雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第二部第一章:鬼神を継ぐ二人

第三話:わたくし達が必ず魔王を倒してみせますわ

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 王女オリヴィア、グレーズ王国の王女にして世界最高戦力。
 伝説的な英雄【鬼神レイン】が存命中、戦闘で彼に勝った人間は唯一オリヴィアだけである。
 10年間ほど都市伝説と囁かれてきた仮面の勇者【雷姫】の噂は、実は全て彼女の活躍によるもの。
 混乱を避けるため隠してきたが、ここ10年間で既に二度魔王は復活し、その両方共【鬼神レイン】が魔王を討伐した。彼女はその直弟子である。
 これから先もう一度だけ魔王が復活するが、戦力は整った。
 彼女と女王アリエル率いる魔王討伐隊が必ず魔王を討伐するので安心せよ。

 そんな声明が、世界中で発表された。

「随分と派手なアピールね……」
「わたくしは慣れているから良いんですけれど」

 火山へと向かう道中、二人はそんな声明をある街で聞くことになった。
 現状では魔王が生まれる場所は元より、生まれたとしてもすぐに倒せるわけではない。
 その為、世界中に魔王が生まれることを知らせておく必要があった。
 世界中の首脳陣や軍は8年間の間に全ての情報を共有していたが、戒厳令で一般人がそれを知ることはなかった。もちろん、少しの噂は流れてしまっていたけれど。
 世界中がパニックになることは予想されるものの、軍や上層部はそれも予定していた為に、対処は迅速にできると予定されている。
 その一環として、鬼神レインが魔王を既に倒したということ、そしてその弟子で王女のオリヴィアを広告塔に据えることで少しでもパニックを軽減しようという試みが執り行われたわけだ。
 もちろん、魔王のことを一切隠しておくと言う案も出たのだが、軍の動きや各国の連携の取り方が、何かの驚異が迫っているのではと不安を煽ってしまったこともあり、噂も手伝って世界滅亡論が囁かれ始めてしまったこともそれを公表した理由の一つ。

「さて、やっぱりとざわざわとし始めてしまいましたわね。ちょっとアピールしてきますわ」
「ノリノリね……」
「王女たる者国民の心のケアも義務ですから」

 そう言うやいなや、オリヴィアは叫びだす。

「サウザンソーサリス市民の皆さん! 落ち着いてください!」
「ちょ、ここで言うの?」

 してくるとはなんだったのか、そんな不満があるが、エリー自身別に目立つのが嫌というわけではない。幼い頃から大人達の注目を浴びて育ってきたし、そんなことで心を乱していてはいざという時にまともな戦いが出来るわけもない。
 そのまま安心を呼びかけるために叫び続けるオリヴィアの隣へと腕を組んで立っていると、民衆の注目はオリヴィアとエリーに二分される。

 オリヴィア王女は王族特有の赤色、特に彼女は透き通ったような茜色の非常に美しい髪の毛とその高貴な佇まい、そして何よりも王族を象徴する紋章の入ったペンダントを掲げれば、その絶世の美しさも相まってそれを王女だと疑う者は居ない。年齢的にも恐らくその程度だと予想できる。
 一方エリーは高貴ではなく好奇の目で見られていた。
 150cmに満たない身長に童顔の少女。王女の隣にあって王女よりも偉そうに腕を組んでいる彼女の背からは巨大な盾や槍、大剣がはみ出ている。腰にも3本の剣とメイスが差さり、完全に変な戦闘狂の美少女といった容貌。
 12、3歳にしか見えないエリーは戦士のコスプレを勘違いした少女が自信満々にお遊戯会でもしているのかな? 等と思われても仕方がなかった。

 そんな中で、オリヴィアが「わたくし達が必ず魔王を倒してみせますわ。わたくしとこの姉弟子、エリーは共に勇者レインの弟子です。だから安心してくださいませ」などと言ってしまえば、彼らの目は好奇は元より、懐疑や畏怖の目と言ったものが増えていく。オリヴィアだけで済ませてこれば良かったものを。
 そんなことを、思ってしまう。

「あらら、オリ姉、私なんか紹介するからこうなっちゃうんだよ」

 エリーを見て疑い始めてしまった連中の内、ガラの悪い冒険者が絡んでくるのも、また仕方のないことだった。

「最近の魔法ってのは凄いからなぁ。鬼神の弟子だってんなら、その証拠を見せてくれよぉ」
「そーだ、二人が強いという証拠を見せてくれ!」

 突然の魔王声明の中、一度疑われてしまえば、そんな要望を出されるのも必然だったのだろう。

「ま、私が疑われるのは仕方ないからね。ほら、どこからでもかかってきなさい」
「エリーさん、怪我はさせちゃダメですわよ?」
「はーい」

 腕を組んだまま、顎でガラの悪い冒険者を促すエリー。
 その冒険者は、腕に自信があった。先日のオーガの群れなら一人で対処できる程度の自信は見て取れたし、能力も氷を生み出す力。攻撃と防御を同時に行える優秀なものだった。
 強いからこそ、多少の増長も許される。彼の今までは、そんなものだった。
 それが構えも取らずに挑発されれば、流石に子どもとは言え痛い目を見せなければならない。
 男は、プライドに忠実だった。

「嬢ちゃん、ちょっとは痛い目も覚悟しろよ!!!!」
「うんうん、気迫は悪くない。でも、師匠に比べたら、ね」
「オラァ!」

 そんな直前まで余裕で挑発を繰り返すエリーに対して、そんな大声で殴りかかろうとする。

「おぉ、やっぱ自信があるだけはあるねえ」
「なっ」

 それはフェイントで、軽く蹴りでも入れれば終わり。そんな風に思っていた冒険者の一撃は、優しく添えられたエリーの手で止められている。掴まれた脚は、微塵も動く気配がない。
 文字通り、ほんの1mm足りとも動かない。足を動かそうとすれば動くのは自分の体の方で、エリーの体は根が生えたように微動だにしない。よくよく考えてみれば、その少女は大量の武器を背負って平然としている。怪力なのは、間違いがなかった。

「くそっ」
「おっと、凍結は勘弁ね。お兄さんそこそこの腕はあるんだから、もう少しちゃんとすればもっといい男になれるのに」

 次の手に出ようとした男に対しエリーは瞬時に男の腰に佩いている剣を引き抜くと、背後に回り込み男の首元にそれを突きつける。
 それに全く、男は反応できなかった。いや、反応できなかったのは男だけではない。その場にいた全ての者が、その動きを認識することを拒否していた。
 気がつけば、男はいつでも死ねる状態にあった。

「相変わらずえげつない能力ですわ……」
「あ、そうそう。もちろんそこのお姉さん、王女様も、私と同じ位強いからね」

 その後、ガラの悪かった男の要望でオリヴィアとの演武を見た結果、男は真面目に生きることを決めた。
 いや、そうではない。
 彼女達の実力を目の当たりにして、サウザンソーサリス市民は彼女達ならば確かに魔王を倒せるかもしれないと思うと同時、その余りの実力に本の少し、恐ろしさを感じたのだった。

「まあ、師匠の力はこんなものじゃなかったからね、私達もまだ未熟だからね」

 そんなエリーの言葉も、彼らには中々届かなかった。
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