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第二章:聖女を継ぐ者達
第三十一話:今回は私の負け
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霊峰マナスル 標高8163m
その中腹6000m付近、常雪地帯でエレナは戦っていた。
敵はゴーレムが十二体と一人の人型。
ゴーレムは自然発生もあるのだが、基本的には特定の魔物によって作られることが多い。
魔法使い系の人型魔物、ドワーフやらノームやらといったものがこれにあたる。相手がそのどちらかによって、対処の方法が変わるというのが基本だ。
ドワーフの作るゴーレムは命令以外では動きを探知して攻撃を仕掛けてくるシンプルなもの。その代わり生産能力が高く次々にゴーレムを生み出してくる。そして本体を殺せば一斉に動きを止めるのが特長だ。
対してノームの作るゴーレムは命令も聞く自立型。生産能力は高くないが本体を殺しても動きを止めず、個々に魔物としての活動を継続する。体内のコアを破壊すれば活動を停止する。
「今回は明らかにノーム、面倒ね」
そう判断した理由は簡単だ。煙幕を張ればドワーフ型は対象を見失うのに対して、ノーム型は基本的に熱探知。その程度のまやかしは一切通用しない。
つまり、正真正銘エレナの最も苦手とする相手だ。
隠密で一気に接敵して本体を倒した後、ルークが来るまで粘ると言うことも考えたが、今回のものはかなり精巧に作られているらしく、鈍重なのは遠く離れているときだけ。近づかれた今となっては、デーモンに囲まれているのに近しい。
「熱を持った分身は効くのかしら」
物は試しにとそれを作り出してみるが、ゴーレムの狙いは変わらない。
やはりかなりの精巧さの様だ。
「くっ、身体強化が得意で良かったわ。ルー君が同じ状況ならとっくにぺちゃんこだもの」
間一髪でそれを避けながら、なんとかこの場を乗り切る方法を考える。
その間にももう一体ゴーレムが増えて十三になっているが、それはどうでも良い。
最初に構えを取った理由は簡単だ。
ドワーフであるのならゴーレムと戦っている映像を見せつけてそのまま接敵、ノームであるのなら余裕の表情で戦っている様に見せかける為。
最初に張った煙幕をスクリーンにして、エレナの行動はノームの瞳には改ざんされて映っている。
自立型である以上、ゴーレムの動きそのものは視認しなければ分からないのがノームの弱点の一つだ。
つまり、魔法使いであるのにも関わらず余裕の表情で強力なゴーレムと格闘を繰り広げるエレナに、ノームは焦り始めていた。
しかし当然、エレナもこのままではいずれ体力が切れて捕まってしまう。
今の身体強化で殴れば拳は砕けてしまうだろうし、かと言って幻術と身体強化ばかりをやってきたツケで、有効な方法は今のところ浮かばない。
ルークに花を持たせる為もあって、サポートに徹してきたエレナはこういう時はルークに任せっきりでいた。
それが、エリーに勝つことが出来ない最大の理由だったことに、今更ながら気づく。
「魔人様魔人様、うーん、ちょっと規格外過ぎて浮かばないな。それならやっぱりこういう時は先生、何か良い魔法はなかったかしら」
そうして考え続けること更に7分。ゴーレムはもう一体増え、煙幕のスクリーンには二体のゴーレムが既に倒れたように映し出されている。
そこで、はっと思いつく。
先生は二種類の魔法の斬撃を使っていた。
一つ、よく使っていた方の斬撃である杖を剣に見立てるものの方は、エレナの今の道具ではイメージし辛く、ゴーレム相手には全く通用しなかった。
それに対してもう一つは、自分にも使えるかもしれない。
「水を高圧で……指輪の宝石からのイメージで行けるかしら」
ぶつぶつと呟きながら、ゴーレムの一撃が頬をかすめる。
「あっぶな、でも焦ったら負け。私なら避けられる」
エレナは、図太い。
基本的にそれほど感情を表に出さない。ルークに見せる不満顔も、半分は演技だ。
だからこそ、危機的状況に陥っても、パニックに陥らない。
それが、同じく魔法使いであるルークが最も便りにする理由だった。割と繊細なルークに対して、動じないエレナは相性が良かった。互いに欠点を補える関係性。
だからこそ……。
「ウォーターカッター!」
強力な水の一閃。果たしてゴーレムの体は真っ二つに、裂けはしない。
少し距離が離れれば抵抗によって分散してしまい、10cm程食い込んだ所で急激に威力を落とす。
発射する距離が離れれば空気抵抗も相まって尚更だ。
「先生の制御も出力もおかしいのよね……」
標高6000mを超えてこの程度の威力。充分に空気のある地上でなら、更にこれを使いこなすのは困難だろう。
更に修行せねばと考えた所で、思いつく。
エレナは図太い。
それは、勝利の為ならなんでも利用してやるという意気も含めて。奇襲なんかは趣味ではないけれど、地形利用は立派な戦術だ。
己の魔法だけで勝てる相手なら、心を折るためにも魔法だけで相手をする。しかし、相手が強敵ならば話は別だ。
自分には帰るべき場所がある。
自分のことをいつも心配してくれる、彼がいるのだ。
「よし、全部やめだ。意地を張るのはここまで。今回は私の負け」
言って、念話を飛ばす。
(ルー君、ゴーレムの片付け手伝ってね)
(え、突然どうした?)
(私は修行不足だって分かったの)
それだけ伝えて、エレナはずっと映していたスクリーンを解除する。
ゴーレムは既に半分になっている映像が急に途切れ、逃げ回るエレナが映し出される。
今いるゴーレムは十四体、そのどれもがピンピンしている。
それを見て、ノームの動きが止まるのが見える。焦りに焦ってゴーレムの生産が覚束ない様子だったノームはそれを見てポカンとした後、邪悪な笑みを浮かべ最強のゴーレムを作り出してやろうとばかりに下を向いて作業を始めた。
そして念の為一つだけ、届く映像を改ざんして叫ぶ。
「キャアアアアァァアァァァァアアア!!!」
およそ人が上げられるものではない様な、天にも届く様な絶叫を上げゴーレムに叩き潰された彼女は赤い血しぶきに染まって、そしてそれを。
真っ白な雪崩が覆い尽くした。
その中腹6000m付近、常雪地帯でエレナは戦っていた。
敵はゴーレムが十二体と一人の人型。
ゴーレムは自然発生もあるのだが、基本的には特定の魔物によって作られることが多い。
魔法使い系の人型魔物、ドワーフやらノームやらといったものがこれにあたる。相手がそのどちらかによって、対処の方法が変わるというのが基本だ。
ドワーフの作るゴーレムは命令以外では動きを探知して攻撃を仕掛けてくるシンプルなもの。その代わり生産能力が高く次々にゴーレムを生み出してくる。そして本体を殺せば一斉に動きを止めるのが特長だ。
対してノームの作るゴーレムは命令も聞く自立型。生産能力は高くないが本体を殺しても動きを止めず、個々に魔物としての活動を継続する。体内のコアを破壊すれば活動を停止する。
「今回は明らかにノーム、面倒ね」
そう判断した理由は簡単だ。煙幕を張ればドワーフ型は対象を見失うのに対して、ノーム型は基本的に熱探知。その程度のまやかしは一切通用しない。
つまり、正真正銘エレナの最も苦手とする相手だ。
隠密で一気に接敵して本体を倒した後、ルークが来るまで粘ると言うことも考えたが、今回のものはかなり精巧に作られているらしく、鈍重なのは遠く離れているときだけ。近づかれた今となっては、デーモンに囲まれているのに近しい。
「熱を持った分身は効くのかしら」
物は試しにとそれを作り出してみるが、ゴーレムの狙いは変わらない。
やはりかなりの精巧さの様だ。
「くっ、身体強化が得意で良かったわ。ルー君が同じ状況ならとっくにぺちゃんこだもの」
間一髪でそれを避けながら、なんとかこの場を乗り切る方法を考える。
その間にももう一体ゴーレムが増えて十三になっているが、それはどうでも良い。
最初に構えを取った理由は簡単だ。
ドワーフであるのならゴーレムと戦っている映像を見せつけてそのまま接敵、ノームであるのなら余裕の表情で戦っている様に見せかける為。
最初に張った煙幕をスクリーンにして、エレナの行動はノームの瞳には改ざんされて映っている。
自立型である以上、ゴーレムの動きそのものは視認しなければ分からないのがノームの弱点の一つだ。
つまり、魔法使いであるのにも関わらず余裕の表情で強力なゴーレムと格闘を繰り広げるエレナに、ノームは焦り始めていた。
しかし当然、エレナもこのままではいずれ体力が切れて捕まってしまう。
今の身体強化で殴れば拳は砕けてしまうだろうし、かと言って幻術と身体強化ばかりをやってきたツケで、有効な方法は今のところ浮かばない。
ルークに花を持たせる為もあって、サポートに徹してきたエレナはこういう時はルークに任せっきりでいた。
それが、エリーに勝つことが出来ない最大の理由だったことに、今更ながら気づく。
「魔人様魔人様、うーん、ちょっと規格外過ぎて浮かばないな。それならやっぱりこういう時は先生、何か良い魔法はなかったかしら」
そうして考え続けること更に7分。ゴーレムはもう一体増え、煙幕のスクリーンには二体のゴーレムが既に倒れたように映し出されている。
そこで、はっと思いつく。
先生は二種類の魔法の斬撃を使っていた。
一つ、よく使っていた方の斬撃である杖を剣に見立てるものの方は、エレナの今の道具ではイメージし辛く、ゴーレム相手には全く通用しなかった。
それに対してもう一つは、自分にも使えるかもしれない。
「水を高圧で……指輪の宝石からのイメージで行けるかしら」
ぶつぶつと呟きながら、ゴーレムの一撃が頬をかすめる。
「あっぶな、でも焦ったら負け。私なら避けられる」
エレナは、図太い。
基本的にそれほど感情を表に出さない。ルークに見せる不満顔も、半分は演技だ。
だからこそ、危機的状況に陥っても、パニックに陥らない。
それが、同じく魔法使いであるルークが最も便りにする理由だった。割と繊細なルークに対して、動じないエレナは相性が良かった。互いに欠点を補える関係性。
だからこそ……。
「ウォーターカッター!」
強力な水の一閃。果たしてゴーレムの体は真っ二つに、裂けはしない。
少し距離が離れれば抵抗によって分散してしまい、10cm程食い込んだ所で急激に威力を落とす。
発射する距離が離れれば空気抵抗も相まって尚更だ。
「先生の制御も出力もおかしいのよね……」
標高6000mを超えてこの程度の威力。充分に空気のある地上でなら、更にこれを使いこなすのは困難だろう。
更に修行せねばと考えた所で、思いつく。
エレナは図太い。
それは、勝利の為ならなんでも利用してやるという意気も含めて。奇襲なんかは趣味ではないけれど、地形利用は立派な戦術だ。
己の魔法だけで勝てる相手なら、心を折るためにも魔法だけで相手をする。しかし、相手が強敵ならば話は別だ。
自分には帰るべき場所がある。
自分のことをいつも心配してくれる、彼がいるのだ。
「よし、全部やめだ。意地を張るのはここまで。今回は私の負け」
言って、念話を飛ばす。
(ルー君、ゴーレムの片付け手伝ってね)
(え、突然どうした?)
(私は修行不足だって分かったの)
それだけ伝えて、エレナはずっと映していたスクリーンを解除する。
ゴーレムは既に半分になっている映像が急に途切れ、逃げ回るエレナが映し出される。
今いるゴーレムは十四体、そのどれもがピンピンしている。
それを見て、ノームの動きが止まるのが見える。焦りに焦ってゴーレムの生産が覚束ない様子だったノームはそれを見てポカンとした後、邪悪な笑みを浮かべ最強のゴーレムを作り出してやろうとばかりに下を向いて作業を始めた。
そして念の為一つだけ、届く映像を改ざんして叫ぶ。
「キャアアアアァァアァァァァアアア!!!」
およそ人が上げられるものではない様な、天にも届く様な絶叫を上げゴーレムに叩き潰された彼女は赤い血しぶきに染まって、そしてそれを。
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