理性的な姫とクールな王子様

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2. 理性的な妹と恋をした姉

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 明南があのバーに行った日から数日が経った。

 ほろ酔いで帰った妹に美南は叱責をする

 こともなく、明南も姉の彼氏について、

 何も言及することもなかった。


 明南は美南と2人で暮らしている。

 門限は10時と決まっていて、

 明南が今まで、門限をやぶったことは

 ない。過保護な姉、美南はお酒を飲んで、

 ほろ酔いした妹に、本来なら何かを

 言いたかったが、自分のことで、

 バーに行った妹には何もせずに、

 ただ、妹の様子を伺っていた。


 ただ、二人の間には不穏な空気が流れ、

 いつものお節介な姉と姉好きな妹という

 ポジションには戻れない2人がいた。

 美南はパティシエで、働き始めて、

 4年目になる。

 
 結婚を考えてもおかしくない年である。

 親からお見合いを勧められて、仕方なく、

 男性と会ったりしていたが、

 気はすすまなかった。

 男っぱいサバサバした性格の美南は

 女性らしさを求める男どもに嫌気が差していた。

 親からお見合い結婚することを

 昔から勧められていて、

 それが、生きる幸せだと、

 悟られて、育てられた姉妹。


 妹は女性らしくて、感情も露わにせず、


 理性的で、真面目で、親の紹介する相手と

 結婚するのは当たり前のように思っている人。

 美南はそんな風に妹を分析する。

 自分とは違う。だから、彼のことも

 すんなりと受け入れて、応援してくれるとは

 思っていなかった。

 美南が彼と出会ったのはお見合い相手、

 武橋 侑(たけはし ゆう)と 

 2回目のデートをした帰り道だった。

 両親がこの相手は逃してはいけないとばかりに

 娘の服装からなにやら、指図して、

 美南はただ、着飾るお嬢様になり、

 気の乗らない、デートに臨んでいた。

 花柄のピンクのブラウスに、

 黒のフリルが入ったスカート。

 美南の好みとは相反するファッションに

 身を包み、見合い相手と当たり障りない

 会話をする。

 高級ランチを食べ、美術館にも行った。

 特に何かトキメキみたいなものがある

 わけでも、話が盛り上がるわけでもない。

 ただ、誠実そうだし、なんとなく、

 この人と付き合い、結婚すれば、

 親の希望通りで面倒なことも起こらないで

 済むし、流れのまま生きるのも無理ないと

 美南は思っていた。

 武橋と別れ、寄り道して、帰ろうと

 美南はいつもは行かない商店街を通った。

 慣れないパンプスとヒールで、足はズキズキ、

 痛みが増して来た。


 こんな慣れないの履かなきゃよかった。

 母にこれがいいと、無理やりコーデされて、


 好きでもないストッキングに慣れない

 パンプスで、足がパンパンに腫れた。

 とぼとぼ商店街を歩いて、どこか、

 足を休めるとこがないか探していた時だった。


「お姉さん、どいてー」

 すごい勢いで自転車に乗った青年が

 後ろから突進してきた。

 美南にぶつかりそうになり、

 少年はすぐさま、ブレーキをかける。

 反射神経のいい美波はなんとかすれすれによけ、

 その少年もなんとか、転ばずに、

 美波の横をぎりぎりによけたが、

 その少年を避けようとした為、

 バランスを崩した美波は倒れてしまった。

 尻餅ついた状態からすぐに起き上がったが、

 ヒールの痛みはますばかりで、スカートも

 地面に尻餅したお陰で、黒く汚れ、

 新品とは思えない不恰好な汚い有様

 になっていた。

 ぶつかってきた坊主頭のジャージ姿の

 少年は慌てて、美南のとこに急ぎ足で来て、

 謝り、「すみませんでした、大丈夫ですか?」

 と声をかけた。

「はい、大丈夫です。」

「そうですか、よかった。

 急いでるので、じゃあ!」

 と謝り、すぐ過ぎ去る少年。


 美波はそれだけかよといらいらし、

 心でツッコミながら、

 スカートを払い、はぁーっと深く息をはいた。


 今日はついてない、慣れないことをしたせいだ。

「あっ、痛い…」

 美波がうずくまり、足の痛みで

 悲鳴をあげていると、1人の青年が

 駆け寄ってきた。


 「大丈夫ですか?」

 近くを通りかかったのか、


 その青年は心配そうに、美南に濡れタオル

 を渡し、これで吹いてくださいと差し出した。


 それが葵との出会いだった。


 茶髪で、大きな瞳、素敵な笑顔に

 物腰柔らかい雰囲気。


 美南は疲れていた心が徐々に癒されていくのを

 感じた。


 近くで、両親が経営するカフェで働いて

 いるという彼は、カフェに美南を連れて行き、

 足の手当てまでしてくれた。

 それから何回か、カフェに通うようになった

 美南と葵は自然に恋人のように

 デートをするようになったのだった。


 美南はこの人しかいない私を自由

 にしてくれる唯一の人だと、

 そんなふうに感じ、誰に反対されても

 この恋を全うしようと決めた。


思い返してみれば、出会ってからまだ一年では

あるが、葵は急速に美南にとって、

かけがえのない存在になっていった。


 ただ、妹、明南にも両親にもそれを

 打ち明けることはなかった。


 明南がまさか気づいて、尾行していたとは

思いもしなかった。

 明南のことだから、親には言うことはないだろ

 うが、賛成はしてくれなそうだ。

 妹には認めてほしい、ただ、その思いでいたが、

 美南はなかなか切り出せずにいた。

 4歳下の可愛い妹。

 器用で、何にでも冷静に対応できて、

 姉思いの自慢の妹だ。

 一つ欠点があるとすれば、

 理性的で、感情には左右されないことだ。

 明南が恋をすることがあるのだろうか。


 あの子は私とは違うが、

 ただ、あの子にも若い女の子達みたいに、

 何かにときめいたり、青春を謳歌してほしいと

 美南は思う。

 いろいろ思いを巡らせていると、

 明南が呼ぶ声がした。

「お姉ちゃん、ちょっといい?

 話があるの」

 大学から帰ってきた明南は

 いつも通りの綺麗な髪に、清楚な服装で、

 百合の花のような、優雅な雰囲気を

 漂わせながら、姉、美南に、声をかけた。

 あらゆることをはっきりしたい性格の

 明南ならきっと、このままにはしないはずだ。

 私も明南にちゃんと話さなくては。


 美南は、夕飯準備をさっと済ませて、

 ごくっと唾をはき、緊張した面持ちで、

 明南と向き合う覚悟を決める。

 明南とは正反対のボーダーのラフなパーカー姿

 のまま、妹が待つ茶色の北欧風のダーニング

 テーブルに向かった。


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