雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第三章:王妃と幼馴染

第七十五話:英雄ルーク

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「もちろん、全力でね」
「ああ、君はもう誰しもが認める超一流だ。なら僕は父として英雄を見せよう」

 皆に聞こえる声でそう言って始まった父娘の戦いは、それはもう圧倒的だった。

 と言っても、サラは何も出来ずに負けたわけではない。
 ルークに対してジャングルを展開してみせたし、その中でブリンクを使って縦横無尽に走り回った。
 父から教わった技術と母さら受け継いだ才能をいかんなく発揮したと誰しもが認めざるを得ないし、勝利の魔法は少なくとも会場の一般客は全員がサラの勝利を確信してしまう程の威力を秘めていた。
 英雄とその娘は、故郷であるヴェラトゥーラの地で遂に世代交代を行うのかと、会場がざわめいたものだった。
 サラの魔法の威力は、決してルークに劣っているわけではない。
 ジャングルを創る速度と蔦を操る能力のみに限れば、最早父すらも上回っていると言えるだろう。

 しかしそれでも、サラの攻撃はその全てがルークによって防がれてしまった。
 ある魔法は正面から打ち砕かれ、ある魔法はギリギリで躱された。
 サラの魔法は規模は大きいが、まだまだ荒削り。
 ほんの僅かのイメージのほつれをルークが見抜き、そこに糸を通すかの様にディスペルしていく。
 つまり、頑張ってはいるがルークには及ばない。
 そんな状況が終始続くことになった。

 常にほんの少しだけルークが上回っているだけなのだけれど、結果的に疲労やダメージが蓄積していくのはサラの方で、ルークはずっと涼しい顔をしている。
 その差は余り大きくない様に見えて、サラにとっては圧倒的な壁だった。
 見る者からしたら何度も惜しいシーンはあったのだろう。
 しかし、サラからしたら惜しいシーンなど一つも無い。
 全てで上回られて、その上一切の隙がない。
 エリスの様な甘さ等存在する要素が無く、例え目の前で自殺覚悟の特攻をしたとしても冷静に助けた上でその魔法を打ち砕いてしまうだろう。

 そんな流石と言える英雄が、父ルークだった。
 それを見て、マナは感嘆の声を挙げた。

「はぁああ、さらのぱぱ、つよいなぁ……」
「私には惜しい戦いに見えたけれど、そうなのマナ?」
「だって、さらのたたかい見えたもん」
「ん……、どういうことなの?」

 尋ねるブリジット姫は、どういうことか今一分かっていないらしい。
 どちらにせよエリスとの戦いが見えることは無いにしても、と前置きをして補足をする。

「ルークさんは観客が戦いを見られるように、ジャングルの木を少しだけ操作してるんですよ。サラにかかりっきりでなくても戦えるという余裕の表れです」
「ええ、それであの全てを躱して無効化してしまうのだから、恐ろしい強さ。サラさんや、当然私よりも遥かに強い」

 敗退したことで今日から観客席に入ったエリスの補足も聞いて、ブリジット姫は「なるほど、たしかに」と納得した。
 姫本人も魔法使いらしいのだから、魔法を使う難しさを知っているのだろう。
 正面のルークに対して全力で相対しているサラに、観客を気遣う余裕があるわけがない。
 ルークはサラに対して手を抜かずに、同時並行して観客に見える様ジャングルの木々を操っているのだ。

 そしてそのまま、起死回生の一手を放つことも叶わず、サラは地面にぺたりと倒れ伏した。

「……はぁ、はぁ」

 全力全開、持てる力の全てを出し切った結果、体力と脳に回す酸素の多くを使いきった魔法使いが希に陥る貧血の様な症状。
 実際の戦場でそうなってしまえば、それはすなわち死に直結する。
 その時点で、魔法使いの負けは確定。
 ルークの勝利が決まることになった。

 ――。

 大会の最終結果は、例年通りだった。
 優勝はエリザベート・ストームハート、準優勝ルーク・スカイウォード、三位サンダル。
 ルークは例年通りイリスと限界ギリギリの試合をして、ストームハートは相変わらず全ての試合を圧勝で終えるという、いつもと何一つ変わらない結果に終わった。
 勝利者インタビューで、ストームハートはいつもと違うことを言ったことが今回の大会での今までとの唯一の違いだっただろう。

 ――今回の大会は非常にレベルが高かった。グレーズの二人に英雄の娘、そしてウアカリの新星も素晴らしい。
 私が知る限りでは、観客席にも一人化物がいたのだけれど。

 そんな意味深なコメントに、それは誰かと聞かれたストームハートが答えた「予言の子とか、魔王の落し子とか言っておけば面白いかしら」という言葉が議論を呼ぶことは、当然のこと。
 それに対して準優勝のルークが「いや、英雄の血って言おうよ……」という言葉を残したのは、そこにいたのがストームハートだったせいで、誰も知らない事実となっている。

 ただ、この大会によって、サラの修行は『修了』と認められるのだった。
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