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第四章:三人の旅
第七十七話:強い女達
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サラが合流してから三日、何故かクラウス達三人は南の大陸へと向かって歩いていた。
今まで来た道とは違って大陸の東側からだが、殆ど引き返しているに等しい道のりだ。
その理由は簡単で、マナがカーリーの戦いが面白かったということで、ウアカリに行きたいと言い出したからだ。
それに何故かサラも同意して、「アルカナウィンドは旅の最終目的地じゃん。まずは世界を回ろうよ」なんてことを言い出したので軽く抵抗してみたところ、実はエリー叔母さんが世界を回ることを推奨してた、と伝えられてそれは逆らえないとなったのが本当のところ。
どちらにせよマナと出会わなかったらアルカナウィンドに行って【本当の英雄】と会った後には世界をのんびり旅したいと考えていたので、それ程問題はない。
ママを探したいマナがウアカリに行きたいと言うのなら、南に渡るのもそれ程悪い気はしていなかった。
ただ、ウアカリには一つ問題がある。
呪いとも言われる程の男好き。
かつて英雄ナディアがその呪いのせいで想像もつかない苦悩を抱えていたと聞いている。
止められない勇者の力を持った国に行って、二人は大丈夫なのかということ。
マナには教育上良く無いし、サラの想いを知っていれば不安は募る。
すると、それを察したのかサラはにやりと笑って言う。
「クラウス、渋ったのはウアカリで自分がモテると私やマナが嫉妬するって不安だった?」
「もう隠してすら無いんだな、サラ」
「うん、私はクラウス好きだよ」
なんでもないかの様にそう告げられて、どう答えれば良いか分からない。
とは言え、霊峰での修行や大会を見て、サラのそれを受け止める準備だけは出来ていた。
「僕は子持ちだぞ?」
と言っても、今までの18年を考えればそう素直にはなれなかった。
しかしそれでも、サラはそれすらなんでもないことの様に流しながら腕の中のマナを撫でる。
「じゃあマナは私の子どもでもあるね。ねー、マナ?」
「さら、ままになってくれるの?」
「うん、どう?」
「わーい!」
こうなってしまえば、納得せざるを得ない。
「仕方ないな、まあ、こうなる予感はしてたけどさ」
「うんうん、今はそれで良いよ。素直になれないのも幼馴染だから仕方ない。マナと一緒に居ればすぐ私は母性に目覚めるから、それを見てマザコンクラウスはきゅんきゅんするはず」
「言いたい放題だな……」
そういう部分が苦手なんだけど……、と言いたいところを抑える。
実際のところ、そんな部分を見せられるまでもなく惹かれている部分は多い。
才能のある人物が本気で努力している姿は、それはもう美しい。
その上直前までは不利だと思っていた相手にあれだけの奮戦をして勝利を収めてしまったのだから、文句の言い様がない。
クラウスにとって、ブロンセン以外の世界は敵だらけだった。
王都で好きなことを語れば悪魔だと罵られ、その理由を聞けば、それは母が大好きな英雄が魔王だったという事実を告げられた。
成長して人々の気持ちも分かる様になったことで、そうなっている理由は理解は出来たものの、納得は出来るわけもなく。
言葉だけで表すのなら、敵だらけだったのだ。
そんな世界で自分の為にあれだけのことをしてみせた彼女に、魅力が無いわけが無い。
「まあ、マザコンではないけれど」
「え?」
「くらうす、ままきらいなの?」
何故か、二人はあっけに取られたような顔でクラウスを見つめる。
「え? いや、好きだけど」
「えへへ」
何故かマナはそれを聞いて顔をふにゃりと崩す。
マナが何を考えているのかは分からないものの、ママを探していたマナに向かって、母親が嫌い等と言えるわけもなく、何も言わないでいると、サラは真剣な顔をしていた。
「うーん、マザコンでロリコンで、オサコン? ナジコン?」
「聞いたこと無い単語を作らないでくれないか……。まあ、幼馴染にコンプレックスがあるのは本当だけどさ……。劣等感の方ね」
「まぁまぁ、まだこの気持ちに気づいて無かった時には無茶したことは謝るから、ほら、喧嘩するとマナが悲しむよ?」
サラは相変わらずクラウスの言葉など気にも留めずに言ってのける。
「全く、マナを出されたら何も言えないじゃないか……」
あれだけの修行をして、覚悟を決めて思いを打ち明けても尚変わらない幼馴染に安堵を覚えつつ、これから尻に敷かれるんだろうな、とこの先を思いやるのだった。
――。
「クーリアさん。彼、雰囲気は父親似ですね。ピリピリと、抜き身の剣の様な殺気が心地良い。なんか、顔の造りは我が子の様な親しみもあるし、やっぱりあの悪魔と私はそっくりなんですね」
「お前に会わせない様にアタシがこっちに来たのに、あっさりと躱しちゃってまあ……」
「大丈夫。気持ちの整理は流石についてますから。でも、あなたが来てくれたから見に行く勇気が湧いたとも言えるかもしれませんが」
「来ない方が良かったのかアタシ」
「いえいえ、来てくれて嬉しいですよ。私、寂しいと死んじゃいますから」
「何を言ってるんだか。まあ、元気そうで何よりだ」
時間は遡り、大会中。
車椅子を押す大柄の女性クーリアは、車椅子に座った女性を押しながら歩いていた。
それは一瞬目を離した隙にいつの間にか居なくなっていた車椅子の女性を個室の観客席へと戻す途中のことだった。
女性の脚は、あの時以来動かない。
それでも、英雄の一人であるクーリアを平然と出し抜いて行動する力を持っている。
もし大会に出場すれば未だに四強に入れるのではとクーリアは踏んでいるが、興味が無いと一蹴している英雄の一人。
英雄ナディアはその日、動かない脚の代わりに車椅子を用いて、クラウスの姿を見に行っていた。
今まで来た道とは違って大陸の東側からだが、殆ど引き返しているに等しい道のりだ。
その理由は簡単で、マナがカーリーの戦いが面白かったということで、ウアカリに行きたいと言い出したからだ。
それに何故かサラも同意して、「アルカナウィンドは旅の最終目的地じゃん。まずは世界を回ろうよ」なんてことを言い出したので軽く抵抗してみたところ、実はエリー叔母さんが世界を回ることを推奨してた、と伝えられてそれは逆らえないとなったのが本当のところ。
どちらにせよマナと出会わなかったらアルカナウィンドに行って【本当の英雄】と会った後には世界をのんびり旅したいと考えていたので、それ程問題はない。
ママを探したいマナがウアカリに行きたいと言うのなら、南に渡るのもそれ程悪い気はしていなかった。
ただ、ウアカリには一つ問題がある。
呪いとも言われる程の男好き。
かつて英雄ナディアがその呪いのせいで想像もつかない苦悩を抱えていたと聞いている。
止められない勇者の力を持った国に行って、二人は大丈夫なのかということ。
マナには教育上良く無いし、サラの想いを知っていれば不安は募る。
すると、それを察したのかサラはにやりと笑って言う。
「クラウス、渋ったのはウアカリで自分がモテると私やマナが嫉妬するって不安だった?」
「もう隠してすら無いんだな、サラ」
「うん、私はクラウス好きだよ」
なんでもないかの様にそう告げられて、どう答えれば良いか分からない。
とは言え、霊峰での修行や大会を見て、サラのそれを受け止める準備だけは出来ていた。
「僕は子持ちだぞ?」
と言っても、今までの18年を考えればそう素直にはなれなかった。
しかしそれでも、サラはそれすらなんでもないことの様に流しながら腕の中のマナを撫でる。
「じゃあマナは私の子どもでもあるね。ねー、マナ?」
「さら、ままになってくれるの?」
「うん、どう?」
「わーい!」
こうなってしまえば、納得せざるを得ない。
「仕方ないな、まあ、こうなる予感はしてたけどさ」
「うんうん、今はそれで良いよ。素直になれないのも幼馴染だから仕方ない。マナと一緒に居ればすぐ私は母性に目覚めるから、それを見てマザコンクラウスはきゅんきゅんするはず」
「言いたい放題だな……」
そういう部分が苦手なんだけど……、と言いたいところを抑える。
実際のところ、そんな部分を見せられるまでもなく惹かれている部分は多い。
才能のある人物が本気で努力している姿は、それはもう美しい。
その上直前までは不利だと思っていた相手にあれだけの奮戦をして勝利を収めてしまったのだから、文句の言い様がない。
クラウスにとって、ブロンセン以外の世界は敵だらけだった。
王都で好きなことを語れば悪魔だと罵られ、その理由を聞けば、それは母が大好きな英雄が魔王だったという事実を告げられた。
成長して人々の気持ちも分かる様になったことで、そうなっている理由は理解は出来たものの、納得は出来るわけもなく。
言葉だけで表すのなら、敵だらけだったのだ。
そんな世界で自分の為にあれだけのことをしてみせた彼女に、魅力が無いわけが無い。
「まあ、マザコンではないけれど」
「え?」
「くらうす、ままきらいなの?」
何故か、二人はあっけに取られたような顔でクラウスを見つめる。
「え? いや、好きだけど」
「えへへ」
何故かマナはそれを聞いて顔をふにゃりと崩す。
マナが何を考えているのかは分からないものの、ママを探していたマナに向かって、母親が嫌い等と言えるわけもなく、何も言わないでいると、サラは真剣な顔をしていた。
「うーん、マザコンでロリコンで、オサコン? ナジコン?」
「聞いたこと無い単語を作らないでくれないか……。まあ、幼馴染にコンプレックスがあるのは本当だけどさ……。劣等感の方ね」
「まぁまぁ、まだこの気持ちに気づいて無かった時には無茶したことは謝るから、ほら、喧嘩するとマナが悲しむよ?」
サラは相変わらずクラウスの言葉など気にも留めずに言ってのける。
「全く、マナを出されたら何も言えないじゃないか……」
あれだけの修行をして、覚悟を決めて思いを打ち明けても尚変わらない幼馴染に安堵を覚えつつ、これから尻に敷かれるんだろうな、とこの先を思いやるのだった。
――。
「クーリアさん。彼、雰囲気は父親似ですね。ピリピリと、抜き身の剣の様な殺気が心地良い。なんか、顔の造りは我が子の様な親しみもあるし、やっぱりあの悪魔と私はそっくりなんですね」
「お前に会わせない様にアタシがこっちに来たのに、あっさりと躱しちゃってまあ……」
「大丈夫。気持ちの整理は流石についてますから。でも、あなたが来てくれたから見に行く勇気が湧いたとも言えるかもしれませんが」
「来ない方が良かったのかアタシ」
「いえいえ、来てくれて嬉しいですよ。私、寂しいと死んじゃいますから」
「何を言ってるんだか。まあ、元気そうで何よりだ」
時間は遡り、大会中。
車椅子を押す大柄の女性クーリアは、車椅子に座った女性を押しながら歩いていた。
それは一瞬目を離した隙にいつの間にか居なくなっていた車椅子の女性を個室の観客席へと戻す途中のことだった。
女性の脚は、あの時以来動かない。
それでも、英雄の一人であるクーリアを平然と出し抜いて行動する力を持っている。
もし大会に出場すれば未だに四強に入れるのではとクーリアは踏んでいるが、興味が無いと一蹴している英雄の一人。
英雄ナディアはその日、動かない脚の代わりに車椅子を用いて、クラウスの姿を見に行っていた。
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