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第九章:英雄たち
第百六話:英雄は進む
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「すまないね」
「いやいや、おめぇさんのおかげで今まで随分とこの町は栄えてきた。昔はただの農村だったと聞くが、今や祭り客は外国からも来るくらいだ。そろそろ街と言っても良いのかもしれない規模になってきたしな」
「なに、僕はここに居ただけさ。頑張ってきたのは君たちだよ」
「がっはっは、まあ、ともかく気をつけてな」
「ああ、僕は自分のすべき事をする。あの二人に出会って、やっとそれが見えてきた気がするよ。ま、戻って来た時はよろしくね」
ある大陸の東の町ウェニスで、一人の青年と老人がそんな会話を交わしている。
青年の名前はマルス。かつて赤の魔王を倒した英雄であり、不老不死の勇者だ。老人はヘファス。身体能力はただの老人と変わらないが、言葉の真偽を見抜く力をもつ勇者。この町でマルスの窓口でもある役場の職員。
170歳を超えるだろう好青年は、その日町から旅立つことを友人でもある老人に伝えていた。
青年の自ら決めた役割は、彼自身にしかできないこと。
つまり、新たな歴史の生き証人となることだった。
史上例を見なかったドラゴンを単独で倒す者が同じ時代に二人。しかも、その片方はすでに魔王を殺している。
「僕じゃあ今更あの二人には追いつけないし、逆のルートを辿ってみようかな。いつかまた会うこともあるだろう」
幸いにも、二人の通った道には青い花が咲いている。
流石に海上に目印はないが、大陸間を結ぶ航路はこの町から近い港では一本しか無い。
何故それが枯れないのかはともかく、マルスはその花を辿って歩き出した。
いきなり大陸間を渡ることになってしまうが、なに、人生は永い。いつしか勇者の力もその効力を失ってしまうかもしれないけれど、少なくともそれは今ではない。
(純粋な戦闘力でヴィクトリア・フィリオナペアをも圧倒するあの力、『狛の村』では迷信とまで言われた勇者。聖女と呼ばれる彼女も含めて、その真実の大半を隠してしまうことは世界に対する冒涜だとさえ感じてしまう。最新にして最大の英雄レインと、その彼が認めている聖女サニィ。民衆の為に魔王のことを隠す国、分からなくはないけれど、それを知る人が居なくなってはいけない)
自分の命は魔王を倒すためではなく、本当はこの為にあったのはないか。
マルスはそう考え、自分の生まれ育った町を後にして、西へと向かった。
【歴史の真実を語る者アレス】
後に大賢者として語られる彼はこの日、真実を追い求める旅へと出た。
――。
「レインさんレインさん」
「なんだ突然?」
「この先、マルス様みたいな生きてる英雄に出会うことってないんですかねー?」
「どうだろうな。マルスの体内のマナってどうだったんだ?」
「えーと、オリヴィア並みでした」
「オリヴィア並みの才能であの程度、と言ったら悪いか、あの強さだと言うことは、恐らく不老不死の能力に殆どを割かれているのだろう。オリヴィア以上の才能に今の所会ったことがないんだから、居ないだろうな」
「ああ、マルス様は最弱の英雄、ですもんね」
二人はこの瞬間、全く気づいていない。
その生きている英雄をも動かす二人の英雄は、互いの目の前に居ると言うことに。
彼らの欠点は、互いに世界を救うつもりはあるものの、名声に頓着しないところかもしれない。
それは美徳ではあるのだろうが、いつも一緒にいる以上、互いを英雄だと感じる機会が少ない。
もちろん、互いの実力は知っている。英雄的な強さを知っている。ただ、互いに過去の英雄達の様な格好良さを知らないだけ、なのかもしれない。
「エリーちゃんやオリヴィア、ルー君やエレナちゃんもいつかは英雄になるんですかね」
「さあな。かつての英雄にも負けない程にはなりそうだが、今後生まれる魔王は全て俺が倒すからなれないかもしれないな」
今回ばかりは、レインも少しだけおどけた様にそう言う。サニィのことを信じている。過去の英雄はともかく、今、目の前にいる英雄を認めている。
だから、サニィもこう返す。
「もうっ。次の魔王はレインさんにやらせてあげますけど、その次は二人で、ですからね。チャンスは一回だけですから」
二人とも相手の、自分の実力だけは認めている。英雄的な物語は何一つないけれど。過去の英雄達の様な勇敢さも、辛い過去も、多分、ないけれど。
今の二人はなんと言っても、二人で居られることが幸せだったから。
たったそれだけのこと。
だからこそ、幸せだからこそ、過去の英雄達を尊敬していた。
「ところでサニィ」
「なんですか?」
「お前っていつまで敬語なんだ?」
「あ、あー、そうですね、……ずっと?」
「まあ、良いんだが……」
「あっ! それじゃ、レインさんがハニーって呼んでくれたら敬語やめますね」
「……は、サニィ」
「ぶふっ」
残りの命が三年半を切った今、ひとまず互いのことで気になることは、それくらいのものだった。
もちろん、命を賭して戦う美しい聖女がいることも、ドラゴン殺しが現れたことも、世界中が既に英雄伝説として認め始めている。
そんな事実を大して意識していないのは、この二人だからなのだろう。
残り【1337日→1310日】 次の魔王出現まで【101日】
「いやいや、おめぇさんのおかげで今まで随分とこの町は栄えてきた。昔はただの農村だったと聞くが、今や祭り客は外国からも来るくらいだ。そろそろ街と言っても良いのかもしれない規模になってきたしな」
「なに、僕はここに居ただけさ。頑張ってきたのは君たちだよ」
「がっはっは、まあ、ともかく気をつけてな」
「ああ、僕は自分のすべき事をする。あの二人に出会って、やっとそれが見えてきた気がするよ。ま、戻って来た時はよろしくね」
ある大陸の東の町ウェニスで、一人の青年と老人がそんな会話を交わしている。
青年の名前はマルス。かつて赤の魔王を倒した英雄であり、不老不死の勇者だ。老人はヘファス。身体能力はただの老人と変わらないが、言葉の真偽を見抜く力をもつ勇者。この町でマルスの窓口でもある役場の職員。
170歳を超えるだろう好青年は、その日町から旅立つことを友人でもある老人に伝えていた。
青年の自ら決めた役割は、彼自身にしかできないこと。
つまり、新たな歴史の生き証人となることだった。
史上例を見なかったドラゴンを単独で倒す者が同じ時代に二人。しかも、その片方はすでに魔王を殺している。
「僕じゃあ今更あの二人には追いつけないし、逆のルートを辿ってみようかな。いつかまた会うこともあるだろう」
幸いにも、二人の通った道には青い花が咲いている。
流石に海上に目印はないが、大陸間を結ぶ航路はこの町から近い港では一本しか無い。
何故それが枯れないのかはともかく、マルスはその花を辿って歩き出した。
いきなり大陸間を渡ることになってしまうが、なに、人生は永い。いつしか勇者の力もその効力を失ってしまうかもしれないけれど、少なくともそれは今ではない。
(純粋な戦闘力でヴィクトリア・フィリオナペアをも圧倒するあの力、『狛の村』では迷信とまで言われた勇者。聖女と呼ばれる彼女も含めて、その真実の大半を隠してしまうことは世界に対する冒涜だとさえ感じてしまう。最新にして最大の英雄レインと、その彼が認めている聖女サニィ。民衆の為に魔王のことを隠す国、分からなくはないけれど、それを知る人が居なくなってはいけない)
自分の命は魔王を倒すためではなく、本当はこの為にあったのはないか。
マルスはそう考え、自分の生まれ育った町を後にして、西へと向かった。
【歴史の真実を語る者アレス】
後に大賢者として語られる彼はこの日、真実を追い求める旅へと出た。
――。
「レインさんレインさん」
「なんだ突然?」
「この先、マルス様みたいな生きてる英雄に出会うことってないんですかねー?」
「どうだろうな。マルスの体内のマナってどうだったんだ?」
「えーと、オリヴィア並みでした」
「オリヴィア並みの才能であの程度、と言ったら悪いか、あの強さだと言うことは、恐らく不老不死の能力に殆どを割かれているのだろう。オリヴィア以上の才能に今の所会ったことがないんだから、居ないだろうな」
「ああ、マルス様は最弱の英雄、ですもんね」
二人はこの瞬間、全く気づいていない。
その生きている英雄をも動かす二人の英雄は、互いの目の前に居ると言うことに。
彼らの欠点は、互いに世界を救うつもりはあるものの、名声に頓着しないところかもしれない。
それは美徳ではあるのだろうが、いつも一緒にいる以上、互いを英雄だと感じる機会が少ない。
もちろん、互いの実力は知っている。英雄的な強さを知っている。ただ、互いに過去の英雄達の様な格好良さを知らないだけ、なのかもしれない。
「エリーちゃんやオリヴィア、ルー君やエレナちゃんもいつかは英雄になるんですかね」
「さあな。かつての英雄にも負けない程にはなりそうだが、今後生まれる魔王は全て俺が倒すからなれないかもしれないな」
今回ばかりは、レインも少しだけおどけた様にそう言う。サニィのことを信じている。過去の英雄はともかく、今、目の前にいる英雄を認めている。
だから、サニィもこう返す。
「もうっ。次の魔王はレインさんにやらせてあげますけど、その次は二人で、ですからね。チャンスは一回だけですから」
二人とも相手の、自分の実力だけは認めている。英雄的な物語は何一つないけれど。過去の英雄達の様な勇敢さも、辛い過去も、多分、ないけれど。
今の二人はなんと言っても、二人で居られることが幸せだったから。
たったそれだけのこと。
だからこそ、幸せだからこそ、過去の英雄達を尊敬していた。
「ところでサニィ」
「なんですか?」
「お前っていつまで敬語なんだ?」
「あ、あー、そうですね、……ずっと?」
「まあ、良いんだが……」
「あっ! それじゃ、レインさんがハニーって呼んでくれたら敬語やめますね」
「……は、サニィ」
「ぶふっ」
残りの命が三年半を切った今、ひとまず互いのことで気になることは、それくらいのものだった。
もちろん、命を賭して戦う美しい聖女がいることも、ドラゴン殺しが現れたことも、世界中が既に英雄伝説として認め始めている。
そんな事実を大して意識していないのは、この二人だからなのだろう。
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