63 / 592
第七章:グレーズ王国の魔物事情と
第六十三話:魔法使いではない女
しおりを挟む
サニィは世界を満たすマナを直接感じ取っている。
それは魔法の使い方でも同じだった。
サニィは死の山でこう言った。
「普段私たちが使っているマナが正のマナと言うのなら、この山には負のマナが充満してる感じがします。ここにも少ないですが正のマナはあるので魔法は使えますけど」
これは言い換えればマナタンクからマナを消費していないと言うこと。
サニィ本人は一切意識をしていなかったが、一切意識をしていなかったが故に出てしまった言葉だ。
レインがそこをつついて、自分の体内を探ってみると、やはりマナタンクそのものが存在していないのかもしれないと言うことが分かった。
「そんなことないですよー」などと言いながらみるみる青く変化していく顔色は面白かったが、やはり彼女は少しばかりのショックを受けている様だった。
自分の体内のマナタンクからマナを絞り出して魔法を使うのが魔法使いだ。
それはそもそも、それまでの魔法の概念を根底から覆す存在。
言い換えれば、サニィは魔法使いではない。
「でも、大丈夫です。これって考え方によっては、私次第で――」
「ああ、お前の使う魔法の規模に上限は無いのかもしれない」
「そういうことなら、傷つく必要は、ないですもんね」
サニィは魔法使いである両親に憧れていた。
自分自身も魔法使いであると言うことに誇りを持っていた。
突然それよりも上位の存在ではないかと言われて、それは良かったと納得できるものではない。
いくらレインが人外の人外で、それを目指して訓練をしていたとしても、サニィの心の本質は魔法使いだ。
死の山でマナのもう一つの顔を感じることで普段感じていたマナまでをも意識できるようになったと言うことは、今までのサニィの中の常識を覆す結果へとつながった。
結果的に、自分の可能性が広がったことに対する喜びと自分が魔法使いではないという悲しみが彼女を混乱させた。
それを見たレインは久しぶりの邪悪な微笑みを浮かべると、こう言った。
「良し、お前の魔法はこれより魔法ではない。お前のそれは奇跡と呼ぶ。そしてお前は魔法使いではなく聖女だ」
少しは落ち込んでいるサニィに何を言うかと思えばこれだ。
「ええええ!? 全然良しじゃないですよ!!?」
一体何が良しなのだろう。
というより、何を言っているのだろう。
「良いだろう。魔王殺しの勇者と並ぶならただの魔法使いでは物足りないと思わないか?」
「えー……。砂漠からの発想ですか? 自分でそう名乗るとか有り得ないんですけど」
「どうせ都に帰る頃には噂は広がってるさ」
「…………え?」
「奇跡を起こす美少女が居るってな」
「……」
――。
グレーズ王国の首都、王都マダーグレーズはある話題で賑わっていた。
2ヶ月ほど前、砂漠でオークの群れをたった一撃で葬った有り得ない魔法を使う聖女様が現れたらしい。
その美少女は即座に姿を消しており、同伴していた青年も悪魔の如き迫力を持っていたと言う。
その二人は恐らく人間ではない。勇者や魔法使いの守備隊や冒険者達が、その魔法も、兵を下がらせた拳の一撃も人間には不可能な威力だと証言したらしい。
彼女達は突然現れ、強敵である魔物を倒してオアシスを守ると消え去った。
よってその二人は聖人、または神の使いである天使か何かだろう。
そうでないならあの青年を見る限り、悪魔のいたずらかもしれない。
ともかく金髪碧眼の超絶美少女は聖女か天使と呼びたい。いっそ女神でも良い。
と言うよりその蔦に縛られたい。
そんな噂だった。
「……」
サニィはその思わぬ噂の広がり方に思わず赤面してしまう。レインは呆れ顔だ。
噂は噂を呼ぶ。伝言ゲームはなかなか正確には伝わらない。都市を超えれば尚更だ。
ディエゴはそれを聞くと、レインとサニィを見てにやりとするとぽんっと肩を叩く。
「二人共、その、……あの力なら仕方ない」
「おいマイケル、何も思いついていないなら何も言うな」
「あの、…………呼びたいとかってなんですかね……と言うか、っ!?」
サニィが反応した周囲を見ると、露店には銅板に描かれたイコンが売っていた。神を表す偶像化された絵画。
この国には神を敬う概念はあるものの、そこまで宗教に厳しいという事はない。魔王を倒すのはいつでも勇者だからだ。
その為神の像はそれぞれ思い思いに描かれ、男女すらも曖昧。神に共通する点としては後ろに光輪が描かれていることのみ。
そのイコンに描かれた神は女神。金髪碧眼で白樺にルビーの杖を持っていた。そして値札には『砂漠に現れた女神像』と書いてある。それが、何枚も。
レイン達が火山地帯を含む遠征に出ていた期間は2ヶ月強。
最初に王都にたどり着くまでに3週間程かかったとは言え、その噂の広がり方は異常だった。
「しかし確かに、歴史に名を残すのはレインよりもサニィ君の方が上になりそうだ。ハッハッハ」
そう笑うディエゴに真っ赤なサニィは恨みがましい目を向けるものの、「聖女様にそっくり!」と駆け寄ってきた民衆に囲まれ再び動けなくなるのだった。
それは魔法の使い方でも同じだった。
サニィは死の山でこう言った。
「普段私たちが使っているマナが正のマナと言うのなら、この山には負のマナが充満してる感じがします。ここにも少ないですが正のマナはあるので魔法は使えますけど」
これは言い換えればマナタンクからマナを消費していないと言うこと。
サニィ本人は一切意識をしていなかったが、一切意識をしていなかったが故に出てしまった言葉だ。
レインがそこをつついて、自分の体内を探ってみると、やはりマナタンクそのものが存在していないのかもしれないと言うことが分かった。
「そんなことないですよー」などと言いながらみるみる青く変化していく顔色は面白かったが、やはり彼女は少しばかりのショックを受けている様だった。
自分の体内のマナタンクからマナを絞り出して魔法を使うのが魔法使いだ。
それはそもそも、それまでの魔法の概念を根底から覆す存在。
言い換えれば、サニィは魔法使いではない。
「でも、大丈夫です。これって考え方によっては、私次第で――」
「ああ、お前の使う魔法の規模に上限は無いのかもしれない」
「そういうことなら、傷つく必要は、ないですもんね」
サニィは魔法使いである両親に憧れていた。
自分自身も魔法使いであると言うことに誇りを持っていた。
突然それよりも上位の存在ではないかと言われて、それは良かったと納得できるものではない。
いくらレインが人外の人外で、それを目指して訓練をしていたとしても、サニィの心の本質は魔法使いだ。
死の山でマナのもう一つの顔を感じることで普段感じていたマナまでをも意識できるようになったと言うことは、今までのサニィの中の常識を覆す結果へとつながった。
結果的に、自分の可能性が広がったことに対する喜びと自分が魔法使いではないという悲しみが彼女を混乱させた。
それを見たレインは久しぶりの邪悪な微笑みを浮かべると、こう言った。
「良し、お前の魔法はこれより魔法ではない。お前のそれは奇跡と呼ぶ。そしてお前は魔法使いではなく聖女だ」
少しは落ち込んでいるサニィに何を言うかと思えばこれだ。
「ええええ!? 全然良しじゃないですよ!!?」
一体何が良しなのだろう。
というより、何を言っているのだろう。
「良いだろう。魔王殺しの勇者と並ぶならただの魔法使いでは物足りないと思わないか?」
「えー……。砂漠からの発想ですか? 自分でそう名乗るとか有り得ないんですけど」
「どうせ都に帰る頃には噂は広がってるさ」
「…………え?」
「奇跡を起こす美少女が居るってな」
「……」
――。
グレーズ王国の首都、王都マダーグレーズはある話題で賑わっていた。
2ヶ月ほど前、砂漠でオークの群れをたった一撃で葬った有り得ない魔法を使う聖女様が現れたらしい。
その美少女は即座に姿を消しており、同伴していた青年も悪魔の如き迫力を持っていたと言う。
その二人は恐らく人間ではない。勇者や魔法使いの守備隊や冒険者達が、その魔法も、兵を下がらせた拳の一撃も人間には不可能な威力だと証言したらしい。
彼女達は突然現れ、強敵である魔物を倒してオアシスを守ると消え去った。
よってその二人は聖人、または神の使いである天使か何かだろう。
そうでないならあの青年を見る限り、悪魔のいたずらかもしれない。
ともかく金髪碧眼の超絶美少女は聖女か天使と呼びたい。いっそ女神でも良い。
と言うよりその蔦に縛られたい。
そんな噂だった。
「……」
サニィはその思わぬ噂の広がり方に思わず赤面してしまう。レインは呆れ顔だ。
噂は噂を呼ぶ。伝言ゲームはなかなか正確には伝わらない。都市を超えれば尚更だ。
ディエゴはそれを聞くと、レインとサニィを見てにやりとするとぽんっと肩を叩く。
「二人共、その、……あの力なら仕方ない」
「おいマイケル、何も思いついていないなら何も言うな」
「あの、…………呼びたいとかってなんですかね……と言うか、っ!?」
サニィが反応した周囲を見ると、露店には銅板に描かれたイコンが売っていた。神を表す偶像化された絵画。
この国には神を敬う概念はあるものの、そこまで宗教に厳しいという事はない。魔王を倒すのはいつでも勇者だからだ。
その為神の像はそれぞれ思い思いに描かれ、男女すらも曖昧。神に共通する点としては後ろに光輪が描かれていることのみ。
そのイコンに描かれた神は女神。金髪碧眼で白樺にルビーの杖を持っていた。そして値札には『砂漠に現れた女神像』と書いてある。それが、何枚も。
レイン達が火山地帯を含む遠征に出ていた期間は2ヶ月強。
最初に王都にたどり着くまでに3週間程かかったとは言え、その噂の広がり方は異常だった。
「しかし確かに、歴史に名を残すのはレインよりもサニィ君の方が上になりそうだ。ハッハッハ」
そう笑うディエゴに真っ赤なサニィは恨みがましい目を向けるものの、「聖女様にそっくり!」と駆け寄ってきた民衆に囲まれ再び動けなくなるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる