雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
86 / 592
第八章:新たな国の霊峰へ

第八十六話:その悪魔は少女好きなのか

しおりを挟む
「えっと、何をしてるんですか? レインさん」

 一回戦が終わり、2回戦に入る前の休憩時間、サニィは見知った顔が一人の参加者と親しくしているのを見つけて声をかけた。
 一回戦目を最も美しく突破した選手が、レインと楽しそうに話しているのを見て気になったのだ。
 別にヤキモチを妬いたとか、そういうことではない。ただ、自分に会いにも来ずに誰かと親しくしているのが気に障る。本当にそれだけだ。

「もちろんアドバイスだ。俺はこの娘を優勝させる」

 別に相手が可愛らしい女の子だから気に障ったわけではない。
 レインが自分の所に来ないでこんな所にいるのが少しだけ気になっただけだ。

「えーと、その子、一回戦第15試合の……」
「エレナと申します。聖女様」

 淡い青髪、水色よりも僅かに群青と言ったところだろうか。10歳ほどの美少女がスカートの端を持ち上げ、礼儀正しく挨拶をする。
 彼女は第一試合、必要最小限の動き、必要最小限の魔法を使い、見事な一回戦突破を決めた。氷の魔法。
 ほんの少しだけ相手の足を凍結させて、身の丈程の杖でコツン。見事な一本だった。

「うん、見事な試合だったよ。一回戦突破おめでとう」
「ありがとうございます」

 しかし、サニィには気になることがあった。
 レインはなぜこんなにも可愛いお嬢様と言った見た目の子にアドバイスを送っているのだろうか。
 心当たりはない。強いて言うなら、ここ一週間ほど、会う時間が30分程少なかった位だろうか。
 我ながらなぜたった30分程度のことを覚えているのかは分からないけれど、心当たりといえばそれくらい。

「なぜ俺がこの娘にアドバイスなどしているのか気になるようだな!」
「あ、ま、待ってください魔人様」

 何故かノリノリのレインに、エレナと名乗った美少女は魔人様と止める。
 色々と意味が分からないが、とにかく気になることはこれだろう。

「ま、魔人様ぁ?」

 一先ずはそれだ。レインの称号が最近は増えすぎではないか。いや、それはどうでも良い。
 何故この可愛らしいお嬢さんが、魔人様などに心を売ってしまったのだろうか。
 一体どこで、そんな道を間違えるようなことになってしまったのだろうか……。
 それが気になってしまった。

「あ、あの、ルーク君がレイン様は魔人だって言っておりまして……」
「ああ、そういうことだ。大体分かっただろう?」

 いやいや、全く意味が分からない。
 ルー君がレインを魔人と言ったからといって何故この子は魔人に様まで付けて、しかもズボンの裾を握って懐いているのだろうか……。
 サニィは混乱の極地へと陥っていた。
 とは言え、彼女が一回戦を実にレインのアドバイスらしい戦い方で見事な勝ちを収めたのもまた事実だった。
 しかし魔人様はダメだ。間違った方向へと進んでしまう可能性がある。

「えーと、魔法なら私が教えるよ? エレナちゃん」
「あ、え、えー……と。とても嬉しいのですが、わたしは魔人様に……」
「話は簡単だ。俺とこの娘は共に――」
「はっ、ダ、ダメです!」

 サニィには自分の申し出を拒否してまでレインに付く心当たりは全く思い浮かばない。
 しかも、レインが何かを言い出そうとした途端に顔を真っ赤にしてその口を凍結で塞ぐ。

(……え? 顔を真っ赤に? 俺とこの娘は共に? も、もしかして……。
 レインさんはロリコンクソ野郎だったのかもしれない。微乳の私に一目惚れをしたと言ってキープをして、エリーちゃんを弟子にしてキープ、巨乳のオリヴィアは弟子にしたものの目もくれず、このエレナちゃんをを本命として……。それなら、説明が、付いてしまう……。最悪だ……、この男。しかも魔人とお嬢様プレイなんてレベルの高いことを……)

 サニィは混乱していた。
 今回に限っては、明確に知らない所でこそこそと動いている。
 後ろめたいことがあって相談しなかったに違いない。
 そんなことを考えていた。

「……レインさん、エレナちゃん。頑張ってくださいね。ま、まあ、優勝はうちのルー君ですけどっ!」

 そう言って、走り去っていくサニィ。その横顔には、微かに光るものが見えた。
 残された二人は顔を見合わせると、やれやれと息を吐く。

「あれはまぁ、盛大に勘違いをしてるな……」
「あ、あの、ごめんなさい、魔人様。わたし、恥ずかしくて……」
「構わないさ。なあ、お前も呼んだらどうだ?」
「え? 何をですか?」
「ルー君ってな」

 ――。

「ルー君、エレナちゃんだけには負けちゃダメ。当たるのは準決勝。絶対に勝ってね」
「えーと、エレナってうちの研究所の?」

 サニィは焦っていた。
 魔法の発展を考えていたら、いきなりぽっと出の可愛い娘にレインを取られそうになっている。
 今まではサニィサニィ言って居たあの男が、一言の相談も無しに他の娘にちょっかいを出しているのだ。
 それが……なんか、嫌だった。

「30番の、薄青の髪の毛のエレナちゃん! ルー君と同じ位の年の!」
「え、……と。もちろん負けるつもりなんか無いよ。あいつにだけは」

 鬼気迫るサニィに対して、ルークは顔を背けながら受け答える。
 あいつにだけは。その言葉がなんとなく頼もしいものに見える。

「よし! それじゃあ作戦を立てよう。エレナちゃんにはあの悪魔人レインが付いてるから、手ごわいよ」
「は? あの魔人が……? ……絶対に負けねえ」

 魔人レイン。その一言に反応して、ルークはやる気を出した。
 正に目が燃えているかのような決意を見せる。
 優勝候補のルークは、2回戦、ルークにとっては1戦目、圧倒的な強さで完勝した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

留学してたら、愚昧がやらかした件。

庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。 R−15は基本です。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...