雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第六章:青と橙の砂漠を旅する

第四十九話:日の出る時

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 デザートオークがオアシスを攻める手段はシンプルだった。
 オアシスの入り口の砂丘に陣取り、膂力に任せた強弓で掃射した後、剣を持ってデザートウルフと共に攻め入る。非常にシンプルな作戦ではあるが、その熟練された戦闘技術に裏打ちされた奇襲戦法は驚異的なものだった。例え攻め入るのがバレていたとしても、その素早い戦闘は即席の人間どもの連携などはものともしない。……はずであった。

 その日、彼らは丘の上陣取り、自らの死に場所を求めるが如く閧の声を上げようとした。勿論勝つつもりではあったが、相手の数を考えれば簡単にはいかない。
 しかし、魔物である彼らは人間に対して攻め入らなければならなかった。それが魔物である彼らの本能に刻まれたルールだったからだ。
 彼らは覚悟を決めて閧の声を上げようとした瞬間、絶句する。
 目の前一面が、自分達の周囲が、途端に木々に覆われていたのだ。
あり得ない。
 オーク達は魔法使いとは戦い慣れている。砂漠に入る冒険者は水の確保の為に、基本的にみな一人以上の魔法使いを連れている。彼らは特に奇襲に弱いし、魔法自体も発動さえすれば驚異ではあるが、精々一度に仕留められるのは二、三人程度。
 強い者でも数で押せば簡単に倒せる生き物なはず。頭に一発でも入れば大抵の者は焦って魔法の強度も下がれば、発動も遅くなる。
 勇敢な一人が囮になれば更に倒すのは簡単だ。
 そんな風に、思っていた。

 その日の丘の下に立っていたのは1人の少女だった。自分の足下に杖を突き立て、自分達を見ている。一人で前線に立っている理由か分からないが、明らかに魔法使いだ。
 後方にはやはり素人同然に見えるオアシスの住人だろう連中やまとまりのない冒険者、そして一人の化け物が居たのが見えた。
 その化け物に恐れたせいで少女の幻術にかかったのだろうか。
 彼らはそんな風に考えた。

 当然だ。周囲の植物達は完全にオアシスへの視線を遮り、自分達に向かって蔦を伸ばしてくる。気付けば足下にも強靭な根っこが絡まり、身動きを制限されている。
 周囲を見渡せば、仲間全員が同じ目にあっていた。視線も届かない状態で全員を一斉に拘束する魔法など存在する訳がない。
 これは背後に控えた化け物のプレッシャーのせいでかかったしまった幻術だ。動けないイメージを刷り込まれてしまっただけだ。
 意識を目の前のオアシスを攻めることのみに集中すれば必ずこの幻術からは抜け出せる。

 彼はそんなことを思って目を閉じると、サニィが作った蔦の槍に胸を貫かれ、次々に息絶えていった。

 ――。

 オアシスの住人、迎撃に出向いた冒険者達は皆目の前の光景に開いた口が塞がらなかった。
 その中にはオークに家族を殺され復讐を誓っていたものの、レインのあまりの人外の膂力に圧倒され渋々引き下がっていた者も居た。
 オークを倒す為なら命すら惜しくない。そうは思っていたものの……。

 「ふう、ドラゴンやデスワームに比べたら弱い敵で助かりました」

 その少女はようやく一息つくと呟く。

 それを聞いた人々の顔は驚愕から恐怖の表情へと色を変えた。
 ドラゴンやデスワームと言えば、ここにいる人間の殆どにとっては空想上の存在にも等しい。
 人間一人ではとうやっても絶対に勝てない化け物。そんなイメージの存在。
 デスワームは噂によればデーモン並みなので優秀な勇者であれば倒せるかもしれないが……。
 もちろん、特に魔法使いは不利だ。冷静さを少しでも欠いてしまえば途端にただの人間に毛が生えた程度になってしまう。
 彼女はそんな化け者達とオークの群れを同じ列で考えている。
 一体どんな経験をしていればそんなことを考えられるのか、人々には分からなかった。
 もちろん、自分の魔法をよく知っている魔法使いの面々はサニィを同じ人間だと思うことなどできるわけがない。彼らは戦士達が戦っている間に、一匹ずつ確実に倒していこうと思っていたのだ。

 そんな恐怖と驚愕の入り混じった人々の様子にサニィが気づくと、すかさずレインが前に出る。

 「俺は狛の村の勇者レインだ。彼女は俺のパートナー。あの程度は造作もない」

 狛の村と言えば、大陸の反対に近い位置とはいえ流石に同じ国の住人、知らないことは無かった。
 砂漠よりも過酷な環境に住む人々は全員人外。その土地はデーモンを倒せなければ生き抜くことすら出来ない。
 そんな土地に平然と住まう人ならば、確かにあのくらいは出来るのかもしれない。
 確かにレインと名乗る男が軽く振るった拳が造ったクレーターは、それだけでオークを殲滅できるのではと思うほどだった。
 有り得ない規模の魔法を使うこともおかしくはないのかもしれない。

 なるほど。彼女も人ではないのかもしれない。
 人々は、そう納得した。

 ――。

 「あ、あの。何かおかしかったですか?」

 納得はしたものの、未だ呆然としている人々を置いて宿へ戻る道中、サニィはレインにそんなことを訪ねる。人々の驚愕の視線はともかく、そこに恐怖の視線が混ざっていることがとても気になったのだ。
 自分の魔法はレインの力に比べたらまだまだ未熟。
 今回のオークも、なんとか全てを仕留められた。そんな風に思っていた。

 「いいや、何もおかしくはないさ。お前が見た目に反して強かったから驚いただけだろう」
 「見た目に反してですか……」
 「ああ、お前はちょっと間抜けな見た目をしているからな」
 「もう、真面目に話してるのに!」

 流石に、レインが気を使ってそんなことを言ったのは分かった。
 それはレインにしてな珍しく気を使った一言だ。
 サニィは何故そうしたのか分からなかったが、その理由は簡単だった。
 レインすら、そのサニィの魔法の規模に驚いていたのだ。
 そして同時に確信を得たことがあった。
 とは言え、それをいつ伝えるべきかは迷っていたのだけれど。
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