雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
479 / 592
第四章:三人の旅

第八十話:幼馴染

しおりを挟む
 世界は順調に、終わりに向かって進んでいる。

 あの強さを見るとそんな実感が大きくなる。
 旅立つ前と今、私は随分と強くなった様に思うけれど、あの成長はそれを遥かに超えている。

 もう、とてもではないけれど勝てない。例え逆立ちしても、寝込みを襲ったとしても。
 勝つイメージを作る手段すら分からない。

 ――聖女サニィも、こんな気分だったのかな。
 いいや、少し違うか。
 聖女は出会った頃から圧倒的に離れていて、それに追いつこうと必死だった人。
 私は逆に幼い頃には上だったのに、どう頑張っても追いつけない人だ。

 【悪鬼】という二つ名は、随分と皮肉が効いているものだと思う。
 戦い方から付けられた二つ名だとあの人は言っているけれど、実際はそうでないことを知っている。
 あれはいつか必ずつく悪評に対して、精神的な耐性を少しでも持てる様にと名付けた二つ名だ。
 本人は割と気に入っているらしいのだから良いんだけれど、あの人はそれに少なからず罪悪感を覚えているのだろう。
 だからずっと近くで見守って可愛がっているのだろうけれど、実際は強い強いあの人が一番必死なのを、私は知っている。

 悪鬼クラウスはいつか必ず世界を終わらせる存在だ。

 全ての勇者は、クラウスの存在そのものに恐怖を感じる様に出来ている。
 鈍い者はそれをあまり感じない様だけれど、敏感な者はそれをきっちりと察知する。
 中でも、心を読めてしまうあの人は初めて見たクラウスに、産まれたての赤ん坊に、これまで感じたことの無い恐怖を感じたのだと聞いている。
 クラウスに比べれば魔王など、ハリボテの様な感情しか持たない人形に過ぎない、と。

 対して片割れと呼ばれる少女は、何故か少女の姿をしたコレは、言ってみれば救世主らしい。
 救世主と言っても子どもの今何が出来るのかは全く分からないけれど、魔物を美味しそうなんて感じることこそが、この子が片割れである何よりの証拠なんだそう。
 実際に心を覗くと、やっぱりを感じたのだとか。

 ――それにしても、名前がマナ、ね。
 それは一体誰の影響なんだろう。
 人々なのか、聖女なのか、もしくは皮肉なんだろうか。
 まあどれでも良いや。
 私はマナだと聞いていたし。

 ともかく、一先ずの目標は決まっている。

 私に課せられた課題は一つ。
 別に間に合わず失敗したなら失敗したで良いとは言われているのだれけど、英雄の娘としては達成したい課題だ。
 本当にそれで解決するのかどうかは、英雄のみんなにすら分からないのだし。

『マナを連れて、世界中の魔物を殲滅すること』 

 パパの予想ではそれで、魔物が世界から居なくなるらしい。
 マナはクラウスと一緒にいないといけないと言うのだから、難しい課題ではあるけれど、クラウスも魔物と戦うだけなら大丈夫なはず、らしい。

 世界を終わらせる存在と救世主は、常に同じ所に居なければならない。
 もしも離れたのなら救世主は殺されて、世界は魔物で満ちるのだと、そんな予測が立てられているのだから。

 ……。

 時雨流三代目。
 本人は知らないそんな称号をクラウスは持っている。
 初代が二代目に託したことから、継承者には【不壊の月光】という剣が託されることになっている。
 それは決して壊れる事なく、常に作られたその瞬間の形を維持し続けている最上位の宝剣。
 決して変わらないことから、決して負けない強さを維持し続けることの象徴とされている、とは二代目の一人、オリヴィア談。
 だから本来で言えば、三代目と呼ばれる以上はそれを継ぐのはクラウスであるはずだ。

 ところが、クラウスに月光は託されていない。

 クラウス自身が三代目であることを知らないのだから月光を渡さないことも不自然ではないのだけれど、そもそもクラウスは自分のことを何一つ知らない。
 実は今クラウスが持っている旭丸は、本当にただ頑丈さに重きを置いただけのなんの変哲も無い汎用型の宝剣だ。
 それは月光と比べれば斬れ味こそ勝るものの、耐久性に関しては足元にすら及んでいない。

 クラウスは月光を持ってはならない。

 それがクラウスに三代目を密かに継承させておきながら月光を持たせられない英雄達の見解だった。
 クラウスの特異過ぎる力に月光が合わさればどの様な副作用があるのか、誰一人予想出来ないからだ。

 クラウスはそもそも、勇者ですら無い可能性が高い。
 その内に眠るものをマナだと言えるのならば勇者だと言っても問題無かろうが、それをマナと呼んで良いのかどうかは非常に曖昧なもの。
 一つだけ言えることは、その内に眠るものは、なんとか英雄三人がかりで封印しているそれは、魔王よりも遥かに危険な代物だということ。
 しかしながら、それを本人だけは、絶対に知ることがない。

 何故ならもしクラウスが内に眠るものを知ってしまえば、世界は今すぐにでも滅んでしまうかもしれないのだから。

 ――。

 はあ、と溜息を吐きたくなる。

 生まれた時から英雄の娘として盛大に誕生を喜ばれた私と、生まれた時から世界を滅ぼすかも知れないと心に封印を受けたクラウス。
 最初に彼に興味を持った理由は、同じく英雄の子どもなのに、いつも英雄の人達が少なからず警戒していることを可哀想だと思ったからだった。
 英雄達は警戒心を見事に隠していて、それにクラウスも気付いていない様だったけれど、一番近くで英雄達を見てきた私はそれに気付いている。
 だから、ちょっかいをかけてみた。
 確かそれが、一番最初だった。

 ずっと見ている内に、クラウスの本当の味方はとても少ないことに気付いた。
 溺愛している母親は置いておいて、英雄達と、ブロンセンの市民くらいしか味方が居ない。
 王都に行った時に、クラウスが託児所で「悪魔」と罵られたことを聞いて、それを思い知ったものだった。
 いくら抗魔王の中心国グレーズとは言え、個を重視する国の民が平気で他人を、しかも年端もいかない子どもを悪魔扱いすることなど有り得ないのだと聞いている。
 それでもクラウスは、大人にそう罵られたのだという。

 に、そう罵られたのだという。

 その理由は簡単だ。
 クラウスが英雄譚を話した子どもの母親が、勇者だったから。
 見た瞬間にクラウスに恐怖を覚え、つい言ってしまったのだと、後の調べで確認が取れている。
「自分の子どもに悪影響を与えるから出来れば来ないで欲しい。そう伝えたかっただけのはずだった」
 ママがパパとそんな話をしているのを、夜にトイレに起きた時にたまたま聞いてしまった時から、あの幼馴染が気になって仕方がなくなった。

 魔法使いである私は、クラウスの驚異を全く感知できない。
 普通の男の子にしか見えなかったし、母にべったりな弱い勇者だと思っていたのが子どもの頃だった。
 それが成長するにつれてぐんぐんと力を伸ばし、15歳で初めて負けてしまった。
 悔しくて泣いたのもあるけれど、少しは英雄達が言っていることが本当なのだと実感して少し怖くなったことも理由の中には入っている。

 そう思って、初めて気づいた感情があった。
 このままでは私まで敵になってしまう。
 それだけは、絶対に嫌だということに。

 今目の前で暴れている幼馴染は、世界を滅ぼす存在だ。
 勇者に潜在的に恐れられ、マナがある限り際限無く強くなる化物。
 魔王と聖女の子どもにして、一人の英雄の力を全て奪ったマザコンで、そして、私の想い人だ。

 だから私は、この先どんな結末を迎えるのだとしても、私だけは味方でいると覚悟を決めた。
 聖女サニィにはなれないけれど、幼馴染サラとして。

 だから、返り血を大量に浴びて真っ赤に染まっている彼が戦い終わったのを探知して、一先ずそれを洗い流す為に水をぶっかけて、そして。

 お疲れ様、と微笑んでやろうと思ってる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...