7 / 18
察知
しおりを挟む耳は良い方だ。だから聞こえた。
「貸してくれませんか?」
ティナの声だ。どこか固い。
「えぇと、私たちにも守秘義務がありまして…」
番人と話しているらしい。
番人らしく、丁寧に敬語で真面目な雰囲気で応対している。番人は俺に対する態度からは想像出来ないくらい、好青年だった。実に綺麗に猫を被っている。
しかも嘘をついてる。
「どこに?」
尖ったティナの声。
「っ…」
「貴方の職業に、守秘義務は存在しませんけれど?」
「……」
ミナが気がついたように、ティナも気がついた。
番人には守秘義務などない。
「…なるほどな。」
ティナの話の展開を聞くと、番人はティナより格が上の誰かに何かを命令されているらしい。命令しているのはたぶんティナの父親だ。そのくらいしかティナより位が上の人間はこの国にいない。その命令は、おそらく俺に関係していることなのだろう。なぜならこの牢獄には俺しかいないから。逆に俺に関係してなければおかしいのだ。
ティナは冷淡な口調だった。
俺と話してる時とは違い、かなり冷たい。それに雰囲気が凛としており、どこか非情さを感じた。
これは王女としての顔なのか?夜に会話している時と比べるとまるで他人だ。まあいいか。色々理由があるのだろう。王女には王女の立場があるのだし。それに、俺だってティナのことは言えないし。
「何で犯罪者履歴と囚人名簿を…?」
今気になるのはそこだけだ。
王女のティナが調べる内容ではないだろう。犯罪者や囚人などは、直接血生臭いことを経験しないだろうティナが調べるのには不自然だ。ましてや王女などは女戦士として戦争に大々的に参加しない限り、そのような血生臭いことのほとんどは臣下などにやらせる。
とりあえず番人は、ティナが犯罪者履歴と囚人名簿を借りにきたことを報告するだろう。
その翌日。
どうしたのだろう。ティナが来ない。今夜は番人が来ていないから来るはずなのに。ティナに何かあったのだろうか。それとも、番人に密会が気がつかれただろうか。
「…」
いつもはティナの姿がある格子の隙間から、今夜はひとりで月を眺める。
少しの寂しさ。
上弦の月だ。
ティナを想い生じた、焦りと心配のなかで、冷静に考える自分が嫌だった。
もしかしたら…?可能性だけにとどめておきたい。とどまっていてほしい。思い違い、勘違い、考えすぎで、あってほしい。だが、この考えが一番腑に落ちるし、納得できる。
この考えに行き着いた途端、やるせない思いが込み上げた。何故だかは、わからない。
◆
「ミナ、久しぶり…」
「…うん、久しぶり」
次の日、ミナはティナの様子を一目見て何もかもを悟った。
ぎこちなく笑うティナに、ミナはちゃんと笑顔を返せている自信がない。
「昨日は来れなくてごめんね。」
ティナは目を泳がせて、合わせようとはしてくれない。
「ううん、大丈夫だよ。ここに来ることは危険なことだからね。ばれたら最悪殺されちゃうかもだし。」
どうしても苦笑いになってしまうミナ。
いくらなんでも殺すことはしないだろうと思っていたからだ。
だってティナはこの国の王女だ。殺したら支障が出る。政略結婚が出来なくなったり、国民からの支持が減ったりするからだ。
「来れるときに来てくれればいいよ。」
きっともう、ここに来ることはないだろうが。内心で付け足した。
悪い予感ほどよく当たる。
ティナが王女だと聞いたときから、ティナが王女だとわかったときから、この瞬間が来ることはわかっていた。いずれその時が来ることも。王女と戦争犯罪人は、天と地ほどの差がある。それはわかっていた。
だが、まさかこんなにも早くにこの瞬間が来るとは思わなかった。
心の準備が終わっていない。
どうしようか。
俺はどうしたいんだろう。
…アランはどうしたいんだろう。
ミナはどうしたいんだろう。
俺は…………――
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる