雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第六章:青と橙の砂漠を旅する

第四十八話:過去と砂漠の巨大魔法

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 オアシスに入って次の日、何やら宿の外が騒がしい。
 二人はちょうど同じタイミングで部屋を出ると、こちらに気づいた宿屋の主人が声を上げる。

 「お前達! ここを早く出ろ! 200匹規模のオーク盗賊団が攻めて来たぞ!」

 砂漠に住む魔物は少なくない。
 資源は乏しいものの、それは逆に言えば人が入りづらい土地であると言うことでもある。
 そういう土地には魔物が潜むことが多いが、この砂漠にはその中でも特に目立つ魔物が2種類居た。
 一つはデスワーム。人が入る価値すら無い土地に住むこの魔物は非常に強力な虫型の巨大な魔物だが、もう一つの魔物は知性を持つ。
 それがデザートオークだ。筋骨隆々、褐色の肌を持ち2m程の体躯を持つ。集落を形成し、下顎に巨大な牙を持ち、潰れた顔面のこの魔物は人に近い生活を営んでいる。ただ、魔物である以上人を絶対の敵と見なしており、積極的に砂漠を通る人を襲う凶暴な魔物だ。一般的な成人男性よりは当然の如く強く、魔法を使うことはないが戦士としては死を恐れない。砂漠に適応しているので貧困にも暑さにも強く、初めての砂漠で疲弊している者が運悪く出会ってしまえばまず命はない。

 「あんたはどうするんだ?」レインは主人に問う。
 「俺は戦う。この宿が俺の全てだ」主人はレインの問いに、カウンターから剣を取り出しながら答える。
 「こんな日がいつか来るとは思っていた」そんなことを言いながら、次いで盾も取り出した。
 「それなら手伝いましょうレインさん」
 サニィは自分の町を思い出したのだろう。そう言うと素早く部屋に戻って杖を持ってくる。
 「分かった。ただ、手伝いはしない。今回はお前が一人でやれ」

 そうして、サニィは初めて一人で魔物と戦うことになった。
 レインは一人でやれと言うとすぐに宿を出ていく。
 その後それを追いかけて行くと、既にオークが向かっている入口で戦闘準備していたオアシスの住人たちを全て下がらせていた。
 サニィはその様子を見てはいなかったが、入口の前に出来ていたクレーターを見る限り、とても簡単な理由だったのだろうと想像が付く。 

 レインが一人でやれと言った理由は簡単だ。
 今回はサニィの町の襲撃の再現。襲われる町を自分の手で守る力があることをサニィが自分自身に示すことが目的だ。
 もちろんレインがいる以上、オアシスの安全は保証されている。
 しかし、サニィが一人だけで何かを守ったことは今のところなかった。
 現在のサニィを見る限り、例えデーモンの群れが襲撃してきたとてしばらくは一人で持ちこたえることが出来る。それを分かっているレインは、サニィに実戦をさせることにした。

 「レインさん。出来るでしょうか」

 過去のトラウマは簡単に消えるわけがない。
 何も出来ずにたった一撃で殺された記憶をサニィが襲ってしまう。しかし、そんな不安げな様子のサニィを見ても、レインの様子はいつも通りだった。

 「問題ない。今回は蔦の魔法だけで良い。たかがオーク200匹だ。お前の町よりも簡単だ」

 オーガは知性が低い。人間の子どもと等しい程度の知性だ。しかしオークは知性が高い。膂力で言えばオーガの方が遥かに上だが、その知性と死を恐れない戦闘センスを合わせれば、オーガ二匹とオーク三匹が大体同程度だと言える。
 サニィの町の襲撃はオーガ150匹程度だった。
 そう考えれば今回の襲撃はそれと同等以上の規模だと言える。決して簡単だと言うことなどなかった。
 尤もサニィの町は2000人以下、オアシスの人口は8000人程度なので二人が守らなくてもオアシスが壊滅するということはないかもしれない。

 そんなレインの嘘とレインが控えているという事実、そしてオアシスの人口を考えると、オークの群れと言えど、サニィでも一人で相手にするのがとても簡単なことだと思えた。

 「やってみます」
 「ああ、いざという時は俺がいる」
 「はい。行こう、フラワー2号」

 相変わらずダサい名前の杖を地面に突き刺し、サニィはイメージした。
 最も得意な開花の魔法。今回はそれだけでいい。
 その言葉を、信じてみる。

 「200人のオークは弓と剣を持って、あれは、デザートウルフかな? それに乗ってるのが三分の一、残りがラクダと徒歩か……それなら」

 探知の魔法で攻めてくるオーク達の様子を眺めてみる。
 目の前には砂丘が有り、まだ肉眼ではそれを確認出来ない。
 しかし、相手の規模は魔法で把握出来た。見たところ、これなら見える前にいけそうだ。そんな風に見える。

 「よし、それじゃ、森を作りますね」

 そんなことを言うサニィに、オアシスの住人達は一同にクエスチョンマークを浮かべる。
 何を言っているのか全く分からない。ここは砂漠だし、そもそも森を作る魔法等存在しない。
 そんな容量のマナタンクを持っている者が存在しなければ、そんな規模の魔法を行使できる蛇口を持っている者も存在しない。
 何よりここの住人の多くは森を知らない。

 そして目の前の砂丘から、オークの集団の先頭が遂に顔を覗かせた。

 しかし、次の瞬間目の前には森が出現する。
 文字通りの森だ。
 視界全てを埋め尽くす様な緑色。
 それは丘を全てを覆っている。もちろん一時的なもののつもりなので砂丘はそのまま、それを木の根で固定しただけの森だ。
 サニィが生やした森の中の木々は全て彼女の手足も同じ。
 把握した全てのオークをその手足で絡め取り、一瞬にして全てのオークを無力化した。

 「終わりました」

 砂漠の皆が唖然とする中、そんなことを言うサニィの表情は、とても有り得ない規模の魔法を使った後とは思えない程に澄んでいた。
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