雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第一部第一章:二人の終末が始まる時

第二話:終末の始まりは時々晴れ

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 私はきっと、夢を見ているのだろう。

 ――。

 とある町で生を受けた私は、高位の魔法使いである両親の元で何不自由なく育った。
 お父さんは近隣の町々を合わせても1番の魔法使いだったし、お母さんは宮廷に仕えたこともある腕を持っていた。
 2人の資質を運良く受け継いだ私は、魔法教師としても優秀なお父さんの下で勉強して、気が付いた時にはお父さん、お母さんに次ぐ魔法使いとして町の人たちにも可愛がられていた。
 お父さんは優しく大らかで、お母さんは少しだけ厳しいけれど、2人ともとても良い両親だった。
 いつかは私も2人の様に偉大な魔法使いとなって、色々な人の役に立ちたい。そんな夢を持っていた。

 でも、そんな夢はいとも簡単に、儚く散った。

 私が18歳になった日の深夜、町はオーガの軍勢に襲われた。魔物の襲撃を知らせる鐘が鳴ると、両親は急いで家を飛び出して、そして二度と戻ってくることは無かった。
 鐘が鳴って2時間もすると、町中で火の手が上がり、衛兵やお父さん達が押されていることが分かり始めた。

 そんな状況、初めてだった。
 それまで一度も町から火が上がるなんてことは無かったし、いつもお父さんとお母さんが守っていてくれたから。

 燃え盛る町を見て、私は動くことも出来ず、ただ震えた。
 町で3番目の魔法使いなどと言われながら、両親を超える才能を持っているなどと言われながら、一切動くことが出来なかった。
 町の中では火が上がっていたし、悲痛な叫び声が止むことはなかったから。
 そんな光景を初めて見た私は、18歳、大人の仲間入りをしてさえ恐怖に震えるのみだった。

 結果的に、私は何一つすることなく、死んだ。
 家に入って来たオーガに、たった一撃、頭に棍棒を振るわれて。
 自分の脳みそが飛び散る感覚というものを、その時初めて味わった。

 ……。

 気がつくと、頭の中に何やら数字が浮かんでいる。

【1824】

 そして、身体中が痛い。
 何故かとても、痛い。

 体を見てみると、胸に太い槍が刺さっていて、手足が無い。お腹が裂かれている。何か、硬い板の様な物の上に寝かされている。高さは1.5m程もある台だろうか。そして、裸だ。

 あれ? なにこれ?

 痛みを堪えながら周囲を見てみると何やら、粗雑な台所の様なところに見える。

 一体どういうことだろう。
 って言うか、私、これ、死ぬんじゃ無いの?

 周囲を見回しているうちに少しずつ冷静になってきた私は、ふとそんな疑問に辿り着く。
 その途端、言い知れない恐怖が浮かんでくる。

 いや、嫌だ。死にたくない。お父さん、お母さん!

 そんなことを泣き叫んでみるものの、声も出ない。でも、いつの間にか、体が動いているのを感じる。動く部分など、首しかない筈なのに。
 何故か、手足が動くのを感じる。
 見ると、先ほどまでは無かったはずの手足が生えている。私は恐怖で頭がおかしくなってしまったんだろうか。
 そんな疑問を感じたものの、死への恐怖は体を勝手に動かす。
 私はいつの間にか胸に刺さった槍を抜き、台を降りていた。凄い量の血が噴き出るけれど、それもしばらくすると止んでいく。

「お母さん……」

 声が、出る。

 聞いたことがある。
 とある、呪いがあるって。死ななくなる呪い。だけれど死ぬのが怖くなって、幸せになる呪い。
 そして、かかった全ての人が、この世に未練を残して死んでいったという呪い。

 それにかかった人は、頭の中に数字が見えるって。

 ……。

 少し、思い出した。私はオーガに捕まったんだ。オーガに殺されたんだ。
 そしていつの間にか、全く知らない間に、死なない呪いを受けていたんだ……。
 お父さんは? お母さんは? 町の人は?
 色々分からないことはあるけれど、とりあえずここから逃げないといけない。
 このままでは、また殺されてしまう。
 もう、あんな目は嫌だ。

 私は意を決して部屋の扉を開けた所で、再び意識を落とす。また、脳みそが飛び散る感覚を覚えながら。

 人は本当に、あっさりと死ぬんだな。
 そんなことを思ってしまった。


 ――。


 どれくらいの時間が経っただろう。
 全く分からない。もう、痛みも何も無い。
 あの怪物達は、私の体が再生するのをいいことに、切り取っては調理して食べ続けている。一度私が逃げたせいで、胸に槍が突き刺されただけじゃなく、常に見張りが付くようになってしまった。

 私は死ぬまでこのままなんだろうか。
 嫌だ。このままは嫌だ。それに、死にたくない。もう痛みも無いってことは、いつ死んでもおかしくないってことだ。普通なら決して助からないってことだ。
 不死身なのは分かってる。でも、死にそうな感じがする。恐怖は決して衰えない。

【1822】

 私は後どの位このまま苦しめば良いんだろうか。数字も、よく分からない。これは後どの位なんだろう。
 最初はいくつだったっけ。
 いちねんは、確かさんびゃく……日だから、それにごをかけると……。
 分からない。

 当然だ。
 今は頭も開かれているのだから。


「……い」

 い?

「……おい、お前も……」

 何か、少し前までと違う気がする。
 何を言っているのかは分からないけれど、少しだけ安心する気がする。

 「お前も……なんだな? くそ、聞こえ……いか。たまたまだ……助けに来た。ここから運び出すからな」

 徐々に鮮明になる声に、両親と同じと言っても良いほどの安心感を覚える。この男の人の声は、何かとても心地良い。
 そろそろ、疲れて来た所でもある。いや、疲れなんて、そんな感覚は最早ない。そろそろ、私は死んで行くのだろう。この声の主はきっと天使なんだ。
 そんなことを感じながら、遂にはその声に身を任せ、意識を落として行った。


 ――。


 意識を取り戻すと、体は軽かった。
 布に包まれて温かく、近くでは火が焚かれている。少しずつハッキリとしていく意識に、今までのことが蘇る。

 ぐーっ。

 それに恐怖を感じる間も無く、私の生存本能は鐘を鳴らす。

「起きたか。分かるか?」

 火を挟んで反対側に、1人の青年が居た。
 その声は、意識を落とす直前に聞いたものの様で、安心する。
 見た目もとても良い。
 光に反射するその顔は少しだけ彫りが深く、火が反射したブルーグレーの髪の毛は切ない雨の様。
 鍛え上げられているだろうその体は、今まで見た誰よりも逞しく見える。
 私を見つめるその瞳は藍色。優しくも厳しく光を反射している。

「あ、あの。私は……?」

 分かるか? の問いには不適切な回答かもしれないが、何も分からないと言うことは伝わった様で、青年は答える。

 「お前の町は、オーガに滅ぼされた。お前が唯一の生き残りだ。いや、死に残りか……。ただ、町を襲ったオーガは俺が殲滅した。仇はとった」

「……。やっぱり、夢じゃなかったんだ」

「残念だが現実だ。俺はレイン。お前と同じく呪いを受けている。残りは1821日。死ぬまでに世界を巡ろうと旅を始めたところだ」

 青年は突然そんなことを言う。
 私と同じ呪いを受けている?
 しかも、1821日って私と一緒だ。

「あ、あの、私はサニィ。残りは同じ1821日。魔法使い、です」

 私のその言葉に、レインと名乗った青年はハッと目を見開く。そう言うことか、そんな声が聞こえる。
何がそう言うことなのか、全然分からないけれど。
 しかし、次に青年の口から出た言葉は、全く予想だにしてない言葉だった。

「お前に一目惚れをした。俺と一緒に死んでくれ」
「え? あ、はい。…………え?」

 そこには突然の告白に、動揺する間も無く即答してしまっている私がいた。
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