転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『58、貴族の正体』

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「これはまた随分なお出迎えですね・・・」
「うん。全く逆を想像していただけに、肩透かしを喰らった気分だよ」

今日は観光旅行でリフレッシュしようと思っていた。
ところが、外に出ると門の前に人だかりが出来ていたのだ。
しかも俺の姿を確認するなり神様のように膝を付いて天に祈り出す始末である。
これ・・・どうやって収拾をつけようか。

「あの、あなたたちはどうして集まっているんでしょうか」
「悪徳領主を成敗してくれたのは王子だとカンナ様からお聞きしましたんで」

騎士団長かい!と心の中で思いっきりツッコミを入れる。
彼女は体調が良くなったということで、初めての巡回兼女子会へ向かっているのだ。
何せフローリーとマイセスの姉妹はカンナ騎士団長に懐いているもんな。

「それは事実ですけど・・・とりあえずここから出してくれませんか?」
すると海を割ったモーゼのようにさっと人垣が割れる。
出来た道を通る時にも握手を求められ、アイドルにでもなった気分になった。

「リレン様、どこに向かいますか?」
フェブアーの爆弾発言に、騒がしかった人垣が水を打ったように静まり返る。
俺は慌ててフェブアーを路地裏に押しこんだ。

「何であそこで言うの!?あの人たちが付いてくるの分かるでしょ?」
「す、すみません。思わず言ってしまった後でマズいとは思ったんですが・・・」
胸の前で手を合わせ謝る彼女にため息をつく。
これ以上追及してもしょうがないので、次は打ち合わせだな。

「スリブ滝に行こうかと思っているんだ。おすすめだよってウェルスに勧められたから」
「分かりました。歩いて向かうんでしょうし、護衛いたします」
「ありがと。フェブアーの護衛は安心出来るよ」

しばらく路地裏を進むと、曲がり角の先から剣戟が聞こえてきた。
人気の少ないところで喧嘩しているのか、誰かが襲われているのか・・・。
角から顔だけ出して様子を伺うと、豪華な馬車が黒装束の男に襲われているのが見える。

「フェブアー、あの馬車を助けよう。どこの家かは分からないけど貴族でしょ」
「そうですね。私と王子でならあの人数は余裕でしょう」
2人で軽く頷きあうと、一気に角から姿を現して強盗団と向き合う。

「ちょっと・・・我が国で強盗は感心しませんね。岩弾ロック・パレット
「剣の錆になりたくなかったら今すぐ去れ。四ノ型、円心斬」
突然入った助太刀に戸惑う兵士たちを尻目に強盗を討伐していく。
最後の1人を倒しきった後で、俺たちは隅に寄せられた馬車の方を向き直った。

「グラッザド王国第1王子のリレン=グラッザドです。襲われていたみたいだけど無事?」
「護衛隊長のフェブアーだ。もう盗賊たちは始末したぞ。無事なら出てきてくれないか」

呼びかけると、中から50代くらいの貫禄ある男性が出て来た。
淡い金髪に透き通るような碧眼だったため、思わず自分の姿を重ねてしまう。

「そこの少年・・・あなたの名前をもう1回教えてくれませんか?」
「リレン=グラッザドですけど・・・。何か妙な点でも?」
再び名乗ると、目の前の貴族は大きく目を見開いてブツブツ呟き始めた。
完全に危ない人になってしまっている。

「もしやリレン殿の母はケイネ=グラッザドというのでは無いか?」
「そうですけど・・・あなたは何者ですか?」
母親の名前を知っているなんて只者では無い。俺は警戒のボルテージを上げた。
フェブアーも腰の剣に手をかけ、いつでも抜けるような態勢になっている。

「そう殺気を向けるな。儂の名はイックス=フラン。リレン殿の母、ケイネの父だよ」
「ええっ!?お母様のお父様ということは・・・僕のお爺様なんですか」
まさかお爺様の馬車を助けるとは・・・事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
どんな運命の巡り合わせだよ。

「もし良かったら私の家に来ないか?この道を抜けるということはスリブ滝だろ?」
「さすが地元の貴族。道から目的地が分かっちゃうんだね」
揶揄するように言ってみると、お爺様は顔を歪めて馬車を指さした。
フェブアーは剣に手をかけながら辺りを警戒している。

「伊達に住んでいるわけじゃないからな。早く乗れ。儂の家からはスリブ滝が見えるぞ」
目的地に近いのなら寄ってみてもいいかもしれないな。
スピード解決のおかげで時間はあるのだし、お爺様と交流を深めておくのも悪くはない。

「お言葉に甘えて乗せてもらうよ。せっかくだしフェブアーも乗りな」
「分かりました。リレン様のお言葉とあらば」
奥の方に座った俺の向かいにフェブアーが座り、その隣にお爺様が座る。
10分ほど他愛も無い話をしていると屋敷に着いた。

「随分、豪華な館ですね。フラン家と言っていましたから・・・3大公爵家じゃないですか」
「だから館がこんなに大きいのか。領主館にも引けを取らないんじゃない?」

3大公爵は公爵位を持っている貴族の中でもとりわけ優秀な3家を指す言葉だ。
武のフォルス家、商のフラン家、知のフーラス家とそれぞれの家ごとに役割が異なる。
共通事項を上げるとすれば、どの家も国の中枢を担っているということだろう。

ちなみにフォルス家は友人のイグルがいる家だし、フラン家はお爺様の家。
個人的に繋がりが無いのはフーラス家だけである。
そんな3大公爵家が1つ、フラン家の屋敷を眺めていると、裏手に滝が見えた。

「あれがスリブ滝か・・・。随分と広くて大きな滝だね」
「遠目で見る分にはその程度の感想しか浮かばんが、近くで見た迫力は王都一だ」

いつの間にか近くに来ていたお爺様が滝を仰ぎ見る。
辺りは山に囲まれており、滝つぼが絶景であるという予感を増幅させた。
さすがウェルスがおすすめしてくれた場所だな。

「まずは上がってお茶でもしていけ。後で儂が自ら滝を案内してやろう」
「それはありがたいね。正直どこから行っていいのかさっぱり分からなかったから・・・」
そう言うと、お爺様は嬉しそうに笑う。

その後、家の居間に通されたのだが、見たことのない物がたくさん並べられていた。
本当にグラッザド王国で作られたのかと疑ってしまうような品の数々に思わず目が眩む。
ここに並んでいるものだけでとんでもない額が掛かっているんじゃ・・・。

「待たせたな。商談相手にえらい時間をとられてしまった」
「全然大丈夫だけど・・・。ここにあるものが明らかに高級品っぽすぎて落ち着かないや」
正直な感想を口にすると、お爺様は豪快に笑い始めた。

「何を言っておるか。王城などこの屋敷よりも高級品の塊ではないか」
「でも高級品って感じがしないんだよ・・・ここは見て分かる明らかな高級品じゃん」
机の脚に豪華な刺繍が入っていたり、生地の手触りが良かったり・・・。
ソファーの生地なんかは俺が来ている服よりもいい生地じゃないかと思ったりする。

「ここにある品のほとんどは外国製の物だからな。そう思うのかもしれん」
「まさか4国連合からとか買っていないよね?」
これから戦うかもしれないが、もし販路が繋がっていれば反乱の危険がある。
確かめておかなければいけない事態だ。

「安心せい。儂は4国連合は嫌いだ。むしろ奴らに攻められている国を支援しておるわ」
「なるほど。戦争に必要な剣とかを値段を少し釣り上げて売っているのか」
戦争特需というやつである。確かに商人にとっては稼ぎ時だろう。
だが、お爺様は首を横に振った。

「全く逆じゃ。少し下げてやれば意外とたくさん買ってくれるものだ。在庫処理にも丁度いいし、むしろ価格を釣り上げるより儲けられる可能性が上がる」
そうなのか。やはり優秀な商人というのは一味違うんだな。
だからこそ、ここまでの財を成したんだろうけど。

「そろそろスリブ滝に行くか?滝つぼを眺めながらピクニックと洒落こもうではないか」
「僕とお爺様のピクニックなんて誰得なんだよ・・・」

俺は小さい声で呟く。
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