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第六章:鬼神の友人と英雄候補達
第七十四話:誰ならアリスさんとのお付き合いを許せますの?
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港町ブロンセンにある一件の宿屋『漣』、最早第二の実家の様な場所でもあるそこで、時雨流を継ぐ二人の娘はくつろいでいた。
エリーはベッドに足を伸ばして腰掛け、オリヴィアは机で魔法書を読んでいる。
「いやー、まさか離れている間にお母さん狙いのおじさんが出てたとはね」
まだ14歳のエリーは、兵士達の中に母親でアリスを狙っている者がいたことにどことなく不満気な顔をしながら言う。
「おじさんって……、リカルドさんはまだ25歳だと聞いてますわ」
23歳のオリヴィアは、そんなおじさんと呼ばれたリカルドを心なしか庇うようにそう言う。
「25って私の倍近いよ」
「アリスさんよりは年下じゃありませんの。まあ、……」
問題点は年齢ではない。
【リカルドさんは年齢を言わなければ35歳程には見えますけれど……】
そんなオリヴィアの心の声も聞こえてくる。
ところがリカルドが老けて見えるのもまた、問題の半分でしかない。
「まあ、お母さんが普通ならお似合いだったかもしれないよ。おじさん別に顔がそんな悪いわけではないし」
「ま、まあそうですわね」
アリスは普通ではない。
彼女は現在シングルマザーだ。
エリーが物心ついた頃から父親と呼べる者は家におらず、実の父親自体も二人が村を出る時理由となった事件の時に他界している。
それは、問題ではない。
むしろ新たな恋を探して幸せになっても良いのではないかと、旅に出たエリーは思い始めている。
問題は三十路を超えて尚、オリヴィアが始めて出会った8年前と全くその見た目を変えていないことだ。
150cmも無いエリーよりも更に小柄な上に童顔、肌艶も良く、何も言わなければ誰もがエリーの妹だとすら思ってしまう様な見た目をしているのだ。
つまり、『リカルドおじさん』と付き合うとするならば良い所、親子にしか見えないわけだ。
「不満なのはそれだけじゃないわ」
「なんですの?」
「あのおじさんチキンだから。実力は並みなのに、こないだの戦い三回位逃げてた」
それが気に入らないのだと、エリーは苦い顔で言う。
「あ、あー。それは確かに。でも、結局は自分で倒してましたわ。ほ、ほら、ナディアさんも同じようなことをしますし……」
オリヴィアは逆に、リカルドを庇う。
特に理由は無いつもりだけれど、その実王女的にはあらゆる国民の味方になってやりたいというものと、自分に近しい年齢の『おじさん』がぼろくそに言われているのを見るのが居た堪れない。
それを読んだエリーは更に重ねる。
「いやー、思ってること全然違うわよ。ナディアさんはどんな風に殺そうか考えてるけど、おじさんはママーって思ってた」
「も、もうそれ以上は止めてあげてくださいな……」
エリーの情け容赦ない口撃に、さしもの女王も庇いきれない。
心を読める以上、その言は紛れもない真実。死を前に母親を思うのは、何度も死線をくぐり抜けてきた以上はよく分かる。
そしてそれを言うエリー自身もお母さんっこだ。
しかしながら、勝てる相手にそんな行動を取った相手に自分の母親を任せられるかと言われれば、ノーと言わざるを得ない。
流石にオリヴィアも、エリーの言葉がよく分かってしまう。
世界中で最も守りたい者を、敵を前に背を向ける男に任せるわけにはいかない。
そこで、紅茶を手に取ったオリヴィアは少しだけ話題を転換する。
「じゃ、じゃあエリーさんは誰ならアリスさんとのお付き合いを許せますの?」
「師匠」
「ぶっ」
余りの即答に、思わず吹き出してしまう。
その勢いで器官に入った紅茶にむせながら、持ち前の身体能力でハンカチを取り出す。
「おほ、けほ、……そりゃ、レイン様にならアリスさんどころか世界を任せられますが……」
「そう、でも師匠はお姉ちゃんのだから仕方ない」
その前に故人だけれど、というツッコミはこの際置いておくことにして、続ける。
「じゃ、じゃあ他にはいませんの?」
「んー、ディエゴさんかな。まあ、あの人熟女好きだから無理か」
エリーの答えは今度はオリヴィアでも予測が出来た。
一番大切な人を守るには、自分よりも強い人が安心だ。
多くの敵を相手にするのは苦手だと言っても、ディエゴならば申し分無い。
「そうですわね、彼はいつまで独身でいるつもりなのかしら……」
「渋いディエゴさんなら幼女を守る騎士って感じで格好いいのになー」
「彼は正真正銘の騎士、しかももう10年以上団長ですわ……」
実の母親を幼女などと言うエリーに呆れながら汚した床を掃除していると、噂をすればなんとやら、アリスがやってくる。
「あら、二人ともどうしたの? 珍しくオリヴィアちゃんがお茶でもこぼしたの?」
「そうそう、そろそろお母さんも再婚しても良いよーって話をしてたの」
リカルドがアリスに気があるという話だった気がするが、エリーから並々ならぬプレッシャーを感じ取ったオリヴィアは一先ず合わせることにした。
「エリーさんがアリスさんに似合うのはレイン様だと言ったもので思わずこぼしてしまいましたの」
「あら、確かにレインさんは命の恩人ね、素敵よ」
動揺しながらそんなことを言うオリヴィアに向かって、アリスは頬に手を当てながらそんな風に返す。
すると、オリヴィアは再びはっと目を見開いて更なる動揺を露わにする。
「ま、まさかアリスさんもレイン様を……」
わなわなと震え始めたオリヴィアを見て、アリスはいたずらっぽく笑う。
「あの夜レインさんは格好良かったなぁ……」
「なっ……」
「なんて。もちろんそんなことないわ」
いたずらっ子のように舌を出すアリスに、顎が外れたように口をあんぐりと開けるオリヴィア。
そんなやりとりを口を出さずに笑いを堪えて丸まっていたエリーを向いて、アリスは言う。
「エリー、私はあなたに守られてるわ。再婚なんかはしないけれど、魔王を倒してからも守ってくれると嬉しいな」
エリーの頭を撫でながらアリスはそう言う。
村を離れて以来、エリーに心配をかけない様に必死に生きてきたアリスは流石に恋愛どころではなかった。
そしてそれは今、代わりに魔王戦に向かおうとしている娘への心配で満ちている。
娘の無事こそが、今のアリスにとっては最大の幸せだ。
だからこそ、全てを見抜かれている娘には、こう告げる。
「私の命はレインさんに救われた時から彼の物だから、ね、エリー」
今度は顎が外れるのではないかと言うほどに口を広げたオリヴィアを放っておいて、娘は笑顔でこう答えた。
「うん、それなら安心だ。無事に倒して帰ってくるから、待っててねお母さん」
リカルドおじさんはどこへやら、訳も分からず掃除も捗らない王女様は取り残され、母娘の団欒は続くのだった。
エリーはベッドに足を伸ばして腰掛け、オリヴィアは机で魔法書を読んでいる。
「いやー、まさか離れている間にお母さん狙いのおじさんが出てたとはね」
まだ14歳のエリーは、兵士達の中に母親でアリスを狙っている者がいたことにどことなく不満気な顔をしながら言う。
「おじさんって……、リカルドさんはまだ25歳だと聞いてますわ」
23歳のオリヴィアは、そんなおじさんと呼ばれたリカルドを心なしか庇うようにそう言う。
「25って私の倍近いよ」
「アリスさんよりは年下じゃありませんの。まあ、……」
問題点は年齢ではない。
【リカルドさんは年齢を言わなければ35歳程には見えますけれど……】
そんなオリヴィアの心の声も聞こえてくる。
ところがリカルドが老けて見えるのもまた、問題の半分でしかない。
「まあ、お母さんが普通ならお似合いだったかもしれないよ。おじさん別に顔がそんな悪いわけではないし」
「ま、まあそうですわね」
アリスは普通ではない。
彼女は現在シングルマザーだ。
エリーが物心ついた頃から父親と呼べる者は家におらず、実の父親自体も二人が村を出る時理由となった事件の時に他界している。
それは、問題ではない。
むしろ新たな恋を探して幸せになっても良いのではないかと、旅に出たエリーは思い始めている。
問題は三十路を超えて尚、オリヴィアが始めて出会った8年前と全くその見た目を変えていないことだ。
150cmも無いエリーよりも更に小柄な上に童顔、肌艶も良く、何も言わなければ誰もがエリーの妹だとすら思ってしまう様な見た目をしているのだ。
つまり、『リカルドおじさん』と付き合うとするならば良い所、親子にしか見えないわけだ。
「不満なのはそれだけじゃないわ」
「なんですの?」
「あのおじさんチキンだから。実力は並みなのに、こないだの戦い三回位逃げてた」
それが気に入らないのだと、エリーは苦い顔で言う。
「あ、あー。それは確かに。でも、結局は自分で倒してましたわ。ほ、ほら、ナディアさんも同じようなことをしますし……」
オリヴィアは逆に、リカルドを庇う。
特に理由は無いつもりだけれど、その実王女的にはあらゆる国民の味方になってやりたいというものと、自分に近しい年齢の『おじさん』がぼろくそに言われているのを見るのが居た堪れない。
それを読んだエリーは更に重ねる。
「いやー、思ってること全然違うわよ。ナディアさんはどんな風に殺そうか考えてるけど、おじさんはママーって思ってた」
「も、もうそれ以上は止めてあげてくださいな……」
エリーの情け容赦ない口撃に、さしもの女王も庇いきれない。
心を読める以上、その言は紛れもない真実。死を前に母親を思うのは、何度も死線をくぐり抜けてきた以上はよく分かる。
そしてそれを言うエリー自身もお母さんっこだ。
しかしながら、勝てる相手にそんな行動を取った相手に自分の母親を任せられるかと言われれば、ノーと言わざるを得ない。
流石にオリヴィアも、エリーの言葉がよく分かってしまう。
世界中で最も守りたい者を、敵を前に背を向ける男に任せるわけにはいかない。
そこで、紅茶を手に取ったオリヴィアは少しだけ話題を転換する。
「じゃ、じゃあエリーさんは誰ならアリスさんとのお付き合いを許せますの?」
「師匠」
「ぶっ」
余りの即答に、思わず吹き出してしまう。
その勢いで器官に入った紅茶にむせながら、持ち前の身体能力でハンカチを取り出す。
「おほ、けほ、……そりゃ、レイン様にならアリスさんどころか世界を任せられますが……」
「そう、でも師匠はお姉ちゃんのだから仕方ない」
その前に故人だけれど、というツッコミはこの際置いておくことにして、続ける。
「じゃ、じゃあ他にはいませんの?」
「んー、ディエゴさんかな。まあ、あの人熟女好きだから無理か」
エリーの答えは今度はオリヴィアでも予測が出来た。
一番大切な人を守るには、自分よりも強い人が安心だ。
多くの敵を相手にするのは苦手だと言っても、ディエゴならば申し分無い。
「そうですわね、彼はいつまで独身でいるつもりなのかしら……」
「渋いディエゴさんなら幼女を守る騎士って感じで格好いいのになー」
「彼は正真正銘の騎士、しかももう10年以上団長ですわ……」
実の母親を幼女などと言うエリーに呆れながら汚した床を掃除していると、噂をすればなんとやら、アリスがやってくる。
「あら、二人ともどうしたの? 珍しくオリヴィアちゃんがお茶でもこぼしたの?」
「そうそう、そろそろお母さんも再婚しても良いよーって話をしてたの」
リカルドがアリスに気があるという話だった気がするが、エリーから並々ならぬプレッシャーを感じ取ったオリヴィアは一先ず合わせることにした。
「エリーさんがアリスさんに似合うのはレイン様だと言ったもので思わずこぼしてしまいましたの」
「あら、確かにレインさんは命の恩人ね、素敵よ」
動揺しながらそんなことを言うオリヴィアに向かって、アリスは頬に手を当てながらそんな風に返す。
すると、オリヴィアは再びはっと目を見開いて更なる動揺を露わにする。
「ま、まさかアリスさんもレイン様を……」
わなわなと震え始めたオリヴィアを見て、アリスはいたずらっぽく笑う。
「あの夜レインさんは格好良かったなぁ……」
「なっ……」
「なんて。もちろんそんなことないわ」
いたずらっ子のように舌を出すアリスに、顎が外れたように口をあんぐりと開けるオリヴィア。
そんなやりとりを口を出さずに笑いを堪えて丸まっていたエリーを向いて、アリスは言う。
「エリー、私はあなたに守られてるわ。再婚なんかはしないけれど、魔王を倒してからも守ってくれると嬉しいな」
エリーの頭を撫でながらアリスはそう言う。
村を離れて以来、エリーに心配をかけない様に必死に生きてきたアリスは流石に恋愛どころではなかった。
そしてそれは今、代わりに魔王戦に向かおうとしている娘への心配で満ちている。
娘の無事こそが、今のアリスにとっては最大の幸せだ。
だからこそ、全てを見抜かれている娘には、こう告げる。
「私の命はレインさんに救われた時から彼の物だから、ね、エリー」
今度は顎が外れるのではないかと言うほどに口を広げたオリヴィアを放っておいて、娘は笑顔でこう答えた。
「うん、それなら安心だ。無事に倒して帰ってくるから、待っててねお母さん」
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