文バレ！②

逸話 小野家と山ノ内家

ケン兄

　長男あるあるに「分かる」を連発できる生粋の長男。生真面目で苦労性なケン兄は、頼まれていない分までも山ノ内眼鏡店の仕事を頑張っている。例えば、店の通販サイトを作り上げたのはケン兄。町のいろんな場所へ挨拶回りに行ったのもケン兄。中卒が多い昨今で高校も大学も出て、経済学を身に着けたのも、店のためだった。
「タテはあの調子だし、キキやココはいつか嫁に出ていくだろうし、ソウルは多分、文学研究の道に行きそうだからさ。やっぱり、ここは長男の俺が継ぐっきゃないだろ」
　肩をすくめて、ケン兄は言う。仕方ないよなあ、と。
「ケン兄はさ、いつもそうやって譲るけど、いいの？」
　そう尋ねると、彼は、おっ？　と目を丸くした。無粋なことを聞いてしまった気がした。
「いや、なんて言うか、家を優先して自分の夢を諦めたとか、ないのかなって」
　ケン兄は、うーん、と眉間にしわを寄せて笑った。「老舗あるある的な、葛藤の体験談が出来なくて悪いんだけどサ」と困ったように頬を掻く。俺は慌てて、構わないと首を振った。
「俺って、何も諦めたものはないんだよな。そもそも天秤にかけるものがなかったっていうか。運よく、自分の目標と周りの希望が一致したっていうか。この眼鏡店を、何十世代も続けさせるのが俺の目標でさ。いずれは店舗が増えて、メガネ復活とか言われたいなーとか」
　ちょっと格好つけて言ってから、眉が下がる照れ笑いでケン兄は「なんちゃって」と付け足した。俺は、ケン兄みたいな、静かに燃えている大人になるのが目標。