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第三章:王妃と幼馴染
第三十六話:瞬間移動
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クラウスとエリスの試合は、王城の中庭で行われることになった。
存在そのものを秘匿されているクラウスと、今は王妃となってしまっているエリス。
如何な理由があったとしても、それを誰かに公開するわけにはいかない。
そんな時、この中庭は便利だった。
ほどよく開けていながらも、周囲を城の高い壁に囲まれていて闘技場さながら。
そしてこの中庭は、王にとって思い出の場所だ。
「では、決着は降参か、もしくは致命傷と成りうる一撃が当てられただろうと認められる場合。もちろん、実際には当てないように」
「分かりました」
「了解しました」
ジャムのうち、昨日とは違う三人が二人を囲う様に立ち、その内ジョセフがそう宣言する。
流石に軍のことで四人が同時に席を空けることは出来ない様で、ジョンは居なかった。
彼らがいれば例え本当に致命傷を受けたとしても、五分以内に死に至るようなものでなければ対処は可能だろう。
当然首を刎ねられたとか、心臓を貫かれたとか、五分以内に失血してしまう様なものは彼らでも処置のしようが無い。
かつて聖女は数秒でも生きていれば助けられたと言うが、それは流石に不可能だというもの。
その為いざという時には三人体制で止められるようにと、わざわざ軍のトップが出向いたのだろう。
片方は元王女の子どもで、片方は王妃。
そして今は魔王戦の前ではない。
いくら勇者の出生率が減っているからと言っても、今すぐ少しでも強くならねばと急ぐべき時でもない。
二人が頷いたのを確認して、ジョセフは宣言した。
「では、はじめ」
――。
テレポート、瞬間移動、空間転移。
どんな言い方でも構わない。
エリスの力は、超常現象を引き起こすその力は、ルークの使う空間跨ぎの移動魔法【ブリンク】とは訳が違う。
空間を跨ぐルークの移動魔法は、所謂視覚の誤魔化しだ。一時的に世界を平面に見立てることによって、踏み出す一歩に長い移動距離をもたらす魔法。
それは一歩を踏み出さなければ移動できず、一歩を踏み出さなければ移動できないと言う事は、転移先までの間に障害物があればそこにぶつかってしまう。
高速移動というわけではないので舞っている塵なんかは通常速度で押しのけながら歩くことと同義となるが、例えば壁に空いた穴の奥に行きたければ、壁の手前までに一歩、壁をくぐれる形で一歩が必要となる。
ところが、エリスのテレポートは視界さえ通れば問答無用でその位置に体を押し込むことが出来る。
更に一歩を踏み出す必要すらなく、ただその場所を見ることが出来れば良い。
ブリンクには無い問題があるとすれば、その距離がブリンクよりも遥かに短い10m程度であることと、最短でも二秒以上は開けなければ使えないということだろうか。
クラウスの戦法はシンプルだった。
構えない。
手を下ろして、自然体。
どうせテレポートでどこから来るのか分からないのならば、予測することそのものが無意味だ。
読み合いになった結果、読み負ければその時点で隙が出来て決着が付いてしまう可能性が高いのがテレポートという力。
エリスの心理戦の強さが分からないのならば、賭けに出て負けるというのは、割に合わない。
何処か、そう考えてのことだった。
「くっ」
それに対して、エリスは構えたまま攻めあぐねた。
一見隙だらけの構えで、その視線は既にエリス自身すら捉えていない様に見える。
しかしそれがエリスを意識していないのではなく、空間そのものを把握しようとしているということが、エリスには深く理解できた。
嘗められているのではなく、完全なテレポート対策。
今のクラウスには、背後を取ろうが、前から攻めようが、差が無い様にしか思えない。
そして何より攻めあぐねてしまった理由は、エリスの根底に燻る一つの感情だった。
クラウスから感じる一つの、対峙して改めて認めざるを得ない感情。
それが、恐怖だった。
下手に踏み込めば、簡単に喰われる。
何故かそれを、エリスは理解してしまった。
先に動いたのは、やはりエリスだった。
真正面から剣を上段に構えながらクラウスに向かって強く踏み込む。
それを見て、当然ながらクラウスは剣で受けようとした。それがフェイントだろうが本物だろうが、受けなければそのまま切り捨てれば良い話。
エリスがどんな動きをするにしても、一先ずはそれをフェイントにさせなければいつまでもテレポートの条件は満たしたまま変わらない。
そして、エリスはそのまま思いっきり剣を振り下ろす。
鍛錬の行き届いている華麗な一太刀。完全に体重の乗った、一撃必殺と言っても過言ではない勇者の一撃。
流石に生まれる時が少し早ければ英雄になっただろうと言われるだけのことはあると、クラウスは感心する。
しかしそれは、最悪の一手だ。
ギィン! と金属同士が強くぶつかる音が響くと、エリスの体は勢い良く弾かれた。
エリスは完全に体重を乗せた両手の斬撃。
対してクラウスは特に構えてもいなかった片手での防御。
それでも尚、エリスよりもクラウスの方が上だった。
理想的な肉体と英雄達に称されたその膂力は、英雄になれなかったエリスのそれを遥か上回っていたとしても、なんらおかしくはない。
(まあ、エリー叔母さんより強い一撃なら競り負けてたけど……)
そんなことを思いながら、追撃に入る。
完全に体勢を崩したエリスは、どう見ても焦っている。
テレポート対策に次の一手に対応できる下手な受け方をしたが、それほどの膂力が無くて綺麗に弾けた。
クラウスも半分以上の自信はあったが、賭けといえば賭けだった。
しかし後はその首筋か、胴に、剣先を当てれば決着だ。
そのまま剣を前に突き出そうとする。
かかった、と思ったのはエリスだった。
エリスのテレポートはルークの空間跨ぎ、ブリンクとはまるで違う。
目で見るだけで、たった10mながら、その体を無理やり空間に押し込めることが出来る。
二秒ほどのクールダウンは必要ながら、それ以外の条件は無い。
そう、体を空間に押し込める際に、エリスのテレポートは体勢すらも立て直すことが可能だ、
「取った!」
クラウスの剣にとって最も遠い位置、右手に持った剣の反対側。エリスはその左後ろに低く構えた状態で転移すると、剣をクラウスの背に突き入れんとした。
ただクラウスは、それでは終わらない。
魔物蔓延る森の中で平気で野宿出来る男が、その程度の緊急事態に対処出来ないなんてことは有り得ない。
決着は、それから一秒にも満たない後のことだった。
存在そのものを秘匿されているクラウスと、今は王妃となってしまっているエリス。
如何な理由があったとしても、それを誰かに公開するわけにはいかない。
そんな時、この中庭は便利だった。
ほどよく開けていながらも、周囲を城の高い壁に囲まれていて闘技場さながら。
そしてこの中庭は、王にとって思い出の場所だ。
「では、決着は降参か、もしくは致命傷と成りうる一撃が当てられただろうと認められる場合。もちろん、実際には当てないように」
「分かりました」
「了解しました」
ジャムのうち、昨日とは違う三人が二人を囲う様に立ち、その内ジョセフがそう宣言する。
流石に軍のことで四人が同時に席を空けることは出来ない様で、ジョンは居なかった。
彼らがいれば例え本当に致命傷を受けたとしても、五分以内に死に至るようなものでなければ対処は可能だろう。
当然首を刎ねられたとか、心臓を貫かれたとか、五分以内に失血してしまう様なものは彼らでも処置のしようが無い。
かつて聖女は数秒でも生きていれば助けられたと言うが、それは流石に不可能だというもの。
その為いざという時には三人体制で止められるようにと、わざわざ軍のトップが出向いたのだろう。
片方は元王女の子どもで、片方は王妃。
そして今は魔王戦の前ではない。
いくら勇者の出生率が減っているからと言っても、今すぐ少しでも強くならねばと急ぐべき時でもない。
二人が頷いたのを確認して、ジョセフは宣言した。
「では、はじめ」
――。
テレポート、瞬間移動、空間転移。
どんな言い方でも構わない。
エリスの力は、超常現象を引き起こすその力は、ルークの使う空間跨ぎの移動魔法【ブリンク】とは訳が違う。
空間を跨ぐルークの移動魔法は、所謂視覚の誤魔化しだ。一時的に世界を平面に見立てることによって、踏み出す一歩に長い移動距離をもたらす魔法。
それは一歩を踏み出さなければ移動できず、一歩を踏み出さなければ移動できないと言う事は、転移先までの間に障害物があればそこにぶつかってしまう。
高速移動というわけではないので舞っている塵なんかは通常速度で押しのけながら歩くことと同義となるが、例えば壁に空いた穴の奥に行きたければ、壁の手前までに一歩、壁をくぐれる形で一歩が必要となる。
ところが、エリスのテレポートは視界さえ通れば問答無用でその位置に体を押し込むことが出来る。
更に一歩を踏み出す必要すらなく、ただその場所を見ることが出来れば良い。
ブリンクには無い問題があるとすれば、その距離がブリンクよりも遥かに短い10m程度であることと、最短でも二秒以上は開けなければ使えないということだろうか。
クラウスの戦法はシンプルだった。
構えない。
手を下ろして、自然体。
どうせテレポートでどこから来るのか分からないのならば、予測することそのものが無意味だ。
読み合いになった結果、読み負ければその時点で隙が出来て決着が付いてしまう可能性が高いのがテレポートという力。
エリスの心理戦の強さが分からないのならば、賭けに出て負けるというのは、割に合わない。
何処か、そう考えてのことだった。
「くっ」
それに対して、エリスは構えたまま攻めあぐねた。
一見隙だらけの構えで、その視線は既にエリス自身すら捉えていない様に見える。
しかしそれがエリスを意識していないのではなく、空間そのものを把握しようとしているということが、エリスには深く理解できた。
嘗められているのではなく、完全なテレポート対策。
今のクラウスには、背後を取ろうが、前から攻めようが、差が無い様にしか思えない。
そして何より攻めあぐねてしまった理由は、エリスの根底に燻る一つの感情だった。
クラウスから感じる一つの、対峙して改めて認めざるを得ない感情。
それが、恐怖だった。
下手に踏み込めば、簡単に喰われる。
何故かそれを、エリスは理解してしまった。
先に動いたのは、やはりエリスだった。
真正面から剣を上段に構えながらクラウスに向かって強く踏み込む。
それを見て、当然ながらクラウスは剣で受けようとした。それがフェイントだろうが本物だろうが、受けなければそのまま切り捨てれば良い話。
エリスがどんな動きをするにしても、一先ずはそれをフェイントにさせなければいつまでもテレポートの条件は満たしたまま変わらない。
そして、エリスはそのまま思いっきり剣を振り下ろす。
鍛錬の行き届いている華麗な一太刀。完全に体重の乗った、一撃必殺と言っても過言ではない勇者の一撃。
流石に生まれる時が少し早ければ英雄になっただろうと言われるだけのことはあると、クラウスは感心する。
しかしそれは、最悪の一手だ。
ギィン! と金属同士が強くぶつかる音が響くと、エリスの体は勢い良く弾かれた。
エリスは完全に体重を乗せた両手の斬撃。
対してクラウスは特に構えてもいなかった片手での防御。
それでも尚、エリスよりもクラウスの方が上だった。
理想的な肉体と英雄達に称されたその膂力は、英雄になれなかったエリスのそれを遥か上回っていたとしても、なんらおかしくはない。
(まあ、エリー叔母さんより強い一撃なら競り負けてたけど……)
そんなことを思いながら、追撃に入る。
完全に体勢を崩したエリスは、どう見ても焦っている。
テレポート対策に次の一手に対応できる下手な受け方をしたが、それほどの膂力が無くて綺麗に弾けた。
クラウスも半分以上の自信はあったが、賭けといえば賭けだった。
しかし後はその首筋か、胴に、剣先を当てれば決着だ。
そのまま剣を前に突き出そうとする。
かかった、と思ったのはエリスだった。
エリスのテレポートはルークの空間跨ぎ、ブリンクとはまるで違う。
目で見るだけで、たった10mながら、その体を無理やり空間に押し込めることが出来る。
二秒ほどのクールダウンは必要ながら、それ以外の条件は無い。
そう、体を空間に押し込める際に、エリスのテレポートは体勢すらも立て直すことが可能だ、
「取った!」
クラウスの剣にとって最も遠い位置、右手に持った剣の反対側。エリスはその左後ろに低く構えた状態で転移すると、剣をクラウスの背に突き入れんとした。
ただクラウスは、それでは終わらない。
魔物蔓延る森の中で平気で野宿出来る男が、その程度の緊急事態に対処出来ないなんてことは有り得ない。
決着は、それから一秒にも満たない後のことだった。
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