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舞台裏
しおりを挟む「あーあー、派手にやらかしてくれちゃって…」
「なんて言って、本当は嬉しいのでしょう?隠しきれていませんよ。」
「あ、ばれた?」
「貴女は隠そうともしていないでしょう?」
「まあね。もう隠す必要がないし?」
「久しすぎて、王妃の顔を忘れてはいませんか?」
「ん、大丈夫。俺…私であることには変わらないからね。」
「…きちんとそちらの顔との区別をつけてくださいね?」
「わかったわかった」
「まったく…。そちらの顔の貴女は、どうにも手がつけられませんから。」
「え、そう?」
「はい、そうです。手を汚すのに躊躇いがなく、かなりの罪を犯した貴女の演技には何度騙されたことか…。」
「騙される方が悪いんだよ?」
「全力で騙そうとする貴女には、誰も彼もが騙されますから。騙されない人などいません。」
「まあまあ、そんなに怒んないで?ここからが私の出番だよ?」
「準備はいかがですか?」
「とっくに完了♪」
「その用意周到さが怖いんですけどね。」
「ほら、そんなこと言ってないでさ。そろそろなんだから。」
「わかっています。」
「頼んだよ?」
「はい」
◆
「静粛に」
低く太い声がテントに響いた。
ざわめいていた観客が一瞬にして静まり返る。
「王女が何者かにさらわれた。国王としては黙ってはおれない。今ここにいる警護の者は王女をさらった者を見つけ次第、早急にとりおさえろ。手をあげても良いが、殺しはするな。」
王女が出演するため、テントには国王やたくさんの皇族が観に来ていた。それにともない警備も厳重にしている。
「これは命令だ。わかったな?」
国王の威厳に満ちた声。
ティナとミナは既にテントの外だ。
かなりの人数の警護が、一ヶ所しかないテントの出入口に殺到する。…寸前に、
「ご機嫌麗しゅうございます」
その出入口から一人の女性が現れた。固まった空気の中、その女性は笑顔で言った。
「あら、久しいせいで忘れられてしまったのかしら?」
この女は誰だ。
テントにいた人々は疑問に思った。
「皆意外と薄情なのね。あんなに盛大な葬儀をしてくれたのに。悲しいわ…。」
泣き始めた女性。
「フィオ……?」
その時、国王が呟くように言った。
「っあなた…」
国王の威厳は崩れかけている。弱々しい声で、国王は女性に聞く。
「…本当にフィオなのか?」
「ええ、そうよ。」
「だがフィオは失踪…」
「こうして生きてここにいるじゃない。葬儀なんかされて、勝手に死んだことにされちゃあ私もたまんないわ。」
「フィオっ…」
「カロン、国王でしょう?今は私じゃなくてティナが一大事なんでしょう?じゃあ何をするべきなの?私に構うことじゃないはずよ?」
「けど、もう少しだけ、構ってもらおうかしら。」
フィオは微笑んだ。
「ティナ達を追って、どうするつもり?あの少年の手をとったのは、ティナの選択よ?」
カロンは押し黙った。
「私がいない間にあなた達があの子に何をしていたのか、私は知ってる。」
「何で、」
カロンに何も言わせず、フィオは呼んだ。
「ダイナ」
「はい」
呼ばれてフィオの横に並んで立ったのは、ダイナ。ティナの世話を一身にしてきたダイナだ。
「お前はっ…」
「密偵が毒で苦しんでいたから、助けただけよ。せっかくの情報源がなくなったら困るもの。あ、ちなみに、死体として焼かれる寸前に、ダイナには抜け出して来てもらったから。火葬でよかったわ。これで埋葬だったら生き埋めになるところだったから。」
国王とその王妃の力関係は、間違いなく王妃の方が強い。それに、人を食ったような物言いの王妃フィオにまともに言い返せる人はそういない。
「で?ティナを追うの?追わないの?」
フィオの刺すような視線を浴びた国王カロンは、悔しげに言う。
「…追わ、ない………」
「え?聞こえない。」
フィオは嗤った。
「追わない!!」
「皆聞いた?追わないって。…ほらカロン、命令を撤回しなさい。」
「…命令を撤回する。」
渋々のカロンに満面の笑みのフィオ。
「やった!流石あなた!私の気持ち、わかってくれたのね!!」
フィオが抱きついてきたが、カロンは顔を歪めたままだった。
「じゃあ、一応一段落はついたかな。」
フィオは呟いた。カロンを腕から解放する。
婿入りしたカロンは、国王だがフィオには弱い。フィオもそれを知っている。滅多に逆らわず、ある程度のわがままも許してくれる。だが、今回は違うだろう。
ティナが絡むと、カロンは頑固になる。
「わかんないなぁ…」
殺そうとしたり、過保護になったり。
どっちがカロンなんだろう。
「…どんなあなただろうと、私は好きよ。たとえ銃口を向けられても。」
どちらもカロンだから。
国王として、国のことを第一に考えるカロン。国が第一なので、ときどき冷酷になるけれど、それでも、カロンだ。
私を殺してくれた人。カロンのおかげで、生まれ変われた。
「…あの時は、ああするしかなかったんだ。」
「わかってる。でも、私よりも強い人がいることに驚いた方が大きかったよ。」
「俺は、銃相手にナイフで互角に渡りあっていたフィオに驚いたけどな。」
「刃が折れなかったら勝ててたのにな。」
苦笑いしながら言ったフィオに、カロンは真剣な顔をして言った。
「そうしたら今のフィオはいない。」
「そうだね。あの頃は一番荒れてたから。たぶん、死にたかったんだよ。」
何で死にたかったんだろう?
…自分の存在価値がわからなくなってたから。ちょうど、アラン…ミナに出会う前のティナのように。ティナは自殺しようとしたけど、私にはそんな勇気なんてなかった。
だから、誰かに殺されようとした。でも死ぬのはやっぱり怖いから、殺されても仕方がないって、諦められるような行動をしてきた。
「今はどうだ?」
「別に今じゃなくてもいつかは死ぬから、その時までは我慢しようかな、って感じ。」
「そうか。」
素直じゃなくてごめんね、なんて。思ったとき、
「今夜はフィオ王妃が無事ご帰還なされたので、祝儀会をいたしませんか?」
護衛の誰かが楽しそうに言った。
「そうだな、そうするか。」
カロンは珍しく微笑んでいる。これは、国王ではなく、カロンの時の顔だ。
「いいか?」
「ええ!もちろん!!」
一波乱起こそうかな。ダイナは今頃ティナに会えてるかな?つけ足しで頼んどこう。怖いけど、二人を認めさせるため。
カロンはさっきは命令を撤回してくれたけど、次はわからない。それなら、次が来る前に手を打てばいいだけ。
アラン、君にかかってるんだけど、気づいてくれるかな?気づいたら、何をするべきかわかるよね?頼んだよ?
「うたげの用意をしろ。会場は王宮内の会場を使用する。」
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