雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第五章:勇者弟子を取る

第三十七話:才ある苦悩と才なき苦悩、様々な立場

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 盗賊になる者は何も才能のない者だけではない。
 例え勇者であっても、かつて仲間だった者に裏切られ、その身を堕とすことがある。
 大盗賊団【炎獄の悪魔】の頭、ジャックもそんな男だった。
 彼は幼少の頃より持っていた勇者の力、炎を纏う力を駆使し、冒険者として活躍した。勇者である彼の活躍はめざましく、すぐにその名を国中に轟かせた。
 ジャックは国からも依頼を受けるようになり、様々な魔物と渡り合った。
 そんなジャックはある依頼で、仲間に裏切られることになる。それはなんてことはない簡単な依頼だと思っていた。
 【ある森の中で生き物の異常行動が見られるので、その原因を調べ対処して欲しい】そんな、よくある依頼。
 その依頼にもいつも通り、何人かの仲間と共に出向いていた。
 原因を調べて行くと、どうやらその原因はある一匹の強大な魔物が現れた為であるということが分かった。
 ジャックが居れば大丈夫。そんなことを言う仲間と共に、彼らは森の奥へと進んで行く。
 彼らが出会ったのは、デーモンだった。

 それはジャック一人では厳しい相手。

 デーモンは一番近くにいた仲間の一人に襲いかかり、それをジャックは止めようとするが、間に合わない。次いで、デーモンは邪魔をしようとしたジャックを攻撃し始める。その連続した攻撃は一分の隙も見えない猛攻だった。
 なんとかそれを押し留め、仲間に連携を促すが、仲間達は全く動かない。
 恐怖で動けないならば動けるようになるまで耐えるしかあるまい。そう判断したジャックは、必死に仲間へ声をかけつつ、デーモンに応戦した。

 仲間が背後から奇襲でもしてくれれば勝ちの目は増える。そう考えて居たのだが、恐怖に狂った仲間達はジャックが思ってもみないことを口にする。

 「ジャック、お前、わざとあいつを見殺しにしただろ……。いつもトロいって言ってたもんな」

 何を言っているのか、全く理解が出来なかった。完全に、間に合わなかっただけだ。
 仲間を見殺しになんかするわけがない。確かにあいつはトロい奴ではあったが、大切な仲間であることには変わりない。いつもムードを盛り上げてくれたじゃないか。
 「トロいと言うのならば今回助けられなかった俺の方だ。だから早くデーモンに攻撃してくれ!」
 そう懇願するが、彼らはジャックに軽蔑の眼差しを向けると、そのまま森を出て行った。
 ジャックは絶望に暮れ、そこを墓場に選ぼうとするが、生存本能はそれを許さなかった。
 彼はその生存本能に抗えず、懇親の力を以てデーモンを倒してしまうと、一人仲間を葬い、町へと戻った。
 町に戻ると、仲間だった連中は彼にこう告げる。

 「仲間を見殺しにした癖に、よく戻ってこれたな。見る限り大した怪我もしてないしハナから一人で倒せるんじゃないか。苦戦してたのもやっぱり演技かよ」

 その言葉を聞いた後のことは、よく覚えてはいない。
 ジャックはいつの間にか町の警官隊に追いかけられ、一人デーモンのいた森の中に居た。
 警官隊に追いかけられていたと言うことは、そういうことなのだろう。
 それを理解したジャックは、人を信じることをやめた。

 ――。

 いつしか盗賊団の頭となっていた男はその日、圧倒的な暴力の前に倒れることになる。

 どれだけ逆立ちをしても勝てる訳がない。
 何もかもが違う。デーモンを一人で倒した実績がある?
 それならば勇者としても現代では良い線を行っている。しかし、そんな実績がなんの役にも立たない。
 俺が一人の人間であるならば目の前の男は世界。それ程にレベルが違う。
 あらゆる攻撃は空を斬り、肉体を発火させたところで焼け石に水。それは一瞬でかき消される。
 思いうる全ての手段を試してみるが、何の効果も見込めない。
 相手が一人の人間だとすら認めたくはない程の圧倒的な力。
 もしかしたら、話に聞く魔王というものだろうか。しかし、相手は襲った村で逃げられた女を連れている。
 自分は熟練の冒険者だった。相手がどれだけ手練でも、準備さえしていれば掠り傷程度なら負わせられる自信があった。ましてここは盗賊団のアジト、完全なるホームだ。
 全身全霊で目の前の暴力に抗うが、相手は掠り傷どころか汗の一つもかいていない。呼吸の一つも乱していない。まるで今にも眠りそうな程に穏やかな表情をしている。
 いや、これは穏やかな顔などではない。自分の背景すらも全て見透かされたような、それを許すとでも言うような、ある種の慈愛に満ちた表情ともとれるのかもしれない。
 結局、相手の攻撃などは目にも止まらず、気づけば目の前に漆黒の刃が突き出されていた。

 きっとこれは、罰なのだろう。
 仲間の全てを殺した俺への、世界が与える罰なのだろう。
 いや、殺したのは仲間だけではない。
 気付けばどれだけの悪行を積んできたか、思い出すことすらままならない。
 …………。
 俺を殺すのがこの男で良かった。
 これで……やっと、裁かれる。

 目の前の男には認められたような気がした。あの時も、今のように俺は全力だったと。
 ジャックは最期に仲間だった者達の顔を思い浮かべると、その意識を永久に闇へと沈みこめた。

 ――。

 「意外と強い奴だったな。デーモンよりも大分強かった。そしてこいつは、裁かれることを望んでいた」
 「隙が見えてしまうってのも難儀なものですね。どんな苦悩を持っていても盗賊は殺さなければならない。なんか悲しいルールな気もします」

 レインとサニィは死にゆく男を前に少しばかりの悲しみを覚える。きっとこの男は壮絶な過去を乗り越えてきたのだろう。
 しかし、少なくとも一つの村を壊滅させた大悪党。
 この世界に奴隷の概念は無い。犯罪者であっても、奴隷として人権を無視した酷使をする位なら素直に殺してやる。それが人権を守ると言うこと。
 少なくとも、この世界ではそうなっている。
 魔物の一部が明確に殆どの人間よりも強い以上、それらに攻め入られた時に犯罪者が逃げ出せば寝首をかかれる。そういう打算もあるが……。

 しかし、助けられた者達は笑顔だった。
 盗賊に連れ去られた女子供。なんとか間に合っていた彼女達はレインとサニィの活躍に大いに喜び、口々に礼を言った。
 盗賊団の頭であるジャックは決して女子供に手を出させることはしなかったが、男連中は皆殺しにした。
 その恨みをはらしてくれた2人にはどれだけ礼を言っても足りない。そんな風に。

 「しかし、強い弱いと言うのもやはり視点次第だな」
 「そうですね。今回に限るとすれば一番強かったのはアリスさんでしょうか」

 アリスは、レインとサニィに出会ってから、二日間、最初の気絶を除けば一睡もせず、食事も一切取らずに彼らを助け出そうとしていた。
 恐らくその前からだったのだろう。そうなると合計三日半、水だけはレインが押さえつけ、サニィが無理やり魔法で飲ませたが、それすらも拒否しようとしていた。
 彼女は二人に頼りはしたが、一人でずっと戦っていたのだ。たった一言の弱音も吐かずに。

 「ママ!!」
 「エリー!!」

 互いに飛びつき抱き合う親子を眺め、二人はようやく安堵の息を漏らした。
 結果的には彼女を救えた様だ。
 アリスは娘エリーの父親を4年前に亡くしており、5歳になるエリーをずっと女手一つで育てていた。
 エリーは父親の浮気で出来た子ども。生まれてきた子どもに罪はないとは言え、村人のアリスに対する当たりは良くなかった。村人たちもエリー自身には感づかれない様にしていた様だが、子どもは鋭い。
 母親以外にはあまり懐かない子どもだった。
 そしてエリーにはもちろん、父親が誰かすら知らされていない。

 ――。

 今回、村が壊滅したことでアリスとエリーを除く村人達は再び村へと戻り、再興に励むとのことだったが、二人は少しの間レインとサニィに付いてくることになった。
 助け出したとは言え、アリスには素直に感謝し切れない村人達も多かったのと、彼女には一つのとある理由があると言う。
 それを語ることは無かったが、レイン達はアリス達の護衛を引き受けた。

 次に目指すのは適当な港町。
 エリーは基本的にレインがおんぶすることになったが、移動速度は少し前の様に1日40km程に落ちる。
 元々レイン自身も魔王を倒すのを目的にした理由は世界を救う為。サニィ自身も人を救いたいと思っていた。
 その位のロスなど、人を救うという行為に比べれば大したことはない。
 二人の意見は、口に出すまでもなく自然と一致していた。

 残り【1796→1795日】
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