青月

新月

あの話をしてから1週間。
あれ以来、彼女は学校に来なくなった。
連絡しても繋がらない。

「夏石が学校を辞めた」

朝のホームルームの時に先生から言われた。先生は詳しい理由を言わなかった。あの時話していたことが理由だろうか。

その後、俺はぽっかり穴が空いたまま卒業を迎えた。



10年後。たった3ヶ月しか話してなかったクラスメイトのことを忘れようとしたが、できなかった。あの時言われたことが影響したのか、将来の目標であった、公務員ではなく、地元の大学で教育関連の研究の仕事をしている。今の目標は夏石のようにいじめられる生徒を減らすことである。

ある日、似たような研究をしている隣の市の大学教授に会うことになった。女性というだけで、もしかしたら彼女かもしれないという、幻想を抱いていた。

「札川医科大学の若狭です。よろしくお願いします。」

彼女ではなかった。そんなもんだよな。そう思いながら、挨拶をし、仕事のために気持ちを切り替えた。

「夏石さん、プリントを配布して」
「はい」

思わず、その苗字に振り返るとそこには彼女がいた。

「…夏石」
「久しぶり」
「どうしてここに」
「詳しくは後で」

今日は晴れているのに月が見えなかった。仕事終わりに窓の外を見ながら、夏石を待った。

「私のこと待っててくれたの？」

突然現れて驚いた。さっきは一瞬だったから思わなかったが、高校生の頃よりも雰囲気が明るく、綺麗になったと思う。

「…待ってたよ。やっと会えた。」
「やっと会えたね。」
「会えたらいいなと思ってたけど、本当に会えるとは…」
「今、若狭教授の助手として、ここで働いてるの。高校を中退してから、通信制の学校に行って、どうにかこの大学を卒業できたの。まさか同じような研究をしているとは思わなかった。」
「本当に驚いたよ。」
「また、会えてよかった」

彼女はそう言い、空を見上げた。俺も横で空を見上げた。

「今日は月、見えないね」
「そうだね。…でも月が綺麗ですね。」

俺は思わず、彼女の方を見た。

「…月はずっと綺麗ですよ。」
「ほんと？よかった。月は青くありませんねって言われるかと思った。」
「言わないよそんなこと。」

そのまま二人は手を繋いで、空を見ていた。