雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
274 / 592
第三章:王国最強の騎士と王

第三十七話:エリーさんも姉上も、僕はどちらも応援してます

しおりを挟む
 次の日、訓練場では朝一で模擬戦が行われていた。
 この二人が戦うと決着まで毎回1時間程の時間がかかる。互いに防御は徹底しているし、攻撃力が特別高い部類でも無い為に、観戦者も単純に世界最高峰の攻防を分析的に楽しめる。
 エリーの様に誰にも真似出来ない暴れ方をするわけでもなく、王国式の最高峰と個人技の最高峰と言った戦いだ。

「くっ、私の負けか」
「ふう、ディエゴも本当に強くてわたくしも大変ですわ」

 勝者はオリヴィア。
 勇者の力は必中。単純に、如何な状況であっても攻撃を命中させられる。ただそれだけ。
 勇者の素質はそれ以外の全てが身体能力に振られている為に、単純に世界でトップクラスに身体能力が高い。その初撃は特に洗練されていて、雷姫の雷の部分はそこから来ている。一筋の閃光。それを知っていて待ち構えているのならば、それを単純な身体能力で回避してあらゆる体勢で必中の攻撃を見舞う。
 それがオリヴィアの戦闘スタイルだ。
 王国式を基本に置いた形を、時雨流で大幅に改変した戦闘スタイルだ。

 対してディエゴの能力は絶対回避と二重の斬撃。その力の真相は平行世界に体を移動させる、そして平行世界の自分の斬撃をこの世界に顕現する。つまり平行世界への干渉だと言われている。
 平行世界が確認されていない以上、恐らくという他ない能力だが、当たっている様に見えて当たらない、逆に当たらないと思った攻撃が当たるのだからそれで納得するしかない、絶対回避と二重の斬撃の方が分かり易い。そんな力だ。
 強力な力と引き換えにその身体能力は勇者の平均より少し上でしかないものの、その力を使わずとも騎士団の全員を圧倒する程の達人だ。

 レインの弟子になる以前は、オリヴィアがディエゴに勝利することは有り得なかった。
 単純に鍛錬の差でディエゴの方が上だったし、その特殊な力もディエゴの方が遥かに上だ。
 いくら身体能力で優っていても本物の達人には通用しなかったし、必中も世界を跨ぐディエゴには届かない。

「しかし、レインに続き姫様にも私の回避が効かなくなるなんてな」
「レイン様直伝の時雨流奥義ですわ」

 最初は、絶対回避をたまたま超えられたのが勝因だった。
 その時のディエゴの力は絶対回避だけだったし、ディエゴの攻撃さえ当たらなければいつかは勝てる戦いとなっていた。
 その内、ディエゴが二重の斬撃を使える様になると、負けがかさみ始めた。
 避けたつもりの攻撃が平気で追撃してくるその攻撃は、レインすら驚いていたレベルだ。
 その時になって、再び壁が出来たのだと複雑な感情になった。
 ちょうどその頃ドラゴンをエリーが一撃で倒して、自分には才能がないのではないかと思い始めて落ち込んでいると、師匠は言った。
「お前は次代の最強であれ」
 そんな一言だった。
 それはつまり、圧倒的に強い師匠から見て、自分は最強で居られるということに他ならない。

 それを認めると、それからのオリヴィアは、強かった。
 よくよく観察してみると、ディエゴの能力には隙がある。
 圧倒的な身体能力を持つ自分でなければ見えない程の僅かな隙。
 それこそ、光が届くよりも短いのではないかと思うような、そんな僅かな隙だ。
 その隙を突いてみると、攻撃が命中した。相変わらず二重の斬撃を躱すのは難しかったが、託された宝剣月光を使って防御とも組み合わせればなんとか防ぐことが出来る。
 そうなると、あとは単純に練度と身体能力を複合した肉弾戦の強さの差。

「ほう、その奥義は是非知りたいな」
「ふふふ、内緒ですわ。ディエゴもその域ですもの」

 そう言って誤魔化す。
 技としての奥義など、存在しない。
 レインに対する想いや王女として国を守る覚悟、月光を継いだことに対する重圧、そしてエリーを任された責任感。その他色々な感情が、オリヴィアにとっては負けられない理由だ。
 それが言い換えれば奥義。

 だからこそ、ディエゴもそれは持っている。

 今回は勝てたけれど、ディエゴもエリーの様に戦うほどに強くなっている。
 日々差が縮まっていく恐怖とも戦いながら、オリヴィアは今日も勝利を掴んだのだった。

 ――。

 そんな様子をわくわくしながら見ていた14歳と8歳がいた。
 隣には王もいて、愛娘と親友の戦いを固唾を飲んで見守っていた。愛娘が勝つのは嬉しいが、最早どうやっても勝てない親友が負けるのはやはり釈然としない気持ちも少しだけある。
 しかしそんなことを知ってか知らずか、エリーははしゃいでいた。

「よっしアーツ、明日は私がオリ姉を叩き潰すから見てなさいよ!」
 王族を前に王女を叩き潰す等と言える人間は、ここグレーズ王国で最早彼女だけだ。
「エリーさんも姉上も、僕はどちらも応援してます」
「ぐはっ」

 エリーはアーツの純粋な心に打ちのめされる。
 本当にこの王族は純粋過ぎてたまに眩しい。

「はっはっは、俺はもちろん……、どっちも応援してるぞ!」
「王様は何言ってるんですか」

 王は自分の娘を応援しろよとツッコミを入れつつ、エリーは分かっている。
 自分を娘にしたいだけでなく、王はエリーの戦闘スタイルのファンなのだ。一瞬の迷いがある辺り、どちらに傾きそうになったかは明白。
 今回はどんな奇想天外な戦いを見せてくれるのだろうかとわくわくしていた。

 そんな時だ。

「あ、嫌な感じがする。ドラゴン並みかも。しかも東西だ、ごめんねアーツ、オリ姉ディエゴさん、会議」

 グレーズ騎士団だけでは対処出来ない災厄が王都を襲う。
 ルークとエレナからそう伝言を受けていた二人とババ様と呼ばれる預言者から伝えられていた王とディエゴはすぐにそれに対応する。

「アーツ、今回はお前も来い。騎士団、今日は倒れる様な鍛錬は禁止だ。いつでも出られるように準備をしておけ」

 素早く指示を出す王が、初めて王に見えたエリーだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...