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第九章:英雄たち
第百十四話:倒して良かったでは終わらない
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英雄達は、その多くが闇を抱えている。
闇を抱えているからこそ英雄になれるのだろうか、英雄になったからこそ闇を抱えてしまったのだろうか、基本的には綺麗な所しか語られない彼らは、一体何を思って英雄となったのだろうか。
英雄マルスは、少なくとも死にたくはなかった。人類の為とは言え、自身の身を犠牲にしてまで、見ず知らずの者達を助けたくはなかった。
三ヶ月にも及ぶ一方的な虐殺の後、彼は思った。
あっさりと死んでいった70人が、羨ましい。無邪気に勝利を喜ぶ仲間達が、憎らしい。
英雄ヴィクトリアに討伐隊入りを拒否された時、心から安心した。
英雄マルスは魔王討伐後、150年に渡って、死んでいた。
二人の呪われた英雄に出会うまで。
アレス著『世界の英雄達』より抜粋
――。
魔王化して以来、サニィには確実に変化が起こっていた。最初は魔物に対して抱いていた恨みといった感情が希薄になったことから始まる。それは魔王の意識が流れ込んできたことの影響から仕方ないことではあるのだと思うが、それ以外にも変化は大きかった。
「どうやら陰のマナもある程度扱える様になってますね。体に纒わせれば簡易的な身体強化になるみたい」
「ほう。お前は本当にもう魔法使いからは離れて行ってるな」
「もちろん魔法の研究は怠りません。重力魔法に関してはルー君に任せちゃいますけど、もう少しで新しい魔法が完成しそうなんですよ」
サニィはその辺に転がっている岩をパンチで砕きながら、自慢げに胸を張る。
魔王を倒してから三日、最初は自身の変化に戸惑っていたサニィではあるが、慣れてしまえば便利なものらしい。
彼女のマナ感度は、魔王化によって、最早勇者の域すら越えようとしていた。今やものによっては世界中のマナを感知出来ると言う。
ドラゴンは世界に21匹、霊峰の位置、そして何故か自分達が歩いた位置にはまだサニィの使ったマナが残っているということなどがわかる様になっていた。
「何やら世界が広がったような狭くなったような、不思議な感覚です」
世界が狭くなったと言った瞬間、レインがピクリと反応する。
「あ、もちろん旅は続けますよ。マナが分かると言っても、本当にマナを感じられるだけですから。目で見たいです」
「そうか。行きたくないと言われたら寂しいところだったな」
普段ならば気づかない程僅かな動きだったのだが、マナの流れが一瞬だけ停滞したことで分かってしまう。心を読んだり隙が見えるわけではないけれど、対峙した相手のそんな微細な変化が読み取れる。
それも思わぬ変化だった。
そして、サニィにはもう一つ変化があった。
魔王化の影響なのだろうか。ただ単に、レインに二度も助けられたからなのだろうか、サニィが元々そういう性質を持っていたのだろうか。
彼女はレインに執着を見せるようになっていた。
例えば、歩くときの距離は今まで10cm以上は離れて歩いていたのが、腕が触れ合う程になった。
宿も同じ部屋を取るようになった。それだけなら、微笑ましい変化だろう。
しかし、彼女の変化はそれだけには留まらなかった。
(あの女、私のレインさんに色目を使ってる?)
そんなことを思っては、排除行動に移る前にはっと気づく。
私は何を思っているのだろう。例えそうだとしても、今までのレインさんの行動を考えれば、それに流されることなんか有り得ないじゃないか。
それにもしそうだとしても、英雄色を好む、レインさんは少し位遊んだほうが良いのではないかとも、冷静に思えば……。
そんな変化に、サニィは戸惑っていた。
理由は分からない。理由はわからないけれど、とにかくレインが他の女性と関わっているのも嫌だし、レインを見つめる女の視線があれば敏感になっていた。
「ところでサニィ、この大陸でもう問題が起こらなければ南の大陸に行こうと思うんだが、どうだ?」
「えーと、そうですね。ドラゴンにも特に動きはありませんし、良いと思いますよ」
レインさんの行くところならどこでも。
「ドラゴンってのは一番近くでどこにいるんだ?」
「えーと、ここから西に200kmの所に火山があって、そこに居ますね。2匹」
別に町が襲われても、割とどうでも良いけど。
「それなら始末しておいたほうが良いな。今から向かおうか」
「そうしますか。確かに200kmだと危ないですね」
レインさんがそう言うならもちろん行く。
そんな思いがサニィの思考を駆けては、いやいやと否定する。
今いる都市は魔王の決戦場から約700km、80万人の人が暮らすこの大陸一の大都市だ。普通に考えたら、200kmしか離れていないのなら、ドラゴンなら来ようと思えば直ぐに来れてしまう。
それを放置しても良いと考えてしまったことに、恐ろしさを覚える。
幸いなことにレインが冷静に判断してくれたが、何も聞かれなければ確実に放置していた。
少し何かがおかしい。
これからしばらくの間、サニィはこの思いに一人悩むことになる。
残り[1209日→1206日]
闇を抱えているからこそ英雄になれるのだろうか、英雄になったからこそ闇を抱えてしまったのだろうか、基本的には綺麗な所しか語られない彼らは、一体何を思って英雄となったのだろうか。
英雄マルスは、少なくとも死にたくはなかった。人類の為とは言え、自身の身を犠牲にしてまで、見ず知らずの者達を助けたくはなかった。
三ヶ月にも及ぶ一方的な虐殺の後、彼は思った。
あっさりと死んでいった70人が、羨ましい。無邪気に勝利を喜ぶ仲間達が、憎らしい。
英雄ヴィクトリアに討伐隊入りを拒否された時、心から安心した。
英雄マルスは魔王討伐後、150年に渡って、死んでいた。
二人の呪われた英雄に出会うまで。
アレス著『世界の英雄達』より抜粋
――。
魔王化して以来、サニィには確実に変化が起こっていた。最初は魔物に対して抱いていた恨みといった感情が希薄になったことから始まる。それは魔王の意識が流れ込んできたことの影響から仕方ないことではあるのだと思うが、それ以外にも変化は大きかった。
「どうやら陰のマナもある程度扱える様になってますね。体に纒わせれば簡易的な身体強化になるみたい」
「ほう。お前は本当にもう魔法使いからは離れて行ってるな」
「もちろん魔法の研究は怠りません。重力魔法に関してはルー君に任せちゃいますけど、もう少しで新しい魔法が完成しそうなんですよ」
サニィはその辺に転がっている岩をパンチで砕きながら、自慢げに胸を張る。
魔王を倒してから三日、最初は自身の変化に戸惑っていたサニィではあるが、慣れてしまえば便利なものらしい。
彼女のマナ感度は、魔王化によって、最早勇者の域すら越えようとしていた。今やものによっては世界中のマナを感知出来ると言う。
ドラゴンは世界に21匹、霊峰の位置、そして何故か自分達が歩いた位置にはまだサニィの使ったマナが残っているということなどがわかる様になっていた。
「何やら世界が広がったような狭くなったような、不思議な感覚です」
世界が狭くなったと言った瞬間、レインがピクリと反応する。
「あ、もちろん旅は続けますよ。マナが分かると言っても、本当にマナを感じられるだけですから。目で見たいです」
「そうか。行きたくないと言われたら寂しいところだったな」
普段ならば気づかない程僅かな動きだったのだが、マナの流れが一瞬だけ停滞したことで分かってしまう。心を読んだり隙が見えるわけではないけれど、対峙した相手のそんな微細な変化が読み取れる。
それも思わぬ変化だった。
そして、サニィにはもう一つ変化があった。
魔王化の影響なのだろうか。ただ単に、レインに二度も助けられたからなのだろうか、サニィが元々そういう性質を持っていたのだろうか。
彼女はレインに執着を見せるようになっていた。
例えば、歩くときの距離は今まで10cm以上は離れて歩いていたのが、腕が触れ合う程になった。
宿も同じ部屋を取るようになった。それだけなら、微笑ましい変化だろう。
しかし、彼女の変化はそれだけには留まらなかった。
(あの女、私のレインさんに色目を使ってる?)
そんなことを思っては、排除行動に移る前にはっと気づく。
私は何を思っているのだろう。例えそうだとしても、今までのレインさんの行動を考えれば、それに流されることなんか有り得ないじゃないか。
それにもしそうだとしても、英雄色を好む、レインさんは少し位遊んだほうが良いのではないかとも、冷静に思えば……。
そんな変化に、サニィは戸惑っていた。
理由は分からない。理由はわからないけれど、とにかくレインが他の女性と関わっているのも嫌だし、レインを見つめる女の視線があれば敏感になっていた。
「ところでサニィ、この大陸でもう問題が起こらなければ南の大陸に行こうと思うんだが、どうだ?」
「えーと、そうですね。ドラゴンにも特に動きはありませんし、良いと思いますよ」
レインさんの行くところならどこでも。
「ドラゴンってのは一番近くでどこにいるんだ?」
「えーと、ここから西に200kmの所に火山があって、そこに居ますね。2匹」
別に町が襲われても、割とどうでも良いけど。
「それなら始末しておいたほうが良いな。今から向かおうか」
「そうしますか。確かに200kmだと危ないですね」
レインさんがそう言うならもちろん行く。
そんな思いがサニィの思考を駆けては、いやいやと否定する。
今いる都市は魔王の決戦場から約700km、80万人の人が暮らすこの大陸一の大都市だ。普通に考えたら、200kmしか離れていないのなら、ドラゴンなら来ようと思えば直ぐに来れてしまう。
それを放置しても良いと考えてしまったことに、恐ろしさを覚える。
幸いなことにレインが冷静に判断してくれたが、何も聞かれなければ確実に放置していた。
少し何かがおかしい。
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