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第十五章:帰還、そして最後の一年
第二百七話:久しぶりの絶叫
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「どういうことだ?」
王都が震える。
動物達は騒ぎ立て、鳥は一斉に飛び立つ。
訳も分からず、全ての人々が不安に駆られる。
ディエゴや死の山の魔王戦に同行していた5人精鋭達、そして当時はまだ新人だった者達は感じる。
これは、魔王だ。
いや、魔王よりも更に上だと言っていいかもしれない。
一言間違えれば、一瞬にして自分達は消し飛ばされ、この国は滅ぶだろう。
そんな想像がいとも簡単に出来てしまう。
だからこそ、彼らは一言も発することは出来なかった。
自分達がそうして技に名前を付けていたのは決して遊んでいたからではなく、レインの様になりたかったからだ。
もちろん、レインが技名を叫ぶこと等ない。
しかしレインの奥義『次元の狭間斬り』という言葉を聖女から聞いてしまえば、その強さを知っていてそれを見たことがない多くの者達は幻想を抱いてしまう。
あの鬼神レインが低い声で淡々と、『奥義:次元の狭間斬り』とか言ってそれを使っていたら格好良い。
馬鹿みたいな話ではあるのだが、最初に技名を叫んだのは何を隠そう王だった。
それも、聖女サニィが名付けたというとても良い名前の必殺技だ。
元々、王都騎士団ではオリヴィアの『ささみ3号』が可愛いと女騎士達の間でも話題になっており、各々愛剣に名前を付けていた。彼女達の間で、サニィのネーミンセンスはいつの間にかカリスマ的な役割を持つようになる。
そこに、王自らがサニィの名付けた必殺技を放ったのだ。
全く放てていないが、ともかくそれを叫んだのだ。
そうなれば、それが流行るのも、最早時間の問題だった。
もう一度言う。彼らは決して、ふざけてなどいない。
こうしてモチベーションの上がった彼らは確かに能力が飛躍的に上昇していた。
とはいえ当然、それを叫ぼうと考えている瞬間は致命的に隙だらけなのだが、それを考えても彼らは以前より大幅に強くなっていた。
と言うのが言い訳である。
それを、彼らは口にすることが出来なかった。
何故なら、そんな素晴らしい必殺技名を付けたサニィその人が、青ざめた顔で「あははははは……」と汗をだらだらと滝の様に流しながら乾いた笑いを繰り返しているのだ。
となれば当然、聖女が名付けた格好良い必殺技は、すなわち聖女が勝手に名付けたレインの技、という事だと、誰しもが理解する。
「あ、あの、あの、こ、これはですね」
「ああ」
「こないだ王都に来た時にですね、ディエゴさんを迎えに来たときです」
「ああ」
「そこの人達に、あんな強いレインさんの剣に流派はないのか、と聞かれたわけですよ」
「ああ」
「我流ですって、最初は答えたんですよ」
「ああ」
「でも、その技術のおかげで騎士団の力は飛躍的に増したってことで、是非とも名前が欲しいって……」
「で?」
「その、時間すら斬り裂きそうなレインさんの剣を時雨流と……」
「クソダサい技名は?」
「皆さんが格好良い格好良いというものだから、その……」
「……」
「奥義が、あるんです、と」
「……よし、お前ら全員に食らわせてやる」
「ひ、ひいいいいいいいいいなんでもしますから許して!」
騎士達は思った。確かに、全て事実だ。全て事実だが、何か釈然としない。
そして一瞬にして消えゆく意識の中、騎士達は思った。
それはそうとして、聖女様のネーミングセンス、万歳……。
王とサニィを含めて完全に伸びた騎士団を前にして、エリーは言う。
「師匠、なんか、みんな本気でお姉ちゃんのダサい名前を格好良いと思ってるよ……」
「……」
「あの、もちろんわたしはダサいと思ってるけど」
「ああ、エリーは流石俺の弟子だな」
そうして鬼神は弟子の頭をひと撫でして抱きかかえると、今日はやる気がなくなったと宿に向かう。
後に残ったのは、気絶した王を含む騎士団とサニィ、そして何一つ出来なかった、と言うより意味が分からなかった騎士団長ディエゴと、黙っているのが賢明だと考えながらもサニィを評価していたオリヴィアだけだった。
――。
「あの、ごめんなさい。どうにもセンスを褒められると嬉しくなっちゃって」
夜、宿の一室で聖女が頭を下げる。
鬼神の怒りは暖かいエリーを抱いていたことで既に治まっているが、どうにもその点だけはサニィと合う気がしないと悩んでいた。
「お前な、【月光】は良いだろう。【時雨流】も、まあ良いだろう。だけどな、【次元の狭間斬り】ってなんだよ……」
「前にルー君がそう言ってたのが印象に残ってて……」
「言ったのはお前だ……」
「あれ……」
あの時サニィは確かに、ルークの言ったことを理解しきれず混乱していた。
しかし、自分の言ったことくらいは覚えておいて欲しいものだ。
「まあ、……良いだろう」
サニィのセンスの悪さはともかくとして、時雨流なんかは随分とまともだ。
少しずつ成長しているのなら、否定だけして終わりと言うのもバツが悪い。
「え、良いんですか? 一応、訂正してきちゃったんですが」
「それならそれで良い」
「え、良いんですか……?」
とは言え次元の狭間斬りはなんと言うか、なんと言うかだ。
心太推しよりは随分マシだが、決して格好良くもなければ、説明臭くてむしろダサい。
しかしまあ、サニィが付けたというのであれば……うーん、という微妙なところだ。
レインはうんうん唸った後、「まあ、お前が決めてくれ」と、そうすることに決めた。
剣の名前を決めてもらったのも、元はと言えば自分とサニィの間に何か確かな繋がりが欲しかったからだ。
呪いで5年で死んでしまう以上、子どもを残すことなど出来ない。
かと言って、何も無しで一緒にいるだけではそれも寂しい。
子どもの代わりと言ってはなんだけれど、何か確かな繋がりが欲しい。
そう思った為に、レインは剣の命名をサニィに託した。
ならば、一度託してしまった以上は、多少ダサかろうが、自身の流派と奥義の名前もサニィに決めて貰うのも、悪くはないだろう。
そう、納得することにした。
「じゃ、【次元の狭間斬り】で大丈夫って言ってきますね!」
判断して5秒後、やっぱり、と後悔することになったのもまた、必然だった。
王都が震える。
動物達は騒ぎ立て、鳥は一斉に飛び立つ。
訳も分からず、全ての人々が不安に駆られる。
ディエゴや死の山の魔王戦に同行していた5人精鋭達、そして当時はまだ新人だった者達は感じる。
これは、魔王だ。
いや、魔王よりも更に上だと言っていいかもしれない。
一言間違えれば、一瞬にして自分達は消し飛ばされ、この国は滅ぶだろう。
そんな想像がいとも簡単に出来てしまう。
だからこそ、彼らは一言も発することは出来なかった。
自分達がそうして技に名前を付けていたのは決して遊んでいたからではなく、レインの様になりたかったからだ。
もちろん、レインが技名を叫ぶこと等ない。
しかしレインの奥義『次元の狭間斬り』という言葉を聖女から聞いてしまえば、その強さを知っていてそれを見たことがない多くの者達は幻想を抱いてしまう。
あの鬼神レインが低い声で淡々と、『奥義:次元の狭間斬り』とか言ってそれを使っていたら格好良い。
馬鹿みたいな話ではあるのだが、最初に技名を叫んだのは何を隠そう王だった。
それも、聖女サニィが名付けたというとても良い名前の必殺技だ。
元々、王都騎士団ではオリヴィアの『ささみ3号』が可愛いと女騎士達の間でも話題になっており、各々愛剣に名前を付けていた。彼女達の間で、サニィのネーミンセンスはいつの間にかカリスマ的な役割を持つようになる。
そこに、王自らがサニィの名付けた必殺技を放ったのだ。
全く放てていないが、ともかくそれを叫んだのだ。
そうなれば、それが流行るのも、最早時間の問題だった。
もう一度言う。彼らは決して、ふざけてなどいない。
こうしてモチベーションの上がった彼らは確かに能力が飛躍的に上昇していた。
とはいえ当然、それを叫ぼうと考えている瞬間は致命的に隙だらけなのだが、それを考えても彼らは以前より大幅に強くなっていた。
と言うのが言い訳である。
それを、彼らは口にすることが出来なかった。
何故なら、そんな素晴らしい必殺技名を付けたサニィその人が、青ざめた顔で「あははははは……」と汗をだらだらと滝の様に流しながら乾いた笑いを繰り返しているのだ。
となれば当然、聖女が名付けた格好良い必殺技は、すなわち聖女が勝手に名付けたレインの技、という事だと、誰しもが理解する。
「あ、あの、あの、こ、これはですね」
「ああ」
「こないだ王都に来た時にですね、ディエゴさんを迎えに来たときです」
「ああ」
「そこの人達に、あんな強いレインさんの剣に流派はないのか、と聞かれたわけですよ」
「ああ」
「我流ですって、最初は答えたんですよ」
「ああ」
「でも、その技術のおかげで騎士団の力は飛躍的に増したってことで、是非とも名前が欲しいって……」
「で?」
「その、時間すら斬り裂きそうなレインさんの剣を時雨流と……」
「クソダサい技名は?」
「皆さんが格好良い格好良いというものだから、その……」
「……」
「奥義が、あるんです、と」
「……よし、お前ら全員に食らわせてやる」
「ひ、ひいいいいいいいいいなんでもしますから許して!」
騎士達は思った。確かに、全て事実だ。全て事実だが、何か釈然としない。
そして一瞬にして消えゆく意識の中、騎士達は思った。
それはそうとして、聖女様のネーミングセンス、万歳……。
王とサニィを含めて完全に伸びた騎士団を前にして、エリーは言う。
「師匠、なんか、みんな本気でお姉ちゃんのダサい名前を格好良いと思ってるよ……」
「……」
「あの、もちろんわたしはダサいと思ってるけど」
「ああ、エリーは流石俺の弟子だな」
そうして鬼神は弟子の頭をひと撫でして抱きかかえると、今日はやる気がなくなったと宿に向かう。
後に残ったのは、気絶した王を含む騎士団とサニィ、そして何一つ出来なかった、と言うより意味が分からなかった騎士団長ディエゴと、黙っているのが賢明だと考えながらもサニィを評価していたオリヴィアだけだった。
――。
「あの、ごめんなさい。どうにもセンスを褒められると嬉しくなっちゃって」
夜、宿の一室で聖女が頭を下げる。
鬼神の怒りは暖かいエリーを抱いていたことで既に治まっているが、どうにもその点だけはサニィと合う気がしないと悩んでいた。
「お前な、【月光】は良いだろう。【時雨流】も、まあ良いだろう。だけどな、【次元の狭間斬り】ってなんだよ……」
「前にルー君がそう言ってたのが印象に残ってて……」
「言ったのはお前だ……」
「あれ……」
あの時サニィは確かに、ルークの言ったことを理解しきれず混乱していた。
しかし、自分の言ったことくらいは覚えておいて欲しいものだ。
「まあ、……良いだろう」
サニィのセンスの悪さはともかくとして、時雨流なんかは随分とまともだ。
少しずつ成長しているのなら、否定だけして終わりと言うのもバツが悪い。
「え、良いんですか? 一応、訂正してきちゃったんですが」
「それならそれで良い」
「え、良いんですか……?」
とは言え次元の狭間斬りはなんと言うか、なんと言うかだ。
心太推しよりは随分マシだが、決して格好良くもなければ、説明臭くてむしろダサい。
しかしまあ、サニィが付けたというのであれば……うーん、という微妙なところだ。
レインはうんうん唸った後、「まあ、お前が決めてくれ」と、そうすることに決めた。
剣の名前を決めてもらったのも、元はと言えば自分とサニィの間に何か確かな繋がりが欲しかったからだ。
呪いで5年で死んでしまう以上、子どもを残すことなど出来ない。
かと言って、何も無しで一緒にいるだけではそれも寂しい。
子どもの代わりと言ってはなんだけれど、何か確かな繋がりが欲しい。
そう思った為に、レインは剣の命名をサニィに託した。
ならば、一度託してしまった以上は、多少ダサかろうが、自身の流派と奥義の名前もサニィに決めて貰うのも、悪くはないだろう。
そう、納得することにした。
「じゃ、【次元の狭間斬り】で大丈夫って言ってきますね!」
判断して5秒後、やっぱり、と後悔することになったのもまた、必然だった。
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