雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
389 / 592
第十一章:血染めの鬼姫と妖狐と

第百五十二話:一つ質問がある

しおりを挟む
 たまきは現在南極点まで戻って来ていた。
 サニィの持つ杖が刺さっていた場所。そこに再び杖を突き刺すと、狐の姿へと戻る。
「死ぬ前に、レイン様の遺体を埋葬したい」
 そんな一言が、たまきにとっては予想外にも通った結果だ。
 レインの遺体はたまきによって修復され、完全な形で眠っている。
 たまきはその側に丸まって寄り添うと、そのまま瞳を閉じた。

 ――。

 あの時、エレナは三体の遺体を作り出した。
 一つはたまき。結界の中で死闘を行った末に、無事討伐成功した凶悪な魔王の眷属。
 一つはオリヴィア。魔王に腹部を貫かれ、結界の中で死闘を繰り広げる内、その治療が遂に間に合わなかった悲劇の王女。
 そして一つはレイン。アリエル曰く、大々的に処刑的な処分をしなければ、既に漏れ出ているだろう噂に、ケリをつけられないと言う話の大罪人。

 たまきとレインの複製遺体は、そのまま近くの討伐軍加盟国に持ちかえられると、磔の上に火刑に処された。
 魔王がレインだという噂が流れてしまった以上、キッチリと処分する場面を見せなければ、親しかった魔王討伐軍が魔王を匿っているなどと言う噂が立ちかねない。
 無意味な火種を作らない為にも、それは必要なことだった。

 幸いなことに、エレナはネガティブな幻術のエキスパートだ。遺体を作り出すことなど造作もない。
 それを見破れる人物は一人として居なかった。焼けるシーンの、その臭いまでもが正確に再現される程に、その複製は洗練されていた。

 それはともかくとして、たまきはレインの埋葬の為に解放されることとなった。
 解放と言っても、二人の見張りを付けている。
 戦闘中に吐血をして以来、たまきの魅了の魔法は大きく失われた。意識して使えば使えるものの、自然と溢れ出していた無意識の魔法は影を潜め、誰もが無事に接することが出来るようになっていた。
たまきの言は嘘ではない。
 魅了の効かないエリーはそう断言し、イリスも邪悪な感じを受けないと認めると、誰がたまきの見張りに付くべきかを話し合う。
 もちろん、レインが最後の魔王と言うことがそもそも間違いで、たまきが魔王化する可能性がある為に直ぐに殺さなければならないという意見も出ていた。

 それを、アリエルが自らの力で、たまきが経験で否定する。

 魔王は最短でも一年程の期間を空けなければ生み出すことが出来ない。
 気に入らないレインを殺すことに全力を注いでいた世界の意思は、レインを殺したいが為にサニィを魔王にした。それは失敗に終わったものの、その後に魔王を作り出せていない。
 いくらレインとはいえ、魔王の連戦は厳しいはずだ。しかしそれを行うことは出来なかった。

「呪いに罹っていて死ななかったからでは?」
 ルークが問う。
「いいえ、最近知ったのだけれど、レイン様の呪いはサニィを魔王から戻した時に解けていたみたいだわ」

 本当はサニィも、と言おうとしたがそれを堪える。すると、エリーが眉間に皺を寄せ、悲しそうな顔をする。

「つまり、魔王をたくさん作って師匠を殺すことは出来なかったってことね」

 泣きたいのだろう、それを堪え、エリーは気丈に言葉を振り絞った。
 その理由を分かる者は、たまきしか居ない。

「ええ。だから、私が死ぬまでに魔王になることは無いわ」
「それなら、私が見張りをしよう」

 そう宣言したのは、サンダルだった。
 意思の硬い表情で言う。
 女誑しだのなんだの言われているが、その表情は真剣だ。
 エリーから見れば、名乗り出た理由は明白だった。

「一人はサンダルさんで良いと思う」

 そう推すと、サンダルは安堵の表情を浮かべる。
 女関連ですんなりと認められたのが、レインと出会う前以来。そんな情けない理由で。
 苦笑するエリーに、サンダルも渋い顔をする。
 次いで、ルークが挙手をする。

「じゃあ、もう一人は僕かな。南極に行くとなると魔法使いは必須だ。寒いからね」

 そう宣言すると、エレナを向き直る。

「エレナ、少し結婚は遅れちゃうけど良いかい?」
「大丈夫。私はオリヴィアさんをちゃんと殺さないといけないから。待ってるね」

 そんな様子に、流石の一同も苦笑を隠し得ない。

「なんだか、全然羨ましくないですわね……」

 殺す宣言をされたオリヴィアがそう呟いたことで、話はまとまった。

 犠牲となったレインとライラの前では、無駄に悲しみを見せるよりも明るく在りたい。
 そう考えた面々の明るさはなんとも的外れだ。
 それが同時に、大切な人を失ったという悲しみを明確に表していた。

 ――。

「たまきさん、一つ質問がある」
「何かしら?」

 丸まったたまきに、サンダルは問う。
 どうしても、気になっていたことがあった。

「なんで魔女様、えーと、聖女様に瓜二つな彼女を生かしておいてくれたんだ?」

 エリーがサンダルを推した理由は、これだった。ナディアを生かしてくれたことへの感謝の意図。

「ああ、彼女はね、私だったの」
「どう言うことだ?」
「決して報われることの無い恋心を抱いて、それでも諦められない哀れな人。どうしても、彼女を私に重ねてしまった。
 サニィと世界を滅ぼしに行くと宣言したレイン様が、瀕死の彼女の体を掴んで、引きずって歩こうとした時に、どうしようもなく同情してしまったの」
「……」
「私は魔物だけれど、少し違えばその場所には私が居た。サニィに負けてしまった以上、それでも諦められない馬鹿な女な以上、彼女は私。そう思ったの」
「……そうか」
「そして、そんなレイン様を見ていられなかった。魔王って、世界の意思に逆らえないから。それがレイン様の望んで居ないことだってくらい、サニィと一緒に居て幸せそうだった彼を見てれば分かる」
「じゃあなんで私達に抵抗したんだ? いや、それは言ったことか……」
「ええ、私が死ぬまで一緒に居たかっただけ。レイン様の仲間はここに居るんだって、言いたかっただけ。わがままでごめんなさいね」
「……。女性のわがままくらい、許してやるのが男だと言いたいところだけどな……」
「ええ、分かってる。もう悔いは無いわ」

 淡々と語るたまきに、表情をころころと変えるサンダル。

 それをルークは静かに見守っていた。なんとなく、想像が付くことがある。
 全く、史上最強のカップルはめちゃくちゃだと思う。一体いつからそれを考えていたのか、もしくは考えていなかったのか知らないけれど、「僕とエレナもそんな風になれると良いなぁ」などと呟いてしまう程度には、ルークにとってそれは理想的なものの様に感じた。

「さ、一思いにやって、あ、一つ忘れてたわ。ルーク君?」
「はい」
「サニィの杖、いる?」
「それは先生のもの。レインさんの墓標にも相応しいと思ってる」
「そう。じゃあ、サニィのタンバリンは?」
「は? タンバリン?」
「なんか、鞄に入ってたの。タンバリン」
「…………もらっておく」

 鞄から、タンバリンを受け取る。
 なんだこれ、と思いながらも、想像通りならこれは先生が自分に残した遺品だと納得する。

 それをルークが鞄にしまうと同時、サンダルが腰のショートソードを抜く。
 レインから情けで渡された、今までたったの一度も抜いていなかったショートソード。
 レインからの武器ならば、たまきも後悔は無いだろうと、そう思って、それでとどめを刺してやろうと考えていた。
 どっちにしろ、もう斧は壊れている。

 そう思って、そのショートソードを構える。

「あら、良い名前ね。それにとても綺麗」

 それを見て、そう漏らすたまき。
 どういうことかと思って、剣を眺める。名前など、この剣に付けた覚えはない。
 そうして剣の腹を眺めていると、それが目に入ってきた。

「あの野郎……」

 そこには、思わずそう漏らさずにはいられない銘が彫ってあった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...