雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第四章:三人の旅

第八十四話:三人

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 三人で旅をして初めて魔物を倒した日から二週間、三人は徒歩としては驚異的な速度で大陸の南へと到達していた。
 定期的にマナを伺うように遠巻きに集まってくる魔物達を間引きながら進んでいる。
 サラが合流してからというもの、マナはサラに随分と懐いていた。
 クラウスと二人の時には頑張って歩こうとしていたマナも、サラが居れば疲れ始めると甘える様に上目遣いで抱っこを要求する為、その間は速度を一気に上げられる。
 身体能力だけの勇者であるクラウスと違い、魔法使いのサラは重力魔法の応用でサラを軽くすると、殆ど揺らさずに高速で走ることが出来る。
 正確には、多少跳ねたとしてもふわり腕の中に降りて来るので、衝撃がほぼ無いらしい。
 その感覚もお気に入りらしく、この二週間でクラウスがマナを抱いた回数は激減していた。

「わたしまほーつかいになりたい」

 そんなことを言い始める程に、サラの乗り心地は良いらしい。
 それに少しばかり寂しさを覚えるクラウスを見て、サラはにやりと笑う。

「そんな寂しそうにするならクラウスも抱いてあげようか?」
「いや、それは違うだろう……」
「なら、さらがだっこしてもらう?」
「それも良いわね」
「じゃあまなはその上!」

 英雄レインなら任せろ、なんて言いそうだなんて思いながら、「勘弁してくれ……」とやんわり断る。
 まだ手すら繋いでいないのにいきなり子ども諸共抱くのは難易度が高過ぎる。
 そんな風に振り回されながらも、三人の旅は順調に進んでいる。

「なんだか、英雄レインの理想が今の僕たちみたいだ」

 港に着いたクラウスがそう呟くと、マナが嬉しそうに尋ねる。

「じゃあまながえりい!?」
「エリーでも良いし、二人が遂に見なかった子どもでも良い」

 しばしばクラウスから英雄達の話を聞いているマナが一番好きな英雄は、エリーだという。
 なんだかんだで、ママが無事でいたところが特に好きなんだとか。
 ならそれを救った二人の英雄はと尋ねると、もちろん同じくらい好きとの返事。
 その後に、クラウスの顔を見て、「もちろんおりびあもおなじくらい!」と元気に気を使う。
 その度に、「まあ、母さんは昔からそういうポジションにいたらしいからね……」とクラウスも苦笑いをするのがいつものパターンだった。

 今回も例に漏れず、二人は英雄について語り合う。
 英雄達の体験した絶望を塗りつぶす僅かな希望を掴み取る話が、クラウスがマナに話す英雄の物語の大部分。
 英雄らしい英雄のお話。
 かつてクラウスが熱心にサラにも語っていた、オリヴィアの語る英雄譚だった。

 そんな話を嬉しそうにする二人を見て、サラは思う。
 本当に、そうだったならいいのに。
 この世界は希望に満ちていて、英雄達は本当の幸せを掴み取れる。
 人々は英雄に感謝して、平和な世界が訪れる。

 本当に、そうなったら良いのに。

 叶わない願いを思い描きつつ、二人の話に入っていく。

「ねえ、それならクラウスは一人称俺にしないと」
「あー、レインは母さんに聞く限り結構俺様って感じだもんな……。僕もその位堂々と出来たら良いんだけど」
「なんでぼくっていうの?」

 マナの純粋な質問に、クラウスは一瞬狼狽えながらも答える。

「えーとね、僕は昔から人や動物に結構怖がられるから。俺って言うと少し威圧的じゃないか」
「へえー」
「ぼふっ」

 その答えに、思わずサラが吹き出した。
 自分の父も一人称が僕だから今まで全く気にしていなかったクラウスの一人称の理由が、まさかそんなことだったとは思っていなかったからだ。
 昔から僕だったから僕と言いつけているのだとばかり思っていた。
 少なくとも、父は何も気にせずそう言い続けている、のだと思う。

「あはははは、そんな理由で僕って言ってたんだ。全然効果無いじゃない。あはははははは、げほっ」
「笑い過ぎだよサラ……。僕だってそんなことでそこまで効果あるとは思ってないけどさ、無いよりはマシでしょ」
「変わってない変わってない。動物に怖がられるのなんて血なんだから意味ないって!」

 何がツボにはまったのか、サラはつい言ってしまう。

「血? 僕の父の血がそうなのか?」

 そんな質問を聞いて、しまったと思う。
 何処かで精神の均衡が崩れれば、今まで一度も思ったことの無い疑問に、火が付いてしまう。
 そうなれば何処からクラウスの内に眠るものが暴れだしてしまうか分からない。
 ここから先は、一言も間違えてはいけない。

「あー、違う違う。オリヴィアさんもそうだけど、クラウスだって好きなものがあるとぐいぐい行くじゃない。動物ってほら、適切な距離を保てないと引いちゃうものなの」
「あぁ……確かにそういうところはあるかもしれない……」

 思い出したのは、恐らく動物に逃げられてきた過去と、悪魔と呼ばれて傷ついた過去だ。
 少ししょんぼりとしたクラウスの様子に罪悪感を覚えてしまうけれど、サラは続ける。

「それが明らかに強い相手なんだから、より慎重にならないとだめ。今度私が見せてあげる」

 本当は、父の血がそうさせるのだろうから意味は無いのだろうけど。

「そうか。ありがとう。参考にするよ」

 動物好きの母の血を引く少し可哀想なクラウスは、素直に納得した。
 こういう素直さはきっと、オリヴィアの教育というか、そんな母を見て育った結果なのだろう。

「あんたはオリヴィアさんの子なんだから難しいかもしれないけどね」

 最後にそうからかって、サラはなんとか自然を装ったまま窮地を脱した。
 それはサラ自身、色々なことを知っている幼馴染で良かったと心から思う場面だった。

「まなにもおしえてー」

 そんな風に呑気に言う片割れも含めて。
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