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第六章:青と橙の砂漠を旅する
第四十六話:火事場の馬鹿力
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砂漠を歩き始めて3日。全面砂で歩きにくい砂漠はサニィの体力の関係的にも、一日の移動距離は60km程度に落ちている。
サニィの身体強化も彼女のイメージ次第。疲れが溜まると元気な自分をイメージすることは難しい。
とは言え砂漠で一日60kmを歩くと言うのは完全に人外の領域にあるのだが、暑さで弛れている以外は何も問題がないレインが隣にいるのでそれに気づいてはいない。
現在の二人はこんな感じだ。
「レインさん、何か面白いこと言ってくれませんか?」
「そうだな……。もうすぐデスワームとか言うミミズの生息地帯だそうだ」
「何が面白いんですか?」
「砂漠で必要なものは?」
「私です」
「……そうだな」
「そこで納得しちゃうんですか……。み、みずって言って欲しかったんじゃ」
「言ってくれなかったからな……」
「暑いですからね……。ところでオアシスまではどの位ですか?」
「あと800km程はあるはずだ」
「……」
二人の会話も不毛なものになっている。
現在の速度で進めばオアシスまで2週間。体を濡らしてみたり周囲の気温を下げようとしてみたりするものの、それが思った以上に上手くいかない。
ひたすらに暑い砂漠地帯は思った以上に大変だった。
「オアシスまであと2週間ですか。なんとかいい方法は無いものですかね」
「俺がお前をおぶって駆け抜けるってのが一番良い方法じゃないかと思うな」
「えー……と、今は汗臭いので嫌です」
「なら頑張るしかないな……」
「……今日は頑張りますけど明日はお願いしてもいいですか?」
「洗濯もしないといけないので」サニィのそんな言葉に、レインは気にしなくても良いのにと言おうとして止めた。流石にここでここで無意味にサニィを怒らせても良い結果は得られない。人外のレインとは言えその程度は理解できる。
明日は一日レインがおぶって素早く移動する代わりにサニィは魔法のことだけを考えれば良い。そんな会話をしながらだらだらと進んでいると、砂漠の一部がもこもこと膨れている。
「あれがデスワームかな。どっちが戦う?」
「レインさんやっちゃって良いですよ。流石にちょっと暑すぎて」
「よし、強さそのものはデーモン以下らしいが猛毒を持っているらしい」
「え、今の私にそんなの相手にさせようとしてたんですか!?」
そんなツッコミを入れると同時、もこもこは二人に向かって迫ってきた。
砂漠では目印が無いので対象の大きさが分かりづらい。
近づいてくるほどにそのもこもこは大きさを増していった。
「うお、でかいな」
「ひぃっ! あ、ああああぁぁぁあいやだああああ!!」
地面から顔を覗かせたソレは、8m程も胴体を持ち上げる。幅は2m程。全長は想像もつかない何本もの脚を生やした巨大なムカデの様なミミズのような虫。口は巨大な二本の顎を蓄え、二つの複眼はどこを向いているのか分からない。
サニィはいつも以上に発狂し、後ろを向いて逃げ出した。
当然だ。それは気持ち悪いと言う言葉だけで済まない。その威圧感はドラゴンの様にはないものの、何を考えているのか全く分からない表情は人の恐怖感を十二分に煽ってくる。
尤も、デスワームは虫ではなく魔物なのだが、そんなことは最早サニィには何の関係も無かった。
それはサニィの方に毒液を吹き出すが、サニィはそれを空気の壁で軽々と防ぐ。
しかし、サニィはそんなことにも気づかず逃げ続ける。
その毒の噴射さえ防げるならデスワーム等簡単に倒せるのだが……。
サニィが200mほど逃げた頃、その巨体は首を切り落とされ地に伏した。
「おーいサニィー! 倒したぞー!」
遠くからそんな叫び声が聞こえる、気づけばその声は遥か後ろだ。
その間たったの15秒程。砂漠でいてオリンピック選手も真っ青な速度で走り抜けたサニィはそれに気づくと、恐る恐る後ろを振り返る。
あれ? 自分はいつの間にこんなに移動したんだ?
そうは思ったものの、パニックになっていて何も気づいてはいなかった。
恐怖の対象から逃げる。ただそれだけの為に全てのイメージを費やした結果がそれだったのだが、レインと行動し始めてから常に魔法を使い続ける癖を付けていたため、サニィ自身が魔法で身体強化をしたこと自体に気づいていなかったというわけだ。
しかしその死体がまだ200m先に転がっている。これでは戻ることができない。
「レインさーん! それ隠してくださいー!」
その声でレインは砂を踏みしめ爆発させると、デスワームの死骸を覆い隠した。
まだ若干の恐怖心が残るものの、レインの所へ戻らないと怖い。
そんな風に覚悟とも恐怖心とも言える何かを噛み締めて、サニィはレインの下へと歩き出した。
合流後暫く歩くと、またもこもこが見える。
「ひぃっ!」
サニィはそう叫ぶと、遠くに見えるデスワームに攻撃をしかけた。
砂漠の砂を巨大な圧力で踏みしめてデスワームを圧殺しようとしたのだ。
近づかれたら死ぬ。逃げるしかない。
そんな危機感から、見える前に殺そうという本能が働いたのだろう。
結果的に、もこもこは消滅した。その場に染みを残して。
「……死んだな」
「ふう、良かったです。次もこれでいきますね」
サニィは自分がデーモンには及ばないものの、オーガで言えば60匹程の強さがあるかなり強い魔物を瞬殺していることにすら気づかず旅を続ける。
尤も、今それをレインが伝えたところで何も理解ができないだろう。
この地帯を抜けてから伝えてやろう。そんなことを考えながら。
サニィの身体強化も彼女のイメージ次第。疲れが溜まると元気な自分をイメージすることは難しい。
とは言え砂漠で一日60kmを歩くと言うのは完全に人外の領域にあるのだが、暑さで弛れている以外は何も問題がないレインが隣にいるのでそれに気づいてはいない。
現在の二人はこんな感じだ。
「レインさん、何か面白いこと言ってくれませんか?」
「そうだな……。もうすぐデスワームとか言うミミズの生息地帯だそうだ」
「何が面白いんですか?」
「砂漠で必要なものは?」
「私です」
「……そうだな」
「そこで納得しちゃうんですか……。み、みずって言って欲しかったんじゃ」
「言ってくれなかったからな……」
「暑いですからね……。ところでオアシスまではどの位ですか?」
「あと800km程はあるはずだ」
「……」
二人の会話も不毛なものになっている。
現在の速度で進めばオアシスまで2週間。体を濡らしてみたり周囲の気温を下げようとしてみたりするものの、それが思った以上に上手くいかない。
ひたすらに暑い砂漠地帯は思った以上に大変だった。
「オアシスまであと2週間ですか。なんとかいい方法は無いものですかね」
「俺がお前をおぶって駆け抜けるってのが一番良い方法じゃないかと思うな」
「えー……と、今は汗臭いので嫌です」
「なら頑張るしかないな……」
「……今日は頑張りますけど明日はお願いしてもいいですか?」
「洗濯もしないといけないので」サニィのそんな言葉に、レインは気にしなくても良いのにと言おうとして止めた。流石にここでここで無意味にサニィを怒らせても良い結果は得られない。人外のレインとは言えその程度は理解できる。
明日は一日レインがおぶって素早く移動する代わりにサニィは魔法のことだけを考えれば良い。そんな会話をしながらだらだらと進んでいると、砂漠の一部がもこもこと膨れている。
「あれがデスワームかな。どっちが戦う?」
「レインさんやっちゃって良いですよ。流石にちょっと暑すぎて」
「よし、強さそのものはデーモン以下らしいが猛毒を持っているらしい」
「え、今の私にそんなの相手にさせようとしてたんですか!?」
そんなツッコミを入れると同時、もこもこは二人に向かって迫ってきた。
砂漠では目印が無いので対象の大きさが分かりづらい。
近づいてくるほどにそのもこもこは大きさを増していった。
「うお、でかいな」
「ひぃっ! あ、ああああぁぁぁあいやだああああ!!」
地面から顔を覗かせたソレは、8m程も胴体を持ち上げる。幅は2m程。全長は想像もつかない何本もの脚を生やした巨大なムカデの様なミミズのような虫。口は巨大な二本の顎を蓄え、二つの複眼はどこを向いているのか分からない。
サニィはいつも以上に発狂し、後ろを向いて逃げ出した。
当然だ。それは気持ち悪いと言う言葉だけで済まない。その威圧感はドラゴンの様にはないものの、何を考えているのか全く分からない表情は人の恐怖感を十二分に煽ってくる。
尤も、デスワームは虫ではなく魔物なのだが、そんなことは最早サニィには何の関係も無かった。
それはサニィの方に毒液を吹き出すが、サニィはそれを空気の壁で軽々と防ぐ。
しかし、サニィはそんなことにも気づかず逃げ続ける。
その毒の噴射さえ防げるならデスワーム等簡単に倒せるのだが……。
サニィが200mほど逃げた頃、その巨体は首を切り落とされ地に伏した。
「おーいサニィー! 倒したぞー!」
遠くからそんな叫び声が聞こえる、気づけばその声は遥か後ろだ。
その間たったの15秒程。砂漠でいてオリンピック選手も真っ青な速度で走り抜けたサニィはそれに気づくと、恐る恐る後ろを振り返る。
あれ? 自分はいつの間にこんなに移動したんだ?
そうは思ったものの、パニックになっていて何も気づいてはいなかった。
恐怖の対象から逃げる。ただそれだけの為に全てのイメージを費やした結果がそれだったのだが、レインと行動し始めてから常に魔法を使い続ける癖を付けていたため、サニィ自身が魔法で身体強化をしたこと自体に気づいていなかったというわけだ。
しかしその死体がまだ200m先に転がっている。これでは戻ることができない。
「レインさーん! それ隠してくださいー!」
その声でレインは砂を踏みしめ爆発させると、デスワームの死骸を覆い隠した。
まだ若干の恐怖心が残るものの、レインの所へ戻らないと怖い。
そんな風に覚悟とも恐怖心とも言える何かを噛み締めて、サニィはレインの下へと歩き出した。
合流後暫く歩くと、またもこもこが見える。
「ひぃっ!」
サニィはそう叫ぶと、遠くに見えるデスワームに攻撃をしかけた。
砂漠の砂を巨大な圧力で踏みしめてデスワームを圧殺しようとしたのだ。
近づかれたら死ぬ。逃げるしかない。
そんな危機感から、見える前に殺そうという本能が働いたのだろう。
結果的に、もこもこは消滅した。その場に染みを残して。
「……死んだな」
「ふう、良かったです。次もこれでいきますね」
サニィは自分がデーモンには及ばないものの、オーガで言えば60匹程の強さがあるかなり強い魔物を瞬殺していることにすら気づかず旅を続ける。
尤も、今それをレインが伝えたところで何も理解ができないだろう。
この地帯を抜けてから伝えてやろう。そんなことを考えながら。
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