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第九章:英雄たち
第百五話:はいはい、綺麗にしてあげますからね
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グランドドラゴン、地竜。
ドラゴンとは付くものの、その本質は全く別の魔物である。それは頭から尾の先まで平均20m程。巨大な魔法を使う蜥蜴である。巨大な頭部と顎を持ち、口内には様々な細菌や毒腺を持っている。使う魔法は多少の地形操作のみ。大した知性があるわけではないのでそれ以上のイメージは出来ないのだろう。
しかし、口内に潜む細菌や毒の威力は凄まじく、奇襲させ成功すればデーモンでも簡単に殺すという。
かなり上位の魔物で、本来群れることはなく、たまたまこの地方で出会ってしまった者は運が悪い。たまたま腹が減っていた所に出会ってしまった自分を呪うしかないと言われている。
「グランドドラゴンが15匹か。今この地場所は死の山より危険だな」
「あはは、死の山には魔王が出たじゃないですか」
「そうか。じゃあ2番目に危険だな」
「空を飛べない私達にとってはドラゴン一匹より怖いですねー。毒」
ドラゴンは魔法の補助があって飛行しているため、ずっと空中に居続けることはない。
その為しばらく耐えられれば普通の人でも少しは相手が出来るのだが、グランドドラゴンは元から地上戦に特化している。大きさはともかく、毒液を浴びれば死んでしまうグランドドラゴンを15匹相手にすることは、単純に考えて一匹の巨大なドラゴンを相手するよりも危険だ。
ドラゴン一匹がグランドドラゴン15匹に勝つことは簡単だろうが、人間がグランドドラゴン15匹に勝つことはドラゴン1匹に勝つことよりも難しい。彼らの持つ毒はそれほどに厄介なものだった。
単純な毒の威力に加えて多量の細菌。単に解毒剤を用意すれば助かるというものではない。
浴びれば人間はまず死ぬ。よっぽど高位の治癒魔法使いが側に居なければ。
「そういう意味ではドラゴンって知性が高いから魔法でグランドドラゴンの毒を簡単に解毒して細菌も全部殺しちゃうっていうんだから凄いですよね」
「この大陸でドラゴンが恐れられている理由だろうな」
「まあ、倒しますか」
15匹ものグランドドラゴンを前に、二人は余裕だった。
大量のグランドドラゴンが怖い理由の主たるものはその毒だ。四方八方からかけられる毒を一滴でも食らえばまずい。しかし、食らわないのならばただのでかいトカゲ。
先ほど言ったように、よっぽど高位の魔法使いが居なければ、グランドドラゴンは驚異なのだ。
サニィは一匹のグランドドラゴンの頭に腰のポーチから一つのコインをぶつけると、そのままそれを爆発させ吹き出た血や毒を魔法で集める。
「えーと、細菌の分析までできました。なんか、出来ちゃいました。最近敏感だからか、やろうと思えばできるものですね」
「事前に奴らの毒に棲む細菌を調べておいたとはいえ、凄いなお前」
「まあ、聖女と言われる以上それらしい力は持っておいた方が良いですよね」
サニィの昔からの目標は魔法で人の役に立つこと。
胸のことはともかく、軽い病気や怪我程度なら治せる訓練は昔からしていた。その過程でウイルスの識別の魔法は父の勧めで多少学んでいた為、魔法の力が増した今のサニィにとってはそこまで難易度の高い作業と言うわけではなかったらしい。
「よし、いくらでも浴びて良いですよ!」
「それなら実験台になってやるか……」
「い、いや、冗だ――」
相変わらずのんびりと会話をしながら仲間の一匹を簡単に倒してしまった二人に、地竜は一斉に襲いかかっていた。襲いかかってはいたものの、既にその全てがサニィの蔦によって止められていた。
吹き出した毒にその蔦も枯れていくものの、それだけで追いつく程サニィの魔法は甘くはない。
地面の操作も恐らくしているのだろう。しかし、地竜程度の魔法ではサニィのそれを超えて地面を動かすことなど叶わない。
簡単に倒せるだろう。そう思っていたところに、サニィの余分な一言でレインが駆け出してしまった。
レインはそのまま毒を吐こうと口を開く地竜に突っ込んでいき、細菌まみれでその背中から飛び出してくる。サニィが菌の殲滅に成功しなければ、確実に苦しんで死ぬだろう。
「それじゃ頼む。命は預けた」
「えええ……、まあ良いですけど、…………はい」
「…………」
「どうしました?」
「……分からんな」
「そりゃ、細菌ですから。見えませんから」
レインはマナを感じ取ることができない。細菌を見ることができるわけでもない。
更に言えば、隙が見えるものの、それには自分は含まれない。
サニィの除菌魔法はただその細菌を滅するだけ。既にレインにかかった体液まで綺麗にするわけではない。
実験台として自分の身を差し出したのは良いのだが、それを実感するのは何も起こらなかった時、だ。
「……あとは全部綺麗に殺そう」
レインは心底がっかりした顔をすると、残りの13匹を瞬時に蹴散らした。
全て小脳に当たる部分を一突き。
一瞬にして13匹の20mにもなる地竜と刺し殺すと「洗濯を頼む」と一言。
「はいはい。綺麗にしてあげますからね」
「まあ、殺菌出来てなければどこかから体内に入っただろうし、苦しむかどうか見ものだな、俺」
「全く意味わかりませんよ、何言ってるんですか」
おかんの様なことを言いながら水流の魔法といくつかの魔法を組み合わせて洗濯を開始するサニィに、妙な自虐を開始するレイン。サニィの魔法が本当に凄いと思っただけに、何も感じないのがショックだった様だ。
そんな天然の混じった英雄にサニィは、苦笑しながら「ちゃんとレインさんは私が守りますから」と。
その後、本当に何も起こらないことにやはりレインは少し寂しそうだったが、一方のサニィはきちんと殺菌出来ていて一安心なのだった。
ドラゴンとは付くものの、その本質は全く別の魔物である。それは頭から尾の先まで平均20m程。巨大な魔法を使う蜥蜴である。巨大な頭部と顎を持ち、口内には様々な細菌や毒腺を持っている。使う魔法は多少の地形操作のみ。大した知性があるわけではないのでそれ以上のイメージは出来ないのだろう。
しかし、口内に潜む細菌や毒の威力は凄まじく、奇襲させ成功すればデーモンでも簡単に殺すという。
かなり上位の魔物で、本来群れることはなく、たまたまこの地方で出会ってしまった者は運が悪い。たまたま腹が減っていた所に出会ってしまった自分を呪うしかないと言われている。
「グランドドラゴンが15匹か。今この地場所は死の山より危険だな」
「あはは、死の山には魔王が出たじゃないですか」
「そうか。じゃあ2番目に危険だな」
「空を飛べない私達にとってはドラゴン一匹より怖いですねー。毒」
ドラゴンは魔法の補助があって飛行しているため、ずっと空中に居続けることはない。
その為しばらく耐えられれば普通の人でも少しは相手が出来るのだが、グランドドラゴンは元から地上戦に特化している。大きさはともかく、毒液を浴びれば死んでしまうグランドドラゴンを15匹相手にすることは、単純に考えて一匹の巨大なドラゴンを相手するよりも危険だ。
ドラゴン一匹がグランドドラゴン15匹に勝つことは簡単だろうが、人間がグランドドラゴン15匹に勝つことはドラゴン1匹に勝つことよりも難しい。彼らの持つ毒はそれほどに厄介なものだった。
単純な毒の威力に加えて多量の細菌。単に解毒剤を用意すれば助かるというものではない。
浴びれば人間はまず死ぬ。よっぽど高位の治癒魔法使いが側に居なければ。
「そういう意味ではドラゴンって知性が高いから魔法でグランドドラゴンの毒を簡単に解毒して細菌も全部殺しちゃうっていうんだから凄いですよね」
「この大陸でドラゴンが恐れられている理由だろうな」
「まあ、倒しますか」
15匹ものグランドドラゴンを前に、二人は余裕だった。
大量のグランドドラゴンが怖い理由の主たるものはその毒だ。四方八方からかけられる毒を一滴でも食らえばまずい。しかし、食らわないのならばただのでかいトカゲ。
先ほど言ったように、よっぽど高位の魔法使いが居なければ、グランドドラゴンは驚異なのだ。
サニィは一匹のグランドドラゴンの頭に腰のポーチから一つのコインをぶつけると、そのままそれを爆発させ吹き出た血や毒を魔法で集める。
「えーと、細菌の分析までできました。なんか、出来ちゃいました。最近敏感だからか、やろうと思えばできるものですね」
「事前に奴らの毒に棲む細菌を調べておいたとはいえ、凄いなお前」
「まあ、聖女と言われる以上それらしい力は持っておいた方が良いですよね」
サニィの昔からの目標は魔法で人の役に立つこと。
胸のことはともかく、軽い病気や怪我程度なら治せる訓練は昔からしていた。その過程でウイルスの識別の魔法は父の勧めで多少学んでいた為、魔法の力が増した今のサニィにとってはそこまで難易度の高い作業と言うわけではなかったらしい。
「よし、いくらでも浴びて良いですよ!」
「それなら実験台になってやるか……」
「い、いや、冗だ――」
相変わらずのんびりと会話をしながら仲間の一匹を簡単に倒してしまった二人に、地竜は一斉に襲いかかっていた。襲いかかってはいたものの、既にその全てがサニィの蔦によって止められていた。
吹き出した毒にその蔦も枯れていくものの、それだけで追いつく程サニィの魔法は甘くはない。
地面の操作も恐らくしているのだろう。しかし、地竜程度の魔法ではサニィのそれを超えて地面を動かすことなど叶わない。
簡単に倒せるだろう。そう思っていたところに、サニィの余分な一言でレインが駆け出してしまった。
レインはそのまま毒を吐こうと口を開く地竜に突っ込んでいき、細菌まみれでその背中から飛び出してくる。サニィが菌の殲滅に成功しなければ、確実に苦しんで死ぬだろう。
「それじゃ頼む。命は預けた」
「えええ……、まあ良いですけど、…………はい」
「…………」
「どうしました?」
「……分からんな」
「そりゃ、細菌ですから。見えませんから」
レインはマナを感じ取ることができない。細菌を見ることができるわけでもない。
更に言えば、隙が見えるものの、それには自分は含まれない。
サニィの除菌魔法はただその細菌を滅するだけ。既にレインにかかった体液まで綺麗にするわけではない。
実験台として自分の身を差し出したのは良いのだが、それを実感するのは何も起こらなかった時、だ。
「……あとは全部綺麗に殺そう」
レインは心底がっかりした顔をすると、残りの13匹を瞬時に蹴散らした。
全て小脳に当たる部分を一突き。
一瞬にして13匹の20mにもなる地竜と刺し殺すと「洗濯を頼む」と一言。
「はいはい。綺麗にしてあげますからね」
「まあ、殺菌出来てなければどこかから体内に入っただろうし、苦しむかどうか見ものだな、俺」
「全く意味わかりませんよ、何言ってるんですか」
おかんの様なことを言いながら水流の魔法といくつかの魔法を組み合わせて洗濯を開始するサニィに、妙な自虐を開始するレイン。サニィの魔法が本当に凄いと思っただけに、何も感じないのがショックだった様だ。
そんな天然の混じった英雄にサニィは、苦笑しながら「ちゃんとレインさんは私が守りますから」と。
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