雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十四章:取り敢えずで世界を救う

第百九十七話:騎士団長の力

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 西と南、二大陸のドラゴンを全て倒し、最後の大陸へとやって来た英雄候補達は、皆ドラゴンとの戦いを望んでいた。
 その為、レインが試験を設けることにした。
 流石に、魔王戦にもならないところで死んでしまっては困る。
 もっと言って仕舞えば、今回の試験でレインが不合格を出せば、今回のドラゴン戦どころか、魔王戦にも出来るなら参加するな、と言うことになる。
 もちろん、その時現場に居られないレインに決定権などは無いわけだが、無駄死にすることになる、とだけは言っておきたいということだ。

 先ず、1番強いオリヴィアは問題無く合格する。その強さは、巨大なドラゴン相手は厳しいだろうが、格闘のみのデーモンロードなら倒せるのではないかという程だ。防御が不可能な武器の為、とにかくオリヴィアは素早く慎重に動く。その戦い方レインのそれに近い。もちろん、レインほどギリギリの回避をするわけではないし、追い詰められる前に仕留めるのがオリヴィアのスタイルだという部分に大きな違いはある。
 レインやディエゴと散々戦って来た結果、手練れ程相手がどの様に動くのかを察知することも出来る。つまり、ドラゴン相手はまだ未知数だが、生まれながらの肉弾戦のエキスパートであるデーモンロードとは相性が良い。

 次いでクーリアも合格する。
 巨大な剣を振り回すも、その隙は少ない。
 慎重に相手の動きを見極めるオリヴィアであれば、羽の重さしかない秤のレイピアを持てば簡単に勝てるものの、素手でリーチが短くなれば直ぐに手に詰まってしまう。それ程に、その動きは熟練されている。
 小柄な相手にも対応出来ると言うことはこの武器の場合、巨大な相手程効果的に働くということでもある。
 オリヴィアとは逆に、デーモンロードよりもドラゴンの方が相性良く戦えるだろう。

「さて、かかってこい。ライバルよ」
「今はなんだかそう呼ばれるのも恥ずかしいな。行くぞ」

 ディエゴ・ルーデンスは、身体能力だけで言えばこの中で最弱のマルスとそこまで変わらない。しかしそれでも、この男は強い。
 勇者の能力には、発現した頃に思っていた能力はきっかけであって、本当の力は更に深い所にある、というものが多い。
 殆どの勇者がこの本来の力を知る前に命を落とす中、ディエゴは既にその殻を二段階破っていた。
 ディエゴの能力は絶対回避。別の平行世界の様な所に体を移動させてあらゆる攻撃を回避する。
 それが、一段階目。
 そこから更に15年、ディエゴは今回の旅でレインとルークを眺めていた時、新たな可能性に辿り着いていた。

「ふんっ!」
「遅いっうお」

 ディエゴの剣が、不意にレインを掠める。
 いつも通りの、エリーに比べても遅いのに何故だか避けづらい達人の剣筋。それを、レインはいつもの如く紙一重で避けようとしたのだが、その回避先へと剣は動いている。

「くそっ、当たらんか」
「惜しいな」

 レインはにぃっと笑う。
 それは、本当に楽しんでいる時の笑みだとサニィは理解する。初めて見た人は、悪魔の様な笑いだと思うだろう。目を細め、口角を片方吊り上げる。
 試験を終えてのんびりと眺めて居たクーリアが、それを見て一瞬で嗜虐的な妄想をしたのだろう、目を輝かせている。

「くっ、これなら!」
「あたら、ぐっ」

 キィンッと高い金属音、ディエゴの剣をレインは遂に避けきれず、剣で防御する。
 それに衝撃を受けたのは、オリヴィアとエリーだった。
 オリヴィアの必中をもってしても、レインには一切の攻撃は当たらない。能力を使う時には、既に射程外にいる、振る前に止められる。どれだけ速くなっても。
 エリーの読心をもってしても、レインに一切の攻撃は当たらない。心を読んだ所で、体が追いつかない。追いついたとしても、更に上の予知とも言える力で避けられる。どれだけ予測されていないことをしても。

 それが、自分達よりも遥かに遅いディエゴの剣を、レインは避けきれずに防いだのだ。
 もちろん、エリーはまだディエゴに勝てない。勝てそうなのに、どれだけ頑張っても勝てない。
 その理由を、これでエリーはようやく理解した。

「師匠の攻められたくない所を攻めてるんだ。わたしが心を読んでも師匠にそんな場所ないのに」
「ディエゴは達人ですから。あれは勇者の能力の外の力ですわ、エリーさん」
「なんであんなに遅いのに勝てないんだろうって思ってたけど、無意識なんだね、団長さん」

 文字通り、ディエゴは意識して動いているわけではない。幼少期からの弛まぬ鍛錬が、その動きを絶対的な理想形に運んでいるだけ。
 レインが目にも止まらぬ速さで動いても、ほんの1mmにも及ばぬ重心の移動、剣の位置、振り下ろすタイミング、視線、間合い、その他全てが、絶妙にレインの苦手な位置へと入り込んで行く。
 レインの様に目で見て、能力で判断した末に超速で動くのとは訳が違う。見るまでもなく、自然と体が最適な動きを為す。遅くとも速い動き。
 言ってみれば、何かに余りにも熟練した人物は、それを簡単にこなす様に見えてしまう。レインを相手にその域の体捌きをしている。
 それでも、圧倒的な実力差の前に、負けを積み重ねてきていた。人がクマに挑む様なもの。

 しかし、今は少し違う。

「合格だ。お前の能力も申し分無い」
「はぁ、はぁ、これでも傷一つ付けられんとは……。全く超えがいしかないライバルだな……」

 結果的には、レインがディエゴの絶対回避を貫いて無傷で勝利した。
 但し、オリヴィアやクーリアが1分にも満たない戦いだったのに比べて、10分程の時間をかけて。

「その力は?」
「これは、そうだな、お前達に倣って名付けるとするなら、二重の剣とでもするか。絶対回避の力は平行世界の様な所に体を移動させる。ならば、その世界の私が攻撃することも出来るのでは、と思ったんだ。それで、好きな方を事実として残せるらしい」
「オリヴィアの能力が霞む様な力だな……」
「まあ、私の身体能力ではそこまでのパワーは出ないがな」

 ディエゴの方は倒れたまま、そう言って笑い合う二人。
 ライバルと言うにはあまりにも高い実力差はあるが、確かに様子だけ見ていれば、良きライバルだと言える。

 ストイックな二人は、確かに二人共が最強と呼ぶに相応しい力を持っているのだと、この場の誰しもが納得する。
 もしも勇者の力、突出した身体能力、そういったものが存在しない世界ならば、最強なのは間違いなくレインではなくディエゴだろう。
 そんな戦いに、皆が心中でディエゴの強さを讃えた。

 しばらくしてから立ち上がると、ディエゴは次に控えるルークの下へと向かった。

「これはルーク君にも感謝しなければならない。君の空間魔法、余りにも見事だったからな。私の能力は君のおかげで成長した」
「ありがとうございます」
「次は君だ。応援している」
「頑張ります」

 どうやら、ルークの様子がおかしい。話しかけても、上の空と言った感じ。
 体にも無駄に力が入っている。緊張しているのだろう。
 ルークはそもそもレインが苦手だ。共に修行を始めてからしばらく見ているが、やはり苦手を払拭しきれてはいない。
 そこで、試験を終えたディエゴは少年を落ち着かせる為に、一肌脱ぐことにした。

「緊張することはない。レインはあれでな、以外とぬいぐるみとか好きなんだ」
「え?」
「……すまん、嘘だ」
「え?」

 この騎士団長ディエゴ、剣術は達人でも、子どもをあやすのは素人も良いところだった。
 そういえば、昔はオリヴィアにも怖がられていたことを今更ながら思い出す。

「いいや、好きですよ」
「え?」

 そこに助け舟を出したのは、先生であるサニィだ。

「レインさんは、ぬいぐるみ好きですよ。以前アルカナウィンドのぬいぐるみの博物館に行った時、私が行きたいって頼んだのに、出た時にはレインさんの方が嬉しそうでしたから」
「そ、そうなのか……。あいつがぬいぐるみを……」
「可愛いですよね」
「あ、あぁ」

 若干の威圧感を感じて、ディエゴは素直に頷く。

「さて、ルー君。あのぬいぐるみ男をぶっ飛ばして良いんだよ。ほら、レインさんがぬいぐるみを大事そうに抱えてる所を想像して」

 思わずディエゴが吹き出すと、サニィから若干の怒りが漏れる。
 自分から言っておいてなんと理不尽だと思うが、流石に大事な生徒と自分は違うのだろうと納得する。

 結局、ディエゴはルークの気分を盛り上げるのには何の役にも立たず、とぼとぼとその場を離れるしかなかった。
 何故か、オリヴィアとクーリアとライラとナディアが鼻血を流しているのが見えるが、その理由を知る必要は無いだろう。

 サニィによって立ち直ったルークが無事合格を果たしてから、レインにお前は相変わらず大変だなと声をかけられたことが、何とも情けないと思ってしまう騎士団長だった。

 因みに、その日の晩の四人の妄想は等しく、ぬいぐるみにされる魔法を受けた結果レインにとても大切にされることになった、だったことは言うまでもないだろう。
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