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第十三章:帰還した世界で
第百八十話:次代の英雄候補達
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エレナの魔法は凶悪だ。幻覚を主としたその魔法は相手に実感を与え、幻覚中で殺せば実際に相手を死に貶めることすら出来る。
例えそれが、死に躊躇しないアンデッドであっても。
捕らえられたオリヴィアをエリーが助けると同時、そんな幻惑魔法をエレナはレインに向かって放つ。きっと、サニィならそれを上回る反魔法を使うことによって相殺した挙句、かけた側に勝ったと言う幻想を植え付ける位はするのだろう。
だからこそ、いくら強いとは言え一人の男性であるレインに、魔法をかけることにした。
果たしてそれは、ただの悪手だった。
絶望を感じる幻覚を見せられたレインは、敢えてそれにかかる。
そしてあろうことか、目の前にいるエリーとオリヴィアを無視したまま元凶であるエレナに狙いを定めると、空間を裂くその刃を振り下ろしたのだった。
「ひ……」
殆ど息を吐くだけの悲鳴。
エレナが真っ二つに裂かれる姿を幻視する。
「一戦目はこれで終わりだな」
そんな声と共に、エレナは大きく息を詰まらせながら、その場にへたりこむ。
切り裂いた場所、深さ3mを超える谷が出来ている。
エレナはその横に、サニィによって転移されていた。
「さて、今回の敗因その一、オリヴィア、サニィレベルの強大な魔法使いを相手に直線的な攻撃は悪手だ。お前は確かに速いが、魔王程じゃない。それをまだ鍛錬が足りないと取るか、隙を作るやり方をするかはお前次第と言いたい所だが、俺からのアドバイスとしては、初手からエリーとの連携を取るのも手ではないかと考える」
「はい。少し先行し過ぎた感じはしますわ」
初手、エリーは構えは取っていたものの、オリヴィアを除く全ての者が出遅れていた。
そんな状態で突っ込めば、多人数で戦う意味もなく、最悪何も削ることがなく一瞬で一人居なくなる。
それを避けるべきなのは当然だ。
「敗因その二、エレナちゃんのその魔法はね、確かに強力。でも、かける相手によって内容はきっちりと変えていかないとそうなるかな。
レインさんは殺すのが本質だから、絶望すれば殺す。それは魔王だって同じかもしれない。アンデッドが生きていた頃の苦しみを思い出す、良いと思う。普通の人が生きることに絶望を感じる。その歳で使うのは正直反対だけれど、まあ戦う魔法使いとしては、良いと思う。じゃあレインさんも同じだろうと考えてしまったのが、悪手だった」
そして敗因その三は、誰が言うまでもなく、ルークが動けなかった所。
ルークはレインが苦手だし、サニィを尊敬している。その二人に勝てるイメージが湧かないのは、仕方のないことかもしれない。しかしそれでも、一切の動きが出来なかったのは、やはり初戦にしても未熟。
それをレインとサニィが指摘することはなかったが、流石に、それはルーク本人が一番分かっていた。
「も、もう一回、お願いします」
そう言ったのは、エレナだった。
対人では、エレナはその出力を補って、余りある強さを発揮する。
現時点ではマナスルで圧倒的に高い出力とマナタンク、コントロールを持つルークと互角。
そんな最高クラスの魔法を、効かないどころか利用された上で負かされた。
それをエレナのささやかなプライドは許せなかった。
もちろん、相手はかつて戦い方を教えてくれた魔人様と、自分達の尊敬する先生だ。
簡単に勝てないことは分かっているにしても、負けた直接の原因は、自分の悪手だった。
「ルー君。次はアレ、やろう」
アレが何かは、分からない。
多分、作戦があるわけではない。
これはつまり、次は動いてくれと、そういう意味だろう。
「うん、分かった」
ルークは頷き、改めて覚悟を決める。
――。
レインは優しい。
そんな弟子二人の言葉を、ルークは痛いほどに実感した。
言われれば立ち直れなくなるような事は決して言わなかったし、常に四人の向上心を煽るようなことを言ってくる。
隙が見える力。それは個人戦でとても有用な能力であることに間違いないものの、次代の育成をするにも有用だったらしい。
そして、休憩時間になるとその体の成長の為だとか言いつつしっかりと休ませてくれるし、その間に一人一人にほんの僅かながら気づいていない部分のアドバイスをしてくれる。
例えば、ルーク本人はレイン相手に腰が引けていると思っていたが、問題はそちらよりもむしろエレナに意識が向きすぎている部分。
「エレナがもしも傷ついたのなら本気になるだろう。しかし、それでは遅いんじゃないか?」と言う。
言われれば、その通りだ。エレナに何かがあってから本気を出したところで、最早意味はない。それでは既に負けている。
そんな、僅かな意識の誘導は、ルークの強さを少しずつ引き出していく。
サニィ先生があれほどまでに強くなった理由はこの人にあるのだろうと、実際にその指導を受けて理解することになった。
尤も、その戦闘はめちゃくちゃだった。
最初の一回以外はサニィは殆ど何もせずに棒立ちしながら、四人の安全を見守っているだけ。
それでも、誰一人として擦り傷すら付けられない。
ほんの少しでも油断すればその隙を突いて謎の斬撃が飛んでくるし、どんな高度な弟子の連携でも、エレナの幻術でも、ルークの重力魔法でも、その全てがいとも簡単に防がれる。
あの、エリーの地面を割る大剣を受けて傷一つつかない宝剣も意味不明だ。
結局、そんな二人の小指を離すことが出来たのは2ヶ月後、偶然の重なった時だった。
その日、太陽が傾きかけている頃、レインへのオリヴィアの刺突と同時、エリーが短剣を投げると、レインはそちらに振り向いた。エリーは大剣を振りかざし、太陽を背にそれを振り下ろす。
それが眩しかったのだろう。そこまでは、計画通り。
レインはほんの一瞬目を瞑ると、その隙を突いてエレナの幻覚で一瞬の幻想世界にレインを連れ込む。
それも、レインには直ぐに破られるものの、次の手、ルークの重力魔法によって、レインは一瞬平衡感覚を失ったことで、サニィが動き始める。
いつも通り、完全に状況を把握しているサニィは涼しい顔を向けたままに、蔦の魔法で前衛二人を絡めとる。
ようやく、サニィを動かすことが出来た。
ここまで来るのに2ヶ月を要したのだ。
まだまだ長い戦いになるだろう。
そう覚悟していたものの、誰もが油断をしなかった。
それをルークが素早く解除しようとした瞬間、サニィは前衛二人を後衛二人の方向に投げつける。オリヴィアは空中で体制を整えるが、エリーは錐揉みしたまま。
連日の戦いで流石に疲労が溜まっていたのだろう。目を回している様子。
飛んできたエリーを、エレナが優しく受け止め、終わりかなとサニィが思った瞬間、いつもは出来ない隙が出来ていた。
偶然にも、エリーが普段から何本も帯剣しているうちの一本、【片手剣ベルナール】が二人の頭上から、その手の間に降ってきていた。
レインは全員をしっかりと見据えながらも幻覚と重力魔法で平衡感覚を掻き回され少しだけ酔っている様子だったし、サニィは、逆光でそれに気付いていなかった。
それにレインが気付いたのは、ベルナールが二人の手に触れる直前。
瞬時にそれを弾くのと、オリヴィアが踏み込むのと、ルークが二人それぞれを中心に、圧し潰す為の重力魔法を展開するのが同時だった。
サニィはエリーを気にしていてその渾身の重力魔法を解くのにほんの一瞬時間がかかったし、レインはほんの一瞬だけベルナールに気を取られていた。
オリヴィアが、その隙を突いて、二人の繋がれた小指に手刀を入れ、その手は離された。
もちろん、レインは傷は付けない様に力をセーブしていたし、偶然に寄る所が凄まじく大きい。
それでも、サニィを初めて動かしたその回の戦闘で、二人の隙を引き出したのは変わらない。如何な偶然であっても、如何な油断であっても、如何にタイミングが悪くとも、実際の生死をかけたやり取りでそんな言い訳は通用しない。
そうして四人の次代の英雄候補達は、二人の手を引き離した。
その裏で、実はそれが偶然を利用した必然だと気付いたのは、彼女の先生であるサニィだけだった。
エレナはほんの少しだけエリーが過剰に目を回している様な幻術をかけ、ほんの少しだけ【ベルナール】の気配を薄くする幻術をかけていた。
そして、エリーの剣が飛び、その位置がサニィにとって逆光だったと言う偶然を除けば全てがルークの作戦。偶然を利用出来たのも、ルークがエレナに対するテレパスで、その剣の存在を教えた為だった。強い魔法を使えば瞬時にサニィに気取られてしまう。その為、本当に最小限の幻術をかけてくれと、そう伝えたのだった。
それは正しく全員の力が、偶然にも重なった瞬間に手にした勝利だった。
残り[712日→627日]
例えそれが、死に躊躇しないアンデッドであっても。
捕らえられたオリヴィアをエリーが助けると同時、そんな幻惑魔法をエレナはレインに向かって放つ。きっと、サニィならそれを上回る反魔法を使うことによって相殺した挙句、かけた側に勝ったと言う幻想を植え付ける位はするのだろう。
だからこそ、いくら強いとは言え一人の男性であるレインに、魔法をかけることにした。
果たしてそれは、ただの悪手だった。
絶望を感じる幻覚を見せられたレインは、敢えてそれにかかる。
そしてあろうことか、目の前にいるエリーとオリヴィアを無視したまま元凶であるエレナに狙いを定めると、空間を裂くその刃を振り下ろしたのだった。
「ひ……」
殆ど息を吐くだけの悲鳴。
エレナが真っ二つに裂かれる姿を幻視する。
「一戦目はこれで終わりだな」
そんな声と共に、エレナは大きく息を詰まらせながら、その場にへたりこむ。
切り裂いた場所、深さ3mを超える谷が出来ている。
エレナはその横に、サニィによって転移されていた。
「さて、今回の敗因その一、オリヴィア、サニィレベルの強大な魔法使いを相手に直線的な攻撃は悪手だ。お前は確かに速いが、魔王程じゃない。それをまだ鍛錬が足りないと取るか、隙を作るやり方をするかはお前次第と言いたい所だが、俺からのアドバイスとしては、初手からエリーとの連携を取るのも手ではないかと考える」
「はい。少し先行し過ぎた感じはしますわ」
初手、エリーは構えは取っていたものの、オリヴィアを除く全ての者が出遅れていた。
そんな状態で突っ込めば、多人数で戦う意味もなく、最悪何も削ることがなく一瞬で一人居なくなる。
それを避けるべきなのは当然だ。
「敗因その二、エレナちゃんのその魔法はね、確かに強力。でも、かける相手によって内容はきっちりと変えていかないとそうなるかな。
レインさんは殺すのが本質だから、絶望すれば殺す。それは魔王だって同じかもしれない。アンデッドが生きていた頃の苦しみを思い出す、良いと思う。普通の人が生きることに絶望を感じる。その歳で使うのは正直反対だけれど、まあ戦う魔法使いとしては、良いと思う。じゃあレインさんも同じだろうと考えてしまったのが、悪手だった」
そして敗因その三は、誰が言うまでもなく、ルークが動けなかった所。
ルークはレインが苦手だし、サニィを尊敬している。その二人に勝てるイメージが湧かないのは、仕方のないことかもしれない。しかしそれでも、一切の動きが出来なかったのは、やはり初戦にしても未熟。
それをレインとサニィが指摘することはなかったが、流石に、それはルーク本人が一番分かっていた。
「も、もう一回、お願いします」
そう言ったのは、エレナだった。
対人では、エレナはその出力を補って、余りある強さを発揮する。
現時点ではマナスルで圧倒的に高い出力とマナタンク、コントロールを持つルークと互角。
そんな最高クラスの魔法を、効かないどころか利用された上で負かされた。
それをエレナのささやかなプライドは許せなかった。
もちろん、相手はかつて戦い方を教えてくれた魔人様と、自分達の尊敬する先生だ。
簡単に勝てないことは分かっているにしても、負けた直接の原因は、自分の悪手だった。
「ルー君。次はアレ、やろう」
アレが何かは、分からない。
多分、作戦があるわけではない。
これはつまり、次は動いてくれと、そういう意味だろう。
「うん、分かった」
ルークは頷き、改めて覚悟を決める。
――。
レインは優しい。
そんな弟子二人の言葉を、ルークは痛いほどに実感した。
言われれば立ち直れなくなるような事は決して言わなかったし、常に四人の向上心を煽るようなことを言ってくる。
隙が見える力。それは個人戦でとても有用な能力であることに間違いないものの、次代の育成をするにも有用だったらしい。
そして、休憩時間になるとその体の成長の為だとか言いつつしっかりと休ませてくれるし、その間に一人一人にほんの僅かながら気づいていない部分のアドバイスをしてくれる。
例えば、ルーク本人はレイン相手に腰が引けていると思っていたが、問題はそちらよりもむしろエレナに意識が向きすぎている部分。
「エレナがもしも傷ついたのなら本気になるだろう。しかし、それでは遅いんじゃないか?」と言う。
言われれば、その通りだ。エレナに何かがあってから本気を出したところで、最早意味はない。それでは既に負けている。
そんな、僅かな意識の誘導は、ルークの強さを少しずつ引き出していく。
サニィ先生があれほどまでに強くなった理由はこの人にあるのだろうと、実際にその指導を受けて理解することになった。
尤も、その戦闘はめちゃくちゃだった。
最初の一回以外はサニィは殆ど何もせずに棒立ちしながら、四人の安全を見守っているだけ。
それでも、誰一人として擦り傷すら付けられない。
ほんの少しでも油断すればその隙を突いて謎の斬撃が飛んでくるし、どんな高度な弟子の連携でも、エレナの幻術でも、ルークの重力魔法でも、その全てがいとも簡単に防がれる。
あの、エリーの地面を割る大剣を受けて傷一つつかない宝剣も意味不明だ。
結局、そんな二人の小指を離すことが出来たのは2ヶ月後、偶然の重なった時だった。
その日、太陽が傾きかけている頃、レインへのオリヴィアの刺突と同時、エリーが短剣を投げると、レインはそちらに振り向いた。エリーは大剣を振りかざし、太陽を背にそれを振り下ろす。
それが眩しかったのだろう。そこまでは、計画通り。
レインはほんの一瞬目を瞑ると、その隙を突いてエレナの幻覚で一瞬の幻想世界にレインを連れ込む。
それも、レインには直ぐに破られるものの、次の手、ルークの重力魔法によって、レインは一瞬平衡感覚を失ったことで、サニィが動き始める。
いつも通り、完全に状況を把握しているサニィは涼しい顔を向けたままに、蔦の魔法で前衛二人を絡めとる。
ようやく、サニィを動かすことが出来た。
ここまで来るのに2ヶ月を要したのだ。
まだまだ長い戦いになるだろう。
そう覚悟していたものの、誰もが油断をしなかった。
それをルークが素早く解除しようとした瞬間、サニィは前衛二人を後衛二人の方向に投げつける。オリヴィアは空中で体制を整えるが、エリーは錐揉みしたまま。
連日の戦いで流石に疲労が溜まっていたのだろう。目を回している様子。
飛んできたエリーを、エレナが優しく受け止め、終わりかなとサニィが思った瞬間、いつもは出来ない隙が出来ていた。
偶然にも、エリーが普段から何本も帯剣しているうちの一本、【片手剣ベルナール】が二人の頭上から、その手の間に降ってきていた。
レインは全員をしっかりと見据えながらも幻覚と重力魔法で平衡感覚を掻き回され少しだけ酔っている様子だったし、サニィは、逆光でそれに気付いていなかった。
それにレインが気付いたのは、ベルナールが二人の手に触れる直前。
瞬時にそれを弾くのと、オリヴィアが踏み込むのと、ルークが二人それぞれを中心に、圧し潰す為の重力魔法を展開するのが同時だった。
サニィはエリーを気にしていてその渾身の重力魔法を解くのにほんの一瞬時間がかかったし、レインはほんの一瞬だけベルナールに気を取られていた。
オリヴィアが、その隙を突いて、二人の繋がれた小指に手刀を入れ、その手は離された。
もちろん、レインは傷は付けない様に力をセーブしていたし、偶然に寄る所が凄まじく大きい。
それでも、サニィを初めて動かしたその回の戦闘で、二人の隙を引き出したのは変わらない。如何な偶然であっても、如何な油断であっても、如何にタイミングが悪くとも、実際の生死をかけたやり取りでそんな言い訳は通用しない。
そうして四人の次代の英雄候補達は、二人の手を引き離した。
その裏で、実はそれが偶然を利用した必然だと気付いたのは、彼女の先生であるサニィだけだった。
エレナはほんの少しだけエリーが過剰に目を回している様な幻術をかけ、ほんの少しだけ【ベルナール】の気配を薄くする幻術をかけていた。
そして、エリーの剣が飛び、その位置がサニィにとって逆光だったと言う偶然を除けば全てがルークの作戦。偶然を利用出来たのも、ルークがエレナに対するテレパスで、その剣の存在を教えた為だった。強い魔法を使えば瞬時にサニィに気取られてしまう。その為、本当に最小限の幻術をかけてくれと、そう伝えたのだった。
それは正しく全員の力が、偶然にも重なった瞬間に手にした勝利だった。
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※とりあえず、一時完結いたしました。
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その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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