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第3章 銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦
『106、イルマス教の内乱(六)』
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イルマス教国の民に対する暴動に、マイセスが憤怒の表情を浮かべる。
前世の記憶を有する俺や、この世界で育ったカルスやフェブアーも顔を歪めていた。
「許せませんね。日本ならとっくに逮捕ものですよ」
「ああいう奴らには、一発キツイお仕置きを食らわせてやらないとな」
ボーランとフローリーも前世での記憶があるのか、言葉に怒りの感情を滲ませていた。
俺はエーリル将軍を見つめて呟く。
「エーリル将軍、後ろにいる兵たちは使わないで僕たちだけで破りましょう」
「宮廷魔術師相手にか?いや、でもここには将軍クラスが2人もいるし、可能か・・・」
何やら口籠っていたが、やがて決心したのか深く頷いた。
そしてみんなに見えるようにハンドサインを出す。
エーリル将軍から出された指示の内容は・・・“主要メンバーで殲滅する”だ。
俺のアイデアを採用してくれたのである。
「それじゃ、今のうちに村の中に入っちゃいましょうか。風の刃」
村を囲んでいた柵を切断すると、こっそりと内部へ侵入していく。
全員が侵入し終わったとき、マーハイが民に対する暴行を止めて杖を手に取った。
それを確認した俺たちは陣形を組む。
冒険者のパーティーがよく使う陣形で、前衛はフェブアー、エーリル将軍、カルス。
中衛にボーラン、俺。そして後衛にはフローリーとマイセスという形だ。
「いつの間に村に侵入してきたんだ!?ってコイツを痛めつけてたとき以外にないか」
「ファイヤーボール!――無詠唱で魔法を発動しているのを会話で誤魔化しているのね」
「その通りだ。よく見破ったな」
マイセスが後ろから近付いてきた魔法をファイヤーボールで迎撃し、追加攻撃を行う。
当然のように無詠唱であったが、マーハイに避けられてしまった。
「私たちも行くぞ。近づいてくる魔法は切り伏せるだけだ。前衛の2人よ、進め!」
「「了解しました」」
カルスはナイフを投擲しながら進み、フェブアーとエーリル将軍が剣を持って襲いかかる。
「五ノ型、斬流剣!」
「六ノ型、ファイヤー・カッター・シックス!」
ナイフの弾幕で行動を制限し、剣士2人の同時攻撃で仕留める作戦だ。
さらに倒れていない可能性を考慮し、ボーランと俺がいつでも戦える準備をしていた。
いざとなったら前衛は離脱し、中衛と入れ替わる手筈となっている。
「なかなか効く攻撃だったね。ただ、僕を倒すにはいささか火力が足りないかなぁ?」
「なに・・・1つとして傷を負っていない!?」
五ノ型と六ノ型を同時に喰らってまともに経っていられるはずが無い。
仕方なく前衛の3人は離脱したところでボーランが躍りかかり、俺は魔法を発射した。
「七ノ水遁、天下水流・黄玉流し」
「ウインドカッター、ファイヤーボール、ライト・アロー!」
ボーランは現状で出せる最大火力の技を出し、俺は適当な属性の魔法を連続で放つ。
異なる属性ならば防御するのは大変だが、少しでも気を抜けばボーランの剣が刺さる。
これで相手は倒れた・・・はず。
「今度の2人は強かったな。だけど・・・あと1歩足りないんだよぉ!」
「フローリー、危ない!ダーク・アロー!」
自分が使われたことで、闇の矢の恐ろしさは知り尽くしている。
これを迎撃に使えば、さすがに土の弾を砕くことぐらい造作もないだろう。
しかし、闇の矢はあっさりと弾かれた。
「マズイ!このままじゃ・・・」
「こうなってしまっては仕方がありませんね!相手の魔法を砕け、アイス・レイン!」
フローリーが呪文を唱えると、何本もの氷柱が土の弾を砕きながらマーハイに向かった。
余裕で土の壁を展開したマーハイだが、いとも簡単に壁は壊れて氷柱が刺さっていく。
「痛い、痛い!どうして魔法結界が破れたのぉ!」
宮廷魔術師としてはあり得ない行為だが、彼は杖を手放して痛さに悶える。
俺は地面に刺さっていた氷柱を抜き取ると、そばに落ちていた木片を刺してみた。
しかし、深くは刺さらない。
これが意味するところは、攻撃魔法としては威力が弱いということだ。
なのに、宮廷魔術師があんなに痛がるか?
「もしかして、無詠唱魔法で一方的に制圧するだけで、攻撃を受けたことがないのか?」
「そうだよっ!僕はお父様にもぶたれたことは無いんだぞ!」
エーリル将軍の問いに対して、マーハイは涙声で叫ぶ。
最も、大声で叫ぶには恥ずかしすぎる内容だということに彼は気づいていなかった。
「よし、もういい。ではその世間知らずを縛れ」
「村の皆さん、こいつ以外に酷いことをする仲間はいますか?」
マイセスの問いに、みんなが首を横に振る。
この村の村長だと思われる初老の男性が出て来ると、1つの民家を指し示した。
「あそこには魔術師の奴隷がいました。毎回悲鳴が聞こえていましたので、様子を見に行ってみてはいかがでしょうか」
「よし。フェブアーとマイセス殿はここで魔術師の監視。他の者は民家に向かうぞ」
エーリル将軍の指示で大きな民家に入ると、獣人らしき女性が縛られている。
体中に痣があることから、恐らくは殴られたり蹴られたりしたのだろう。
「グラッザド王国の将軍、エーリルだ。あなたは魔術師マーハイの奴隷で間違いないか?」
「はい。間違いありません。うっ・・・」
背中を痛めているのか、起き上がろうとしたときに呻き声を上げた。
ロープがあったせいかもしれないが。
「とりあえずロープを切断しますね。フローリーは回復魔法の準備をしてくれる?」
「分かったわ」
王都で買い、3年間使っている短剣でロープを切断していく。
服が破れて短かったので背中が見えてしまい、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。
「ヒッ!?何・・・その背中・・・」
「どうしたの?うわ・・・患部の腫れ具合から見て、恐らくは骨折だな。赤い跡はブーツか」
ボーランが顔を顰めながら患部を観察する。
そう、彼女の背中はブーツで蹴られた跡を残して真っ赤に腫れていたのだ。
「酷いわね。出来るだけ強い魔法を使いたいから・・・お姉ちゃんを連れて来てくれない?」
「分かった。ではボーラン、マイセス殿を呼んでそのまま外道魔術師の監視につけ」
「了解です。待っててくださいね」
後半部分は奴隷の獣人に言い、ボーランは走り去っていった。
患部を引き気味に眺めていたエーリル将軍が、何かを思い出したのか首を傾げる。
「どうして獣人なのだ?あの時も獣人、今回も獣人・・・」
デーガン派の兵士たちが奴隷を取り合っていたときも、被害者は獣人だ。
そして今回も獣人が奴隷として捕まっていた。
これは、偶然の一致とは思えなかったのであろう。
「ウダハル王国では獣人は奴隷に最適とされているんです。力も人間よりありますしね」
「肉体労働に使うってわけか。君も大変だっただろうに・・・」
エーリル将軍が唇を噛みしめながら呟くと、奴隷の獣人は顔を真っ赤にして怒った。
よっぽど鬱憤が溜まっていたようである。
「そうなんですよ!アイツは毎回、ストレス発散とか言って私を殴ったり蹴ったり!」
「やりそうですね。特に驚きは無いです」
俺が無慈悲にそう告げると、奴隷の獣人も少し表情を崩した。
理解者というか、同情してくれる人が出て来てくれて嬉しかったのであろうか。
「そんなに強力な回復魔法が必要なのね。それじゃ行くわよ」
「分かったわ。タイミングを合わせて、せーのっ!」
「「合体回復魔法、ハイパー・ヒール!」」
緑色の粒子が辺りを飛び交って、奴隷の獣人を癒していく。
赤く腫れていた骨折の患部も、すっかりと元の肌を取り戻していた。
「ありがとうございました。ただ・・・奴隷紋がある限りは、アイツに従わなくちゃいけない」
「キュア。これで大丈夫です」
わずか3文字で終了した奴隷紋の解呪に、呆気に取られる獣人の女性。
「それで、あなたはどんな経緯で彼の奴隷に?」
マイセスの言葉に俯いた女性だったが、その姿勢のままポツリポツリと語り始めた。
今までの辛い記憶を。
前世の記憶を有する俺や、この世界で育ったカルスやフェブアーも顔を歪めていた。
「許せませんね。日本ならとっくに逮捕ものですよ」
「ああいう奴らには、一発キツイお仕置きを食らわせてやらないとな」
ボーランとフローリーも前世での記憶があるのか、言葉に怒りの感情を滲ませていた。
俺はエーリル将軍を見つめて呟く。
「エーリル将軍、後ろにいる兵たちは使わないで僕たちだけで破りましょう」
「宮廷魔術師相手にか?いや、でもここには将軍クラスが2人もいるし、可能か・・・」
何やら口籠っていたが、やがて決心したのか深く頷いた。
そしてみんなに見えるようにハンドサインを出す。
エーリル将軍から出された指示の内容は・・・“主要メンバーで殲滅する”だ。
俺のアイデアを採用してくれたのである。
「それじゃ、今のうちに村の中に入っちゃいましょうか。風の刃」
村を囲んでいた柵を切断すると、こっそりと内部へ侵入していく。
全員が侵入し終わったとき、マーハイが民に対する暴行を止めて杖を手に取った。
それを確認した俺たちは陣形を組む。
冒険者のパーティーがよく使う陣形で、前衛はフェブアー、エーリル将軍、カルス。
中衛にボーラン、俺。そして後衛にはフローリーとマイセスという形だ。
「いつの間に村に侵入してきたんだ!?ってコイツを痛めつけてたとき以外にないか」
「ファイヤーボール!――無詠唱で魔法を発動しているのを会話で誤魔化しているのね」
「その通りだ。よく見破ったな」
マイセスが後ろから近付いてきた魔法をファイヤーボールで迎撃し、追加攻撃を行う。
当然のように無詠唱であったが、マーハイに避けられてしまった。
「私たちも行くぞ。近づいてくる魔法は切り伏せるだけだ。前衛の2人よ、進め!」
「「了解しました」」
カルスはナイフを投擲しながら進み、フェブアーとエーリル将軍が剣を持って襲いかかる。
「五ノ型、斬流剣!」
「六ノ型、ファイヤー・カッター・シックス!」
ナイフの弾幕で行動を制限し、剣士2人の同時攻撃で仕留める作戦だ。
さらに倒れていない可能性を考慮し、ボーランと俺がいつでも戦える準備をしていた。
いざとなったら前衛は離脱し、中衛と入れ替わる手筈となっている。
「なかなか効く攻撃だったね。ただ、僕を倒すにはいささか火力が足りないかなぁ?」
「なに・・・1つとして傷を負っていない!?」
五ノ型と六ノ型を同時に喰らってまともに経っていられるはずが無い。
仕方なく前衛の3人は離脱したところでボーランが躍りかかり、俺は魔法を発射した。
「七ノ水遁、天下水流・黄玉流し」
「ウインドカッター、ファイヤーボール、ライト・アロー!」
ボーランは現状で出せる最大火力の技を出し、俺は適当な属性の魔法を連続で放つ。
異なる属性ならば防御するのは大変だが、少しでも気を抜けばボーランの剣が刺さる。
これで相手は倒れた・・・はず。
「今度の2人は強かったな。だけど・・・あと1歩足りないんだよぉ!」
「フローリー、危ない!ダーク・アロー!」
自分が使われたことで、闇の矢の恐ろしさは知り尽くしている。
これを迎撃に使えば、さすがに土の弾を砕くことぐらい造作もないだろう。
しかし、闇の矢はあっさりと弾かれた。
「マズイ!このままじゃ・・・」
「こうなってしまっては仕方がありませんね!相手の魔法を砕け、アイス・レイン!」
フローリーが呪文を唱えると、何本もの氷柱が土の弾を砕きながらマーハイに向かった。
余裕で土の壁を展開したマーハイだが、いとも簡単に壁は壊れて氷柱が刺さっていく。
「痛い、痛い!どうして魔法結界が破れたのぉ!」
宮廷魔術師としてはあり得ない行為だが、彼は杖を手放して痛さに悶える。
俺は地面に刺さっていた氷柱を抜き取ると、そばに落ちていた木片を刺してみた。
しかし、深くは刺さらない。
これが意味するところは、攻撃魔法としては威力が弱いということだ。
なのに、宮廷魔術師があんなに痛がるか?
「もしかして、無詠唱魔法で一方的に制圧するだけで、攻撃を受けたことがないのか?」
「そうだよっ!僕はお父様にもぶたれたことは無いんだぞ!」
エーリル将軍の問いに対して、マーハイは涙声で叫ぶ。
最も、大声で叫ぶには恥ずかしすぎる内容だということに彼は気づいていなかった。
「よし、もういい。ではその世間知らずを縛れ」
「村の皆さん、こいつ以外に酷いことをする仲間はいますか?」
マイセスの問いに、みんなが首を横に振る。
この村の村長だと思われる初老の男性が出て来ると、1つの民家を指し示した。
「あそこには魔術師の奴隷がいました。毎回悲鳴が聞こえていましたので、様子を見に行ってみてはいかがでしょうか」
「よし。フェブアーとマイセス殿はここで魔術師の監視。他の者は民家に向かうぞ」
エーリル将軍の指示で大きな民家に入ると、獣人らしき女性が縛られている。
体中に痣があることから、恐らくは殴られたり蹴られたりしたのだろう。
「グラッザド王国の将軍、エーリルだ。あなたは魔術師マーハイの奴隷で間違いないか?」
「はい。間違いありません。うっ・・・」
背中を痛めているのか、起き上がろうとしたときに呻き声を上げた。
ロープがあったせいかもしれないが。
「とりあえずロープを切断しますね。フローリーは回復魔法の準備をしてくれる?」
「分かったわ」
王都で買い、3年間使っている短剣でロープを切断していく。
服が破れて短かったので背中が見えてしまい、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。
「ヒッ!?何・・・その背中・・・」
「どうしたの?うわ・・・患部の腫れ具合から見て、恐らくは骨折だな。赤い跡はブーツか」
ボーランが顔を顰めながら患部を観察する。
そう、彼女の背中はブーツで蹴られた跡を残して真っ赤に腫れていたのだ。
「酷いわね。出来るだけ強い魔法を使いたいから・・・お姉ちゃんを連れて来てくれない?」
「分かった。ではボーラン、マイセス殿を呼んでそのまま外道魔術師の監視につけ」
「了解です。待っててくださいね」
後半部分は奴隷の獣人に言い、ボーランは走り去っていった。
患部を引き気味に眺めていたエーリル将軍が、何かを思い出したのか首を傾げる。
「どうして獣人なのだ?あの時も獣人、今回も獣人・・・」
デーガン派の兵士たちが奴隷を取り合っていたときも、被害者は獣人だ。
そして今回も獣人が奴隷として捕まっていた。
これは、偶然の一致とは思えなかったのであろう。
「ウダハル王国では獣人は奴隷に最適とされているんです。力も人間よりありますしね」
「肉体労働に使うってわけか。君も大変だっただろうに・・・」
エーリル将軍が唇を噛みしめながら呟くと、奴隷の獣人は顔を真っ赤にして怒った。
よっぽど鬱憤が溜まっていたようである。
「そうなんですよ!アイツは毎回、ストレス発散とか言って私を殴ったり蹴ったり!」
「やりそうですね。特に驚きは無いです」
俺が無慈悲にそう告げると、奴隷の獣人も少し表情を崩した。
理解者というか、同情してくれる人が出て来てくれて嬉しかったのであろうか。
「そんなに強力な回復魔法が必要なのね。それじゃ行くわよ」
「分かったわ。タイミングを合わせて、せーのっ!」
「「合体回復魔法、ハイパー・ヒール!」」
緑色の粒子が辺りを飛び交って、奴隷の獣人を癒していく。
赤く腫れていた骨折の患部も、すっかりと元の肌を取り戻していた。
「ありがとうございました。ただ・・・奴隷紋がある限りは、アイツに従わなくちゃいけない」
「キュア。これで大丈夫です」
わずか3文字で終了した奴隷紋の解呪に、呆気に取られる獣人の女性。
「それで、あなたはどんな経緯で彼の奴隷に?」
マイセスの言葉に俯いた女性だったが、その姿勢のままポツリポツリと語り始めた。
今までの辛い記憶を。
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