雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
544 / 592
第五章:最古の宝剣

第百四十三話:選ばれた理由

しおりを挟む
「そう、私達が出した結論なんだけどね」



 エリーは続ける。

 その先の話は世間に公表すれば、現代の英雄の価値を覆すには十分過ぎるものだった。



「私達【藍の魔王】を倒した英雄は、本当はただ強めな勇者で、ドラゴンを一人で討伐なんか出来ないのが当然の人間達だったはずなんだ。

 もちろん、鍛錬は誰よりもしてきたと思う。鍛錬どころか実践も、エリスはオリ姉の話で知ってると思うけれど、命の危機に晒されるはずの敵を相手にしてきたんだよ。

 そんな実績だけは事実として存在した。

 だからエリス、あなたを弟子にしたの」



 エリーはエリスを見つめながら続けた。

 エリスもまた、その言葉を正面から受け止める。

 その理由は簡単だった。

 どんな理由があろうとも、エリーの戦闘技術は天才的だと、身をもって知っていたから。



「でも、私達は負けない。

 自分よりも明らかに強いはずの相手と戦っても、絶対に勝ってしまう。

 そしてどれだけ鍛錬を重ねた英雄が相手でも、エリザベート・ストームハートは真面目に戦う限りどうしても負けないんだよ」



 大会を9連覇した最強の勇者は語る。

 勝てるのではなく、負けられないのだと。

 だから英雄達の本当の強さは、実は大会の順位通りではないのかもしれない、と。

 少しだけ落ち込んだ様に言うエリーの言葉に、ナディアが続く。



「その理由が、レインさんの力というわけですね。

 絶対勝利のその力は、きっと知らぬ間に、彼が鍛えた私達にも及ぶことになったわけです。

 最もその影響を強く受けたのが他でもないなのは言うまでもないんですが、次いでオリヴィアとエリー。

 後は想像通りというわけです。

 上位三人以外は無意識なのかもしれませんが、そんな訳で私達は彼に順位付けされていたんですよ」



 そう語る表情は、それほど嫌そうなものではなかった。

「私とライラは同順位だったみたいです」

 微笑みながら言う。

 死んでしまったライバルを想うその様子は、最早魔女と言うには少し似合わないのかもしれない。そんな風に、その場にいた多くの者が感じたとも知らずに。



 空気が和んだ所で口を開いたのは、史上最弱の英雄だった。

 不老不死、しかし一対一ではデーモンが限界。

 そんな、ぎりぎり一流に届く程度の強さしか無い英雄マルスだ。



「逆に、元から英雄と言われていた僕は彼に尊敬されてしまった為か、鍛えられることもなかった。

 だから僕の強さは彼に出会ってからも変わらない。今となっては、少しだけ彼に師事してもらうことが必要だったかなと思っているよ」



 もう十分過ぎるほどに戦ったのだから、なるべく無理をしないで欲しい。

 そんなレインの方針に、英雄達は皆同意していた。

 新しく強い力に希望を感じたマルスもまた、それに納得した形だった。

 レインの生前は個人の鍛錬を程々にすることに留めていたマルスは現在、英雄クーリアを伴侶としている。

 旅をする二人は時折危険な目に合う様で、その度に無力を実感する様だった。

 クーリアもまた、早々に成長が止まってしまった為だ。



「鍛えられさえすれば限界を遥か超えられる。しかしそんな加護にも限界はあった。

 クーリアの成長に限界があった理由は未だ完全には分かっていないが、流石に分かっていることはある。



 魔王に匹敵する様な力は本人しか得られない。聖女サニィすら、魔王には勝てなかった様だしな。



 だけどな、妾達が揃えば勝てるだろう。きっとそれがあの人にも分かってたんだろうな。

 英雄レインは聖女サニィと共に、呪いへの勝利という形でその命の幕を下ろすこととなった。



 今となっては分からないことだが、もしかしたら本当は、英雄レインは呪いになんか罹っていなかったのかもしれないな」



 そう説明したのは、アリエルだった。

 母をレインに殺され、自らの力に振り回された英雄。

 彼女は特に、苦渋の決断を下した英雄の一人だった。

 戦争こそ起こらないものの、今や世界で孤立した小国家と成り果てた、かつての世界最大国家の女王。

 魔王支持と捉えられる発言を繰り返し、狂ってしまったと、多くの人に勘違いをされたまま、それを否定しない人物だった。



 そんなアリエルの友人が、その言葉を引き継いだ。



「もしも師匠が生きていれば、魔王は脅威ですらなかったし、もしも魔王が師匠でなければ、準備を整えて誰も死なずに倒せたかもしれない。

 もしものことは分からないけれど、それでも師匠が居なければ、魔王に殺された人数は何千何万って数になってたと思う」



 実際、過去の魔王討伐での死者数は平均で三万を超える。

 七英雄と呼ばれていた人々が参加した内、五度の魔王戦は、その犠牲者が特に少ないものだった。

 そして一度は、初めての魔王討伐。



 そんな中、僅か五十三人の犠牲者で済んだ藍の魔王戦は、別格とも言える被害の少なさだった。



 だからこそ今は単に【英雄】と呼ぶ場合、それに参加した中で、直接魔王に対峙したエリー、オリヴィア、ナディア、ルーク、エレナ、サンダル、クーリア、マルス、そして命を落としてしまったが、勝利へのきっかけを作ったライラとディエゴの十人を指すことが多い。



 そんなメンバーを見渡して、エリーは続けた。



「大会に参加してみると、やっぱりデーモン討伐で一流だって言われるのに納得する出来るくらい、皆弱いからね」

「あはは、一国のトップレベルの人達が弱い、ですか。……納得は、出来ますが」



 師の歯に衣着せぬ言い方に、思わず苦笑してしまうエリス。

 しかしそれも、英雄達の理不尽な強さを知れば納得するしかなかった。

 いざ修行で剣を合わせれば、それは最早勝ち負けではなく、どれだけ耐えられるかの挑戦でしかない。



 そんな風に苦笑するエリスの心を読んだのか、エリーもまた苦笑して。



「でもさ、本来なら私達だって、エリスと同じレベルかもっと下だったかもしれないんだよ。

 間違いなくエリスは才能あるから。でも、たった40mのドラゴンを倒すにも、きっとエリスレベルが五人はいる。

 それが師匠のおかげでこんな少人数で魔王を倒せたんだから、――」



 エリーの言葉を、魔女ナディアが遮った。



「レインさんに怒りを向ける愚かな人間達は皆間違っているんですよ」



 まるで魔王の眷属かの様な妖しい雰囲気で言う魔女に、英雄達はつい笑い出してしまう。

 直接レインを知る者達に囲まれて初めて、エリスはやはり何も知らなかったことを実感して、思わず唖然としてしまう。



「ふふ、相変わらずナディアさんは極端ですわね。

 わたくしもそう言いたいところではありますけれど、強大な力に怯えてしまうのは、やはり仕方ないことではありますから」



 オリヴィアはエリスとアーツを見て、言った。

 ナディアの言ったことは、反魔王レインを掲げる国家の王であるアーツと、王妃であるエリスのことを暗に非難している様にも見えたからだ。

 しかしいつものことなのか、唖然としているエリスに対して、アーツは微笑んでいた。

 英雄達がただ単にレインの信者だったのなら、そんな表情など出来るわけがない。

 そう考えていると、発端の魔女が口を開いた。



「ただ、エリス。私はあなたの夫を、義父を非難しているわけではありませんよ。

 むしろ誇りなさい。

 一人勝手に動いたはずの王が殺されて、それだけ民が怒れるのですから。その子であるアーツが、力無き国王が、見事国を纏めていられるのですから

 それだけ二人は愛されているということなのですから」



 あえて、最も愛されていた王女だった英雄オリヴィアのことは口に出さずに、



「それは誇りなさい」



 そう、力強く言い切った。

 それに最も力強く頷いたのは敵国のボスであるアリエルと、名前を出されなかったオリヴィアで。

 エリスは王妃として、王とは何かを、これから更に深く学ぶことを決意した。



 そして、「はい!」と答えようとしたところで、この英雄達は、真面目なだけで終わる集団ではないことも同時に理解することになった。



「ナディアさん、君は何度グレーズを滅ぼしたいと言ったか覚えてるかな?」



 きっとあえて言うことにしたのだろう。苦笑いのサンダルに、ナディアはナイフを投げつけると、こう答えるのだった。



「人前では一度も言ってませんよ」



 それを見てアーツもまた、エリスにこう言うのだ。



「ほら、我が国の本当の敵はアルカナウィンドではなく、スーサリアなんだよ」



 そう、笑いながら。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...