雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十五章:帰還、そして最後の一年

第二百二十八話:いつか見た真逆の光景

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「なんだ、やっぱり来るのか貴様は……」

 南の大陸の東部、広大な平原の中心で青年は不満げに言う。
 無精髭を生やしながらも端正な顔立ち、街を歩けばどんな女性であろうと振り返る様なオーラを放ち、筋肉質なその肉体は申し分ない美しさを持っていることが服の上からでも分かる。
 きっと大陸一のイケメンと言えばこの男のことを指すのだろう。

 そんな美青年が、眉に皺を寄せて来客を拒もうとしている。

「おう友よ、頑張っているみたいだな」
「なんでそんなに馴れ馴れしいんだ。私は君が嫌いだ」
「俺は今回のことでお前の評価を改めたぞ。お前は凄い」

 美青年に友だと言って無警戒に近付く男は短髪、二本の剣を腰に差している。
 挑発しながらも嬉しそうに言う。

「君はなんでそう嫌味な言い方しか出来ないんだ……」
「友人だからだろう」
「……私は君が嫌いだ」

 更に苦虫を噛み潰した様な顔になりながら、美青年は言う。

「ドラゴンを、倒したんだってな、サンダル」
「全く、聖女様が居ると隠し事すら出来ないな」

 短髪の青年は相変わらず嬉しそうに、美青年に語りかける。
 一方で美青年、サンダルと呼ばれた男は、短髪の青年の背後に居る金髪碧眼の女性をちらりと見てから、嘆息した様に言う。

「私はドラゴンを相手に七回も死んだ。何度諦めようと思ったことか分からない。まだまだ、強くなんかない」
「それでも、ドラゴンを一人で倒した実績を持つのは俺と聖女とお前だけだ。ましてや死ぬのが分かっていて挑むなど、俺達にも出来ん」

 サンダルは呪いにかかっている。不死ながら、死への恐怖が増大する呪いに。
 その状態で、死を覚悟して戦うのは、まず無理だ。聖女サニィですら、死を目の前にした瞬間にパニックに陥り、無様に逃げ回った過去を持つ。

「もちろん死ぬつもりなんか無かったさ。でも、やるしか無かった。時間が、無かった」
「……」

 そんなサンダルの言葉に、短髪の青年は答えない。

「私は今日君達が来たら、一つだけ言いたいことがあった。その為だけに、ドラゴンを倒したと言っても過言ではない」
「ほう」

 サンダルの言葉に、男は興味深げに耳を立てる。

「聖女様、いや、サニィ君」
「は、はい?」

 不意に名前を呼ばれ、聖女サニィは間抜けな声を上げる。
 久しぶりの友人同士の再開に、彼女は口を挟むまいと見守っていた所だった。

「レイン、貴様も聞いていろ」
「ああ」

 そうして、覚悟を決める。
 真剣な表情を作ったサンダルは、正にどんな女でも耐えられないだろう熱意の視線をサニィに送る。

「サニィ君。私は君に救われた。君のおかげで、必死になって、ドラゴンを倒せた。まだまだ私は弱いかもしれない。でも、私は、今、言うしかないんだ」

 その声にも、力が入る。
 二人も、次に来る言葉はもう、分かっていた。

「結婚して欲しい。必ず幸せにする」

 つい最近、何処かで見た光景だな、と、短髪の青年、レインは思う。
 極西の島国で、夜、美男が美女に、似た様なことを言っていた。
 今回も、美男美女だと言える。
 男からプロポーズを決めるところも、よく似ている。女の方が強い所も、同じだ。
 そしてその女が、共にレインを想っている部分さえも。

 ただ、全く逆の所が幾つかある。
 今回、見た目だけで言えば男の方が見た目が上だ。大陸一と言っていい美青年に対して、そこまではいかない美女。どちらかと言えば、可愛いの方が先に来る。
 釣り合いは取れているが、差がある。
 男女の容姿の差が、一つ。

 次に、男が本当の実力者であると言うこと。
 負けると分かればすぐに逃げ出すであろうと二人が評した男と違い、この美青年は増大した死の恐怖を乗り越えて尚戦える、本物の戦士であると言うことが、一つ。

 そしてもう一つは、女の返事だ。

「もちろん、良いですよ」
「なっ……」

 その言葉に、最も驚いたのは何を隠そう美青年、サンダルだった。
 振られるのが分かっている。残り少ない命、彼女は好きな男と居たいに決まっている。
 だからこそ、ドラゴンを倒して、自分はあなたのおかげでこれだけ頑張ったのだと、そう伝える為にプロポーズをしたのだ。
 もちろん、本気だ。
 本気で愛していると言える。初めて見た時から惹かれていたし、呪いに罹った時には、本当に救われた。元気付ける為に吹っ飛ばすなどというお茶目も、本当に魅力的に映った。

 つまり、彼女には、本当に幸せになって欲しかった。
 自分ではなく、本当に好きな相手と。

 そんな想いは、サニィの次の言葉を聞いて、安心に変わる。

「ただし、レインさんに勝てたらです。真剣一発勝負。泣いても笑っても、勝った方と結婚します」

 それを聞いて、はははと、自然と笑みが零れる。
 なんだ、簡単なことではないか。
 それなら確かに、確実だ。

「聞いたなレイン、私は貴様を倒して、サニィ君と結婚する」
「ああ、受けて立とう」

 終始嬉しそうな友人を相手に、美青年も笑う。
 この男を相手に、まさか女をかけて再び真剣勝負が出来るとは。
 以前とは、違う。
 肉体の強さも、想いの強さも、経た経験も、まるで違う。
 今度こそ、本当の本当に、殺すつもりで挑もう。今は、それが二人に対する礼儀だろう。

 青年は、超巨大な斧の、その血で赤黒く染まってしまった柄を持ち、恋敵へと挑むのだった。
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