぐに断罪会が開かれることになりオクトは慌てる。
しかし証拠が揃っている状態で逃れられるわけも無く、彼は不正の罪で娘に捕縛された。
相も変わらず目にハイライトが無かったので、厳しい取り調べが行われるはずだ。

トルマは厳重注意だけで済むようだが、住民たちからの抗議は避けられないだろう。
こうして断罪会は呆気なく終了したのであった。

ちなみにナスタチ郡の予定滞在期間は1週間だったが、わずか2日でのスピード解決。
そのため、5日間の猶予が出来て観光旅行が可能になったのである。

「明日は各自が好きに観光しようか。みんなもドク郡から頑張っているし休もう」

そう言うと、みんなから歓声が上がった。やっぱり休憩は必要だよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...