雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第三章:少女の夢の第一歩

第二十二話:悪意無き言葉は鋭く刺さる

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 夜中まで食堂で話していた二人に、もちろん宿などなかった。
 それを見越していたおばちゃんは、その日は当然の様な顔をして部屋を貸してくれた。
 おばちゃんとレインは何やら意気投合した様で、二人とも一切の遠慮ない物言いになっていた。
 サニィは流石に少し引いていたが、それになんとなく寂しいものを感じてしまう。もちろん、そんなことを口には出さないけれど。

 次の日、昨夜は何から何までサービスだったので、流石に朝食代は払わせてくれと言ったものの、おばちゃんは受け取らなかった。
「今までリーゼには助けられたからね。アイツが死んじまったなら、友人としてこれくらいはさせてよ」
 そんなことを言われては、流石にサニィも納得せざるを得なかった。
 二人は、病のことに関しては何も伝えてはいない。

「また来るんだよ。次は払ってもらうけどね!」
「ああ、元気でな」

 実際来られるかは分からないものの、レインはそう伝える。きっと、元気でな、その一言が彼の全てなのだろう。
 そんなことを感じながら、サニィも礼を伝える。

「何から何までありがとうございました。おかげで元気になりました!」

 そんな言葉に満足したのか、おばちゃんはニッコリと笑うと、大きく手を振って見送ってくれた。

「良い人でしたね。偶々入ったお店が偶然にも、あ、……そっか」
「会えないよりは良いだろう。これからも世界をまわれば似た様なことはある。むしろ、なるべく多くの人に会っておきたい」
「……。そうですね。入学出来なかったのも、あの女将さんに会う為だったんですよね」
「そう言うことだ。さて、紙とペンを買いに行こう」

 そうして二人は、また前に進む。
 時間のない道のりを、なるべく有意義に、なるべく色々な体験をしたい。
 それはレインに出会ったことで、サニィ自身も感じ始めていたことだった。
 5年間。正直、まだまだ先は長い。まだ18年しか生きていないんだ。人生は60年。
 でも、油断してたらすぐに過ぎ去ってしまう年月。それが5年。
 1年であれば、やることだけやって直ぐに過ぎ去ってしまうだろう。
 でも、5年間は油断してしまうかもしれない。今は、その位の長い時間に感じる。
 だからこそ、偶然に感謝して、前に進む。
 少しずつでもゆっくりと。
 サニィは改めて決意した。

 私は、5年間で現代の魔法を改革する。
 この、化け物の勇者の側で。

 ――。

 二人は、まず100枚程の紙を注文した。
 サニィは50枚もあれば、と言ったものの、サニィのやる気を見たレインもやる気を出し、勝手に倍の注文をしたのだ。
 それと、羽ペンにインク。
 在庫は無かったものの、二日ほどで届くらしい。
 その間はこの白く美しいサウザンソーサリスを観光しようと言うことになり、改めて二人で街を歩き始めた。

 しばらく街を歩いていると、ふと気がつくことがあった。

「レインさん、あの、尾けられてませんか?」
「今朝からずっとだな。20点」
「え、ええぇぇぇえ……言ってくださいよぉ」
「これも修業だ。相手は分かるか?」
「えーと、3人位? 若い、様な」

 サニィはまだまだ扱い切れていない探知の魔法を使い、追跡者を特定しようとする。
 しかし、先日覚えたばかりの魔法だ。まだまだその精度も低ければ、イメージのロスも大きい。

「惜しいな。4人。若いのは合っている。そしてそれは誰だ?」
「えーと、えーと、えーーーと。……分かりません」

 「まだ難しいか」レインはそう言うと、追跡者の背後へワープした。
 いや、正確には背後に回り込んだだけだが、サニィの探知で把握していなければ、サニィすらもワープだと思ったことだろう。

「答えはこいつらだ」
「離せ!」「くそ! 侵入者め!」「くっ! 殺せ!」

 それは二人が侵入した時に迎え撃ってきたルーカス魔法学校の生徒達だった。
 年齢は皆二人の少し下くらい。教頭は優秀だと言っていたが、流石にレインにとっては赤子も同然だった。魔法を使おうとした瞬間にそれぞれ一瞬だけ揺さぶられ、全てをキャンセルされている。
 イメージが出来なければ魔法は発動しない。レインと比べれば実戦経験に乏しい相手の集中を途切れさせることなど、彼には朝飯前だった。

「えーーと、……誰でしたっけ?」

 しかし、サニィは彼らを誰だか全く覚えていない。
 昨日はそれどころではなく、レインの無茶苦茶な行動に慌てまくっていたのだ。
 しかしレインはそれを分かっていながら彼らを挑発する。

「おい、お前達の大好きな侵入者はお前達のことなど眼中にないってよ」

 そんな言葉に、彼らは口々にショックやら暴言やらを吐く。そのままレインがサニィのせいにして挑発し、それで学生らは激昂する。当然だ。魔法使いのエリートである自分たちが、覚えられていないどころか、眼中にすらないと言われたのだ。
 そんなこんなで、あれよあれよと言う間に勝負ということになっていった。
 勿論のこと、サニィはなんでそんなことになったのか分かっていない。

 かくして、再び二人はルーカス魔法学校の門をくぐることになった。

「さて、負けて吠えづらかくなよ!」「手加減しねえからな! ぶっ殺してやる!」「俺が勝ったら付き合ってもらうからな!」

 4人は口々にサニィを威嚇する。
 そして、その言葉の1つで、サニィはようやく1つの結論に思い至った。昨日も確か殺す宣言をされたんだった。私死なないけど。
 その少しばかりの余裕は、サニィに決して言ってはならないことを言わせてしまった。

「あ、もしかして昨日侵入した時の学生さん達ですか!?」

 その言葉が、彼らの火に更に油を注いだことは、言うまでもなかった。
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